概要・あらすじ
昭和43年、漫画家の村岡栄が公園で休んでいたところ、丁半博打をやっている二人の若者と出会う。二人が賭けていたのは一本のタバコだった。この若者らにタバコと飯を与え、自分の部屋に連れて帰るところから物語は始まる。村岡のアパートの部屋は3畳で、すでに先客がいた。5人の若きクリエイター志望者たち(かろうじてアシスタントでギャラを得ているのは村岡だけ)の極貧耐久生活がスタート。
途中、押しかけアシスタントと漫画友達が加わり、総勢7人になったこともある。最後、生活に耐えかねて「描きたくない漫画でも食うためには描く」と決意した村岡の気持ちを全員が察し、村岡もまた、友人関係を清算するべく決別を告げる。
登場人物・キャラクター
村岡 栄 (むらおか さかえ)
22歳。児童漫画家に憧れ、18歳のときになにも太郎のアシスタントとなる。やがて青年漫画に興味は移行するが、「サイケにハレンチ、それにベッドシーンが無い」暗い漫画は売れず、最初の2~3本は掲載されたが、以後はスランプ状態。作品が売れたときに勢いで借りた阿佐ヶ谷のアパートに、いずれもクリエイターを目指す友人たちと5人住まい。 やがて、生活のためアシスタントをするようになり、キャラクターの中で唯一、定期収入を見込めることになった。生活のため、編集者の言う通りに描くことを決意する。
セキ
大阪出身。関西弁で喋る、歌手志望。村岡栄が公園で拾った一人。曰く、各地の民謡を訪ねて大阪から北上してきた。上京後すぐ、ギターを質入れしてしまい、歌えぬ歌手となる。物語の途中で井上と仲たがいしてアパートから出ていった。
井上 (いのうえ)
大阪出身。詩人。しかし、紙の上に表現するのではなく、ほとばしる感情を絶叫するという迷惑なスタイル。左翼思想家でもある。居候最終メンバー。
向後 (こうご)
小説家志望。友人の山岸長十郎によれば、ちかく直木賞候補になるらしい。居候最終メンバー。
三橋 (みつはし)
油絵を描いている。絵は抽象画で難解だが、友人の山岸長十郎が「売ってきてやる」と持ち出し、山岸の押しの強さもあって5万円で質屋に預けたことがある。居候最終メンバー。
山岸 長十郎 (やまぎし ちょうじゅうろう)
中野在住。羽織袴姿で明治の文士調の格好をしている。元々、向後とは友人関係らしいが、今では全員の友人である。威勢のいいのが取り柄。
トクヒロ
九州から村岡栄の漫画に衝撃を受けて押しかけアシスタントになる。サ行の「s」の音が「sh」になってしまい、「です」を「でシュ」と発音する。村岡の入院を機に新聞配達で労働の尊さに気づき、住み込みで働くことを決意して皆のもとを去る。
六丁目のりこうばか (ろくちょうめのりこうばか)
置き忘れた向後の作品を届けに来た美女。東大でフランス文学を学んだ資産家の娘だが、恋人を交通事故でなくして以来、発症。駅前でしょぼくれた青年をみると逆ナン、結婚の約束を繰り返すという奇行で、界隈では有名な女性。
木村
村岡栄の漫画友達。キャンプに誘われ、ついて行ったあと、村岡栄のアパートに居着く。額に3~4個のほくろがある。居候最終メンバー。
可川 (かがわ)
村岡栄とは漫画関係の友人。木村の友達という関係で、いつの間にか居着いてしまったが、「居づらい」「元々、村岡の先生に弟子入りしたくていた」わけで、後半は村岡の紹介で漫画家、なにも太郎の家に住み込むことになる。農協での勤務経験があり、簿記や珠算などの事務系検定は全て受かっていて、それがダメで選んだのが漫画家という仕事だと、なにも太郎は考察している。
なにも 太郎 (なにも たろう)
村岡栄が以前アシスタントをしていた漫画家。チューリップハットにサングラス、無精髭と作者自身がモデルの風貌で、説教グセがある。若者たちに対して面倒見がいい。アシスタントと妻に逃げられて一人暮らしだった。
場所
珈琲ぽえむ (こーひーぽえむ)
喫茶店。マスターと村岡栄たちは友人であり、ツケがきく。ウェイトレスがかわいい子で、井上が惚れて振られている。マスターは、かつてラジオや映画のシナリオライターだった。
あのアパート
村岡栄が暮らしているアパート。作中に名前などは出てこない。村岡の部屋は二階の角部屋で3畳一間。