概要・あらすじ
高校2年生の的場直智は、想像していた高校生活と現実の差にストレスを感じながらも、日々鬱屈として過ごしていた。ある時、後輩の黒月美生から自身がプレイしていたオンラインRPG「インキュベート・キャッスル」のイベントモニターを募集していることを聞き、何の気なしに応募してみたところ見事当選。イベントでは、ゲーム内の設定や魔法の使用を現実世界で反映し、実際に体験することができるという。
気軽に参加した直智と美生だったが、その内容は言葉通り「ダメージや生死を含めたゲーム内容がリアルに体験できる」という常軌を逸したものだった。
登場人物・キャラクター
的場 直智 (まとば ひたち)
取り立てて特徴のない普通の高校2年生男子。ボサボサのミドルヘアをしている。夢に思い描いていた花の高校生活と現実の差が激しく、現状に満足できないものの、何のアクションも起こすことなく無気力な日々を過ごしている。人並みにゲームが好きで、普通にプレイをするものの、特別上手いわけではない。黒月美生に勧められて始めたオンラインRPG「インキュベート・キャッスル」にもほとんど手をつけていない。 過去に「厨二病」を患っていた経験があり、現在では忘れたい恥ずべき思い出となっている。ゲーム内でのハンドルネームは「マトバオー」。
黒月 美生 (くろつき みう)
的場直智の後輩にあたる高校1年生女子。ツーサイドアップの長い黒髪で、スタイルが非常に良い。明るく元気のいい性格だが、ゲームやアニメ作品などが大好きな、いわゆる二次元オタク。思い込みが激しく一人で突っ走るところがあるため、学校での友人は少ない。かつて、直智が屋上で一人、黒月美生の好きなゲームのキャラクターを演じていたところを目撃して一目惚れ。 以降、あからさまな好意を隠そうともせず直智に付きまとう。口癖は「まじパネェです」。ゲーム内でのハンドルネームは「ムーンキャット」。
柊 心守 (ひいらぎ みもり)
体験イベント「リアル・インキュベート・キャッスル」で的場直智が出会った少女。長いストレートの金髪でマリンハットをかぶっている。雷の魔法を使い、他のプレイヤーに襲われていた直智を救うが、同時に直智をも始末しようとした。その後、直智のレベルを確認して、攻撃を中止。「何とか出口を探そう」という直智を一時は突き放すが、シェル化した黒月美生を守り抜いた姿を見て意見を翻し、共闘を誓う。 ゲーム内でのハンドルネームは「ミモリン」。
メガネ男子 (めがねだんし)
オンラインRPG「インキュベート・キャッスル」で最高スコアを維持し続けているプレイヤー。的場直智らと同じく第2回の体験イベント「リアル・インキュベート・キャッスル」に参加した。眉が隠れるぐらいの前髪とクセ毛のふんわりした髪型に、黒メガネをかけた男性で、ハンドルネームそのものといった容姿をしている。イベントのチュートリアル中に魔法が使えないでいる的場らに、魔法発動のコツを教える。 いい人かと思いきや、イベント開始直後に無差別範囲攻撃魔法を使って会場内を阿鼻叫喚に叩き込んだ。ゲームの性質や仕様を正しく理解し、最高を目指すのがゲームへの愛だと語る。
長髪の女性プレイヤー (ちょうはつのじょせいぷれいやー)
体験イベント「リアル・インキュベート・キャッスル」開始直後、地下へ落下した的場直智の前に現れた女性。腰に達するほど長い黒髪を手入れもせず伸ばしたままにしており、前髪で片目が隠れているのも気にしていない。正気を失っている様子で、直智を見て独り言を呟き、話も聞かずに襲い掛かってくる。シャープペンシルでなぞった軌跡に沿って物質を切り裂く魔法を使うことができる。
石使いのプレイヤー (いしつかいのぷれいやー)
的場直智が柊心守と出会った後に遭遇したプレイヤー。上下ジャージを身に着けた小太りの男性で、有無を言わさず2人に襲い掛かる。投げた石を分裂させ、またその速度と強度を高める魔法を使用する。魔法を連続使用しすぎたため、片手がシェル化して気絶した。
ミツル
休憩所にいる的場直智らを襲った3人組のうちの一人。金髪のショートカットヘアにチェック柄のコートを着た青年。ウィッグをつけて女装し、「仲間が重症なので助けてほしい」と休憩所から直智だけを誘い出し、休憩所の外で魔法によって作った罠に掛けた。得意とする魔法は手描きの魔法陣から攻撃と束縛を可能にするチェーンを射出する魔法「絶対不可避」。 実家は病院を経営している。
タケル
休憩所にいる的場直智らを襲った3人組のうちの一人。V字カットの前髪とファーのついたアウターを身に着けた青年。直智だけを誘い出したのち、休憩所の中で力ずくで柊心守を拘束した。得意とする魔法は魔力を乗せた強力なパンチ。衝撃破を伴い、床を抉(えぐ)るほどの威力を持つ。
シゲル
休憩所にいる的場直智らを襲った3人組のうちの一人。黒いロングコートを身に着け、眉が隠れるほどキャップを目深にかぶっている青年。直智だけを誘い出したのち、休憩所の中で黒月美生を拘束した。ミツルの描いた魔法陣を剥がしとり、空中に飛ばすことができる魔法「浮遊する二次元」を使う。コミックスのおまけでは、ポケットに隠したおっぱいボールを揉むと、魔法発動のスイッチが入ることが判明した。
八剣 藍 (やつるぎ あい)
他のプレイヤーに追われている的場直智と柊心守を匿った少年。黒月美生とは、オンラインRPG「インキュベート・キャッスル」内で知り合い、2年にわたって一緒にプレイしていた仲。直智の知る美生の情報をすべて話すこと、またはぐれた美生と合流し、助け出すことを条件に直智と行動を共にする。ゲーム内でのハンドルネームは「ムサシ」。
衣笠 (きぬがさ)
メンテナンス中にはぐれた黒月美生を保護した男性。頭部から右目にかけて包帯を巻いており、中折れハットにスーツを身に着けている。また独特な形状の黒傘をいつも身に着けている。丁寧な物腰で紳士的な態度だが、目的のためには手段を選ばない性格。所属するギルド「境界の守人」のギルドマスターである麗真に命じられ、美生をメンバーに誘う。 現実世界では結婚しており、本人が言うには奥さん一筋だという。
千里 (せんり)
ギルド「煉獄の戦士」のメンバー。柊心守の友人の少女。ショートカットに、胸元が大きく開いたアウターとホットパンツ状の装備が特徴。見た目に違わず快活な性格で、シリアスな場面で初対面の的場直智にも軽口を叩く。巨大な2本の槍を使う戦闘スタイルで、炎をまとった攻撃魔法を得意とする。ゲームがメンテナンス中で動きがない状況を利用し、心守を再度ギルドに迎え入れるために接触してくる。
柊 真守 (ひいらぎ まもり)
ギルド「煉獄の戦士」の一員。柊心守の姉。体験イベント「リアル・インキュベート・キャッスル」でギルド「境界の守人」との衝突が起きた際、その騒動に巻き込まれないよう心守をギルドから脱退させた。心守を大きく上回る実力を持っているそうで、心守いわく「神」。転移魔法を使用することができ、再度「境界の守人」との戦闘になった際、的場直智らを自分の場所へ誘う。
麗真 (うるま)
ギルド「境界の守人」のギルドマスター。裸の上半身にフード付きのジャケットを着た青年。人の精神に干渉する魔法を使うことができ、黒月美生の嫉妬心を利用して柊真守を殺害。千里にも瀕死の重傷を負わせる。
集団・組織
境界の守人 (きょうかいのもりびと)
オンラインRPG「インキュベート・キャッスル」に存在するギルドのひとつ。ギルド「煉獄の戦士」と並んで2大ギルドと評される規模を誇り、互いに敵対関係にある。上位プレイヤーの約半分が所属するといわれる巨大な勢力を持ち、自分たちの思う通りにゲームを管理しようと企む。
煉獄の戦士 (れんごくのせんし)
オンラインRPG「インキュベート・キャッスル」に存在するギルドのひとつ。ギルド「境界の守人」と並んで2大ギルドと評される規模を誇り、互いに敵対関係にある。柊心守が元々所属していたが、何らかの理由で現在は離脱中。
場所
リアル・インキュベート・キャッスル (りあるいんきゅべーときゃっする)
オンラインRPG「インキュベート・キャッスル」で開催された体験イベント。「未来型ストレス発散」をテーマにしたイベントで、ゲーム内の舞台である古城を模した専用会場で開催。公式サイトの説明によれば、「会場内で専用の魔法ブレスレットを着用すると、使用者のストレスに反応して、思い描いたオリジナルの魔法効果を宙に映し出すことができ、リアルなバトルを体験できる」とされている。 的場直智や黒月美生が参加したものは2回目の開催イベントだった。1回のイベントで約500人が参加できるという。
休憩所 (きゅうけいじょ)
体験イベント「リアル・インキュベート・キャッスル」の会場内に点在する特定ポイント。隠し部屋としていくつか存在しており、他のプレイヤーに見つかりにくく、また休憩所内では魔法を使うことができないため、数少ない安全地帯となっている。ただし、魔法が使えないだけで物理攻撃は有効となるため、これを逆手に取って他のプレイヤーを殺そうとする参加者もいる。
その他キーワード
SP (えすぴー)
「ストレス値」の略称で、体験イベント「リアル・インキュベート・キャッスル」で魔法を使用するために必要となるポイント。魔法ブレスレット着用者のストレスに応じて増減し、少なくなると魔法が使用できなくなる。上限値はレベルの上昇に応じて増加する。
魔法 (まほう)
体験イベント「リアル・インキュベート・キャッスル」で使用できる技。SPを消費して使うことができ、非常に多彩な効果・種類がある。使える魔法は、使用者の性格や相性などによって大まかに決まっており、ストレスの感情が「イライラ」したものなら攻撃系、「ウジウジ」したものなら状態異常系の魔法使用に適している。具体的な魔法のイメージと使用者の相性、そして発現させるためのスイッチがそろわないと発動しない。 個々の魔法にはそれぞれ名称が存在するが、使用者が魔法のイメージを固定化させるために必要なもので、魔法名を叫ぶ必要はない。しかし、実際に使用する際に魔法名を叫ぶプレイヤーも多々存在する。
レベル
オンラインRPG「インキュベート・キャッスル」及び体験イベント「リアル・インキュベート・キャッスル」で経験値を得ることによって上昇するステータス。「リアル・インキュベート・キャッスル」では、他プレイヤーにダメージを与えるほか、殺すことでも経験値を得ることができ、高レベルのプレイヤーに対してアクションを起こしたほうがより高い経験値を得ることができる。 レベルが上昇すると魔法を使用するためのSPの上限値が上昇する。すると、SP上限を超えてストレスを溜めることによって引き起こされるシェル化の危険性を回避できる他、使用する魔法の使用回数や威力などが高まる。「リアル・インキュベート・キャッスル」では、基になるゲームのステータスが引き継がれることはないとされたが、イベント開始時における的場直智と黒月美生の初期レベルは、それぞれレベル1とレベル15で、なぜか開きがあった。
シェル化 (しぇるか)
体験イベント「リアル・インキュベート・キャッスル」で、規定回数を超えて魔法を連発した場合に起きる現象。シェル化が起きると、魔法ブレスレットを着用した腕が結晶化して固まり、魔法の使用が著しく制限されるほか、柊心守いわく「腕が使い物にならなくなる」という。またストレスの許容値を大きく超えてしまった場合にも起き、その場合は全身が結晶に囲まれた異形の怪物となり、理性をなくして周囲の人間を無差別に襲うことになる。 この状態は「シェル化レベルMAX」と呼ばれる。
ギルド
オンラインRPG「インキュベート・キャッスル」において、プレイヤー同士が集まって構成される組織のこと。体験イベント「リアル・インキュベート・キャッスル」でもこの設定は受け継がれる。ギルドに所属すると、さまざまなメリットを受けることができるが、その代償として、レベルアップに必要な経験値が5倍に跳ね上がってしまう。
魔法ブレスレット (まほうぶれすれっと)
体験イベント「リアル・インキュベート・キャッスル」で、参加者全員が着用する特別製のブレスレット。会場内で技をイメージした際の発汗や筋肉の動き、そのほか体内の変化を感知して、一定の魔法効果を発動することができるとされる。ブレスレットには球体の画面があり、そこに着用者のキャラクター名、レベルなどが表示される。 入場時にカラーを選ぶことができ、的場直智は赤を選んだ。
癒し (ひーる)
的場直智が使う魔法。「回復」と表現されることもある。他人のストレスを消滅させる効果のほか、肉体が受けたダメージや傷を回復させる効果もある。初めは魔法を使うことができない直智だったが、極度のストレスを受けてシェル化レベルMAXとなって理性を失った黒月美生を助けたいと、願った際に発動。美生を正気に戻すことに見事成功した。
暗黒超回生 (あんこくちょうかいせい)
的場直智が使う魔法。対象の力を吸収して自分のものにすることができるという設定で、ミツルら3人組に襲われたピンチの際に、使用したと見せかけてハッタリをかけた。しかしこの時点で魔法のイメージが固まっていたため、のちに想像通りの効果で実際に使用することになった。
漆黒の繚乱 (いんふぃにてぃぶれっど)
メガネ男子が使う魔法。先の尖った多面体の物体を数えきれないほど召喚し、目標に向けて射出するなど、思いのままに操ることができる。体験イベント「リアル・インキュベート・キャッスル」のチュートリアルで使用した際は、自分の上空に半円状に美しく展開・制御し、周囲のプレイヤーを驚かせた。
漆黒の棘雨 (へゔんずじゃっじめんと)
メガネ男子が使う魔法。先の尖った多面体の物質を上空から高速で広範囲に降り注がせる。体験イベント「リアル・インキュベート・キャッスル」開始直後に、多くのプレイヤーが集まる広場に向けて射出し、イベントを一瞬で地獄へと塗り替えた。
漆黒の竈神 (だーくへすてぃあ)
メガネ男子が使う魔法。先の尖った黒い多面体の物質を合体させて竈を抱えた巨大な女神を形作り、竈から八面体を超高速で射出して全方位に攻撃する。射出された物体はひとつひとつが床や壁を抉(えぐ)るほどの威力を持つ。
漆黒の鎌神 (だーくへるめす)
メガネ男子が使う魔法。先の尖った黒い八面体の物質を合体させて大鎌を持った巨大な死神を形作り、それを振るうことで攻撃する。鎌の一振りは、数人の人が隠れることができるほどの柱をも、すっぱりと両断する威力を誇る。
サンダースピンカルテット
柊心守が使う魔法。前方に展開した4つの雷球から、目標に向けて電撃を射出する。エフェクトの派手さとは裏腹に人を殺すほどの威力はないが、直撃を喰らったタケルはその場で気絶した。
浮遊する二次元 (ぴくちゃーどろうあうと)
シゲルが使う魔法。平面に描かれた物を剥ぎ取り、空中に浮かせることができる。ミツルが使う「絶対不可避」と組み合わせることで、魔法の隙をなくし、絶妙のコンビネーションを見せる。
絶対不可避 (きゃぷたーちぇーん)
ミツルが使う魔法。手描きの魔法陣から高速で鎖を射出することができる。鎖の先端は矢尻のように尖っているため、これを相手に突き刺すことでダメージを与えられるほか、鎖で縛って対象を拘束することも可能。鎖の動きはミツルの意志で自在に操ることができるが、射程はさほど長くないため、冷静に距離をとればネーミングに反して回避することが可能。
自我空間 (えごさーくる)
黒月美生が使う魔法。自分の周囲を荒野と奇妙な岩石による建造物で構成された異空間に変化させ、その中の事象を自在に操ることができる。
不可侵の愛 (あるかでぃあ)
黒月美生が使う魔法。巨大な黒球を射出し、ぶつけて衝撃を与えることができるほか、使用者の意志で細かく三日月状の刃に変化させて破裂させることも可能。
蟠の扇動 (わだかまりのせんどう)
麗真が使う魔法。人の精神に干渉し、悪意を増幅させることができる。黒月美生に向けて使用した際は、その嫉妬心が増幅され、的場直智と美生の2人の間に入り込むすべての障害に向けて悪意を放つようになった。
悪夢の瞳 (あくむのひとみ)
麗真が使う魔法。人の精神に干渉し、恐怖を増幅させることができる。本来、対象は恐怖に飲まれて身動きが取れなくなるはずだったが、メガネ男子に使用した際は、恐怖よりもそれを克服する喜びが勝ったため、望む効果が得られなかった。
インキュベート・キャッスル (いんきゅべーときゃっする)
多人数同時参加型のオンラインRPG(MMORPG)。英語表記では「Incubate Castle」。主に対人戦闘が主体のゲームで、「力を持つものが神の候補として選ばれ、他の神候補をすべて蹴落とせば、次の神として選ばれる。神に選ばれると100年の任期が与えられ、その間に次なる神の選定が始まる」という設定を持つ。キャラクターの使用する魔法の設定などが幅広く、高い自由度がウリ。 巨大な洋風の城が舞台となっており、レベルが上がるたび上層に行くことができるというシステムになっている。
月下のメシア (げっかのめしあ)
的場直智が中学生時代にハマッていたゲームのひとつ。「刹那」という名前の主人公が活躍するゲームであり、厨二心を刺激する内容が満載の作品。直智は神ゲーだと評し、黒月美生も好きな作品のようだが、知名度はかなり低く、語り合う相手は滅多にいないという。その割には続編の制作が決まっている謎の作品。