概要・あらすじ
工場に勤める少年旗一太郎は、旋盤のいい加減な描かれ方に抗議するため、売れっ子漫画家の青山を訪ねた。青山に認められ旋盤の描画を任されていた一太郎は、己の信念を破る漫画は決して描かないという漫画家男谷草介と出会う。男谷の生き様に惹かれた一太郎はその場で彼に弟子入りし、貧困や暴力など様々な問題に直面しながら理想とする漫画作りを貫こうとする。
登場人物・キャラクター
旗 一太郎 (はた いちたろう)
工場の見習い旋盤工から漫画家を志すようになった少年。高いデッサン力を持つが、理想を追求する気性ゆえ図工の成績は悪かった。売れっ子漫画家青山の仕事場で男谷草介と出会い、共に理想の児童漫画を世に出すため清貧の漫画家生活に乗り出す。正義感が強く、曲がった事には男谷に対しても厳しい忠告を辞さない。
細川 (ほそかわ)
一太郎の同僚である見習い旋盤工。漫画『男の花道』の大ファンであり、主人公に憧れ、読んだ感動を生きる励みとしえちた。だが『男の花道』での旋盤台の作画がいい加減であることを見抜き、失望。一太郎が青山を訪ねるきっかけとなった。『男の花道』の主人公像が読者人気におもねり出した傾向にも気づき、指摘する。
男谷 草介 (おたに そうすけ)
『男の条件』に登場する壮年の漫画家。本物の男を描く「男の条件」を掲げて理想の漫画を追求し、上辺のカッコよさで人気を稼ぐ商業漫画は描かないという信念の持ち主。逞しさと思慮深さを兼ね備えた人物だが生活は貧窮しており、弟子の前では弱音を吐くこともある。かつては不良少年であり特等少年院送りとなったが、脱獄中の経験から強い克己心を得た。
青山 晴夫 (あおやま はるお)
漫画長者番付のトップであり、人気漫画『男の花道』を連載する売れっ子漫画家。一太郎の精密なデッサン力を認め、旋盤台の描画を任せる。本来は自分なりの理想を漫画に込める人物だったが、現状では心ならずも作業効率と読者人気を優先させている。貧窮する旧友の男谷を気遣いアシスタントとして招くが、物別れに終わった。
山野 権太 (やまの ごんた)
売れっ子漫画家青山のアシスタントの中でも有能とされる青年だが、時間に追われていい加減な旋盤台を描いたことが細川に気づかれる。男谷と一太郎の「おれたちの旗」を盗作してデビューし、逆に一太郎へ盗作の汚名を被せた。長五郎によって盗作を暴露され故郷に逃れるが、一太郎に負けを認め、許される。
風巻 美香 (かざまき みか)
可憐な女子高校生だが、最近死んだ父に代わり、暴力団風巻一家の二代目親分を務める。紙芝居のトラブルがきっかけで一太郎達と知り合い、弟の長五郎を更生させる漫画を依頼した。長五郎の件で一太郎と男谷を気に入り風巻一家に住まわせるが、後に一家を解散させ、弟と共におでん屋台で生計を立てる。
風巻 長五郎 (かざまき ちょうごろう)
風巻一家の女親分である風巻美香の弟だが、暴力団を嫌い、名門校を目指して部屋に引きこもる、貧相な体つきで神経質な受験生。内心では任侠の世界や腕っぷしの強さに憧れており、そのコンプレックスを突いた男谷の紙芝居に心を動かされる。月影光の盗作に対しては、自ら体を張って証拠集めに尽力した。
武藤 政五郎 (むとう まさごろう)
風巻一家の重鎮で、斬った人間数知れず、傷害前科十四犯と言われる老やくざ。筋の通らぬ事を嫌い、紙芝居を介した男谷と長五郎の勝負にも公平さを求めた。一太郎と男谷には好意的だが、しばしば任侠の世界の価値観が顔を覗かせる。
大地 雷助 (だいち らいすけ)
北海道から漫画家を志して青山晴夫に弟子入りした、巨体の青年。資質がギャグ漫画向きであるため青山の下を離れ、偶然出会った一太郎と意気投合する。一太郎と共にドヤ街で働きながら懸賞応募作を描く生活に入り、常にユーモアを忘れぬ言動と人情、懐の深さで一太郎を支える。
夢野 天一郎 (ゆめの てんいちろう)
星空文庫の社長。一流出版社の少年雑誌編集長だったが、商業第一主義の上役に反発し、理想の漫画出版を志して創業した。自ら入選作を取り下げた一太郎の噂を聞き、社運をかけて描きおろし作品を依頼する。
集団・組織
風巻一家 (かざまきいっか)
『男の条件』に登場する暴力団。昔かたぎのやくざ一家で、関東一円で三千人の子分を誇る規模とされる。近年、初代親分が死亡し、長女の美香が跡目を継いでいた。仁義を持たぬ新興の郷東組と対立している。
その他キーワード
「おれたちの旗」 (おれたちのはた)
『男の条件』に登場する漫画。生活に困窮する一太郎と男谷が、日銭を得るため紙芝居形式で下町の子ども相手に発表した。子ども達の支持を集めて雑誌連載の話も持ち込まれるが、これを巧妙に盗作した月影光の連載が発表され、逆に盗作の汚名を受ける。
青春よ風にさからって歩め (せいしゅんよかぜにさからってあゆめ)
『男の条件』に登場する紙芝居漫画。自室に引きこもる風巻長五郎を感動させる、という条件で男谷が執筆した。内容は長五郎をモデルにして彼のコンプレックスを見せつける物で、激怒する長五郎だったが後に彼が更生するきっかけとなった。
男の花道 (おとこのはなみち)
『男の条件』に登場する熱血友情感動漫画。『週刊少年ホームラン』の看板であり、大人気作としてテレビ化も決まっている。一太郎の同僚細川が愛読しており、一太郎が青山や月影、ひいては男谷と出会うきっかけとなった。旋盤工として働く等身大の主人公を描いた物語だったが、月影の意見から主人公のヒーロー化が目立つ傾向にあった。
非常の街 (ひじょうのまち)
『男の条件』に登場する漫画。人の裏切りや、小市民の小狡さを見て人間不信に陥った一太郎が描き、懸賞に応募した。お人よし故に落ちぶれた若者が社会のどん底で非情の精神を身につけてのし上がり成功する、という内容。審査では満場一致で当選するものの、人生観を改めた一太郎自身に取り下げられ、破り捨てられる。
ある無名まんが家の戦い (あるむめいまんがかのたたかい)
『男の条件』に登場する漫画。一太郎の噂を聞いた夢野が、新作を依頼して描きおろされた。一太郎が自分や男谷、大地達を描いた、自伝に近い内容。最初の売れ行きは芳しくなかったが徐々に話題を呼び、増刷のかかる人気作となる。