花に染む

花に染む

弓道の世界を背景に、傷を抱えた少年・圓城陽大と彼を取り巻く人間たちのそれぞれの思いを描いた、文学性の高いラブストーリー。連載当初は、花染町に住む人々を描いたオムニバス作品・『駅から5分』の、スタイルを変えた続編という位置づけだったが、軽快でコミカルな前作とは違い、シリアスなストーリー展開となっている。物語は『駅から5分』と交差するが、別の視点で進み、それぞれ独立した作品になる。しかし、何気ないように見えるエピソードの一つ一つが『駅から5分』と補完し合い、両方の作品を読むことでパズルのピースがぴたりとはまり、全体像が浮き上がってくる、立体的な構成になっている。印象的ではあるが、説明の少ないラストに、作者のくらもちふさこは、「全てはこのシーンのため。分かりにくいかも知れないけれど、陽大と3人の関係は、私なりに決着をつけた。あとは読者に委ねたい」と語っている。2010年3月号から2011年10月号まで「コーラス」誌上で第1部が連載され、その後「Cocohana」に掲載誌を移し、2013年7月号から2016年9月号まで連載された。2017年、それまでの1年間で最もすぐれたマンガに贈られる、第21回手塚治虫文化賞(朝日新聞社主催)の「マンガ大賞」に選ばれた。

正式名称
花に染む
ふりがな
はなにそむ
作者
ジャンル
恋愛
関連商品
Amazon 楽天

登場人物・キャラクター

宗我部 花乃 (そがべ かの)

比々羅木神社の隣りにある畳屋の娘。小学生の頃、圓城 陽大の流鏑馬姿を見て弓を始める。力持ちで、女の子らしくなく、感情が顔に出ないタイプ。神社が火事になり、家族を失って傷ついた陽大を全力で守ろうとする。唯一、陽大が心を許す存在。中学・高校と離れていたが、花染町にいる陽大のそばにいるために弓道の名門である茴香女子大学に進学する陽大と同じアパートの住人となり、圓城 雛が主将を務める弓道部に入部する。

圓城 陽大 (えんじょう はると)

比々羅木神社の次男として生まれ、幼い頃に弓道を始め、類まれな才能を見せる。しかし、神社の火事で両親と兄を亡くし、叔父の家である花染神社に養子に入る。従姉にあたる圓城 雛とは幼い頃に好き合っていたが、雛は兄の日向の婚約者だったため、距離をおいていた。火事で兄を失ってからは雛の気持ちを完全に拒否し、実弟として過ごす。2年間、休学していたため、学年はずれている。花染高校では模範的な生徒として生徒会長を務めている。強いカリスマ性を持った青年で、多くの人間を惹きつけるが、心の内は誰にも見せない。 くらもちふさこの前作である『駅から5分』にも重要な人物として登場。この陽大を中心に据え、並行して展開された新しいストーリーが本作である。 

圓城 雛 (えんじょう すう)

圓城 陽大の従妹で、花染町にある花染神社の一人娘。火事で家族を失った陽大を引き取ったため、陽大の義姉となる。幼い頃は陽大と好き合っていたが、陽大の兄で、亡くなった圓城 陽向と親が決めた婚約者同士だった。弓道の名門である茴香女子大学に通い、部長をつとめ、急速に弱体化する弓道部をなんとかしたいと願う。才色兼備で優等生だが、本心がわかりづらい。比々羅木神社の火事をきっかけに陽大とのこじれすぎた関係性に縛られて身動きがとれなくなっている。

水野 楼良 (みずの ろうら)

マリー・アントワネットのように結い上げたデコラティブな髪形と、レースやフリルをたっぷり使ったプリンセスラインのファッションが特徴。母親が出産の前日にオーロラ姫の夢を見たため、その生まれ変わりだと信じ、オーロラをもじって楼良という名前をつけた。ずっと自分だけの気品あるプリンスを探していたところ、電車の中で見かけた圓城 陽大に一目ぼれする。「弓で勝負して、自分が勝ったら付き合ってくれ」と陽大に持ちかけ、宗我部 花乃と圓城 雛の特訓を受け、弓道を始める。不思議ちゃんだが、まっすぐで健気で、下品な事を嫌う。宗我部 花乃と同じ茴香女子大学1年生。

圓城 陽向 (えんじょう ひなた)

圓城 陽大の兄で、比々羅木神社の跡取り息子。従妹の圓城 雛が好きで、親に頼んで婚約させてもらった。倭舞中学弓道部の主将を務めていた。自身が3年の時、副主将の宗我部 花乃と、入部してきた弟陽大との三人立ちで大会を賑わせ、雛や他校の新保 貴美にも影響を与えた。明るく素直な性格だが、望んだものは何でも手に入ると思っている幼い部分もある。中学3年生のとき、神社に放火されて両親とともに亡くなった。

新保 貴美 (しんぼ たかみ)

圓城 陽大が小5の時に披露した、比々羅木神社の流鏑馬を見て、弓を始める。弓道の強豪校である坊野学園に所属し、中学では関東大会で優勝、高校ではインターハイで個人優勝をした。長い間、陽大に憧れ続け、ひそかに追いかけ続ける。大学生になった時、同級生の計らいで陽大に会うことができたが、憧れが恋心だったと気づいて動揺し、大会を前にして調子を崩す。

入谷 秋 (いりや みのる)

圓城 陽大が会長をつとめる花染高校生徒会執行部の役員。ロボットオタク。陽大のお気に入り。前作『駅から5分』の主要な登場人物のひとりでもある。

田路 渉 (たじ わたる)

倭舞中学校の圓城 陽大の同級生で、「もやし」こと林とともに弓道部の部員だった。宗我部 花乃の一学年下の後輩にあたる。廃部寸前になった弓道部を守る同志でもある花乃に思いを寄せている。花乃の卒業式の日に告白をして怒らせる。陽大からは自分が捨てた過去につながる人物として敬遠され続けるが、それに気づかず、友人として追い求め続ける。陽大の流鏑馬姿をもう一度見たいと願っている。

千場 伊織 (せんば いおり)

京都でアニマルセラピーの活動をし、犬を連れて福祉施設を回っている、不思議ちゃん男子。パンが好き。火事の後、心神喪失状態になり、施設に預けられた圓城陽大と出会い、偶然にも陽大がいる福祉施設を訪問することになる。実は意識がしっかり回復している陽大と行動をともにし、陽大の心をどんどん開かせる。

桜井 蓮 (さくらい れん)

花染町の有名企業「アケタキャラメル」の社員。花染神社で倒れたところを助けてくれた圓城 雛に一目惚れし、アタックし続けるが、相手にされない。明るくて能天気。前作『駅から5分』の登場人物のひとり。

場所

花染町 (はなぞめちょう)

東京のどこかにある町という設定。くらもちふさこの前作『駅から5分』の舞台でもある。花染町の人々が交錯するこの2作品は合わせて「花染町をめぐる人々の物語」ともくくれる。

花染神社 (はなぞめじんじゃ)

花染町にある神社で、圓城 雛の実家。火事によって家族を失った圓城 陽大が引き取られ、ここの宮司となるべく育てられる。

比々羅木神社 (ひいらぎじんじゃ)

圓城 陽大が生まれ育った神社。放火にあい、陽大の両親と兄が亡くなる。その後は、別の神社の宮司に通ってもらって維持をしている。歴史がある由緒正しい神社で、年に一度、流鏑馬の奉納が行われる。

茴香女子大学 (ういきょうじょしだいがく)

宗我部 花乃、圓城 雛、水野 楼良が通う、花染町近くにある女子大学。弓道部の名門として知られていたが、監督が坊野学園に移籍してから、凋落が激しい。

坊野学園 (ぼうのがくえん)

東京にある女子校のひとつ。弓道の名門校で、中・高・大学とつながっている。茴香女子大学の弓道部の監督が坊野学園の理事長と再婚し、移籍したことでさらに強くなった。

花染高校生徒会 (はなぞめこうこうせいとかい)

圓城 陽大が通う花園高校の生徒会。陽大が生徒会長をつとめる。入谷 秋も役員として所属している。前作『駅から5分』で最も中心となっていた舞台。

SHARE
EC
Amazon
logo