世界に認められ日本に凱旋した超劇画的アクション
本作は、アーティストとして活躍する作者・エルド吉水が、2010年、45歳の時から描き始めている劇画デビュー作品。2016年、自費出版したものがフランス語に翻訳されて人気を博し、イタリア、ドイツ、イギリスなど11か国で出版され、日本に凱旋した異色作である。読売新聞のインタビューによれば、主人公・龍子について「かっこいい女の人を描きたくて、女性の線は松本零士さんの影響が大いにあります」という。また「人間の善悪とはコインの裏表みたいなもの」であり、リベンジばかりの最近のエンタメとは異なり、復讐・負の連鎖を断ち切る、といったテーマを内包する。作画ではGペンとインクを用いたアナログ手法にこだわっており、すべての作業を一人で行う。緻密な描き込みと大胆で荒々しい怒濤の筆致で描かれる、超劇画的アクションが本作の魅力の一つである。
母を捜して横浜へ旅立つ龍子
28年前、横浜・矢島会の若頭だった龍子の父・牙龍は、舎弟の池内に裏切られて日本を追われ、中東の王国フルセーヤで「黒龍会」を創設。ジブリール国王の庇護のもと、勢力を拡大していった。それから10年後、フルセーヤで軍事クーデターが勃発し、ラシード将軍が政権を掌握する。ジブリール国王はせめて生まれたばかりの娘だけは助けたいと「黒龍会」を訪ね、龍子に娘を預けた。ところが龍子の父・牙龍は、それを許そうとしなかった。ジブリールへの恩義を忘れ、ラシードと麻薬の利権で密約を交わしていたのだ。「義」を教えてくれた父が俗物に成り下がったことに失望した龍子は、牙龍を殺して「黒龍会」の二代目となった。そして現在、ひょんなことからラシード将軍の死に立ち会った龍子は、死んだと思っていた母・昇龍姫が生きていることを知らされる。28年前、池内は昇龍姫を人質にとり、邪魔な牙龍を追い出したのだ。龍子が矢島会への上納金だと思っていた金は、昇龍姫の身代金だったという。父がジブリールへの「義」を捨て、金の亡者になったのは、昇龍姫のためだったのだ。それを知った龍子は、父を殺したことを後悔して自殺しようとするが、ラシードに止められる。そしてラシードは、牙龍から預かったという「金印」を手渡し、「母を救え」と言い残して自爆した。こうして謎の金印を手にした龍子は、母・昇龍姫を捜して日本の横浜へと旅立った。
金印を巡って対立する「蛇青幇」と「黒龍会」
父・牙龍を日本から追い出した、横浜・矢島会の池内は、車椅子に乗った廃人になっていた。3年前から急速に勢力を拡大している闇の組織「蛇青幇(ジャチンパン)」にやられたのだという。その時、昇龍姫も連れ去られたという情報を得た龍子は、蛇青幇を追う。一方、蛇青幇の首領・司徒久の狙いは龍子が持つ金印だった。世界中に数千万人の会員を持ち、裏社会を牛耳って歴史の闇で暗躍してきた秘密結社「黒華」の頂点・龍頭になる条件の一つが金印なのだ。司徒久は孫娘の司徒紫を龍頭にするべく暗躍する。しかし、「黒華」の龍頭になるためには、ある悲劇が避けられない。それを知る龍子は、負の連鎖を断ち切るため、巨大組織・蛇青幇に立ち向かい、金印を封印しようとする。なお本作は、金印を巡るストーリーがメインではあるが、多数の登場人物それぞれが、因縁で絡み合っており、壮大で深みのある人間ドラマを形成しているのが特長である。
登場人物・キャラクター
龍子 (りゅうこ)
黒龍会の組長を務める女性。黒髪のロングヘアー、右足に巻き付くような龍の入れ墨が特徴。武術や銃撃に優れる。「義」を重んじるあまり、実の父、先代の牙龍を殺めた過去を持つ。中東の王国フルセーヤの独裁者、ラシードの死に立ち会い、母・昇龍姫が生きていることを知らされ、謎の金印を託される。
バレル
黒龍会の構成員の女性。龍子の妹分で、姉妹のように育った刺狙里と仲がいい。ウエスタンハットとロングヘアーが特徴。フルセーヤのジブリール国王の娘で、軍事クーデターの際、龍子に預けられた。愛車はヴィンテージのナックルヘッドハーレー。銃はリボルバーを好む。
刺狙里 (さそり)
黒龍会の構成員の女性。龍子の妹分で、姉妹のように育ったバレルと仲がいい。ショートカットが特徴。幼少時にスラム街で拾われ、龍子に育てられた。車の運転はプロ並み。