17歳の女子高校生と45歳の中年男性が繰り広げる歳の差ラブストーリー。女子高生・橘あきらの片思いの相手は、バイト先のファミレス店長の近藤正己。お人好しで少々頼りなく、自他ともに認める冴えない中年男だ。あきらが、そんな近藤に一途な想いを寄せるのにはある理由があった。しかし、近藤はバツイチで別れた妻との間に子どももおり、前途ある高校生から想いを寄せられることに戸惑うばかりだった。2018年のテレビアニメ化に続き、実写映画化もされた。
タイトルにも使われている「雨」は、本作の重要なシーンにたびたび登場する。主人公・あきらは、17歳の美少女。無口で表情に乏しいせいか、黙っていると「怒っている」と思われがちだ。想い人である近藤も、あきらが無言でじっと自分を見つめるのを睨まれていると勘違いし、嫌われていると思い込んでいた。そんなあきらが、想いを抑えきれず近藤に告白するシーンは土砂降りの雨の中だ。彼女の真剣な想いが、降りしきる雨に重ねられるようにして描かれている。同時に、人生の曲がり角に差し掛かった近藤が、はるかに年の離れた少女から告白をされる戸惑いや、真剣な想いをつきつけられた逃げ場のなさも表していると言えるだろう。雨が、決して饒舌ではない彼らの思いを存分に伝えてくれる詩情あふれる作品だ。
自由に生きるバイク好きの中高年男性を描く一話完結のショートストーリー。主人公は、長年勤めてきたテレビ局を辞めた57歳の「松ちゃん」こと松永。都会を離れ、古いカフェを改装して住みつき、友人のバイク屋を手伝いながら生活する気ままな日々だ。松ちゃんは、しがらみを嫌い、自由になることを求めて、今日もバイクで出かけていく。酸いも甘いもかみ分けた渋い大人の男の姿と、彼がまたがるバイクの魅力がスタイリッシュに描かれる。
本作の作者は、『キリン』や『RIDEX』でバイク好きな漫画読者に熱い支持を受け続けている東本昌平だ。もちろん本作にも緻密に描かれたバイクが多数登場する。とはいえ、公道レースを軸に、スピードに魅せられたバイク乗りたちの群像劇が描かれた『キリン』とは違い、主人公・松ちゃんの孤独で自由な日常が淡々と描かれている。松ちゃんは、人生の半ばを過ぎてもなお、大型のバイクを悠々と繰り、気が向いた時に友人と会い、何かにしばれられることもなくふらっと出かけていく。そんな彼を見ていると、人生の終盤が見えてもまだこんなに格好いい生き方ができるのだと思えるだろう。『雨は これから』だからまだ走れる、そんな気分にしてくれる作品だ。
吸汗鬼女子高校生と男子高校生とのフェティシズム感あふれるラブコメディ。佐伯佑(さえきゆう)は、汗っかきな男子高校生。同じ高校に通う幼馴染・長谷川美夜(はせがわみお)から、隣のクラスにいる雨下雫(あめしたしずく)の奇妙な噂を聞く。ある日、佑は体調不良で寝ていた保健室で、雨宮雫の本当の秘密を知る。彼女は人間の汗を舐めて生き長らえる吸血鬼ならぬ、吸汗鬼だった。佑は、秘密を抱えて一人で苦しむ雫に汗を舐めさせてあげることを決意する。
本作のキーワードは雨ならぬ「汗」だ。主人公・佑はかなりの汗っかきで、学校でも人一倍汗だくになっている。反対に、ヒロイン・雫は決して汗をかかない。しかし、彼女は、汗を命の糧とする吸汗鬼。汗を摂取しないと次第に弱ってしまうため、人一倍汗を必要とする存在だった。佑は、汗が足りず苦しむ雫の姿を見て、喘息発作に苦しんだ自身の子ども時代を重ね合わせ、自分の汗を舐めるよう申し出る。こうして秘密で汗を舐めさせる関係が始まった。しかし、佑には、憎からず思い合う幼馴染・美夜がおり、彼女にその場面は絶対に見られたくない。汗は、恋愛もフェチ心をも混迷させていく。梅雨を迎え、汗ばむ季節にぴったりのラブコメディだ。
事故に遭い記憶を失った少女のミステリー仕立てのラブストーリー。中学2年生・北郷えみかは、サッカー部のエース・七宮透先輩に片思い中だ。もうすぐやってくる七宮先輩の誕生日に、プレゼントを用意して告白しようと決意していた。その矢先、母親の運転する車で交通事故に遭ってしまう。事故の後、目を覚ましたえみかが最初に目にしたものは、中学生とは思えない大人びた自分の姿。しかも、憧れの先輩と恋人同士となり同棲していた。
テニス部に所属する主人公・えみかは、隣のグラウンドで練習する七宮先輩をいつも熱っぽく見つめている。しかし、七宮先輩は女子生徒から大人気で、サッカー部の女子マネージャーともいい雰囲気。えみかはといえば、転んでぶちまけてしまったボールを拾ってもらう顔見知り程度の間柄だった。そんな中、彼女は事故に遭ってしまう。意識が戻って目にしたのは、見知らぬマンションの一室と、成長した七宮先輩。なんと2人は恋人同士で、この部屋で同棲しているという。恋人同士になれたのならば嬉しいはずだが、記憶のないえみかはどこか不安。七宮先輩への想いと得体の知れない不安の間で気持ちが揺れ動く。2人が暮らす「雨の似合う部屋」の真相に驚かされるだろう。
雨男と男子高校生気象予報士のコンビが織り成す友情&お天気キャスター物語。今井晴太郎(はれたろう)は、特別な日に雨と遭遇する確率が高い男子高校生。幼い頃は「雨男だ」といじめられることも多く、本人も気に病んでいた。一方、幼馴染で同級生の烏丸青(からすまあお)は、天才男子高校生だ。晴太郎をいじめから守るため、「雨男は迷信だ」と説明すべく大人顔負けの気象知識を身に着け、10歳にして気象予報士の資格を取得した。そんな青の元に、地元のテレビ局から、お天気キャスターとしての出演依頼が舞い込む。
楽しみにしている行事に参加すると、途端に雨が降ってしまうという「雨男」。迷信の類であることは分かっていても、違うと説明することは意外と難しい。しかし、主人公・青は、気象予報士の知識を駆使して、「雨男説」を真正面から論破する。正確な知識に基づいたすさまじく理屈っぽい語り口で言い負かすので、相手はタジタジだ。対して、晴太郎は、雨が降ると雨男の自分のせいだと感じ、自責の念にかられ、通りすがりの人に傘を配ってしまうような優しすぎる性格。イケメンなことも手伝って、周囲の女性の間では「カサ王子」と呼ばれ、密かな人気者に。地元テレビ局が、そんなユニークな2人に目を付け、お天気キャスターに抜擢。凸凹コンビが、気象にまつわる迷信や事件を体当たりで解決していく。