概要・あらすじ
赤木しげるの遺言を胸に麻雀の腕を磨いてきた井川ひろゆきは、自分の腕を試すために現役最強の雀士である天貴志に勝負を挑んだ。だが、その勝負が決するかと思われた時、天が謎の失踪を遂げてしまう。天の行方を追うなかで、日本と中国がお互いの国のギャンブル利権を賭けて行う麻雀大会「第二次麻雀東西戦」の存在を突き止めたひろゆきは、日本側の代表メンバーとして、さまざまな思惑の渦巻く戦いに身を投じることとなる。
登場人物・キャラクター
井川 ひろゆき (いがわ ひろゆき)
麻雀に人生を捧げると決意した青年。「伝説の雀士」と評された赤木しげるに憧れて麻雀の世界に入った。12年前に行われた麻雀大会「麻雀東西戦」では、赤木や天貴志とともに東のメンバーとして戦い、その勝利に貢献した。麻雀の実力は折り紙付き。沢田は、その観察眼を神眼と例え、人外の領域に踏み出しつつあると評した。 またその観察力は、視力を奪われた状態でも、周囲の音を聞き分けて正確に麻雀を打つなど、視覚以外でも卓越している。真面目で繊細な性格のため、大胆な打ち回しができず、時として相手の策略にはまってしまうこともあるが、その度に、持ち前の冷静さから活路を見出していく。
天 貴志 (てん たかし)
現役最強の雀士。「麻雀界の新四天王」と呼ばれる1人。12年前に行われた麻雀大会「麻雀東西戦」では、東の総大将を務めた男性。大柄な体格に逆立った黒髪と、切り傷のある顔が特徴。井川ひろゆきとの麻雀勝負の途中、「第二次麻雀東西戦」の相手である中国からの緊急招集に応じ、姿を消した。その後、自身が勝負に参加しない条件と引き換えに、「第二次麻雀東西戦」のルールを日本仕様のものに変更。 ひろゆきたちに対決の行方を託した。本作『HERO -逆境の闘牌-』の前日譚となる『天 -天和通りの快男児-』の主人公でもある。
赤木 しげる (あかぎ しげる)
3年前にこの世を去った伝説の雀士。神域と謳われたその腕前は、死してなお多くの雀士たちの憧れであり、語り草となっている。死の間際、赤木しげるや天貴志との雀士としての格の違いに悩んでいた井川ひろゆきに助言を遺し、彼が麻雀の世界へ、本格的に足を踏み入れるきっかけを作った。
沢田 (さわだ)
井川ひろゆきや天貴志が懇意にしているヤクザの男性。天が失踪した際、その行方を追っていた柳生清麿に、ひろゆきが拉致されそうになったところを、身代わりとなって助けた。赤木しげるの遺志を受け継いだ雀士として、ひろゆきを高く評価するとともに、その将来性に期待している。
岸部 (きしべ)
沢田の組が雇っていた若手の代打ち。井川ひろゆきと天貴志の麻雀勝負の頭数を合わせるために招集された男性。天の失踪直後、その行方を追って襲撃してきた柳生清麿によって、沢田の身柄が拘束された。これをきっかけに、ひろゆきと行動をともにするようになる。
市川 (いちかわ)
100歳近い老人で、全盲の雀士。かつては代打ちの世界で五本の指に入ると言われた腕前を持ち、若き日の赤木しげると戦ったこともある。盲目ゆえに磨き上げられた聴覚は、常人のものとは別格。打牌のリズムから、相手の手持ち牌を予測できるほど優れている。天貴志の行方を追う井川ひろゆきに対し、その情報を賭けた麻雀勝負を挑む。
川尻 (かわじり)
金持ちの若者。天貴志の行方を捜索中の井川ひろゆきが、高田馬場の雀荘で出会った。モスキート音を用いたイカサマで勝利し、相手から衣服を含めた身ぐるみのすべてを奪う、という追剥ぎ麻雀を趣味にしている。天に繋がる情報と引き換えに、ひろゆきに追剥ぎ麻雀を仕掛ける。
大柳 (おおやなぎ)
ニット帽を目深にかぶった、北海道出身の男性雀士。麻雀大会「第二次麻雀東西戦」の予選会で中田翔平とタッグを組み、井川ひろゆき、岸部のペアと戦う。中田とは高校時代に甲子園を目指した時のバッテリー。道予選の決勝で肩を壊すまでは、技巧派左腕の投手として活躍していた。その時の技術を用いたフライング・パイというイカサマを得意とする。
中田 翔平 (なかた しょうへい)
北海道出身の男性雀士。ツンツンとしたショートヘアーとそばかすが特徴。麻雀大会「第二次麻雀東西戦」の予選会で大柳とタッグを組み、井川ひろゆき、岸部のペアと戦う。高校時代は強肩のキャッチャーとして、大柳とバッテリーを組んでいた。血の滲むような特訓の結果、フライング・パイという技術を習得した。 大柳のことを「アニキ」と呼び、心から慕っている。
西方 京介 (にしかた きょうすけ)
長身に整った顔立ち、目にかかるほどの長髪が特徴の青年。麻雀大会「第二次麻雀東西戦」の予選会で、参加者の誰よりも早く勝ち上がったり、予選の敗者復活戦で出題されていた問題を戯れに即答したりと、その実力は底が知れない。また、対局の合間に遊んでいた携帯ゲームでは、ノーミスかつカウントストップのスコアで、あっさりクリアしてみせるなど、麻雀以外のゲームも得意。
柳生 清麿 (やぎゅう きよまろ)
流暢な関西弁を話すハーフの男性。「関西王嵐会」の会長補佐を務めるヤクザ。麻雀大会「第二次麻雀東西戦」が、半ば東京対中国という構図で開催されつつあることに不満を持っている。関西の代表として一枚噛もうと、キーマンである天貴志の行方を追っていた。沢田を人質に取ることで、天の行方を井川ひろゆきに探すように命じる。 常に金属製のハンマーを所持しており、歯向かう相手には、容赦なくその鉄槌を振り下ろすなど、残虐な一面を持つ。
健 (けん)
12年前の麻雀大会「麻雀東西戦」で東のメンバーとして井川ひろゆきらとともに戦った男性。麻雀大会「第二次麻雀東西戦」では、自身も日本側の代表として参加しつつ、出場メンバーの選出を手配する役目を担う。大胆不敵な性格で、格上相手にも物怖じせずに勝負を仕掛けることから、「大阪の悪鬼」という異名を持つ。
狩野 龍二 (かのう りゅうじ)
青森出身の男性雀士。オールバックに太い眉、口元の傷跡が特徴。天貴志に次いで、東日本でNo.2の腕前と評される。「東北の昇り龍」という異名を持っていたが、地元で猟師になるためにと、代打ち業を惜しまれながらも引退した。その引退試合にて、得意とする予告役満を佐伯に阻止されたことに因縁を感じており、再戦の機会を願っていた。 そこへ健に声を掛けられ、麻雀大会「第二次麻雀東西戦」の代表となる。
平良 学 (たいら まなぶ)
オタク然とした青年。目元が隠れるほどぼさぼさの黒髪で、黒縁の眼鏡をかけている。計算機を用いた確率麻雀を得意とし、麻雀大会「第二次麻雀東西戦」の予選では、無名ながら勝ち上がって代表入りを果たした。アニソンを聴きながらでないと対局に集中できないため、常にイヤホンをつけている。これを無理に外されると、気弱になる。
湾 凰 (わん ふぇん)
切れ長の目とシルクハットが特徴の男性。麻雀大会「第二次麻雀東西戦」の中国側代表における実質的なリーダー。医術の心得がある。しかし、井川ひろゆきから怪我をしたカモメの治療を頼まれた時には、苦しみから救うという理屈のもと、目の前で殺してみせた。常に不敵な笑みを浮かべており、その実力は未知数。
ワン リー
九龍城を所有する香港マフィアの令嬢。麻雀大会「第二次麻雀東西戦」が行われる、豪華客船の船長の役目を担っている。ボディラインを強調したチャイナ服に身を包んでおり、当初は柳生清麿にホステスと勘違いされていた。
佐伯 (さえき)
横浜出身の青年。狩野龍二の予告役満を阻止したことで名を上げ、「麻雀界の新四天王」の1人と呼ばれるまでになった。香港マフィアに多額の交渉金で引き抜かれ、麻雀大会「第二次麻雀東西戦」では、日本人ながら中国側の雀士として、井川ひろゆきらの前に立ちはだかる。卓の状況から相手の待ちを完璧に把握するなど、超能力めいた読みの持ち主。
麻熊 (あさぐま)
オールバックの初老男性。「麻雀界の新四天王」と呼ばれる1人。博多出身で、西日本屈指の剛腕として「マグマ」の異名を持つ。噴火まで徐々にマグマが堪(たま)っていくように、一切の無駄なく自分の手配を高目へと持っていく、引きの強い麻雀を特徴とする。香港マフィアに多額の交渉金で引き抜かれ、麻雀大会「第二次麻雀東西戦」では、日本人ながら中国側の雀士として井川ひろゆきらの前に立ちはだかる。
四宮 (しのみや)
サングラスをかけた恰幅の良い男性。「麻雀界の新四天王」と呼ばれる1人。京都出身。スピードと戦略を重視した切れ味の良い麻雀を得意とし、相手の手配の進行状況を把握したうえで、一手先を読み切る。そのため、「ソードマスター」の異名を持つ。香港マフィアに多額の交渉金で引き抜かれ、麻雀大会「第二次麻雀東西戦」では、日本人ながら中国側の雀士として井川ひろゆきらの前に立ちはだかる。
李 (りー)
スキンヘッドに長身痩躯の男性。麻雀大会「第二次麻雀東西戦」の中国側のメンバー。席を立たなくても、対面の牌に手が届くほどの長い腕と大きな手を持ち、その身体の影に隠すような形で、不可視のイカサマを行うので、「千の手を持つ男」と呼ばれる。
張 (ちょう)
恰幅の良い白髪の男性。麻雀大会「第二次麻雀東西戦」の中国側の控えメンバー。事故の後遺症によって、参加が遅れている中国側大将の湾凰の代打ちとして、一時的に中国側のメンバーとなる。同卓の仲間を堅実にアシストするような打ちまわしで、着実に総合点を稼ぐ。
陳 (ちん)
麻雀大会「第二次麻雀東西戦」の中国側のメンバー。能面をかぶったような化粧と表情で、不気味な雰囲気を醸し出している男性。場の流れを左右する牌を人知れず握りこんでいたり、数手先を見越したような役作りを行ったりと、怪しげな麻雀が特徴的。四宮と組んだ際には、「ソードマスター」と対比して「忍者」と評された。場の流れを風水盤で占っているかのような言葉をよく使う。
猪原 慎ノ介 (いのはら しんのすけ)
東京都公営カジノ構想を推進する男性。現職の都知事。自身が設立した新都心銀行の経営不振を解決しようと、外資系企業に不正融資を行わせた。その結果、香港マフィアに強請(ゆす)られてしまい、今後の東京のギャンブル利権とマカオのギャンブル利権とを賭けた麻雀大会「第二次麻雀東西戦」を開催することになった。苦しい立場のはずだが、時おりなにか含みがあるような、不敵な笑みを見せる。
場所
九龍城 (がうろんしてぃ)
香港マフィアが所有する豪華客船。麻雀大会「第二次麻雀東西戦」の舞台。全長365メートルで、収容人数は、豪華客船として知られるタイタニック号の5倍に及ぶ6500人。船体には龍の模様が描かれ、船内は各階層を貫いて丸ごとカジノとなっている。セキュリティの関係から右舷が東軍、左舷が西軍に割り当てられており、最上階デッキと対局場以外は、互いに不可侵となっている。
イベント・出来事
麻雀東西戦 (まーじゃんとうざいせん)
12年前に行われた東日本と西日本による麻雀対決。各地方の雀荘のルール統一を賭けたもので、勝利した側は莫大な利益が得られるとされた。井川ひろゆき、天貴志、赤木しげる、健らは東日本の代表メンバーとして参加し、勝利を収めた。この戦いの模様は『天 -天和通りの快男児-』に詳しい。
第二次麻雀東西戦 (だいにじまーじゃんとうざいせん)
日中間の麻雀対決。猪原慎ノ介と香港マフィアの間で行われた取引によって成立した。日本は東京都のカジノ化で将来的に得られるギャンブル利権、中国はマカオに所有するカジノ利権を賭けて九龍城で対決する。国際条約さながらの協定書の準備と、参加者全員による血判での調印式が行われた。
その他キーワード
フライング・パイ (ふらいんぐぱい)
大柳と中田翔平のペアが麻雀大会「第二次麻雀東西戦」の予選会で用いたイカサマ。かつてこの2人は高校球児としてバッテリーを組んでいた。本来であれば、隣り合った席でしか行えないはずの手牌交換を、卓下で見えないように牌を投げ合い、対面でも可能にするというもの。針を通すような正確なコントロールが要求され、2人は3年を費やして、この技術を完成させた。
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