派遣OLの内面と成長を繊細に描くガールズストーリー。ダルダル星人のダルちゃんは、この世で「普通の人」として生きていくために、24歳の働く女性・丸山成美に擬態している。苦手な化粧をし、嫌いなストッキングとパンプスをはいて身なりを整えれば、派遣社員・成美の出来上がりだ。一生懸命に社会のルールを覚え、周囲に合わせることで居場所を得ようとしてきたダルちゃんが、自分の本当の気持ちや望みを見つけていくまでを描く。
本作で描かれる擬態は、主人公・ダルちゃんの脳内イメージだ。軟体動物のような姿で描かれる「ダルダル星人」の「ダルちゃん」は、彼女の内面にある「ありのままの自分」のメタファーと言えるだろう。もちろん、周囲の人々の目には、あくまで24歳の派遣OLとして映っている。しかしそれは、「ありのままの自分では居場所がない」と感じた彼女が、周囲に受け入れられるため、社会ルールを意識的に遵守することでようやく作り出したもの。周囲に合わせることが優先される日本社会で、自分らしさを封じて擬態する彼女の生き方に、自分の境遇を重ね合わせ、共感する読者も多いかもしれない。それだけに、ダルちゃんが、擬態に変わる生き方を手に入れる姿が胸に迫るはずだ。
にわとりに擬態した異星人と、にわとり好きの女子高校生が巻き起こすコメディ。ひょんなことから地球にやって来た異星人・トリオは、勝手の分からない地球でなんとか生き延びるため、学校で飼われているニワトリに擬態することを決意する。ニワトリ好きの女子高生・丹羽野冬子に世話をされ、快適なニワトリライフを送るはずだったトリオ。しかし、動物病院で死ぬか生きるかの目に遭ったり、ローストチキンにされそうになったりと、前途多難な道が待っていた。
物語は、地球外生命体、いわゆる異星人であるトリオが、美しさに惹かれて地球にやって来たところから始まる。未知なる地球で生き延びるための方法を模索したトリオは、自らの能力を生かして、まずはスズメにトランスフォーム(擬態)した。しかし、猫やカラスといった天敵が多く、何かと苦労は絶えない。そこで、3カ月にわたり観察を続けた結果、次はニワトリ小屋のニワトリに擬態することに。雨の日も風の日も世話をしに通う冬子の存在も、その決断を後押しした。しかし、天然すぎる冬子の思いもよらない行動により、トリオが夢みた平和なニワトリライフはもろくも崩れ去る。のんびりとしたちょっと田舎の高校に、異星人が擬態して紛れ込んでいるという意外性が楽しい作品だ。
人類とは異なる進化をとげた小類人(ちゃいるど)と、天敵・亜大類人(あだると)の戦いを描いた異能力バトルアクション。主人公の雛形平次(ひながたへいじ)は、人間の子どもの姿に擬態して生きる小類人。特殊な能力を持ち、人類とは全く異なる新たな存在だ。子どもの姿のまま老いることがないため、小学生のフリをし人間社会に紛れ込んでいる。他の小人類がいない場所を求めて転校を繰り返す日々の中、平次は、新人類を狙う者たちとの闘いに巻き込まれていく。
主人公・平次は、一見すると普通の小学生。小柄で細身な体格、地味な眼鏡をかけた姿は、いじめっ子の恰好の標的にもなっている。しかしそれは、子どもに擬態している小類人が、目立つことを避けるための方策だった。さらに、小類人以外にも擬態を行っている新種が登場する。その1つが、人間の大人に擬態した亜大類人(あだると)だ。それぞれが特殊能力を有する小類人に対し、亜大類人は驚異的な身体能力と体力を持っている。また、研究のために小類人を付け狙ってもいた。彼らの闘いは激化し、より強い存在を求めて、さらに新たな種をも生み出す。人類を凌駕する存在が、人間社会に擬態して紛れ込んでいることにぞっとさせられる作品だ。
元気が取り柄の少女が、ミミック(擬態)の力を生かして周囲を幸せにしてくハートフルストーリー。主人公・吉田未々(みみ)は、自然と人の真似をしてしまう癖があった。しかし、周囲に溶け込み、他人になりきってしまう不思議な能力=みみっくのせいで、いつも失敗続き。ある日、偶然から転がりこんだ骨董店の主人・菊本薫にみみっくの力を見出され、歴史と伝統のセレブシティ・松尾に住む人々の心のトラブルを解決していく。
未々の他人への擬態能力はずば抜けている。目にした人の立ち居振る舞いから言動までを、まるでトレースするように写し取り、なりきってしまう。セレブばかりが参加するパーティに送りこまれた時は、フランス語を操る上品なアクセサリーデザイナーに見事に擬態してみせた。これまで美々は、その力を制御できず、無意識のうちに擬態してしまうことで気味悪がられ、散々な目に遭ってきた。それでも、周囲の人々の理解と支えを得た時、風向きは変わり始める。人とは異なる能力を、人々のために使う方法を得た彼女は、周囲に大きな幸せを呼ぶ。
19世紀のイギリスを舞台にした長編ゴシックサスペンス。名門貴族・ファントムハイヴ伯爵家の完璧なる執事・セバスチャン・ミカエリスは、若干13歳の若き当主、シエル・ファントムハイヴに仕える忠実な僕だ。しかしそれは表の顔。ファントムハイヴ家当主は、汚れ仕事を引き受ける裏稼業を代々営んでおり、シエルもセバスチャンと共に「女王の番犬」としてさまざまな事件に挑む。3度にわたりテレビアニメ化、2014年には実写版映画が、2017年には劇場版アニメが公開された。
本作で擬態を行うのは、高い教養と品位を誇る執事・セバスチャンだ。「ファントムハイヴ伯爵家の執事たるもの、 この程度のことができなくてどうします」の決め台詞と共に、普通の人間にはこなせないレベルの無理難題をやすやすと解決できるのには秘密があった。実はセバスチャンの真の姿は、執事の姿に擬態した悪魔。ファントムハイヴ家当主・シエルの魂と引き換えに、「シエルが復讐を果たすまで、彼の手足となり、殺さずに守り抜く」「一切嘘をつかない」という契約を交わし、執事になりすましている。正体が悪魔ならば、人間離れした活躍ぶりも納得できるというもの。慇懃無礼に毒舌をはきつつ完璧に任務をこなしていく「黒い」執事への擬態ぶりは必見だ。