弓道の世界を背景に、傷を抱えた少年・圓城陽大と彼を取り巻く人間たちのそれぞれの思いを描いた、文学性の高いラブストーリー。連載当初は、花染町に住む人々を描いたオムニバス作品・『駅から5分』の、スタイルを変えた続編という位置づけだったが、軽快でコミカルな前作とは違い、シリアスなストーリー展開となっている。物語は『駅から5分』と交差するが、別の視点で進み、それぞれ独立した作品になる。しかし、何気ないように見えるエピソードの一つ一つが『駅から5分』と補完し合い、両方の作品を読むことでパズルのピースがぴたりとはまり、全体像が浮き上がってくる、立体的な構成になっている。印象的ではあるが、説明の少ないラストに、作者のくらもちふさこは、「全てはこのシーンのため。分かりにくいかも知れないけれど、陽大と3人の関係は、私なりに決着をつけた。あとは読者に委ねたい」と語っている。2010年3月号から2011年10月号まで「コーラス」誌上で第1部が連載され、その後「Cocohana」に掲載誌を移し、2013年7月号から2016年9月号まで連載された。2017年、それまでの1年間で最もすぐれたマンガに贈られる、第21回手塚治虫文化賞(朝日新聞社主催)の「マンガ大賞」に選ばれた。