仲村叶(なかむら かの)26歳。
普通の会社に勤めるOL。だが彼女は同僚たちにひたすら隠していることがある。それは、彼女が「特撮オタク(トクオタ)」だという事実。
普段の彼女は颯爽と仕事をこなし、同僚や後輩たちに慕われているOL。だが、基本アフターファイブの飲み会や合コンには付き合いが薄い。その理由といえば、一刻でも早く帰宅して、撮りためた特撮作品や過去に放送された作品を「イッキ観」するために他ならない。
特撮には、「単なる子供だましではない、子供向けの熱い魂の物語」が存在することがある。彼女はれっきとした大人の女でありながら、そういう「魂の物語」を愛する、正真正銘、筋金入りの「トクオタ」なのだった。
現在、週刊ビッグコミックスピリッツにて連載中、コミックは、最新6巻まで発売中。
さすがにいい大人になって「特撮に夢中」とはなかなか公言できない。
だから彼女は「特撮が趣味であること」をひた隠しにし、同僚や後輩たちと付き合っている。たまにはどうしても断り切れず、カラオケをともにすることもあるが、そういうときはうまく自分を装って「子供のころに聞いた曲でなぜか覚えている曲だから」と昔の、自分の子供のころの特撮のオープニングを歌う。
わかるような気がする。「かっこいいけど一般の人が聞いたら何の歌かわからない曲」でお茶を濁してしまったり、わりとヒットしたアニメのJ-popアーティストが歌ったものを歌ったり、アニメのタイトルの一切出てこない挿入歌とかがおすすめだ。
そんな筋金入りの彼女だから、特撮のカプセルトイ(ガシャポンとかガチャガチャなど)も買い求める。もちろん会社のそばで購入するようなことはせず、定期券の範囲内で「フィールドの良い」立地条件のカプセルトイをひたすら探す。この場合の「フィールドの良い」条件というのは、おもちゃ屋の軒先などではなく、人が多く行きかう表通りに面していず、あまり他人の目につかない小路などを指す。
正直言っていい大人があれを回しているのを見られるのはけっこう恥ずかしい。
この部分の下りには共感がわく人もいるのではないだろうか。そう、何事も共感なのだ。だからこそ仲村は、電車の中でふと「特撮キャラのデフォルメスイング」をかばんにつけている女性を見かけてその人に「仲間(同類)」を感じ、自分も好きなキャラの「スイング」をかばんにつけてみる。同じ仲間だと気づいてもらうために。共感したいがために。
そして仲村はデパートやショッピングセンターなどで時折開催される「ヒーローショー」も観てみたくなってくる。
普段のヒーローショーはその時その時に放映されている「何々レンジャー」などがメインで開かれるが、時としてスペシャルゲストのように過去に放送された作品の主人公がやってきたりもする(今でいう平成の仮面ライダーショーに昭和のライダーがゲストでやってくるもの)。そしてそのゲストキャラが自分の好きなキャラだったら……。
そういう場所で、いつか電車のなかで出会った「同じ趣味かもしれない彼女」と出会ってしまう奇跡。
これはもう偶然ではなく必然であろうと思ってしまう、魂の姉妹たちの邂逅。と言ってしまえば少し大げさかもしれないが、まぁ言い慣れた言葉を使うことを許されるなら「類は友を呼ぶ」のである。
近くのおもちゃ屋のいかつい顔の店員が実は女の子が活躍するアニメの主人公が好きだったり、カプセルトイを買う時に知り合ったダミアンとも仲良くなったり。
趣味の合う友達が増えていくことで自分の周りに優しい時間が増えていく。これっていいことだと思う。
けれども、そういう「心許せる友との時間」が増えていき、油断しているときにあらわれる天敵「母親」。
仲村が「隠れオタク」となってしまった、ある意味元凶ともいうべき「お母ちゃん」とのつらい戦いに完全敗北して、1巻は終わる。仲村に明日という日があるかどうかは、本書を読み進めていく内に分かってくるのだ。
アニメやマンガが好きな人にはどこかできっと「あるある」と共感できるだろう。
人に言えるよ!という人も言えないタイプの人間の葛藤を感じてみてほしい。