概要・あらすじ
1945年8月15日、中央アジアに位置する小国ショルゴールとの戦争に敗れた日本は、ショルゴールに占領された奴隷国となり、日本人は明日の命も知れない過酷な暮らしを強いられていた。戦災孤児の少女・沙羅は、占領軍兵士を相手にする娼館に雑用係として雇われ、なんとか命をつないでいる。日本人の母と誰とも知れぬショルゴール兵士とのあいだにできた彼女は、父であるショルゴール人と同じ赤い眼をしていたため、日本人からもつらくあたられることが多かった。
ある日、占領軍兵士に乱暴されそうになった沙羅は、野獣のような大男・陀大膳黒(クロ)に助けられる。その大男の強さは圧倒的で、拳ひとつで占領軍兵士を絶命させた。死の淵にある闇の中で、クロは神々しいまでの強さと自信に溢れ、その存在は生命力に満ち満ちており、沙羅には光に見えた。
クロとの出会いで勇気と希望を得た沙羅は、激動の戦後日本を生き抜くことになる。
登場人物・キャラクター
沙羅 (さら)
焔のような赤い眼をした戦災孤児の少女。黒髪のロングヘアーで、前髪も長いまま前に垂らしている。赤い眼はショルゴール人の父の血によるものであり、この眼のせいで幼い頃から「異人の血が混じった鬼の子」「敵国の娘」といじめられてきた。母は空襲で焼け落ちた柱から沙羅を守って命を落とした。娼館を経営する恭子に雑用係として雇われているが、遠慮して娼婦たちと同じ家ではなく外の粗末な小屋に住んでいる。 寡黙だが芯は強く、自分を虐待した相手のピンチも救うような優しさも持ち合わせている。陀大膳黒(クロ)と出会い、その人間離れした強さと生命力に惹かれ、クロの鍛錬と演武を見ていくことで、のちに彼女も格闘センスを開花させた。さまざまな人々との出会いと別れをくり返し、過酷な戦後の日本を生き抜いていく。
陀大膳 黒 (だたいぜん くろ)
世界各国での武者修行を経て、祖国日本に戻ってきた巨大な体躯の男。修行していた上海から、人喰い鮫を180匹滅しながら泳いで帰国した。獅子のような顔つきで、常に道着姿。その姿と強さから誰もが化け物と呼び、クロと呼ぶのは 沙羅のみ。武装した人間はおろか、戦車や戦闘機であろうと徒手のみで壊滅させる鬼神のような強さを誇り、「一撃必滅」がモットー。 死闘を求めて戦地を転々としている。ぶっきらぼうだが、沙羅のピンチに現れたり、沙羅の住む小屋をなくしたことに責任を感じて材木を持ってきてくれたりと、彼女のことを思いやる一面も見せる。沙羅に演武を見せ、彼女の中に眠る戦いの才能をのちに目覚めさせる。沙羅に格闘の極意を教えただけでなく、彼女に生きる希望と勇気を与えた。
恭子 (きょうこ)
赤線地帯「花見月」で娼館「菖屋」を経営する女将。沙羅を下女として雇っている。空襲からの避難中に救うことができなかった娘「鈴」の面影を沙羅に重ね、実の娘のように可愛がっている。全員が強制送還された隔離施設でも不安を押し殺して仲間を励ます。人間としての尊厳を守る覚悟を固め、沙羅に乱暴しようとした日本人を包丁で刺し殺した。
小夜 (さよ)
恭子の経営する娼館で働く娼婦。恭子に可愛がられている沙羅を嫌い、「赤眼の糞餓鬼」といじめる。隔離施設へ強制送還されたあと、危険を感じた娼婦たちが次々と恭子のもとを去っても、最後まで残る。
中岡 房子 (なかおか ふさこ)
恭子の経営する娼館で働く妊娠中の娼婦。お腹の子の父親は娼館に来る客であること以外誰かわからないが、日本人であろうとショルゴール人であろうと、この時代に新しい生命を産みだすことに誇りすら感じている、と前向き。沙羅にも優しい。
千蔵 (せんぞう)
隔離施設で暮らす日本人の少年。沙羅に乱暴しようとして恭子に殺された父親の仇を討ちにやってくる。かんな棒を武器に闘うが、恭子を庇うために相手した沙羅に敗れ、以降沙羅を親分と呼んでまつわりつく。
エレノア・アドリエル (えれのああどりえる)
日本を統治するショルゴール軍人マラガラス・アドリエル神衛隊少将の一人娘。占領した日本に建てられたアドリエル寄宿学院兼アドリエル家の屋敷で母と大勢の使用人とともに暮らす令嬢。奴隷として売りに出されていた沙羅に目をつけ、オモチャにするため使用人として雇う。奴隷として買われながら自分に服従の態度を見せない沙羅に偏執的な感情を抱いており、使用人やメアリー・ブラッツィを叩きのめした沙羅を思い起こして自慰にふけることも。
メアリー・ブラッツィ (めありーぶらっつぃ)
エレノア・アドリエルと同じ寄宿学院に通う生徒。エレノア以上にサディスティックな性格で、なにかにつけ憎む相手に豚の糞を喰わせて馬に犯させたいと考えている。日本人を憎み、友好を装って沙羅を玩具にしようと近づくが、陀大膳黒の教えで相手の悪意を瞬時に察知する術を身につけていた沙羅に下心を見抜かれ、初対面時にいきなり顔面を殴られる。 そのため沙羅と、沙羅をかばったエレノアのことを憎み、復讐の機会をうかがっている。
ゼノ・フライシュマン (ぜのふらいしゅまん)
ショルゴールの軍人で神衛隊の元少佐。退役後はアドリエル家に仕え、病んだ心を癒してくれたエレノア・アドリエルに絶対の忠誠を誓っている。徒手空拳の殺人術に長けており、素手で相手の身体を切り裂ける。エレノアを堕落させた元凶として沙羅の命を狙う。
マラガラス・アドリエル (まらがらすあどりえる)
ショルゴール神衛隊少将で、長髪と眼帯がトレードマーク。エレノア・アドリエルの父。オセ・アガートラームの腹心で、「世界の頂」を目指すというオセの理想に従う。根っからの軍人で任務を最優先とし、妻の死や娘の危機を知っても家に帰らなかった。
オセ・アガートラーム (おせあがーとらーむ)
ショルゴール軍最高司令官総司令部、元帥。「ショルゴール極東直轄領ニホン」の全権責任者。長髪に長い口ひげの老人。威厳のある軍人だったが、陀大膳黒(クロ)に宣戦布告され、各地の基地を次々と壊滅させられ自身に危険が及ぶと恐れおののき、自国民ごとクロを抹殺せんと街への空爆を命じる。