ナニワ金融道

ナニワ金融道

大阪のマチ金・帝国金融を舞台に、一線を踏み越えてしまった人々の悲喜劇を描く。会社経営の失敗などを経て40代でデビューした作者の、経験を踏まえたリアルな描写が話題を呼んだ。ど素人の新入社員が一人前の金融マンに成長していく、成長物語でもある。その後一つのジャンルとして定着したマチ金・闇金ものの先駆的な作品。固有名詞のネーミングのエグさが、発表当時話題になった。レギュラー以外の人物名肉欲棒太郎、銭田掏二朗、悪徳栄、腹黒助平など、現実には考えにくい姓名がキャラクターを端的に表現している。また、細かく描き込まれた背景の、会社や店舗の名前がことごとくシモネタで(例:「レストラン・スペルマ」、「純喫茶ただれ」、「スナック・奥ヒダ」など)、細部にわたる作者のこだわりが感じられる。

正式名称
ナニワ金融道
ふりがな
なにわきんゆうどう
作者
ジャンル
経済・金融
関連商品
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概要・あらすじ

勤務先の倒産で、マチ金の帝国金融の面接を受けた灰原達之。入社前から追い込みのシビアな現場に立ち会わされ、ショックを受けるが、これほど本音で仕事をする業種はないと入社を決意する。社長以下、プロの金融屋の冷徹な仕事ぶりに、自分はどこまでやれるのかと時に悩みながらも、夜逃げした地上げ屋、取り込み詐欺に手を染めるサラリーマン、先物取り引きで破滅する教師など、様々な客と関わっていく。

そうした人間社会の裏表を体験しつつ、灰原は大阪一の金融屋を目指してしたたかに成長して行く。

登場人物・キャラクター

灰原 達之 (はいばら たつゆき)

勤めていた小さな印刷工場が倒産、社長にマチ金の借り入れ名義を貸していたため、再就職面接を端から落とされてしまう。ティッシュの求人広告を見て、最後の賭けとして訪ねた帝国金融にやっと採用される。柄が悪くシビアな社内にあって、穏やかで情にもろい性格は、時に悪質な客から手ひどい目に遭うが、気弱な客からは絶大な信頼も寄せられる。 いつしかこの仕事を天職と定め、大阪一の金融屋を目指す。

桑田 澄男 (くわた すみお)

帝国金融の社員で、灰原達之の指導役。パンチパーマに出っ歯という見た目と、ドスの利いた言動はほとんどヤクザだが、金融屋としては有能で、灰原の良き指導役となる。

金畑 金三 (かねはた かねぞう)

帝国金融の社長。見た目は温厚そうだが、仕事には非情なまでに厳しい。社員思いな一面も持ち、灰原達之に金融屋としての生き方を示す。街の合鍵屋から大阪府警の幹部まで広い人脈を持ち、社員はもとより出入り業者や関係先からも人望が厚い。

高山 (たかやま)

帝国金融のナンバー2で部長。社長からの信頼も厚い。部下の面倒見はいいが、パンチパーマと派手なダブルのスーツで、見た目はほとんどヤクザ。

吉村 定雄 (よしむら さだお)

灰原達之の後に、週3日のパートタイマーとして入社した。会社では灰原の後輩だが、30代の年上で、妻子持ち。前職は司法書士事務所の職員で司法書士を目指している。金融屋としてはなかなか芽が出ないが、法律の知識を生かして書類作成などに活躍する。

元木 (もとき)

灰原達之の先輩社員。丸刈りでガタイがよく、言動もドスが利いており、見た目はほとんどヤクザ。吉村定雄の指導社員。

悪徳 栄 (あくとく さかえ)

帝国金融の顧問弁護士。社長とは旧友で、自称ハーバード大卒。報酬は法外だが、弁護士としては腕利き。帝国金融がトラブルに遭遇すると、必ず頼りにされる。

市村 朱美 (いちむら あけみ)

帝国金融が乗っ取ったビルに入居する広告代理店の社員。灰原達之が社会勉強のために始めたティッシュ配りのアルバイトで知り合い、交際を始める。ヤクザの男と同棲し、全身に入れ墨、妊娠中絶、莫大な借金を背負うという過去を持ち、当初は灰原の求愛を拒むが、やがて心を開き恋人となる。 灰原に損保会社勤務の経験を生かしたアドバイスをしたり、ヤクザに拉致監禁されても入れ墨を見せて凄み、自力で脱出するタフな女性。

高橋 正子 (たかはし まさこ)

灰原が最初に扱った客の娘で、公務員。父親の建設会社が倒産し、その借金を返すため、桑田に言われるまま、健康保険証の生年月日を偽造してはサラ金から借り入れ、ついに一線を踏み越えてしまう。取り立て屋に追われる正子に、灰原達之は罪滅ぼしとして自己破産という手段を教えた。 この一件で灰原は感傷を捨て、金融屋として生きる決心をする。

林田 功作 (はやしだ こうさく)

ハッタリ不動産社長。登記簿謄本を偽造して、他人の土地を担保に灰原達之から2000万円を借りて夜逃げする。騙されたと知った金畑社長は激怒し、徹底的な追い込みを指示。桑田澄男と灰原は淡路島に山林を持つ林田の実家で潜伏先の電話番号を見つけ、探し当てる。親の山林を担保に入れて一息つくと、林田はもう一度不動産詐欺をやって返済するので、元手を貸してくれと言い出す。

清水 好実 (しみず よしみ)

社会保険事務所勤務の公務員。スナックママの色仕掛けにひっかかり、借金の連帯保証人となる。ママは夜逃げしたため、灰原達之が追い込みにかかる。まだ甘さの目立つ灰原の試金石として、全権を任された。自宅を抵当に取られ、酒・煙草もやめてアルバイトで返済に励む清水に、灰原は社会保険料を滞納している会社リストを一件千円で買い取ると提案。 これが灰原の仕事に大いに役立つ事になる。

古井 藤四郎 (ふるい とうしろう)

大蛇市現職市会議員。強力な新人候補に対抗するため、帝国金融に5000万円の借り入れを申し込むが、自宅の老舗呉服店の財産はすでに4番抵当まで打たれていた。灰原達之は、市役所の猫田課長と局長に手形の裏書きをさせて貸し付けるが、古井は落選。すべてを失った古井を帝国金融は500万円握らせて夜逃げさせる。 骨董品や美術品をごっそり手に入れ、貸金は手形の裏書き人に請求するため、帝国金融に損はなかった。

猫田 広海 (ねこた ひろみ)

大蛇市役所財務局第一課長。普通なら係長どまりの高卒だが、市会議員の古井の引き立てで課長になった。「夜の勉強会」と称して、市の経費を遣いまくっている。古井に頼まれ、建設局長の甲守とともに帝国金融から選挙資金として借りた5000万円の手形の裏書人になった。古井が落選し、灰原達之と桑田澄男が追い込みにかかるが、猫田は架空の店の口座を開き、接待のカラ伝票を切って経費を振り込む事で返済。

背口 光雄 (せぐち みつお)

南アメリカン運送社長。若くして独立し、真面目な働きぶりで順調に業績を伸ばしていたが、恩義ある元の勤務先の社長の連帯保証人になり、560万円の借金を背負う。必死で働いて返そうとするが追いつかず、桑田澄男は恋人と妹を連帯保証人に取る。いざという時はフロに沈める(ソープで働かせる)ことを考えての事だった。 不運なことに背口は事故で負傷して入院。仕事は立ち行かなくなり、恋人はフロに沈むことになる。

三宅 律子 (みやけ りつこ)

背口光雄の恋人の短大生。背口の妹とともに会社の経理を手伝っている。灰原達之に色仕掛けをしたり、背口の借金のためにソープで働かされたりするが、背口には頑として本当のことを言わない気丈な女性。

泥沼 亀之助 (どろぬま かめのすけ)

普通のサラリーマンだったが、先輩の結婚式の祝い金150万円を紛失し、灰原達之から借り入れる。クレジットカードで金券を買っては換金してやりくりしていたが、だんだん深みにはまり、他人名義のカードで商品を購入する取り込み詐欺に手を染めた。後に逮捕され、偶然再会した灰原を共犯者として陥れようとする。

肉欲 棒太郎 (にくよく ぼうたろう)

肉欲企画社長で若き地上げ屋。地上げがうまくいかず、虫食い状になった土地にとりあえずピンク産業専門のビルを建設。資金繰りのために帝国金融から5000万円借り入れる。灰原達之はピンクビル建設反対の市民グループに入れ知恵し、近くに病院の分院を作らせ、ビル開業を阻止。肉欲は夜逃げし、帝国金融はまんまと新築のビルを手に入れた。 ノミ屋の集金人に落ちぶれた肉欲だが、後に金券屋として再起する。

腹黒 助平 (はらぐろ すけべい)

借り物のベンツに追突され、鞭打ち症で入院したのをいい事に、加害者の山川親子からとことんむしり取ろうとするヤクザ。事故直後に取った全額賠償の念書を盾に、ベンツの買い替え、個室の差額ベッド代、ありもしない腕時計の弁償、勤めてもいない会社の休業補償など、次々に難題を吹っかけた。 山川の叔父を連帯保証人に取り、さらには山川親子をタコ部屋に送り込もうとする。

山川 与飼夫 (やまかわ よしお)

農家のドラ息子。恋人といちゃつきながら運転し、腹黒助平のベンツに追突してしまう。当座の見舞金200万円を灰原達之から借りるが、腹黒から次々無理難題を吹っかけられる。泣きつかれた灰原は、別件の農地取得問題に協力させることで追加融資する。山川は妊娠した恋人との結婚を迫られ、灰原を裏切り帝国金融のものになるはずの農地を横取り。 農地の一部を売った金で借金を精算し、恋人と共にメロン農家を目指す。

三宮 損得 (さんのみや そんとく)

小学校の教頭。しつこい先物取引のセールスマン破目太郎に食いつかれ、苦し紛れに灰原達之から50万円を借り入れる。豪邸住まいだが婿養子で財産はすべて妻のもの。先物取引にどんどんのめり込み、妻の株券や宝石、生徒の修学旅行の積立金にまで手を付ける。あげくは実印を盗み、妻のサインを偽造して家を抵当に入れ、借金は4500万に膨れ上がった。 使い込みがバレて、学校を退職。妻からは離婚され、三畳一間のアパート暮らしに転落する。

破目太郎 (はめたろう)

先物取引を扱う蟻地獄物産のセールスマン。取引の知識がない世間知らずの三宮損得を手玉に取り、南京豆の先物取引で次々と三宮を追い込む。キレた三宮からお前は信用ならん、と言われると、上司の洞富貴夫を送り込み、プルトニウム相場に手を出させ、4000万円巻き上げた。

銭田 掏二朗 (せんだ すりじろう)

自称「ミナミの銭掏銀行」、その実トイチ(10日で利息1割)の高利貸し。軽薄一郎の自社ビルを狙い、あの手この手で追い込む。軽薄の取り込んだ高級車やコピー機を横流しし、計画倒産をそそのかす。偽の公正証書を作って高額債権者に成り済ますが、途中から食い込んで来た灰原達之と債権者集会で全面対決。 手下に灰原の恋人朱美を拉致させるが、朱美は自力脱出。灰原は手下のヤクザを倒してすべてを自白させ、銭田の計画は潰える。

軽薄 一郎 (けいはく いちろう)

求人情報誌を発行する軽薄企画の社長。借金してテナントビルを建てたが、店子に夜逃げされる。店子の債権者に保証金を返すため、帝国金融に電話するが、吉村定雄に断られ、トイチ(10日で利息1割)の高利貸し銭田から600万円借りる事に。銭田掏二朗の言うなりに計画倒産を企て、手形を乱発し、取り込み詐欺まで行う。 負債額をごまかして残った金を銭田と山分けしようとするが、しぶとく食い込んでいた灰原達之の抵抗で計画は水の泡となった。

浴田 山海 (よくだ さんかい)

大阪府警浄化署生活安全課の刑事。ヤクザとのトラブルを自首して出た灰原達之をマル暴に引き渡す。その後、マル暴の刑事の計らいで灰原が釈放されると、自分の力で釈放してやったと嘘をつき灰原に恩を着せ、タイヤのマルチ商法に引き込もうとした。マルチ商法における最下層の小売店から卸問屋に昇格しようと足掻いているが、資金が足りず、逆に灰原から借金した挙句、灰原の恋人朱美を勧誘して出し抜かれる。 地道に小売りで稼ぐしかなくなり、激安タイヤのチラシを配るが、配った先が浄化署の署長。辞表覚悟で呼び出しを受けた浴田は、逆に署内にはびこるマルチ商法の実態調査を命じられた。

枷木 (かせぎ)

マルチ商法・ヒビワレックスタイヤの総代理店で、多くの卸問屋、小売店を配下に持つ。必殺の口説きワザ「魔のエンドレスはめ殺し」にも屈しなかった灰原達之に惚れ込み、配下にしようとするが灰原も枷木の才能に目を付け、新しい商売への融資を申し出た。灰原の先走りに金畑社長は激怒し、融資を断るが、枷木が見つけて来た日焼けマシンと枷木の生命保険を担保に取り、灰原を連帯保証人につけることでようやく4000万円の融資が下りる。

都沢 (みやこざわ)

大阪府警の新米警官だが、京都大学卒で国家公務員採用1種合格の超エリートで、警部補。新設された債権回収機構に配属となるため、刑事部長の肝煎りで取り立てのノウハウを学ぶべく、帝国金融に3か月間預けられる。金畑社長は表向き警察への協力をするが、その裏では都沢のシッポを掴むよう灰原に命じていた。 エリート意識丸出しで、指導役の灰原をコケにする都沢だが、与えられた仕事には熱心で、次第に警察官としての立場を忘れて帝国金融の犯罪まがいのやり方にのめり込む。その言動を灰原に録音されてシッポをつかまれてしまう。

落振 県一 (おちぶれ けんいち)

アル中の海事代理士。全国で350人しか開業していないという、船舶関係の法律の専門家。船舶売買の詐欺にひっかかった灰原達之が、以前車ではねそうになって助けた落振を思い出し、訪ねた。家賃が払えず、橋の下でバラック暮らしの落振は張り切り、持てる人脈と知識を総動員して、灰原たちをサポート。 最後の手段として落振が持ち出したのは、裁判所に手形凍結の仮処分を申請するゼロ号不渡り。これの成功報酬として、金畑社長から500万円もらい、呉で海事代理士事務所を開く。

末期 近志 (まつご ちかし)

末期観光社長。以前地上げに関する融資で灰原達之が担当した客。2億円のクルーザーを担保に4600万円の融資を申し込む。クルーザーは末期のビルの店子である裏切平基の紹介で購入し、すぐに3億で他へ売る予定だったが、売り主も裏切も買い手もすべてグルの二重売り詐欺だった。 灰原は末期の手形の裏書きをしていたために、半分の2300万円を会社に借金する破目に。灰原が見つけて来た海事代理士・落振県一の人脈とアイデアで、末期は起死回生の勝負に出る。

裏切 平基 (うらぎり へいき)

末期近志のビルの店子で、ラウンジ「ぬめり」の経営者兼船舶ブローカー。末期にクルーザーを2億で買わせ、即座にそれを3億で転売する儲け話を持ちかける。しかし、それは売り主も転売先もグルになった二重売りの詐欺だった。灰原達之たちの必死の追跡で、この詐欺関係者はすべて新興宗教「カラス真理教」に関連しており、霊感商法にハマった裏切たちの苦肉の策だったこと発覚。

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