パティスリー＆パティシエ漫画29 Pt.

9月29日は洋菓子の日。この日にちなんでパティスリー＆パティシエがメインになる作品を紹介。美味しい洋菓子の裏には作り手たちのドラマが盛りだくさん。読んでいたらケーキが食べたくなってしまうかも!?

『神のみぞ知るセカイ』で知られる作者・若木民喜の描くコメディ。丘の上にある老舗「菜花洋菓子店」のパティシエ・大夢は、なんと人間ではない。彼は、物語開始前に事故で亡くなっていて、友人の僧侶・西大路祐天の用意したタバコ型の霊薬の力で実体化した、幽霊である。彼の弟で本作の主人公・正路は、たとえ兄が幽霊でも、兄が作る素晴らしい洋菓子をもっと世間に広め、店を盛り上げたいと考えていた。一方で大夢は、幽霊であることを他者に知られず、弟たちとひっそり店を続けていきたいと願っている。基本はほんわかコメディだが、根底にあるテーマはかなり骨太。また、登場する洋菓子は身近なものが多く、ちょっとした豆知識も楽しめる作品だ。

大金持ちの御曹司である橘は、脱サラをして洋菓子店を始める。その時、親のコネで紹介された天才パティシエが、高校時代の同級生・小野だった。フランスで修行し、東京の有名店を渡り歩いてきた小野の作るケーキは、どれも天下一品。その味に感動して、網膜剥離を患い引退した元・ボクサーの神田が、小野に弟子入りを志願。パティシエ見習いとして働きはじめる。さらに橘家のお手伝いさんの息子で、橘と兄弟のように育った小早川も店にやってくる。4人を中心に描かれる人間ドラマの緻密さはもちろん、美味しそうに食べる描写や、繊細に描かれた数々の洋菓子など、たまらない魅力に溢れた作品だ。

お互いに名前も知らない「パティシエとお客さん」の純愛コメディ。とある洋菓子店の常連客である「彼女」は、笑顔がかわいい女性。そして、彼女が恋しているのは、その洋菓子店で働く、いつも爽やかで背の高い「イケメンなパティシエさん」。彼女は、”どれも美味しそうだけどたくさん買うのは恥ずかしい”と葛藤。また彼も、ケーキを抱えて帰っていく彼女のかわいらしさに身もだえたり、“可愛すぎて名前も聞けない”と悩んだりしている。2人がお互いに片思いをしている様子は、もどかしいほどの純愛だ。そして作中には、彼女ならずとも心躍るような、季節に合わせた様々なケーキが登場する。また、物語が進むと、「彼女」と「イケメンなパティシエさん」の名前も明かされるので、ぜひ確かめてほしい。

パティシエを目指す者たちが通う、製菓専門学校を舞台にした作品。主人公・まさこをはじめ、お菓子作りの経験が浅く技術も未熟な生徒たちが、一人前になるために奮闘していく姿が、コメディタッチで描かれている。チョコレート加工の難しさ、生クリームのコンデションの見極めなど、お菓子作りの経験がある人なら、思わず「あるある」と共感できるエピソードも多い。プロの職人でもある講師が、筒状の鞄の大きさをケーキ型で表現するエピソードは、シュールながらも説得力に溢れている。また、作中に登場する洋菓子の中でも、比較的簡単なもののレシピが紹介されており、実際に作っても楽しめる1冊だ。

本作には、主人公・いちごのサポート役としてスイーツ精霊・バニラが登場するという、ファンタジー要素もある。スイーツ精霊は、「精霊界にある”スイーツ王国”の宮廷パティシエになるために人間界で修行している」存在。その姿は選ばれた人間にしか見えず、パートナーとなる人間が腕を磨くための手助けする。また、いちごと同級生で「スイーツ王子」の異名を持つ樫野、安堂、花房も、彼女の成長に一役買っている。彼ら「スイーツ王子」にもそれぞれスイーツ精霊がついていることがきっかけで親しくなり、いちごは、様々な試練をバニラや彼らと乗り越えていくことになる。中でも樫野は、「味覚が優れているだけ」という周囲の陰口にもめげず、努力を続けるいちごに惹かれていき、やがては2人で店を開くまでになる。人間とスイーツ精霊のコミカルなやりとりも楽しめる作品。