グルメ×勘違いの異色コメディ
本作の舞台は、東京の路地裏にある、中華屋のような店構えの料理屋「一香軒」。分厚いメニューが3冊もあり、店主のオヤジはどんなものでも作れると豪語する凄腕の料理人である。そんな一香軒を訪れるのは、様々な悩みを抱えた訳ありの客たち。オヤジは、そんな客の事情を察し、客にあった一級品の料理を提供する。客は最高の料理に大満足だが、問題はオヤジの「勘違い」である。毎回、客たちの職業や悩みを奇跡的に勘違いし、よくわからない格言と見当はずれのアドバイスや共感を送るのだ。ちなみにこの格言は造語だが、単行本では各話の最後に「解説」が掲載されている。本作は、本格的な料理と勘違い人情を組み合わせた異色のグルメコメディである。
圧倒的な画力で描かれる料理のリアリティ
本作では、中華や和食、家庭料理など、幅広いジャンルの料理がリアルかつ丁寧に描かれている。単行本2巻巻末のインタビューによると、作者・足立和平は、中華料理屋でのアルバイト経験があり、それが本作に大きな影響を与えている。例えば「包丁を切る際の姿勢」「仕込みの理屈」「メンマを戻すための複数の工程」などを学んだことが役に立ったという。その言葉通り、大きなコマとページ数を費やし、圧倒的な画力で描かれる、丁寧な調理の「工程」は、本作の大きな見どころである。なお、取材強力先として、かつてのアルバイト先の他、複数の料理屋の名前が、奥付にクレジットされている。
オヤジ誕生秘話
作者へのインタビューによれば、本作は企画段階では、粋な店主が美味しい料理を作ったうえに、悩みにも寄り添い、実在する格言で人を救う人間ドラマだった。しかし、その内容ではコンペに通らなかったために方向修正。担当編集と相談した結果、店主のキャラはそのままに、「勘違い」という要素を入れて笑いに転換することになったという。グルメ漫画界の異色キャラである店主・オヤジはこうして誕生した。また、ストーリーを作るうえで、作者が特に意識していることは、やはり後半の、オヤジが勘違いする部分である。「悪魔の時間」「人情ハラスメント」とも呼ばれているというこのシーンは、やりすぎるとリアリティが無くなるので、常に考えて絶妙なラインを狙っているという。
登場人物・キャラクター
オヤジ
東京の路地裏にある料理屋「一香軒」の店主。オールバックの短髪と薄いヒゲが特徴の中年男性。「どんな料理でも作れる」と豪語する凄腕の料理人。人情に厚く、親身になって客に寄り添おうとするが、ひどい勘違い男であり、見当違いのアドバイスを送る。日本食の修行の後、閑静な住宅街の中華料理屋で修行を積んだ。口癖である意味不明な格言は、中華料理屋の師匠譲りである。
香織 (かおり)
物語の過去のシーンに登場する「一香軒」店主のオヤジの恋人。左唇上のほくろが特徴の女性。修行中のオヤジと出会い、出版社の編集者なのになぜかサッカーのサポーターだと勘違いされる。その後、あまりにアホすぎるオヤジに好意を抱き交際に発展。同棲生活中も、家族に引き合わせた際も、オヤジのとんでもない勘違いに翻弄される。
書誌情報
飯を喰らひて華と告ぐ 4巻 白泉社〈ヤングアニマルコミックス〉
第1巻
(2022-08-29発行、 978-4592163947)
第2巻
(2022-11-29発行、 978-4592163954)
第3巻
(2024-04-26発行、 978-4592166047)
第4巻
(2024-06-28発行、 978-4592166054)