「水滸伝」では英雄とされる「梁山泊(りょうざんぱく)」の面々を悪とし、その集団と戦う主人公らを描いた逆説的水滸伝アクション。旅の途中、立ち寄った宿で酒を飲み、働き手の女性を口説く趙飛虎(ちょうひこ)。女性の弟であり、梁山泊びいきの少年・公徳(こうとく)は、「梁山泊を見習え」と激高する。義賊である梁山泊に憧れ、自分も仲間に入りたいと願う公徳。だがその夜、公徳が不在中に宿が賊に襲撃される。それは、義賊であるはずの梁山泊の仕業であった。
中国山東省梁山県の南東にある梁山のふもと「梁山泊」。「水滸伝」では、百八星ら、英傑の本拠地として知られ、その集団の代名詞でもある。本作はそんな梁山泊の集団と対決する者たちの物語である。主君であり、梁山泊に対する強い憎悪を持つ少女「祝翠華(しゅくすいか)」と、彼女に仕える飛虎と青慈(せいじ)の戦いの旅を描く。タイトルの「月の蛇」とは、飛虎の持つ蛇矛(だぼう)を指し、この矛の先代の持ち主は王進(おうしん)である。梁山泊最強の男である「豹子頭林冲(ひょうしとうりんちゅう)」や「九紋竜史進(くもんりゅうししん)」などと関わりのある人物だ。そうした複雑な人間関係の中、謎多き梁山泊の正体が徐々に明かされる。勧善懲悪では語れない戦いの旅が続いていく。
一騎当千の義賊集団の、悪政・権力との戦いを描いた異聞水滸伝バトル。1112年、義賊集団「替天行道(たいてんぎょうどう)」は、宋の権力者に苦しめられる庶民の希望であった。ある日、替天行道に憧れる少女の金翠蓮(きんすいれん)は、傍若無人な少年の炎の剣技に命を救われる。その少年こそが替天行道の1人「流星」の異名を持つ「戴宗(たいそう)」であった。彼こそ世界の夜明けを告げる明星(あかぼし)とならんとする男であったのだ。
本作は画力に定評のある作者による、新訳水滸伝ともいえる内容だ。水滸伝では梁山泊第二十位の戴宗が本作の主人公である。飄々とした義侠心の強い戴宗が、本作では斜に構えた傍若無人な少年としてアレンジされている。彼と正義感の強い真面目な翠蓮とのやりとりが面白い。そして、水滸伝での戴宗の仲間である「豹子頭林冲」らも旅に加わり、替天行道の戦いは傀儡とされる八代宋王や、実質上の権力者「高俅(こうきゅう)」らの打倒へとつながっていくのであった。108人が揃う前に連載が終了し、短命に終わってしまった本作。同じく中国の読み物をテーマとした藤崎竜の『封神演義』と並ぶ作品となる可能性もあっただけに非常に惜しい佳作である。
水滸伝をモチーフとし、体内に武器を埋め込まれた主人公らの戦いを描くファンタジー漫画。宋国の博士・晁蓋(ちょうがい)の手により体内に「隠械(インシェ)」という武器を埋め込まれた108人の男女。一〇八星と呼ばれた彼らはその力で、宋国に勝利をもたらした。2年後、かつての一〇八星軍大将・宋江(そうこう)は妹とともに普通の人々と変わらない生活を送っていた。そんなある日、宋国皇帝が元一〇八星たちを捕縛しようとしていると晁蓋に知らされるのであった。
水滸伝を大胆なアレンジで、SFファンタジーとして昇華させた本作。まず、梁山泊一〇八星が、武器を埋め込まれた戦争兵器的存在であることが独特である。また、原作では一〇八星のうち、女性は3人のみなのに対し、本作ではさらに多くの人物が女性として描かれる。本作のタイトル『水辺物語』に関しても、「水滸」が「水のほとり」を意味し、沼沢である「梁山泊」を指すことから、絶妙なタイトルであるといえる。歴史的名作がスタイリッシュにアレンジされており、主要人物は見目麗しい男女であるが、彼・彼女らの悲しい戦いが描かれた作品である。そして設定以外は水滸伝にはほぼ沿っていないといえるのだが、逆にいえば水滸伝ファンでなくとも楽しめる物語だ。
108人の英雄が悪政・権力らと戦う歴史アクション漫画。およそ900年前の中国。皇帝の使者・洪(こう)大将が竜虎山で、伏魔殿の封印を誤って解き放ってしまう。そして、その数十年後中国北宋末期の徽宗(きそう)皇帝の時代、悪逆非道の役人や不正だらけの世の中。武侠に富んだ者たちは、世の時流のため無頼漢にならざるを得ない。そんな英雄たちが「梁山泊」に集結していく。そして、108人の頭目と兵力3万人からなる、反体制の一大勢力として成長していくのであった。
歴史漫画の第一人者による、中国歴史ものの第1作。後年の大傑作『三国志』に先だった中国歴史漫画の名作である。基本的には原作に忠実であるが、少年誌連載であったためか、残虐表現や、性描写は控えめとなっている。他の代表的な水滸伝をモチーフとした作品同様、高俅らの悪政や権力と戦う武侠集団「梁山泊」の面々の活躍が「晁蓋」「宋江」らを中心に描かれる。なにぶん古い作品ではあるので、読み始めは描写が淡泊に感じられるかもしれないが、読み進めるとその淡々とした描写が、逆に読みやすく、心地よく感じられるはずだ。『鉄人28号』や『魔法使いサリー』、『バビル2世』などを作り出し、日本の漫画を生み育てた巨匠による歴史漫画の金字塔である。
108人の英雄たちが権力に反抗し勇猛に戦う武勇譚。紀元1058年、殿前大尉・洪信(こうしん)が魔王を閉じ込めたとされる伏魔殿より、百八の魔王を解放する場面より始まる。その32年後、蹴鞠の達人で荒くれものの「高毬(高俅)」は狼藉を働き、教頭(武芸師範)の王昇(おうしょう)に罰せられ、逆恨みする。通りがかった王駙馬(おうふば)に蹴鞠の腕を見込まれ、高毬は蹴鞠に目の無い皇太子の元へ取りいるよう計られる。皇帝の死後、高毬は出世し、希代の姦臣となるのだった。
その後、王昇の息子の王進は、王昇の喪に服していた際、巡閲の式典に欠席したことで、高俅の怒りを買い都を脱出する。王進は、旅路で老母の病で世話になった村の名主の息子「九紋龍史進」に棒術の才能を見出し、武芸十八般を授けるのだった。この史進が、水滸伝で初めに登場する百八星であり、上位36星である天罡星三十六星(てんこうせいさんじゅうろくせい)の1人である。水滸伝の壮大な物語を短いながらも巧みにまとめた本作。百八星の集結までが描かれている。史進や「花和尚魯智深(かおしょうろちしん)」の登場から「豹子頭林冲」の受難など見せ場を押さえつつ、見事にまとめられている。『ゴルゴ13』など多数の名作を描いた巨匠による中国古典のコミカライズである。