ヴァイオリニストが活躍する漫画特集40 Pt.

ヴァイオリンの優しい調べに迫力あるピアノ演奏、気迫のこもった指揮。世界での活躍を目指す本格派から、趣味で音楽を楽しむものまで5作品を紹介。

主人公の「のだめ」はピアニストだが、彼女がベタ惚れする千秋真一は、指揮者志望ながらヴァイオリンの腕もかなりのもの。なにしろ、ジュニア時代にウィーンのコンクールで優勝した経験があるほどの腕前。そして、主要キャラの一人である峰龍太郎はヴァイオリン科の学生。もっとも当初の峰龍太郎はロック指向で、エレキヴァイオリンに熱中する色物。そんな彼は、のだめ＆千秋との出会いをきっかけにクラシックの魅力に目覚め、本気でヴァイオリンと向き合っていく。後のオーケストラ活動で中心的な役割を果たす峰龍太郎は、物語の盛り上げ役として欠かせない存在だ。彼の他にも三木清良、高橋紀之など、個性豊かなヴァイオリン奏者たちが登場している。

本作に登場する宮園かをりは、かなり型破りなヴァイオリニストだ。主人公である有馬公生の彼女に対する当初のイメージは、暴力上等、性格最低、印象最悪。でも、演奏する姿は美しい。楽譜に忠実に演奏することが第一のコンクールで、それを完全に無視。まるで自分の曲であるかのように、自由に音を奏でる。その圧倒的な個性は、観客を大いに魅了する。お堅い審査員の評価は否定的だが、本人はそもそもコンクールの結果など眼中にない。正に傍若無人を地で行くヴァイオリニスト。そんな彼女に伴奏者として指名された公生は、無理矢理引きずられるような形で、コンクールの世界に戻ってくることとなる。正確無比な演奏で世間を驚嘆させた元神童と、自由奔放な異才の持ち主。二人が奏でるハーモニーに注目だ。

選ばれた天才が、苦悩や困難を乗り越えながら演奏の高みを目指す。そんなガチな音楽漫画も良いけれど、もっと緩めの音楽漫画も読んでみたい。そんな人にお勧めなのが本作だ。主人公・小暮也映子の通うヴァイオリン教室は初心者の大人向けで、通っているのは彼女を含めても3人だけ。ピアノを習っている小五の娘との共演を夢見る主婦の北河幸恵。そして、教室の講師・久住眞於が兄の婚約者だったという、大学一年生の加瀬理人。三人はやがて、教室後にカラオケボックスに立ち寄り、練習を共にすることとなる。年齢や立場もまったく異なる三人の友情や恋愛模様は、妙に微笑ましく感じられる。ちなみに、作者本人も大人のヴァイオリン教室に通っており、その経験も作品に活かされている模様。

一級品のヴァイオリンは、芸術品として億単位の価値が認められることも多い。そして、あらゆる芸術品を再現するのがゼロ。当然、ヴァイオリンを手がけたエピソードも存在する。ゼロがヴァイオリンに関わった話は3本ある。第16巻の「呪いのヴァイオリン ストラディヴァリの「ローラ」」、第44巻の「シャルル九世のバイオリン」、そして第62巻の「神のヴァイオリン－極上の調べ－」だ。中でも興味深いのは、「シャルル九世のバイオリン」。フランス王シャルル9世は、ヴァイオリンの蒐集家として知られている。彼のコレクションには、ヴァイオリンの元祖であるアンドレア・アマーティが製作したものが含まれていた。つまりこのエピソードは、ヴァイオリンの成り立ちそのものを紐解く話なのだ。ヴァイオリン関連の漫画という意味では、外すことの出来ない作品と言えるだろう。

ヴァイオリニストを志す少年・久住秋央は、幼馴染みの迫田美月の父親がコンマスを務める「新東響オーケストラ」の練習を見学。そこで彼は衝撃的な光景を目撃する。自分と同年代の小学生の少女が、プロのオーケストラを見事に指揮したのだ。少女の名は曽成ひびき。彼女が紡いだ音楽に心を揺さぶられた久住は、その音を再現したいと思い立つ。しかし、求めれば求めるほど、その音は掌からこぼれ落ちるようにすり抜けるばかり。やがて音楽への情熱すら冷め気味に。そんな中、音羽良音大のヴァイオリン科に入学した久住は、ひびきと再会する。彼女の音は、9年前と変らぬ輝きを放っていた。どちらかというと凡人タイプの主人公が、それを自覚しながらも、ひびきと一緒に凄い景色が見たいとあがく姿は新鮮だ。