ネオ・ファウスト

ネオ・ファウスト

生命の本質を解き明かすことに執着する教授・一ノ関は、悪魔メフィストフェレスと契約をし、魂と引き換えに20歳の青年に戻って新しい人生を手に入れる。いつしか自らの手で生命を創造するという野心を持つようになった一ノ関の足跡を描くSFサスペンス。「朝日ジャーナル」1988年1月1日・8日号から1988年11月11日号にかけて第1部が、1988年12月9日号から1988年12月16日号にかけて第2部が掲載されたが、物語は未完に終わっている。

正式名称
ネオ・ファウスト
ふりがな
ねお ふぁうすと
作者
ジャンル
タイムパラドックス
レーベル
手塚治虫文庫全集(講談社コミッククリエイト)
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概要・あらすじ

生体工学の世界的権威である一ノ関教授は、50年間研究に没頭したにも関わらず、未だ生命の本質を解き明かせていないことに絶望していた。そして一ノ関はついに悪魔のメフィストフェレスと契約をし、魂と引き換えに時間をさかのぼって若返り、新しい人生を手に入れる。しかしその代償として、一ノ関は過去の記憶を失ってしまう。メフィストの手引きで資産家の坂根第造に引き取られた一ノ関は、「坂根第一」の名前を与えられて第造の経営する会社で働くことになる。

高度経済成長とともに会社は業績を伸ばすが、その絶頂で第造は死去。第造の死をきっかけに生命を操りたいという野望に取り憑かれた第一は、受け継いだ莫大な財産をもとに自分の手で生命を作り出す研究をすることを決意する。

やがて導かれるように一ノ関教授の存在を知り、相手が自分自身であるとは気づきもせず、彼の知識に目を付けて近づいていく。その過程で出会った高田まり子と恋に落ちるが、第一を憎からず思っているメフィストの嫉妬を買い、2人は残酷な運命に飲み込まれていく。

登場人物・キャラクター

一ノ関 (いちのせき)

NG大学の男性教授で、日本科学会が世界に誇る生体工学の権威。18か国の科学アカデミーの客員であり、ノーベル生化学賞の候補に3回も挙がった経歴を持つ。染色体中のDNAを操作転換することで、人工的に新生物を作り出せることを予言した。生命の本質を解明したいという執念に取り憑かれており、メフィストフェレスと契約して時間をさかのぼり若さを手に入れる。 しかし代償に記憶を失い、20歳の青年「坂根第一」として新たな人生を歩み始める。

メフィストフェレス

人間が「悪魔」と呼んでいる存在。なんにでも変身できるが、女性型か黒い犬の姿を取っていることが多い。メフィストフェレス自身は、「すべてを否定する霊」だと主張している。ビッグ・バンが起きた時に闇の一部として生まれ、森羅万象を破壊することをビジネスとしてきた。一ノ関教授の魂を手に入れるため、願いを叶える契約を持ちかける。 若返らせた一ノ関に付き従ううちに愛情を抱くようになり、高田まり子と親密になっていくのを妨害する。

坂根 第造 (さかね だいぞう)

多角的な会社経営をしている資産家の男性で、政治家とも強いパイプを持つ。暴漢に襲われたところを、若返った一ノ関教授に助けられた。礼代わりに食事をさせて話を聞き、一ノ関が記憶を失っていることを知る。ひょうひょうとした物腰の一ノ関を見込み、自分にちなんだ「坂根第一」という名前を付けて自身の経営する会社に就職させる。

高田 まり子 (たかだ まりこ)

NG大学に通う女子学生で、警視庁に勤める高田警部の妹。学生運動に参加しており、仲間の弁当を買いに出かけた時に「坂根第一」こと一ノ関と知り合う。その後、次第に第一に魅かれていくようになるが、どこか奇妙なところのある第一に恐れも抱いている。また、第一に付き従うメフィストフェレスの存在にも怯えている。学生運動のリーダーである石巻から、恋か革命かを選べと迫られ、一度は革命を選ぶが、石巻に兄のいる警察署を襲うように指示されて決意が揺らぐ。

高田警部 (たかだけいぶ)

警視庁に勤める捜査一課の警部で、高田まり子の兄。まり子が得体のしれない「坂根第一」こと一ノ関と付き合っていることを心配しており、別れさせようとしている。人間が灰になるまで焼けるという奇怪な連続事件の背後に、第一の存在があるのではと疑っている。

丸山 せん (まるやま せん)

高田家で家政婦として働く中年女性。故郷に亭主を残し20年前に東京に出て来て、高田まり子が子供の頃から世話をしている。まり子の部屋に掃除に入った際、メフィストフェレスの手配により「坂根第一」こと一ノ関がまり子に送った魔法のかかったスカーフを発見して、その力により第一に恋焦がれてしまう。

石巻 (いしまき)

NG大学文学部インド哲学科の男子学生で、学生運動急進派のリーダーを務めている。片見理事長の贈賄罪発覚を機に運動は過激化し、大学民主化を求めてデモを起こした。その後、大学の時計塔を占拠して立てこもり、警察署の爆破を計画する。さらに機動隊との戦闘の最中に「坂根第一」こと一ノ関に会いに行き、死の覚悟を語って自分のクローンを作ってくれるよう依頼する。 高田まり子を密かに想っている。

山本 (やまもと)

NG大学第二理学部の助教授の男性。一ノ関教授を研究しか能のない人間だと見下しており、裏工作をしてバイオ操作センターから追い出して後釜に座った。目立ちたがりで、テレビ出演や原稿執筆に忙しくしている。かなりの野心家でもあり、一ノ関教授の研究室に忍び込んでファイルを盗み自分の業績にしようとした。

片見 (かたみ)

NG大学理事長の男性。他の理事にわざと使い込みをさせて、見逃す代わりにリベートを要求して私腹を肥やしている。そのせいで大学は破産寸前の状態に陥っている。理事室に保管してあった裏帳簿を持ち出したメフィストフェレスから、大学再建に必要な資金を寄付する見返りに、「坂根第一」こと一ノ関を研究員として雇うよう求められる。 のちに大臣の妻見偶依に賄賂を渡していたことを、メフィストフェレスの魔力で暴露されてしまう。

妻見 偶依 (つまみ ぐい)

民主保守党の大蔵大臣。坂根第造と長年の付き合いがあり、政治献金と称して賄賂を受け取る代わりに便宜を図っていた。NG大学の片見理事長からも賄賂を受け取っており、その見返りに上越新幹線沿線の土地を着工前に手に入れられるよう、情報を流している。

バウボ

メフィストフェレスの昔からの知り合いの魔女。原宿でクラブを経営している。「坂根第一」こと一ノ関が、妻見偶依と片見理事長を陥れる仕掛けをするためにもぐり込んだパーティに現れる。第一に目を付け、メフィストフェレスから奪おうと彼が妻見大臣の側近を始末したことを暴露する。

ホルモン屋 (ほるもんや)

メフィストフェレスに仕える老婆。猿を部下として使役しており、若返りの薬を作っている。メフィストフェレスを子供の頃から知っており、幼い時に世話をしていた。若返って美青年に変身した一ノ関教授にメフィストフェレスが心魅かれていることに気付き、公私混同はしないよう忠告する。

神父 (しんぷ)

高田警部の大学時代の先輩だった男性で、悪魔について研究をしている。高田警部から妹の高田まり子と「坂根第一」こと一ノ関のことで相談を受けたが、第一の連れている5本指の犬の話や、第一が絡む時にだけ起こる不可解な出来事を聞かされても取り合わなかった。しかし教会の聖母子像が壊れて血を流したのを目撃し、何かの警告かもしれないと高田警部に忠告する。

書誌情報

ネオ・ファウスト 講談社コミッククリエイト〈手塚治虫文庫全集〉

(2011-10-12発行、 978-4063738704)

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