アニメーション監督、りんたろう誕生前夜
アニメーション監督「りんたろう」として知られる重行が生まれた1941年、日本は太平洋戦争の渦中にあった。幸運にも家族は戦火を免れ、兵役に就いていた父親の茂も戦後まもなく無事に帰還した。戦後、移り住んだ場所で、重行はある童話の挿絵に心を奪われ、夢中で模写に励む日々を送っていた。そんなある日、重行は父親に誘われて、ソビエト連邦の実写映画『石の花』やアニメ映画『桃太郎の海鷲』を観る機会を得る。この経験をきっかけに、重行は映画やラジオなどさまざまなメディアに触れ、その魅力に引き込まれていく。
重行のアニメーション人生
中学生になった重行は、自ら設計した映写機やアニメーション制作に没頭し、映像の世界にますます魅了されていく。自ら書いたシナリオ「風雲五勇士」を映画監督の渡辺邦男に送るなど、その情熱は早くからプロの世界に向けられていた。大学を卒業後、東映動画に入社するが、配属されたのは仕上検査部だった。そこで動画部の杉井ギサブローと知り合った重行は、社内試験を経て、ついに念願の動画部に栄転を果たす。その後、ギサブローの紹介で生涯の師となる手塚治虫と出会い、彼の誘いを受けて虫プロダクションに移籍する。そこで手塚や仲間たちと共に、テレビアニメの黎明期を彩る『鉄腕アトム』や『ムーミン』といった歴史的名作の制作に携わることになる。
恩人たちに捧げる劇場版『メトロポリス』の誕生
虫プロダクションを離れた重行は、丸山正雄や出崎統といったかつての仲間たちと共に、新たなアニメーション制作会社「マッドハウス」を設立する。彼らは『宇宙海賊キャプテンハーロック』『銀河鉄道999』といった名作を次々と生み出し、アニメ界での地位を確固たるものにしていく。そんな中、雑誌の対談企画を通じて、旧友の大友克洋と23年ぶりに再会する。旧交を温める中で、重行は長年の夢であった手塚の漫画『メトロポリス』の映画化について熱く語り、大友に脚本を依頼する。大友もその情熱に応え、快く協力を引き受ける。制作準備が進む中、重行は自身を映画の世界へ導いてくれた父親の最期を看取る。亡き父と恩師の手塚への感謝の気持ちを込めて、彼は文字通り全力で制作に打ち込む。そして、劇場版『メトロポリス』は2001年5月26日に公開され、空前の大ヒットを記録した。
登場人物・キャラクター
林 重行 (はやし しげゆき)
「りんたろう」というペンネームで活動するアニメーション監督の男性。弟はアニメーション演出家の政行と俳優のゆたか。自由奔放な性格でありながら、非常に高い集中力を発揮し、一度何かに没頭すると周囲の声が耳に入らなくなる。その一方で、生まじめで慎重な一面も持ち合わせており、その人柄を示すエピソードがある。子供の頃、足を痛めて歩けなくなった際に警察でウソをついてお金を借りたものの、後日自分のお小遣いで返済した。しかし、ウソをついたことに負い目を感じ、しばらく警察署に近寄れなくなったという。幼い頃に童話の挿絵に魅了されたことがきっかけで、父親の影響を受けて映画やドラマの世界に没頭していく。やがてアニメーション監督として成功を収め、『メトロポリス』『宇宙海賊キャプテンハーロック』『銀河鉄道999』など、数々のアニメーション作品を手掛ける。実在の人物、りんたろうがモデル。
手塚 治虫 (てづか おさむ)
アニメ制作会社「虫プロダクション」の代表を務める漫画家の男性。並外れた情熱と卓越した技術を持ち、数々の優れた作品を生み出し、重行にとっては幼い頃からのあこがれの存在だった。子供の頃からアニメーション制作に強い興味を抱き、漫画家として成功を収めたあとも、その夢を追い続けている。夢の実現に向け、手塚自身のアニメスタジオ「虫プロダクション」を設立した。やがて重行をスタジオに迎え入れ、彼をはじめとする仲間たちと共にテレビアニメーションの制作に邁進(まいしん)し、歴史的な傑作アニメ『鉄腕アトム』を生み出した。実在の人物、手塚治虫がモデル。







