野球部の彼女特集・少女漫画編72 Pt.

女子マネージャー、応援席のあの子、はたまた吹奏楽部のあの子。女の子だって野球は好きだし、野球部のあいつが気になることもある。そんな少女たちの夏を題材にした漫画を紹介します。

あだち充が少女漫画を描いていたと聞いて驚く人もいるのでは。作者ならではの夏のグラウンドの茹だるような熱気と、時折吹く涼しい風の描写が、意外なほど少女漫画にマッチしている。「あだちヒロインは好きだけど試合の描写が多くてちょっと苦手。もう少しヒロインにスポットを当ててほしい」というファンにはぜひともおすすめしたい。日常を描いたちょっとしたコメディ要素も当時から健在。それでいて野球要素も充実しているぜいたくな作品だ。2019年には『MIX』がテレビアニメ化。多くの野球漫画を世に送り出してきた作者のルーツを振り返ってみるのも一興かも知れない。

主人公のひろのの前向きさがとにかく素敵だ。物語開始当初ですでに11連敗。作中でもどんどん連敗記録を重ねて、カーネルおじさんの呪いもかくやという有様。それでも諦めない姿はストーカースレスレと揶揄されるのだが、「集中したい」と言われればしばらく会いに行くのを控えるという健気な一面もある。木訥な野球バカ・緒方もそんな彼女の態度に少しずつ心を開いていく。不器用でまっすぐな二人の恋模様は、もし自分がクラスにいたなら応援したくなること請け合い。「諦めるなら全部やりきってから」というひろのの気持ちが、やがて緒方にも力を与えてくれる。二人の関係は本当に爽やかな青春そのものと言える。

気が強い主人公・理乃は冒頭から「野球なんて大っキライ」と断言。甲子園出場確実と言われている野球部にも嫌悪丸出しだが、うっかりガラスを割ってしまうドジな一面も。それを野球部のエース・日々谷に見られて、強制的にマネージャーとして野球に関わることになる。理乃の野球嫌いには、兄にまつわる深い理由があった。日々谷が兄を知っていたことをきっかけに少しずつ理乃が心を開いていく過程が、ていねいに描かれている。野球が嫌いと言いながら、本当はそうではない本心を抱えて、日々谷と共に甲子園を目指していく理乃。果たして彼女の気持ちは救われるのか。日々谷との関係はどうなるのか。ぜひその目で確かめてほしい。

弟の清が兄へ抱くコンプレックスが切ない。スランプに陥り、大好きだった野球を諦め、想いを寄せる久美子も兄ばかり見ている。最早グレる直前で、気持ちとは裏腹のことばかりして久美子や母を傷つけてしまう清。そんな状態を一番嫌っているのは自分自身だ。しかし、勝利が確実だと思っていた兄の敗退が思わぬ転機になる。肩を故障してボロ負けだったのに、すっきりした顔をしている兄やそのチームメイトたち。そんな彼らの姿を見てもう一度全力を出したいという気持ちが芽生えていく、再起の物語だ。気の持ちようが少し変わることで、久美子との関係も変化していく。一度諦めた夢を取り戻す少年の姿に、胸が熱くなる一作。

自分に自信がなくてすぐに下を向いてしまうつばさと、あり得ないくらいにポジティブで前向きな山田の組み合わせが好対照。「試合のときは応援してもらうんだから」とめいっぱいつばさを応援する山田の明るさが、物語全体の雰囲気を上向かせている。また、体育会系と言っても過言ではない吹奏楽部の厳しい練習風景がリアル。距離が縮まることで、ポジティブ超人に見えた山田も、悩みを抱えている自分と変わらない同い年の少年だと実感するつばさ。だんだんと山田を意識するようになっていくつばさの心境もていねいに描かれている。お互いに励まし合いながら成長していく姿にエールを送りたくなる作品だ。