あらすじ
第1巻
急激に技術が発展した近未来の日本。両親を事故で失った由河明は進学費を稼ぐため、コンビニでアルバイトをしながら学校に通う日々を送っていた。そんなある日、明は世界最大級の企業のCEO、トマ・ロックに誘拐同然に連れ去られてしまう。奇妙な部屋で目覚めた明は、たった一人の一般人か五人の犯罪者、どちらの命を救うかという選択を突きつけられる。訳のわからない状況で、明はそれでもすべての命を救う事を選ぶ。実はすべてはトマが行ったテストで、明が新兵器、オートマトンのパイロットに相応しいかチェックしていたのだ。事情を聞いた明は、亡き父もこの件にかかわっていた事を知り、パイロットになろうと決意。こうして高校生とオートマトンのパイロットという、二重生活をスタートさせるのだった。しかし操作に慣れず、明の初陣は散々な評価となってしまう。明はそれでもめげずに戦う事を選ぶが、その後、災害救助で訪れた海上の石油掘削施設で未知の敵と遭遇し、ピンチに陥ってしまう。
第2巻
圧倒的な敵の攻撃に手も足も出ず拘束される由河明だったが、トマ・ロックの機転で脱出。さらに応援に駆けつけたサンダーの援護によって、敵を撃退する事に成功する。危機を脱した明は、オートマトンで負ったダメージが実の身体にもフィードバックされていた。ケガを治療され、あらためて命の懸かった危険な仕事だと明は実感する。一方、トマは明に敵に関する説明をすべく、彼をロック社の本社ビル地下へと招く。敵は「シヴァ」と呼ばれる、未知のテクロノジーをあやつる組織で、彼らは世界中で殺人事件を巻き起こし、明の父親の死にもかかわっている、とトマは語るのだった。しかし、そこに新たな敵の襲来を知らせるアラームが鳴り響く。明は新たに開発された「オートマトン MARK-Ⅱ」で襲撃者と戦うが、変幻自在のサムに翻弄され、目の前で多くのロック社社員を殺されてしまう。サムにも逃げられ、無力感に苛まれる明は強くなる事を誓うのだった。
第3巻
シヴァに仲間達を殺された由河明は、オートマトン MARK-Ⅱの操縦を特訓する事を決意する。しかし、明の操縦に不満たらたらのメーティスは、効率よくオートマトンの操縦に馴染ませるため、夏休みのあいだ、明を世界一治安の悪いスラムに送り込む事を考えるのだった。たやすく人の命が奪われる環境で、セキュリティサービスとして働く事となった明は、上司となるバーグと行動を共にする。人間型と呼ばれる特別なオートマトンを使い、明は命の危険が身近なスラムで働く。そして、その活躍がバーグに認められた明は、彼からスラムに蔓延する麻薬「ヘラクレス」の調査と撲滅に協力してほしいと要請される。麻薬カルテルの総元締めであるガンプのもとから原料を盗み出す事を計画したバーグと明は、危機に陥りながらも無事に原料を持ち出す事に成功する。祝杯を交わし、お互いの過去を語り合ったバーグと明は親交を深めていく。しかし翌日、バーグはガンプに囚われ、凄惨な拷問を受けてしまう。彼を助けるため、明は今まで以上にオートマトンの性能を引き出す。一方、ロック社本社ビルにはトマ・ロックそっくりの襲撃者が現れ、社の乗っ取りを開始していた。
登場人物・キャラクター
由河 明 (ゆかわ あきら)
両親を事故で亡くし、叔母の家で居候生活をしている男子高校生。工学に興味があり、ロボティクスの学問を学ぶ事が夢。現在は進学費を稼ぐためコンビニでアルバイトをしているが、稼ぎをほとんど叔母に持って行かれているため、貯金できずにいた。祖母の事を大切に思っており、寝たきりになった祖母の世話も欠かさず行っている。そんな日々を送っていたところ、トマ・ロックに半ば拉致されるようにスカウトされ、オートマトンのパイロットとなる。非常にまじめで誠実な性格をしており、トマが強引に行ったRSA(問題解決能力)テストでは好成績を出した。任務でもその性格は姿勢に表れており、人命をなにより尊重して行動する。一方、オートマトンの操縦には不慣れで、本来の数パーセント程度の性能しか引き出せていないため、メーティスからは苦言を呈されている。シヴァの刺客に目の前で人を惨殺され、由河明自身の無力さを実感。それ以降、メーティス主導のオートマトンの操縦特訓を受ける。
メーティス
ロック社所属のチーフエンジニアを務める赤毛の少女。由河明と同年代にもかかわらずロック社の心臓部に立ち入り、オートマトンの開発に携わるほどの天才。効率を重視するせっかちな性格をしているため、オートマトンの操縦に不慣れな明には特に当たりが強い。夏休みには、明のオートマトンの操縦特訓を主導し、彼に人間型を使わせ、自らは通信でサポートする。不器用ながら優しいところもあり、明が家族の話をして落ち込んでいた際にはハグをして慰めている。
トマ・ロック
ロック社のCEOを務める、眼光の鋭い中年の男性。天才と謳われる優秀な科学者でもある。指数関数的に進化するAIによる技術革新「シンギュラリティ」によって危機に瀕した世界を救うため、「オートマトン」を開発し、そのパイロットとして由河明をスカウトした。シンギュラリティを引き起こす元凶となった高性能AIの研究をしていた三人の科学者の一人。同じく研究していた明の父親とは親交があったらしく、明の事を気に掛けている。棒付きキャンディーが好きらしく、コンビニでまとめ買いしたり、自社で新商品を作ったりしている。
クローラ
トマ・ロックの秘書を務める、金髪の妙齢の女性。仕事中はモノクロ型のゴーグルをつねに付けているが、これはロック社の関連会社から送られるメールをチェックするための極小モニターで、日常的に二つの目で別々の情報を処理する優秀な人物。由河明の父親とは親交があり、明の事をなにかと気に掛けている。
サンダー
ロック社に所属する青年。つねにバンダナを頭に巻いている。ワイルドな雰囲気を漂わせており、好戦的な性格をしている。「ブランデンブルク」と呼ばれる装着型の戦闘兵器のパイロットで、海上の石油掘削施設では未知の敵に襲われて危機に陥ったオートマトンへの応援として駆けつけた。オートマトンが運用され始めた事によって実践から遠ざかっていたが、多彩な武装をあやつる強力な戦闘能力を持つ。
西野 唯 (にしかわ ゆい)
由河明のクラスメイトの女子高校生。セミロングヘアで、明るく人当たりのいい性格をしている。明に興味を持っており、よく絡んでいる。トマ・ロックと同じ棒付きのキャンディーが好き。
バーグ
ロック社のセキュリティサービスを務める中年の男性。右目に眼帯を付けた強面で、世界でも五指に入る犯罪多発地区の警備をたった一人で担当している。職務に忠実で、頑固な性格をしており、戦力になりそうにない由河明に辛く当たっていた。明の実力を認めて以降は、意外にも面倒見がよく、食事の世話をしたりしている。若い頃は特殊部隊に所属し、世界中の紛争を渡り歩いて来た。妻と息子がいたが、多忙さから家族になかなか会えず、そのため息子の死に目に会えなかった事を深く後悔している。現在は妻とも死別し、息子の死因となったヘラクレスを撲滅する事を誓っている。
サム
シヴァが送り込んだ刺客。殺した人間の血肉を使って壁に絵を描くなど、常軌を逸した行動を取る。フード付きパーカーを着た青年の姿をしているが、肉体を軟体動物のように変形させる事ができる軟体人間。柔らかい体には銃弾も通じず、腕を伸ばして敵に突き刺して攻撃できるため、攻防共にまったくスキのない存在。全身をスライム状に変形させる事で、通風孔のような狭い場所に忍び込む事もできる。ロック社を襲撃し、由河明の目の前で17人の標的を殺し、そのまま逃げおおせた。
ガンプ
スラムの麻薬カルデルを取り仕切るボスを務める男性。黒い長髪に大柄な体格で、つねに笑顔を浮かべている。ヘラクレスで金を巻き上げ、恐怖と暴力でスラムを支配する邪悪な人物で、拷問と処刑が趣味と公言する。ヘラクレスの原材料となるアムリタをバーグと由河明が盗んだ事に激昂し、バーグをさらって拷問し、駆けつけた明と戦う。
集団・組織
シヴァ
世界中で暗躍する謎の組織。既存の科学技術より進んだ技術を持っており、その力をもって動機不明の大量殺人事件を世界中で引き起こしている。より優れた性能を持つAIを設計するAIを開発して所持しており、AIにAIを開発させる事で、指数関数的にAIを進化させている。現在は進化させた超高性能なAIに「人類の幸福の最適化」を計算させ、70億人の人類の幸福のため1億人の人間を殺害しようとしている。
場所
ロック社 (ろっくしゃ)
世界最大規模のロボティクス企業。ニューヨークに本社ビルを構えており、本社の地下には新商品の検証や新技術の研究を行う「心臓部(センター)」、その奥にはオートマトンの開発や整備を行う、さらに機密度の高い区画が存在する。
その他キーワード
オートマトン
ロック社の開発した人型兵器。パイロットの精神を「精神転送(マインド・アップデート)」して遠隔操縦する兵器で、操縦中、パイロットはオートマトンと一体化して戦う。オートマトンの操縦範囲は転送装置のある場所から半径10キロ以内で、この領域を超えて移動してしまうと、オートマトンへの精神転送は途切れてしまう。そのため転送装置を乗り物に積んで、戦局に合わせて乗り物を動かす事が多い。また稼働時間は30分で、それを超えると強制的に精神は戻される。見た目は白を基調とした配色で、マスクをかぶった筋骨隆々とした大男のようなデザインをしている。由河明がパイロットとして選ばれ、搭乗する。不慣れな状態でも人間を軽々と持ち上げて、超高速で走るなど圧倒的な性能を持ち、拳銃程度なら防御せずともあっさり防ぐ事が可能。またその機体には、レーザーキャノンをはじめさまざまな武装が搭載されている。人命救助などで活躍したが、海上の石油掘削施設の戦いでシヴァの送り込んだ刺客と戦い、破損してしまう。
オートマトン MARK-Ⅱ (おーとまとん まーくつー)
オートマトンから収集されたデータを反映して作られた新型オートマトン。白かったオートマトンに比べて、装甲重視のデザインになったため全体的に黒く塗装され、さらにオプション装備として刀(ソード)が追加されたため、忍者のような姿となっている。オートマトンのデータを反映して作られた新型機のため、性能も装備も全体的に向上。パイロットは由河明が務める。海上の石油掘削施設の戦いでオートマトンが破損したため、以降は明はこちらの機体に乗って戦っている。
人間型 (ひゅーまんたいぷ)
ロック社の開発した人型機械。人間と見分けがつかないほど、精巧に人間を模した機体で、オートマトンと同じくパイロットの精神を「精神転送(マインド・アップデート)」して遠隔操縦する。対象の身体構造をトレースして、人工細胞を用いて作られるため、実在の人間と寸分たがわない機体を作る事もできる。また人間の五感も再現され、味覚も感じる事ができ、食事もふつうに可能となっている。由河明はなにも伝えられず人間型に精神転送されたが、違和感を一切感じなかったほどである。また人間型は人間と変わらない見た目をしているが、人間を超える力を持ち、成人男性を軽々と持ち上げるなど非常にパワフル。さらに性能を引き出せば、時速100キロ以上のスピードで走る事も可能となっている。またオートマトンに比べてパワーが弱いが、転送可能時間が長いなど長所も多い。
ヘラクレス
スラムに蔓延している新型の麻薬。飲むと一時的に筋力が増強し、超人的な身体能力を得られるため、世界中の犯罪者達に悪用されている。「アムリタ」と呼ばれる特殊な薬品を原材料として作られ、缶ジュース1本分のアムリタで大量のヘラクレスを製造する事ができる。ガンプが取り仕切るスラムで大量に生産されており、警察も賄賂をもらって見逃しているのが現状となっている。