あらすじ
第1巻
1112年、宋の時代の中国。圧政と貧困に苦しむ民を救いたいという一心で、「腐敗した国を倒す」という噂の義賊「替天行道」のフリをしていた少女、翠蓮は、謎の少年に謀られて役人の鄭に捕まり、処刑を待つばかりの身となってしまう。彼女を救う条件として、村人1世帯あたりに3000貫もの金を要求した鄭の悪逆非道な振る舞いを見た謎の少年は、そこで正体を現し、自分こそが本物の「替天行道」、戴宗であることを明かしたうえで鄭を打ちのめし、翠蓮の村を救うのだった。その後、翠蓮を伴った戴宗は、道中で関所の役人、趙能を倒し、宋の略奪を受けて殺害された村人を弔っていた同志の花和尚に遭遇。花和尚から、宋が率いる100万の兵士に対抗するため、一騎当千の仲間を108人集め、その中心となる人物を引き入れるよう命令された戴宗は、宋の都「東京開封府」へと入り、中華最強の男との呼び声が高い王進を勧誘する。だが、この誘いを「国を裏切れない」とする王進に断られたうえ、彼の部下である林冲から襲撃されてしまう。勝負の決着は付かなかったが、林冲の非礼を詫びた王進は戴宗を家に招き入れ、改めて戴宗の話を聞くことになった。しかし、その現場に朝廷から送られた将軍、関勝が突如として現れ、王進を逆賊として連行しようとする。身の潔白を主張する王進の主張を頑として聞き入れない関勝に対し、戴宗と林冲は勝負を挑むのだった。
第2巻
息の合った巧みなコンビネーションにより、関勝を追い詰めた戴宗と林冲の即席コンビは、トランス状態となって「関羽」を憑依させた関勝の反撃をものともせず、打ち倒すことに成功する。その後、朝廷の追っ手を分散させるため、一足先に都を離れた王進とは逆の方角へと逃げることになった戴宗と林冲は、その道中で花和尚と再会。そのまま「替天行道」のアジトヘと帰還を果たす。そこで「替天行道」の頭領、宋江から、組織の新たなる「本拠地」を手に入れるという任務を受けた戴宗と林冲は、難攻不落の山塞、梁山泊を根城にする王倫を討ち果たすため、翠蓮を伴って出立。その後、現地で開かれた梁山泊の入山試験に参加した戴宗と林冲は、闘技場で梁山泊の頭領との戦いを強いられる。大熱戦の末、林冲は杜遷と宋万、戴宗は朱貴を打ち倒し、見事試験に合格するのだった。しかし、人知れず宋と通じていた王倫は、国が派遣した4人の刺客を梁山泊へと入山させ、自身が官職を得ることと引き換えに、梁山泊の滅亡を計画する。
第3巻
梁山泊への入山を果たした戴宗は、自分が「替天行道」の一員であることを明かしたうえで、梁山泊の頭領である王倫が皆を騙していると主張。「替天行道」の仲間になって王倫を討ち果たすように、朱貴をはじめとする頭領に依頼する。その直後、自身が連れて来た特別な入山者を紹介している最中に、本性を現した王倫は、入山させた天山勇をはじめとする刺客たちを使い、梁山泊の構成員を次々と殺害。城外にいる官軍に城門を突破させ、梁山泊を壊滅へと追い込もうとする。王倫の正体を知った朱貴や杜遷は、城門を死守するために戴宗とともに戦うことを決意するのだった。天山勇との激戦の最中、自分が「星の力」を宿す宿星と呼ばれる存在であることを知る戴宗。洗脳された山賊や翠蓮を守りながらの戦いで十分に力を発揮できない一行は、敗色濃厚な情勢へと追い込まれるが、そこに公孫勝をはじめとする「替天行道」の仲間が出現。この加勢で勢いを取り戻した戴宗は、星の力を発揮して、禁術を駆使する王倫を撃破する。戦場から逃走した天山勇を追った戴宗が見たのは、かつて恩人の洪信を殺害した王の近習、高俅。仇敵の発見に全身の血が滾(たぎ)った戴宗は、すべての力を振り絞り、乾坤一擲の一撃を高俅へと見舞うのだった。
登場人物・キャラクター
戴宗 (たいそう)
オレンジの髪色をした、目付きが鋭い少年。圧政に苦しむ民を救う義賊「替天行道」に所属している。刃身の一部が砕けた、ボロボロの宝剣、伏魔之剣を携えているのが大きな特徴。極度の面倒くさがり屋で、いつもけだるそうにしており、他者への関心も薄いタイプ。何もしない人間に対しては厳しいが、弱者であっても、過酷な運命に必死で抗おうとする者には、その手を貸していた。 一見すると、義賊の適性があるようには見えないが、一度戦闘になると、見違えるような動きを見せる。神速の素早さで剣を振るい、刀身に発生する摩擦熱によってすべてを焼き、切り裂いていく。灼熱の刃に炎をまとわせながら火の玉のように走る姿のため、「流星」の異名を取っていた。孤児出身で、幼少の頃は鍛冶屋の洪信によって、男手ひとつで育てられてた。 世を混乱に陥れるために洪信を殺害した高俅を、今も仇敵として追っている。実は108魔星と呼ばれる特別な人間で、「天速星」という星の力を持つ宿星の1人。星の力を発動すると、人知を超えた戦闘力を発揮できるようになる。
林冲 (りんちゅう)
クールな雰囲気を漂わせる長髪の青年。王進に仕え、禁軍武術師範補佐を務めている槍の使い手で、凄まじいまでの槍術を誇る強者。美しい風貌とは裏腹の野性味溢れる武技を得意とするため、「豹子頭」と呼ばれていた。幼少の頃に母親から人買いに売られたうえ、輸送途中で盗賊にさらわれ、盗賊の首領の息子として育てられる、という過酷な人生を歩んできた。 盗賊一味を捕らえた王進によって引き取られてからは獣の生活を捨て、「人」としての道を歩みだす。普段は理知的で、喋り方も紳士的。自分を拾ってくれた王進に強い恩義を感じており、王進が侮辱されると烈火のごとく怒り出す。王進を義賊「替天行道」の一員にするべくやって来た戴宗のことが気に食わず、一度は刃を交えるが、決着は付かなかった。 その後、王進を捕らえようとした関勝を、戴宗と力を合わせて倒した。その借りを返すために「替天行道」に力を貸すようになった。カルシウムが多く含まれた小魚が好物。
王進 (おうしん)
広大な中華でも最強と謡われる武人。帝を守るための軍である「禁軍」の武術師範を務めている男性。額に大きな刀傷があるのが特徴。厳格で規律に厳しい性格をしており、精強な軍を作り上げることに心血を注いでいる。過去に盗賊団を壊滅させた際に、頭領に捕らわれていた林冲を引き取り、立派な武人へと育て上げた。林冲を引き取った直後、林冲に受けた傷を覆い隠すために、自分自身で額に傷を付けており、林冲に身をもって人を信じることを覚えさせた。 そのため、林冲からは実の父親のように慕われている。賄賂や不正とは無縁の生活を送っているが、その清廉さを高俅から疎まれ、命を狙われている。王進自身もそのことに気が付いているが、他者を裏切る姿を林冲に見せることをよしとせず、王進を捕らえようとした関勝に対しても素直に従っていた。
翠蓮 (すいれん)
貧しい村に生まれ育った、優しく快活な少女。貧困にあえぐ村人に生きる希望を与えるため、噂の義賊「替天行道」のフリをして、迷子の世話をしたり、近隣に出没する盗賊を攻撃していた。その過程で本物の「替天行道」である戴宗に出会い、役人の鄭を倒した戴宗によって強引に連れ去られ、ともに旅をすることになってしまう。やることなすことが無茶苦茶な戴宗に、振り回されっぱなしの日々を送っていた。 のちに人々を救いたいという志と熱意を見込まれ、「替天行道」の頭領である宋江から直々に、戴宗のお目付け役として任命される。
宋江 (そうこう)
義賊「替天行道」の頭領を務めている男性。涼やかな風貌をしており、統率力とカリスマ性に優れた有能な指導者。宋の統治能力が低下し、多くの人々が圧政と貧困にあえぐ現状を憂いており、この世に平穏をもたらすために「替天行道」を組織した。「替天行道」に集った同志を家族に扱っている。人の言うことを聞かず、捨て鉢な言動を繰り返す戴宗を特に心配し、「死に急ぐのはやめなさい」と優しくアドバイスしていた。
花和尚 (かおしょう)
義賊「替天行道」の大幹部。頭髪を剃り上げた屈強な男性。宋江の右腕ともいえる優秀な人材で、各地を渡り歩き、宋江の下した命令を、戴宗をはじめとする「替天行道」の同志に伝えていた。「替天行道」を、宋が持つ100万の軍勢に対抗する勢力に成長させるために、一騎当千の力を持つ同志を集めていた。
洪信 (こうしん)
温厚な性格をした鍛冶屋の男性。戴宗の育ての親で、いつもエプロンをしているので、近所の悪ガキに女男呼ばわりされていた。孤児の戴宗を実の子のように愛し、時に優しく、時に厳しく接していた。元々は軍の武具を作る最高責任者だったが、自分の武器で罪もない人々の命が奪われることに耐えられず、行方をくらました。一庶民として戴宗と暮らしていたところを高俅に発見され、宝剣である伏魔之剣の製造を要求される。 戴宗のためにその要求を受け入れたが、王殺しの罪を擦り付けられたうえ、高俅によって殺害されてしまう。
高俅 (こうきゅう)
宋の三大権力の1人と評される奸臣。幼い帝を影から操り、国を混乱に陥れている。とてつもなく大きな身体をした男性で、いつも顔を真横に傾けている。やたらと甲高い声をしており、まるで幼児のような幼稚な喋り方をするのが大きな特徴。自身の裁量によって白を黒にしてしまう絶対的な権力者で、歯向かう者を巨大な口で食べて殺害してしまうなど、非常に残虐なうえ、凶暴性も強い。 7代目の宋王を殺害した張本人で、その罪を戴宗の育ての親である洪信に擦り付けたうえで殺害した。そのため、戴宗からは仇敵として恨まれ、命を狙われている。
朱貴 (しゅき)
難攻不落の山塞、梁山泊を根城にしている義賊の一員。中性的なしぐさと言動を特徴とする美男子で、第4の頭領として梁山泊への入山を希望する人間に対し、厳しい試験を課していた。食えない性格をした切れ者。また、包丁を正確に投擲して敵を攻撃する技を会得しており、無数の包丁で敵を取り囲んで絶命させることもできる。王倫の命により、試験の一環として戴宗と戦うことになるが、敗北していた。
公孫勝 (こうそんしょう)
義賊「替天行道」の一員で、クールな性格をした導士の男性。術によって特殊な泡を作り出し、敵を攻撃したり、閉じ込めることができる。ボリュームのある髪型をしているので、戴宗に「モコモコ」というあだ名で呼ばれていた。戦闘能力は非常に高いが、度を越えた方向音痴なのが欠点。
王倫 (おうりん)
難攻不落の山塞、梁山泊を根城にしている義賊の頭領。超然とした雰囲気を漂わせる男性。表向きは民を想う善良な義賊として、多くの構成員から信頼されているが、実態は自分の保身と栄達のみを考えている俗物。在野から多くの人間をかき集め、規模が大きくなった梁山泊を国に売って滅ぼさせ、自分自身は官職を手に入れようとしていた。「混世魔王」というはぐれ導士から、禁術である「黒の言霊」を習得。 山賊たちを洗脳したり、巨大な魔人を呼び出すなど、ありとあらゆる不思議な術を使うことができる。
天山勇 (てんざんゆう)
梁山泊を壊滅させるために国が派遣した刺客の男性。「星の力」を持つ宿星の1人。死に美を追求する偏屈なナルシストだが、正確にターゲットを射抜ける弓の名人。その実力は本物で、サシの勝負をした戴宗と互角に渡り合い、大いに苦戦させたほど。戦いの中で戴宗が宿星の持ち主だと見抜き、宿星の情報を彼に教えていた。語尾に「~ネ」「~ヨ」と付けるのが特徴。
何濤 (かとう)
梁山泊を壊滅させるために国が派遣した武人の青年。顔立ちと物腰は柔和で、顔面に流刑地の名が入った刺青をしている。任務に失敗した場合は、その流刑地に行くことを覚悟しつつ戦いに臨んでいる、生粋の武人。指揮する軍の到着が5分遅れたことを、自らの耳を削(そ)いで謝罪しようとするなど、自分自身を厳しく律している。
時遷 (じせん)
義賊「替天行道」の一員。各地でスパイ活動をしている男性。動物の耳に似た飾りが付いた、奇妙な頭巾をかぶっている。建物や天井から垂らした縄に、逆さにぶら下がって他人と会話をするなど、行動もかなり奇妙。
超能 (ちょうのう)
身長が250cmを超える警備隊長の男性。口調は丁寧で穏やかだが、エリート意識が非常に強く、庶民を見下している。役人の鄭を倒した戴宗を捕らえるために、一晩で関所を作らせ、そこで検問をしていた。合法的に殺しをするために警備隊長になったと嘯(うそぶ)く異常者で、本来は両手で扱う「双手帯」という武器を、片手で軽々と扱う剣技の達人。
鄭 (てい)
県の長官を務めている、かなり太目の男性。領民を「可愛い羊」と呼び、哀れな家畜扱いしている冷酷無比な役人。側室の家を建てるために、税金を4割増しにしようと、翠蓮の村人に直接伝えに来ていたところを、戴宗によって成敗される。
関勝 (かんしょう)
禁軍の将軍を務めている男性。三国時代の英傑である「関羽雲長」の嫡流子孫で、強大な力を持つ槍の使い手。朝廷の命を受け、謀反の咎で王進を捕らえようとしたが、戴宗と林冲の反撃を受け、撃退される。ピンチに陥ると「関帝憑依」というトランス状態になり、身も心も英雄の関羽に成り切って、戦闘力を大幅にアップさせることができる。
扈三娘 (こさんじょう)
梁山泊への入山を目指す美少女。美しい黒髪をツインテールにしている。凄まじい体術の使い手。しかし、「触れればポッキリ折れるようなか弱い女性」に憧れており、普段から、ごく普通の女性として振舞うことを心がけている。そのため、山賊に教われるなどのピンチに陥っても、ギリギリまで他者に助けを求めるなど、徹底的に戦闘を忌避していた。 メガ豚まんを50個平らげるなど、かなりの大食漢。なお、梁山泊へ入山する理由は、「皆のアイドルになりたいから」。
集団・組織
替天行道 (たいてんぎょうどう)
宋江が立ち上げた義賊集団。奸臣に牛耳られ、統治力の低下した国の支配に苦しむ民を救うことを目的としている。庶民からは、腐敗した国を倒して変える存在であると噂されており、正義のヒーローとして扱われている。宋の支配者層からは、逆賊の蛆虫扱いされていたが、一騎当千の兵を集め、各地の村を徐々に圧政から解放していく。規模の拡大に伴い、天然の山塞である梁山泊を、新たな本拠地しようと動いていた。
その他キーワード
伏魔之剣 (ふくまのつるぎ)
刀身が大きく欠けている宝剣。戴宗の育ての親である洪信の手で作られたが、高俅の策謀により、王を殺すための武器として使用される。高俅が洪信を殺害する際に嚙まれて刀身がボロボロになり、ほとんどクズ鉄のような状態になっている。これを戴宗は洪信の形見として、肌身離さず持ち続けていた。戴宗の人並みはずれた剣速によって発生する摩擦熱で、すべてを切り裂くことができる。
宿星 (しゅくせい)
天から与えられた「星の力」を持つ、選ばれし人間のこと。宿星とされる者が潜在能力に目覚めると、凄まじいまでの力を発揮する。宿星はこの世に108人いるとされている。宋江は平和な世界を築くために、「替天行道」の名のもとに、多くの宿星を集めようとしていた。