高校の吹奏楽部を舞台に、トランペット奏者の主人公と特異体質を持つ少女を描いた学園ラブコメディ。主人公・白波瀬歩(しらはせあゆむ)は中学3年生の時、初恋に破れ、公園でトランペットを吹いていた。その時、ホルンを演奏している少女と出会い一緒に演奏したところ、今までにない興奮を味わう。しかし、少女は演奏が終わるとすぐに姿を消してしまった。後日、歩は、進学した県立根戸ヶ谷高校でその時の少女・芹生百合子(せりゅうゆりこ)と再会する。2008年3月に実写映画公開。
百合子はスタイル抜群の秀才だが、普段は寡黙で表情の変化にも乏しい。しかし、音楽を聴くとがらりと変わり、不機嫌そうな表情が一変。満面の笑みを見せる。それだけならば良いのだが、彼女の音楽に対する高揚感には、振り切れると性的興奮に直結してしまうという問題がああった。目の前の相手に飛びかかるも記憶がないなど、特異体質で周囲に迷惑をかけることを恐れ楽器から遠ざかっていた。しかし、廃部となっていた吹奏楽部に勧誘され、歩と共に入部したことで、過去の試練と向かい合うことに。百合子の反応は、ある意味、良い演奏かどうかを判定するバロメーター。彼女を恍惚とさせようと、最高の演奏を目指して練習に取り組む個性豊かな部員たちの姿が印象的だ。
特殊能力を持った主人公が、高校の吹奏楽部に入部し指揮者として成長していく青春グラフィティ。主人公・神峰翔太(かみねしょうた)は、人の心を見ることができる能力に苦悩し、他者を避けて生きてきた高校1年生。ある日、通っている鳴苑高校で、人の心をつかむことができる天才サックス奏者・刻阪響(ときさかひびき)と出会う。2人は、響の1つ年下の幼馴染・滝沢桃子(たきざわももこ)が抱える問題を一緒に解決したことで、互いの才能を認め合う。
翔太は、相手の心臓付近に現れるハート形をしたものの表情を見ることで、その人の感情を読み取ることができる。見えないはずのものが目で見えるのは便利そうにも思えるが、彼にとってはストレスが溜まるばかりだった。だからこそ、演奏で人の心をつかむ響の存在に衝撃を受ける。翔太の目を通すと、響が奏でる音楽から手が伸び、相手が閉ざしてしまった扉をこじ開けてまでダイレクトに心を揺さぶる様子が見える。そんな響に誘われて吹奏楽部に入部した翔太は、指揮者になることを決意。特殊能力を生かして、部員の心理状況や悩みを把握し対応することで彼らの信頼を獲得していく。コンクールにはさまざまな高校が登場するため、お気に入りの高校や課題曲を探すのも一興だろう。
ごく平凡な主人公が、吹奏楽に情熱を注ぐ少女と出会ったことで音楽に打ち込み成長していく青春群像劇。平音佳敏(へいおんよしとし)は、特に秀でたところもなく特技もない少年だ。私立千代谷高校に「家からのアクセスが良い」という理由で入学し、クラスメイト・藤本鈴菜(ふじもとりな)と部活動見学に行くが、彼女の希望する吹奏楽部はすでに廃部に。平音は、鈴菜の吹奏楽への熱い思いに触発され、吹奏楽部を再開させ、集まった仲間たちと練習を始める。
主人公・平音は、自身が平凡すぎる故に厭世的なところがあり、情熱を持つことに対しても一線を置いていた。しかし、吹奏楽がいかに好きかを涙ながらに力説する鈴菜に刺激を受け、吹奏楽部を立ち上げようと率先して勧誘活動を始める。そもそも同校の吹奏楽部は、「大会での実績がなく金ばかり喰う」という理由で、校長により廃部に追い込まれた。活動再開後は、コンクール出場を目指して練習に励み、平音をはじめとする初心者たちも着実に上達していく。個性も実力もバラバラだが、目標に向かって時に意見をぶつけ合い、お互いに切磋琢磨していくチヨコー吹奏楽部の部員たち。そこに至る過程で得た数々の経験は、彼らが生み出していく音楽と同様かけがえのないものだ。
全国大会出場を目指す吹奏楽部の部員たちが、衝突しながらも成長していく青春ストーリー。京都にある北宇治高校の新入生・黄前(おうまえ)久美子は、クラスメイトに流されるまま吹奏楽部に入部した。北宇治高校は10年ほど前までは吹奏楽の強豪校だったが、近年は低迷中。しかし、新顧問教師の指導の下、全国大会出場を目指していく。2015年と2016年にテレビアニメ化され、2019年4月にアニメ映画が公開。原作は、武田綾乃の同名小説シリーズ。
北宇治高校吹奏楽部の部員たちは物語冒頭、自分たちで「全国大会出場」という大きな目標を掲げる。しかし実際のところは、初心者がすぐに楽器の音を出して曲を奏でることなどありえない。ましてや、ほとんど練習もせずに大勢で1つの曲を演奏できるはずもない。低迷中の北宇治高校は、全国大会どころかスタートラインに立つだけでも相当な努力が必要だ。当然、部活動の練習はハードになるが、本作で一番のキモとなるのは人間関係だろう。年功序列ではなく、実力によってすべてが決まる世界では、上級生だからといって安心してはいられない。演奏するためには心を合わせる必要があるが、同じパート内では下級生とライバル関係にもなる。真剣だからこそ衝突もすれば嫉妬もし、悩み惑う部員たちの姿はリアルだ。彼らが音楽を奏でる姿は真っすぐで力強い。
高校の吹奏楽部を舞台に、恋に部活にと青春を謳歌する高校生と擬人化された楽器たちが活躍する青春ドラマ。都立高校に入学した北島と細川は、同じクラスの後藤に誘われたことがきっかけで吹奏楽部に入部する。楽器初心者の北島らは、激しい体力トレーニングがいきなり始まったことに驚く。また一方で、楽器室に置いてある楽器たちも新入生の話題で盛り上がっていた。監修を務めるオザワ部長の著書『吹部ノート』巻末に収録されていたショートエピソードのスピンオフ作品。
本作は、「吹部」こと吹奏楽部のあるあるエピソードが満載だ。冒頭、新入部員で楽器初心者の北島が、筋トレやランニングなど体力的にハードな練習内容に抗議する姿に、ニヤニヤする吹奏楽経験者は多いだろう。そんな「人間パート」のあるあるネタにも共感できる部分は多いが、擬人化された楽器たちの細かい設定や性格付けがまた面白い。お嬢様然としているのに裏がありそうなフルートや、快活なトランペット、ジャズ風を吹かせてオヤジっぽいテナーサックスといったキャラは、楽器のイメージと直結しているので理解しやすいだろう。人間同士の絆はもちろんだが、部員たちにとって一番の相棒となる楽器たちの本音も垣間見ることができる。