契約により、ある村の畑(麦の中)に閉じ込められていた狼・ホロと、はずみでその契約から狼を解き放った旅商人「ロレンス」の出会いから、物語は始まる。ヒトとしての見た目は10代の少女にしか見えない「ホロ」と、新進気鋭の承認・ロレンスの旅が始まる……。
二人の出会いは、パスロエという名前の村での話。「ロレンス」にとっては何度か訪れたことのあるその村には、「ホロ」と呼ばれる麦にまつわる神威の存在が語り継がれていた。麦穂が風に揺られることを「狼が走る」といい、風が強すぎて麦が倒れることを「狼に踏まれた」といい、不作の時は「狼に食われた」という。
しかしそんな「言い伝え」もすでに過去のものとなりつつあったその時代。昔の約束を律儀に守る必要もないのかもしれない、何よりその村で、もう自分は必要とされていない……。そう思っていた、ひとりの伝説の存在があった。
彼女は、麦畑から最後に刈り取られた麦のひとつかみに宿るといわれているが、その「儀式」が行われていた瞬間、その場に居合わせた旅の商人・「ロレンス」の荷馬車の荷台にも、山中の村で積み込んだ麦があった。
パスロエの村を出てから数里。今宵の宿をある大木の陰にさだめた「ロレンス」は、荷台に毛布を取りに行った際、その荷台ですやすやと眠りこける裸の少女の姿に気づく。目を覚ました彼女が「伸び」とともにあげる「遠吠え」。そして獣の耳、豊かな尻尾を持つ。それが、このあと数奇な運命の旅をともにする「ホロ」と「ロレンス」の、二人の最初の邂逅の瞬間だった。
ここから始まる二人の旅は、決して生ぬるい旅ではなく、時に破産の恐怖をつきまとわせ、時に命をかけるような危険をもまとわらせる、波乱にとんだ道のりになっていく……。そんな旅で起こるあれこれが二人の心を結びつかせ、また離れさせ、やはり離れ難い強固なものへと変化させていく。それは、いくつもの試練を二人が越えてからのお話。
二人の長い旅と、その間に出会う人々の物語は、それぞれに退屈させない、飽きさせない刺激に富んでいる。たとえば貧乏な羊飼いの少女との出会いと別れ、将来は学士を目指す少年との同行旅の話、商人としての「ロレンス」につけこんでくる多くの「商売人」たちとの葛藤。全てが、「ロレンス」と「ホロ」の二人旅を彩っていく。
だがやはり、この物語の一番の魅力は、奔放で無邪気、全てを見通したような眼を持ちながら、やきもち焼きなホロの魅力をおいて他にない。
また、舞台が中世ヨーロッパ的な、いわゆる「剣と魔法の世界」に偏りがちな世界観を持ちながら、物語の骨子は「ロレンス」の「商売」に終始する、というある意味平凡だが新しい、もの珍しいスタイルもヒットを呼んだ起因ではないだろうか。