三番町萩原屋の美人

三番町萩原屋の美人

時は明治、老舗の呉服屋「萩原屋」のご隠居、萩原正毅は、亡き最愛の妻の「ヒトガタ(ロボット)」を作っている、風変わりで謎めいた人物として知られていた。そんな彼に魅了され、「萩原屋」にはさまざまな人がやって来る。正毅を主軸に、「萩原屋」に関わる人々の物語を、一話完結の連作形式で描くヒューマンドラマ。西炯子の代表作の1つで、「ウィングス」1991年2月号から2002年3月号にかけて掲載された作品。

正式名称
三番町萩原屋の美人
ふりがな
さんばんちょうはぎわらやのびじん
作者
ジャンル
時代劇
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あらすじ

三番町萩原屋の美人

中学5年生の兼森誠一は、同じ年頃の学生たちとは異なり、文学や芸術にまったく感心がなく、「物は何故浮くのか」「火はどうやってつくのか」ということに興味を抱く科学少年だった。「兼森剣道場」を営む父親に強要され、いやいや道場に顔を出した誠一は、そこで親友の島田から、呉服屋「萩原屋」の御隠居、萩原正毅がしゃべったり歩いたりする「ヒトガタ(ロボット)」を作っているらしい、との噂を聞く。胸の高まりを抑えきれなくなった誠一は、翌日、授業をサボって「萩原屋」を訪ねる。

この主人にしてこの店あり

ある日、朝の夢見が悪かった兼森誠一は、いつものように先生と慕う萩原正毅を訪ねたが、「ヒトガタ(ロボット)」の研究が佳境に入ったようで、正毅は離れに引きこもって姿を見せなかった。一方、呉服屋「萩原屋」に新しい番頭として入った岸谷勘二は、算盤が得意な働き者だったが、他の従業員が取りつく島がないほどに事務的な男性だった。彼は正論を盾に「萩原屋」の商いのやり方に口を出し、店の雰囲気を不穏なものに変えて行く。

萩原屋に外人

ある日、兼森誠一の通う「元亀高等中学校」に、フランス人のジャック・タチという男性が教師として赴任して来る。彼は日本文化に造詣が深く、少し天然なところがある、明るい人物だった。そんなジャックはある時、妻のマリーを伴って呉服屋「萩原屋」を訪れるが、そこで萩原正毅が手にしていた西陣の布を汚してしまう。ジャックは店の手伝いをして着物代を弁償することになり、毛唐嫌いな正毅にこき使われることとなる。そんなある日、彼は正毅の離れで「ヒトガタ(ロボット)」を見てしまう。

嫁が来た!!

季節は初夏、兼森誠一が呉服屋「萩原屋」を訪れると、パーティの準備が行われ、皆がワイワイ忙しく立ち回っていた。その一方で、萩原正毅だけは1人、落ち着かない様子でそわそわしていた。そんな普段とは違う正毅の前に現れたのは、出産のため実家に帰っていた、萩原勘二の嫁、萩原きぬだった。彼女は義父である正毅に食って掛かかるようなジョークを浴びせる。そんな姿を見て、誠一はきぬが何故、正毅にだけそのような態度を取るのか、過去に何かがあったのか、と気になって仕方がなくなってしまう。

三番町老人科学クラブ

ある秋の日、兼森誠一島田が呉服屋「萩原屋」を訪れると、近所の御隠居たちが萩原正毅を「三番町老人科学クラブ」へ勧誘しに来ていた。クラブの発起人である亀田源七郎は、熱気球を飛ばしたい、と熱い思いを語るものの、正毅には通じず、すげなく断られてしまう。意地になった源七郎は1人で部屋にこもり、嫁の亀田ツルの心配をよそに、熱気球の研究に没頭するのだった。

少年N

世間は夏、呉服屋「萩原屋」では、西洋料理に目覚めた萩原きぬが、まずい料理で家族や従業員たちを困惑させていた。そんなある日、御隠居、萩原正毅の「ヒトガタ(ロボット)」が完成し、最後の仕上げにかかっているということで、兼森誠一はまだ見せてはもらえなかった。一方、その頃、街では人形が方々で盗まれ、首や腹を切られて川に捨てられる、という怪事件が続いており、愉快犯の仕業ではないかと、ざわめき立っていた。

カモン・レッツゴー・ベースボール

呉服屋「萩原屋」と長い付き合いのアメリカ公使のマクドナルド夫妻は、本国アメリカに帰る時が迫っていた。そんな彼らの悩みは、日本に馴染み過ぎた娘のリンダ・マクドナルドが帰国したがらないことだった。自称、江戸っ子のリンダは、長年魚屋「魚松」で店を手伝い、親方夫婦や若い衆から可愛がられていた。彼女が気になるのは、ドジで要領が悪く、いつもヘラヘラ笑っている下っ端のしめ吉だった。

浪花ですだすまんねん

ある日、岸谷勘二は、萩原正毅から、扇子屋「ふじ田」の娘、みねとの見合いの話がある、と切り出される。だが、勘二の胸中は複雑だった。そんな勘二はひょんなことから知り合った、商売の醍醐味は行商だという、浪花出身の旅ガラス、三好人生の人となりに興味を抱く。一方、島田の誘いで兼森誠一芝垣たちは、街で話題となっていた吉原のおいらん行列を見学に向かう。別のところからおいらん行列を見ていた三好は、偶然見つけた勘二が、一際美しいおいらん、だし巻を見つめる視線に、何かを感じとるのだった。

セクレタリー

女性が小説を書くことが、世間にはまだよしとされていない明治時代、「三都愛矢音」こと一本木ヲテフが描く官能的な恋愛小説は、大ベストセラーとなっていた。当初は三文小説だとバカにしていた島田までもが、ついはまってしまうほどの面白さであった。ヲテフの秘書をしている佃フネにとって、ヲテフの存在は特別。彼女は、女学校時代に冴えない自分をかばってくれた唯一の理解者であり、憧れの人でもあった。フネはヲテフの身の回りの世話をすることを生きがいとしていたが、自分たちの前に青年将校、姉小路清澄が現れてからというもの、ヲテフの様子がおかしくなってしまった。フネは自分が彼女を救い出さなければ、という使命感に駆られていく。

2010カネモリ

2010年の東京では兼森誠一のひ孫、兼森誠也が、曾祖父と同様に剣道よりも科学に熱中しており、恋する本屋の看板娘、ちふゆとの未来を一目確かめたいと、タイムマシーンの製作に励んでいた。そんなある日、誠也は学校でちふゆが交通事故にあって死亡した、という話を耳にする。彼は愛するちふゆを助けるべく、親友の島田のひ孫とともにタイムマシーンに乗り込む。ところが彼らが行きついた先は明治時代で、萩原正毅が遊女と遊ぶ船の真横に落ちてしまうのだった。

CALLING YOU

萩原屋」で働く田部井みつは、薮入りに田舎の信州に帰る。いつも手紙を送ってくれる幼なじみの東善助と世間話をしていると、何故だか微妙な空気になる。その夜、みつが善助に用事を頼まれて彼の家に寄ると、彼の母親から「善助はおみっちゃんを嫁にしたいと思っている」と打ち明けられる。翌日、幼なじみの佳づがみつに会いに来るのだが、善助の話題になると突然彼女が涙ぐんでしまう。

歌姫M

その昔、ドイツの国で名花とうたわれ、金も名誉も望みのままの歌姫がいた。彼女は貧しい日本人留学生と恋に落ちたが、彼は東洋の小島へ帰ってしまう。絶望した彼女は酒で身を持ち崩して、彼女のもとには黒い瞳をした赤ん坊が残されたのだった。所変わって、日本の呉服屋「萩原屋」で働く一人の少年・良太は、数か月前、突如として現れた美少女歌手・夢乃美映に夢中になっていた。そんなある日、良太は美映と偶然出会い、彼女がマネージメント会社から逃げ出して来たことを知る。

LOVE HOTEL

春になり、東京には桜が咲いた頃、呉服屋「萩原屋」で働く田部井みつのもとへ幼なじみの東善助から、「東京の品評会に牛を出すので上京する」との手紙が届く。彼からのプロポーズを一度断っていたみつは、会おうかどうか迷っていた。同僚の信二から「会わない方がいい」と言われたこともあり、会わないと決めていたが、予定日より早く善助が萩原屋を訪ねて来てしまう。あせった彼女は、夜に宿まで会いに行くと言ってしまったのだが、信二にしつこく下駄屋に付き合ってほしいと頼まれる。中々帰してくれない信二に、「人と会う約束がある」と伝えるみつだったが、信二は半ば強引にみつを連れ込み宿に誘うのだった。

おじさんと牛鍋を食べよう

作家志望の島田は、ここのところ呉服屋「萩原屋」には顔を出さず、大作家の霧島達之進の豪邸に入り浸っていた。霧島宅には中川カナメという美少女が、霧島に無理難題を押し付けて困らせていた。彼女を創作の女神だと言って憚らない霧島だったが、彼女のせいで仕事は捗らず、執筆は滞ってしまう。そんなある夜、屋形舟の宴会でカナメは「萩原屋」のご隠居、萩原正毅に出会う。そして、自分を無視する正毅に我慢がならず、発作的に川に飛び込んでしまう。

自慢の息子

京都の川津製作所を営む川津家は、代々の科学好きが高じて、学校の理科の教材を売って財を成していた。そんな川津家を支える優秀な長男、川津梅次郎は、死んだと聞かされていた母親が、実は生きていることを人づてに聞き、父親、川津源蔵に対して不信感を募らせていた。一方、呉服屋「萩原屋」のご隠居・萩原正毅は、古い友人である源蔵から手紙をもらい、萩原禅次郎夫妻、兼森誠一島田を引き連れて京都へ向かうのだった。その頃、「萩原屋」には宮内省から「陛下が気球に乗ってみたい」というので、科学に詳しい者を紹介してほしい、との依頼がある。それが原因で、のちに梅次郎と源蔵親子は激しく衝突することになる。

婚約者

17歳になった兼森誠一のもとへ、突然婚約者と名乗る大きな図体をした女性、村岡波が訪ねて来る。彼女は兼森家が懇意にしている福島の村岡道場の娘。剣道の達人でもあり、料理上手な働き者だったので、兼森の父親はこの縁談に大喜び。一方、島田とともに国費留学生候補に選ばれた洋画の天才、進藤達之介は、モテるのをいいことに、自分の部屋に女学生を連れ込む日々を送っていた。ある日、島田と波が進藤を訪ねると、進藤の絵を見た波は、彼に「じっさまの絵が一等気に入っただ」と言う。それ以降、進藤の頭からは波の言葉が離れなくなってしまう。

もんぱり

国費留学生となってイギリスに渡った島田は、享楽を求めてパリに移住。付き添いの兼森誠一の持ち金も使い果たす豪遊生活を送った挙句、踊り子のヒモとなっていた。そんな日々の中、島田は東洋人贔屓のロベルト・ド・マルタン伯爵に気に入られて仮装パーティに出席し、貴族の少女、ベアトリス・マリー・ド・タルボットに出会う。ベアトリスの父から望まぬ結婚を強いられている彼女は、島田に一目惚れしてしまう。その頃パリでは、悪しき貴族から宝石を奪い、貧しい庶民を助ける正義の使者「白いカーネーション」という窃盗団が世間をにぎわしていた。

萩原正毅の長男、萩原正直と次男、萩原幾美が里帰りすることになり、賑やかになった呉服屋「萩原屋」は新宿店のオープンも控え、順風満帆だった。そんな時、新しく萩原屋で働くことになったトモジは、有能でありながら間の抜けたところもあって、たちまち店の人気者になる。ある冬の日、身重の萩原きぬを暴漢から救ったトモジは、店主、萩原禅次郎の絶対的な信頼を勝ち得るが、トモジをめぐり、禅次郎と岸谷勘二の意見は対立していた。勘二もトモジに対して、何かを感じていることに気付いた正直と幾美は、トモジが何者かを探るべく、彼の過去の足取りを辿ろうと会津若松へと旅立つ。その頃、トモジは議員の三宅松太郎に接触を図り、三宅の弱点を巧みに利用して、彼を意のままに操るようになる。その後、三宅は「萩原屋」に豪華なドレスを大量に発注するのだが、納品の前日、何者かに火をつけられて店は全焼。トモジを疑う声もあったが、禅次郎は耳を貸さず、彼を全面的に庇うのだった。それを黙視していた正毅は、以前どこかでトモジにあったような気がしてならない。信用を失い、傾いていく萩原屋だったが、今度は新宿店の新作がライバル店「川嶋屋」の店頭に並ぶという事件が起きる。同じ頃、山賊からトモジが仲間だったという情報を得た正直と幾美は、トモジを拾ってきたリーダー格の少年が、意外な人物であることを知る。

片想い

生身の女の子より機械に夢中な兼森誠一は、師と仰ぐ「萩原屋」のご隠居、萩原正毅に感化され、「自分だけを愛してくれるロボット」を作ると言い出した。そんなある日、誠一は夢に出てきた少女に恋をする。彼女の名前はキヨ、奉公先の坊ちゃん、伊波田光太郎と将来を約束し合ったが、無理やり信州に嫁がされ、17歳でその生涯を終えた少女だった。誠一はキヨの夢を見た翌日に、海で拾った赤い石を心臓部に埋め込み、ロボットを完成させる。するとロボットは「ボッチャマ」という言葉を発しながら、オールバックにした男性を追いかけるのだった。一方、霧島達之進の代筆を頼まれた島田は、髪をオールバックにした伊波田幸太郎という男性の写真を、霧島から偶然見せられ、彼が下働きの少女と将来を誓い合っていたが、母親が彼女を他所に嫁がせたため、実家と絶縁したという事実を知るのだった。

奇蹟

舞台は昭和初期の東京、出版社勤務の荻窪英子は、大ファンである作家、島田の担当となった喜びを嚙みしめていた。島田宅を訪ねる荻窪は、妻のしづ乃に案内されるが、彼の奇人変人っぷりに振り回されてしまう。そんな島田から「戦争が明日にも終わるなら小説を書くが、自分は奇蹟を信じる若さを失ったかもしれない」と告げられる。ちょうどその時、兼森誠一が亡くなったと連絡が入る。誠一は自作のロボットに押しつぶされたのだが、彼のロボットが人殺しに使われずに済み、運が良かったかもしれないと、妻となった村岡波はつぶやくのだった。

登場人物・キャラクター

萩原 正毅 (はぎわら まさたけ)

呉服屋「萩原屋」のご隠居。亡き最愛の妻、萩原いくの「ヒトガタ(ロボット)」を作っている風変りな男性。実は還暦を過ぎているが、いくを亡くした25歳当時から容姿がまったく変わっていない。粋な遊び人で、気ままな自由人だが、人をどこまでも受け入れる包容力がある。周囲から「ご隠居」、兼森誠一からは「先生」と呼ばれている。

ジャック・タチ (じゃっくたち)

エピソード「萩原屋に外人」に登場する。「元亀高等中学校」にフランスから赴任して来た、英語とフランス語の男性教師。日本文化に造詣が深いが天然なところがあり、兼森誠一を「カネモチ」と呼び続ける。呉服屋「萩原屋」を訪れた際、高価な西陣の布にコーヒーをこぼしてしまい、弁償する代わりに、店の手伝いをすることになる。 実は「人造人間(ロボット)」の研究をしている工学博士であり、萩原正毅の「ヒトガタ」を見てしまい、度肝を抜かれる。

西村 主水 (にしむら もんど)

エピソード「少年N」他に登場する。「元亀高等中学校」の男子生徒。子爵家の子息であり、美男子だが暗く歪んだ性格をしている。実の母親が、その美貌ゆえにある貴族に横恋慕され、それを苦にして自害した。それがトラウマとなっており、人形を盗んで切り裂いて捨てる、という犯罪に手を染める。実は味音痴で、のちに萩原きぬのまずい西洋料理を食べに呉服屋「萩原屋」を訪れるようになり、その頃から性格は一変、優しく社交的になる。

リンダ・マクドナルド (りんだまくどなるど)

エピソード「カモン・レッツゴー・ベースボール」に登場する。アメリカ公使を務めるマクドナルドの娘。日本に8年間住んでいる若い女性。父親譲りの野球のセンスを持つ。自称・江戸っ子で、魚屋「魚松」の仕事を手伝う。その働きっぷりの良さから、将来の若おかみとして親方夫婦から密かに期待されている。稼ぎ頭の達吉に好意を寄せられているが、リンダ・マクドナルド本人は、半人前のしめ吉が好き。

三好 人生 (みよし じんせい)

エピソード「浪花ですだすまんねん」に登場する。「諸国で商人の修行をしている旅ガラス」を自称する若い男性。ひょんなことから、岸谷勘二と商売について話をするうちに、奇妙な交友関係が始まる。生産元から直に買付けし、呉服屋「萩原屋」と同等の高級品を半値以下で売るという、大阪者らしく革新的な商才の持ち主。後に「三好屋」をオープンさせて、「萩原屋」に大ダメージを与える。 考えるより先に行動するタイプで、おいらん行列で見ただし巻を気に入り、身請けされる前にかっさらうと宣言する。

佃 フネ (つくだ ふね)

エピソード「セクレタリー」に登場する。「三都愛矢音」こと一本木ヲテフの秘書として住み込みで働く女性。顔にはそばかすがあり、前髪で目を隠している。貧しい漁師の家に育ち、親や兄弟にないがしろにされた子供時代、本を読むことだけが楽しみだった。女学校でヲテフに優しい言葉を掛けられて以降、彼女のためならなんでもしようと決意する。 オテフの秘書として「萩原屋」に出入りしており、萩原正毅には悩みの相談に乗ってもらう仲になる。

兼森 誠也 (かねもり せいや)

エピソード「2010カネモリ」に登場する。兼森誠一のひ孫で、2010年の東京に住んでいる男子高校生。モーターやプラグを愛する科学少年。本屋の美しい看板娘、ちふゆに夢中で、彼女との未来を覗いてみたくなり、タイムマシンの製作に熱中している。ちふゆが事故で死んだとの噂を耳にし、彼女を救い出そうとタイムマシンに乗るが、明治時代にタイムスリップしてしまう。

田部井 みつ

エピソード「CALLING YOU」「LOVE HOTEL」に登場する。呉服屋「萩原屋」の若い女性店員。兄弟の一番上で、まわりとのバランスを考えすぎて、いつのまにか自分の好き嫌いや言いたいことが、はっきりと言えなくなってしまった。そんな煮え切らない性格が、幼なじみの東善助と同僚の信二との三角関係を招いてしまう。

夢乃 美映 (ゆめの みはえ)

エピソード「歌姫M」に登場する。数か月前、突如として現れた美少女歌手で、現在でいう超アイドル的存在。実はドイツ人。母親を残して去った父親、大原田丞太郎を探すため、マネージメント会社から逃げ出し、偶然出会った良太をそそのかして利用する。本名は「ミハエル・ジョウ・ヘルツォーク」で、母親の名前は「エレーナ」という。

中川 カナメ (なかがわ かなめ)

エピソード「おじさんと牛鍋を食べよう」に登場する。人目を引く可愛い女学生で、夜の仕事をしている母親と二人暮らしをしている。男性は自分を大事にしてくれて当たり前だと思っており、「萩原屋」の萩原正毅に無視されたことが悔しく、正毅につきまとうようになる。

川津 梅次郎 (かわづ うめじろう)

エピソード「自慢の息子」に登場する。京都師範学校金工科教員を辞し、京都木屋町にある川津製作所を手伝っている優秀な科学者。川津源蔵の長男で、死んだと聞かされていた実の母が生きているということを人づてに聞き、父親に不信感を持つ。自分だけが腹違いであり、父親は自分のことをあまり好きではないのではと感じている。 幼い頃に父親が作った気球に乗り損ねた原因となった萩原正毅に対しては、やや反抗的な態度を取りがちである。

ベアトリス・マリー・ド・タルボット (べあとりすまりーどたるぼっと)

エピソード「もんぱり」に登場する。フランス貴族の末裔の少女。オーストラリア王室とゆかりの深い貴族との望まぬ結婚を、ベアトリスの父から強いられているが、父親に逆らえないでいる。仮装パーティで、王族に繋がる家柄の女性の横暴を、ギャグで封じ込めた島田に恋してしまう。悪い貴族から宝石を盗み、貧しい人々を救う正義の使者「白いカーネーション」という裏の顔を持つ。

トモジ

エピソード「蝮」に登場する。酒屋「上総屋」の番頭を務めていた。そこへ、親方の不肖の息子が帰って来たため、懇意にしていた呉服屋「萩原屋」で引き受けることになった。ロングヘアを束ね、眼鏡をかけた背の高い男性。有能だが、ワンテンポずれた愛すべき部分を持ち、同僚からも好かれている。身重の萩原きぬを暴漢から助けたので、萩原禅次郎の絶大な信頼を得る。 勘の鋭い萩原正直からは、「カタギではない」と見抜かれる。

キヨ

エピソード「片想い」に登場する。大農家で下働きをしている少女。坊ちゃんの伊波田光太郎に想いを寄せていたが、身の程をわきまえなければいけない、と思っていた健気な性格。息子との仲を良く思っていなかった伊波田家に信州に嫁がされ、熱病にかかって17歳で死去する。東京の大学に進む光太郎から、「待っていてほしい」と渡された赤い石を、死ぬまで宝物にしていた。 後に兼森誠一の夢に登場し、理想の恋人として「お夏」と勝手に名付けられ、宝物にしていた赤い石も、彼に海で拾われることになる。

萩原 いく (はぎわら いく)

エピソード「蝮」他に登場する。萩原正毅の亡き愛妻にして初体験の相手で、萩原正直、萩原幾美の母親でもある。かつては遊郭「青木屋」の一番の美人で売れっ子遊女で、当時は「勝山太夫」と名乗っていた。乾物屋「大谷屋」からの借金で一生吉原から出られない彼女を、正毅が身受けして結婚したのだが、周囲に認められた頃、事故で亡くなってしまう。 彼女にもう一度会いたいがために、正毅は「ヒトガタ(ロボット)」作りに没頭することになった。

兼森 誠一 (かねもり せいいち)

エピソード「三番町萩原屋の美人」「婚約者」他に登場する。「元亀高等中学校」の男子生徒。中学5年生の時に、萩原正毅が製作している萩原いくの「ヒトガタ(ロボット)」に並々ならぬ興味を抱いてしまった理系男子。実家は「兼森剣道場」を経営しているが、武道や文学、芸術にはまったく興味はない。島田とは親友で、いつも2人で呉服屋「萩原屋」に入り浸っている。 のちに婚約者の村岡波が現れるが、生身の女性をどう扱っていいのかわからず、冷たくしてしまう。

萩原 禅次郎 (はぎわら ぜんじろう)

エピソード「蝮」他に登場する。呉服屋「萩原屋」の三代目店主の男性。萩原正毅の息子だが、血は繋がっていない。穏やかで優柔不断なところがあり、二代目の正毅と比べると、小ぶりな商人だと評されている。のちに、正毅に可愛がられている番頭の岸谷勘二との間に距離を置くようになり、酒屋「上総屋」から引き受けたトモジに絶大な信頼を寄せるようになる。 正毅に引き取られる前は、山賊の親分格で「隼の四郎」と呼ばれる暴れ者だった過去がある。

萩原 きぬ (はぎわら きぬ)

エピソード「嫁が来た!!」他に登場する。萩原禅次郎の嫁で、二男一女の母親。隣町の乾物屋「とみ屋」の娘。美人で明るく、さっぱりした気性で、頭の回転も速い。店員以上に働いて客受けもいいが、義父の萩原正毅にだけは、いつも強い態度で応戦する。西洋料理に凝っているが、作った料理はとても食べられるものではなく、周囲が迷惑している。

岸谷 勘二

エピソード「この主人にしてこの店あり」「浪花ですだすまんねん」他に登場する。呉服屋「萩原屋」の番頭になった青年。まじめで算盤が得意。仕事熱心だが、「萩原屋」の商売のやり方に異議を唱えるなど、取りつく島もない雰囲気を漂わせている。実は「萩原屋」の成功のあおりを受けて没落した呉服屋の丁稚だった人物で、当時の名前は「兆治」。 「萩原屋」を没落させようと企んでいた。のちに改心し、「萩原屋」の凄腕の番頭として、そして萩原正毅の忠実な片腕として活躍するようになる。

島田 (しまだ)

エピソード「おじさんと牛鍋を食べよう」「婚約者」「もんぱり」他に登場する。「元亀高等中学校」の男子生徒。兼森誠一の幼なじみで親友。弓道・剣道を愛し、文学者を目指しているが、破天荒で奇行が多い。一方で人を見る目は確かで、わがままな中川カナメを嫌い、一途で純粋な村岡波に好感を持っている。しづ乃と付き合っており、彼女のドSな態度に涙して喜ぶことも多い。

しづ乃 (しづの)

エピソード「セクレタリー」「婚約者」「もんぱり」他に登場する。島田と付き合っている女学生。ロングヘアで顔を隠した謎めいた人物。「三都愛矢音」こと一本木ヲテフが連載している雑誌「ヲトメノユメ」の愛読者。調子に乗りやすい島田には厳しい態度で接することが多いが、ツンデレなところがあり、実際は心から島田に想いを寄せている。 のちに島だと結婚し、妻になる。

マリー

エピソード「萩原屋に外人」に登場する。ジャック・タチの妻。不愛想で美人とは言い難いが、インテリジェンスに溢れ、ジャックからは絶大な愛と信頼を寄せられている。西洋菓子作りが得意で、呉服屋「萩原屋」で働くことになったジャックのために、毎日菓子を持参して皆に振る舞う、という内助の功を発揮する。

亀田 源七郎

エピソード「三番町老人科学クラブ」に登場する。お茶問屋「亀田屋」のご隠居で、萩原正毅の幼なじみ。近所の御隠居ばかりで結成した「三番町老人科学クラブ」の発起人で、熱気球を飛ばそうと正毅を誘うのだが、すげなく断られる。昔から皆に慕われていた正毅への嫉妬心が、これを機に燃え上がってしまう。

亀田 ツル (かめだ つる)

エピソード「三番町老人科学クラブ」に登場する。お茶問屋「亀田屋」の店主である亀田源四郎の嫁。萩原きぬと同い年だが、きぬとは正反対の性格で、気が小さく、いつもビクビクしている。義父の亀田源七郎への気遣いが裏目に出てばかりで、夫からも軽んじられていたが、ある出来事を境に強気な嫁に変身する。

亀田 源四郎 (かめだ げんしろう)

エピソード「三番町老人科学クラブ」に登場する。お茶問屋「亀田屋」の店主の男性。亀田源七郎の息子で、妻は亀田ツル。源七郎がいつもつまらない趣味にうつつを抜かし、店の金を持ち出しては人を巻き込んで、危ない目に遭わせたりすることが許せず、ついきつい言葉で怒鳴ってしまう。頑固で口数は少ないが、本当は父親の体を心配している親想いな一面がある。

芝垣 (しばがき)

エピソード「少年N」「浪花ですだすまんねん」に登場する。「元亀高等中学校」の男子生徒。警視総監の子息。友人の西村主水の心の闇を理解し、人形を盗んで切り裂いて捨てる、という犯罪の共犯者となる。心の底から主水が幸せになることを願っている純粋な性格。主水に友達以上の想いを寄せていたため、周りからはホモだと思われていたが、おいらん行列を見に行った時、だし巻に一目惚れしてしまう。

マクドナルド

エピソード「カモン・レッツゴー・ベースボール」に登場する。アメリカ公使を務める中年男性。リンダ・マクドナルドの父親。仕事の合間に、日本人の学生に野球を教えに来ており、学生時代は名の知られた選手であった。日本語の単語をよく間違えたりと、大らかで明るい性格だが、アメリカに帰りたがらないリンダが、その理由を話さないことに苛立ちを隠せずにいる。

マクドナルドの妻

エピソード「カモン・レッツゴー・ベースボール」に登場する。マクドナルドの妻でリンダ・マクドナルドの母親。怒ると口数が多くなるが、マクドナルドのキスですぐに機嫌を直す単純な性格。日本になじみ過ぎたリンダを心配している。その原因だと踏んでいるしめ吉が出場する野球の試合を観戦。「干物みたいな子だが、どこかいいところがある」と、双眼鏡で凝視するユニークな女性。

しめ吉 (しめきち)

エピソード「カモン・レッツゴー・ベースボール」に登場する。魚河岸「魚松」に奉公している若い男性。メガネをかけた細身の弱々しい見た目であり、ドジで要領が悪く、先輩にからかわれてばかりいる。実は物心がつく前に橋のたもとに捨てられ、育ててくれた老夫婦も亡くなってしまった、という天涯孤独の身の上。リンダ・マクドナルドに密かに想いを寄せている。

達吉 (たつきち)

エピソード「カモン・レッツゴー・ベースボール」に登場する。魚河岸「魚松」で働いている若い男性。店の稼ぎ頭で自信家だが、荒くれ者の一面がある。リンダ・マクドナルドに気があるのだが、彼女がしめ吉を好いていることを知り、苛立ちまぎれにリンダに乱暴にあたる。これが原因で、偶然それを見かけた萩原屋の岸谷勘二と喧嘩沙汰になってしまう。

ミヨ

エピソード「カモン・レッツゴー・ベースボール」に登場する。しめ吉の妹で、華奢で可憐な女の子。偶然しめ吉と一緒にいるところをリンダ・マクドナルドに目撃され、しめ吉の彼女だと誤解されてしまう。小さい頃に上がった奉公先で、子供のいない旦那夫婦に気に入られて養女となった。捨て児だとバレると世間の風当たりが悪くなるからと、しめ吉の判断で妹の存在は秘密にしていた。

みね

エピソード「浪花ですだすまんねん」に登場する。人形町の扇子屋「ふじ田」の娘で18歳。おとなしく可愛らしい女性。商人会の寄り合いで会う岸谷勘二を父娘共々気に入り、勘二さえ気に入れば縁談という状況にある。寄り合いで、窮地に追い込まれた商店の店主たちが、三好人生が始めた安売りの店を放火するという計画を偶然聞いてしまい、なんとか役に立ちたいと、勘二に報告する健気な性格。

だし巻 (だしまき)

エピソード「浪花ですだすまんねん」に登場する。遊郭「三浦屋」のおいらん。昔ははねっかえりな性格だったが、そのずば抜けた美しさから、日本橋きっての大店のご隠居に見請けされることになった売れっ子。14歳の時に女郎屋に売られて来た。岸谷勘二とは、彼が呉服屋「萩原屋」で働く前からの仲で、結婚に踏み切ってくれない勘二とは縁がないとあきらめていた。 本名は「フミ」。

一本木 ヲテフ (いっぽんぎ おちょう)

エピソード「セクレタリー」に登場する。女学生を中心に人気のある大ベストセラー作家。日本橋の大きな商家に生まれ、女学校時代には学校始まって以来の美少女と呼ばれた、才色兼備の女性。田舎者とバカにされていた佃フネと、共通の趣味である文学を通して仲良くなった。他人の意見に惑わされない挑戦的な性格だったが、姉小路清澄と出会って以降、仕事が手につかなくなってしまう。

姉小路 清澄 (あねこうじ きよすみ)

エピソード「セクレタリー」に登場する。陸軍軍医総監の長男で、青年将校。一本木ヲテフのハンカチを拾ったことからヲテフと知り合う。一見ぼんやりしているようで、実際は抜け目ない部分があり、実はヲテフが自分に好意を持っていることに気付いている。ゲーテやイプセンを原書で読むほどの読書好き。

島田のひ孫 (しまだのひまご)

エピソード「2010カネモリ」に登場する。島田のひ孫で、2010年の東京に住んでいる男子高校生。曾祖父の島田同様、いつもふざけてばかりいる。兼森誠也とは親友で、彼のタイムマシンに一緒に乗り込み、明治時代に行ってしまう。誠也とともに闇野雷蔵率いる宗教団体に拉致され、人質に取られるが、「死ぬときゃ一緒にバッサリやられよう」と、案外肝が据わったところもある。

ちふゆ

エピソード「2010カネモリ」に登場する。2010年の東京に住んでいる、本屋で働く若く美しい女性。バイクで車に衝突し、死亡したとの噂が広まる。偶然にも萩原正毅の愛妻、萩原いくとそっくりで、タイムマシンで明治時代に行った兼森誠也が、正毅が作ったいくの「ヒトガタ(ロボット)」をちふゆと間違えたほど。 実は婚約者がいる。

闇野 雷蔵 (やみの らいぞう)

エピソード「2010カネモリ」に登場する。「未来幸福教」という宗教の教祖を務める男性。帝国大学の全教程を1年で習得し、悩める衆生を救済するべく悟りを開いたという人物。ロングヘアで頭頂部に裸電球を乗せた異様な風貌をしている。呉服屋「萩原屋」宛に、兼森誠也と島田のひ孫を誘拐したので、萩原正毅の亡き愛妻、萩原いくの「ヒトガタ(ロボット)」を持ってこい、との文を送りつける。

東 善助

エピソード「CALLING YOU」「LOVE HOTEL」に登場する。信州の田舎に住む若い男性で田部井みつの幼なじみ。寡黙な働き者で、父親がいない分、田んぼ仕事や牛や馬の飼育に励んでいる。昔からみつに思いを寄せており、日常の仕事を綴った手紙を、定期的に送り続ける不器用な性格。

信二 (しんじ)

エピソード「CALLING YOU」「LOVE HOTEL」に登場する。「萩原屋」の若い男性店員。田部井みつに気があり、いつもさりげなくみつの側にいる。ひょうひょうとした雰囲気を漂わせているが、みつへの気持ちは強い。東善助に会わせないよう、彼女を連れ込み宿に連れて行く、という押しの強い面もある。

まき

エピソード「CALLING YOU」「LOVE HOTEL」に登場する。呉服屋「萩原屋」の若い女性店員。田部井みつと仲が良い。言いたいことを我慢できない性質で、東善助と信二を天秤にかけているようなみつの態度に腹をたて、「そういう煮え切らないとこ前々から嫌い」と言ってしまう。

良太 (りょうた)

エピソード「歌姫M」に登場する。呉服屋「萩原屋」の若い男性店員。アイドルおたくで、数か月前突如として現れた美少女歌手の夢乃美映に夢中。マネージメント会社から逃げ出して来た彼女と偶然出会い、美映の父親、大原田丞太郎捜しに協力する。彼女のために、クビを覚悟で店の名簿を盗もうとするなど、お人好しなところがある。

サエ

エピソード「歌姫M」に登場する。呉服屋「萩原屋」の若い女性店員。良太に気があり、彼が美少女歌手夢乃美映に夢中なのが気に入らない。一言多いが、実は優しい性格で、良太が夢乃美映の父親捜しに協力していることを知り、行き場のなくなった2人を自分の部屋に匿う。かつて両親に捨てられた過去がある。

大原田 丞太郎 (おおはらだ じょうたろう)

エピソード「歌姫M」に登場する。文部省に勤める40代半ばの男性。ドイツに留学していた若い頃、夢乃美映の母親であるドイツ人の歌姫エレーナと恋に落ちるが、事情があって泣く泣く帰国した経緯がある。美映の歌声を聞いて、エレーナに生き写しだと感じており、彼女の歌をいつも聞くようになる。

霧島 達之進 (きりしま たつのしん)

エピソード「おじさんと牛鍋を食べよう」「片想い」に登場する。文壇の大家と言われる小説家で、作家志望の島田が入り浸っている。美少女、中川カナメに惚れこみ、自分の創作の女神として、極度に甘やかしているが、カナメに冷たくされ、創作意欲を失ってしまう。カナメには「パパちゃん」と呼ばれている。妻には冷ややかな態度をとっていたが、後に夫婦関係は円満になり、小田原に引っ越す。 また、偶然にも伊波田幸太郎と交友関係があったことが判明する。

霧島の妻 (きりしまのつま)

エピソード「おじさんと牛鍋を食べよう」に登場する。霧島達之進の妻で、桐島が昔世話になった作家の娘。クールで居丈高な女性で、夫が中川カナメに夢中になっている様子を、いつも冷ややかに眺めている。夫に内緒で高価な宝石を買いあさっているが、実は誰よりも霧島が、作家としていい作品を世に出すことを願っている。

川津 源蔵 (かわづ げんぞう)

エピソード「自慢の息子」に登場する。川津製作所の社長を務める老人。川津梅次郎、源吉、常三郎の父親。萩原正毅の古い友人。科学好きが高じて、天皇が離れて廃れ行く京都を景気づけようと、気球を飛ばして名をあげた。実は梅次郎の才能を誰よりも高く評価している。

角倉 みさ (かどのくら みさ)

エピソード「自慢の息子」に登場する。悩む川津梅次郎の前に、花の匂いとともに幾度も現れ、忽然と消える美女。実は梅次郎を置いて出て行った母親であり、捨ててしまった息子を案じている。生霊のような存在であり、病床から一番綺麗な時の姿で息子に会いに来た。死に際には、梅次郎に「あんたを産んで良かった」と言い残して去って行く。

川津 源吉 (かわず げんきち)

エピソード「自慢の息子」に登場する。川津源蔵の次男。兄、川津梅次郎が「これをしたい」ということに父親が反対したことがないので、兄は特別可愛がられていると思っている。愛想が良く、商いは得意。陛下からの命である気球作りを父親から託され、梅次郎への対抗心もあって必死に取り組むが、自分の実力不足を痛感する。

進藤 達之介 (しんどう たつのすけ)

エピソード「婚約者」に登場する。「元亀高等中学校」の男子生徒。洋画界の新星といわれ、島田とともに国費留学生に選ばれている。美男子で家が資産家というモテ男だが、自分のファンの女学生を部屋に連れ込み、好き勝手をしているゆがんだ一面がある。村岡波に自分の絵の本質を言い当てられたことにより、彼女に魅かれていく。ひょんなことから萩原正毅に、「兵六」こと田岡兵左衛門六助という「じいちゃん」を慕っていたことを打ち明ける。

村岡 波 (むらおか なみ)

エピソード「婚約者」「片想い」他に登場する。福島会津若松の村岡道場からやって来た兼森誠一の許嫁。巨大な図体に、日本人形のような淡白な顔が特徴の若い女性。剣道の達人で料理が上手く、働き者。優しい性格で、動物が自ら寄ってくるほど。婚約者と聞いてビビる誠一に冷たくあしらわれる。進藤達之介からは、真の芸術を理解する人だと、好意を寄せられる。

田岡 兵左衛門六助 (たおか ひょうざえもんろくすけ)

エピソード「婚約者」に登場する。もとは武士で、バクチで身代を潰した。家族に去られて以降、裕福でわけありな家族に、親戚と偽って入り込む生活を続けている詐欺師。幼少の頃「じいちゃん」と懐いた進藤達之介に、女の口説き方を教えたり、絵を描けと道具をそろえてくれた人物でもある。昔、萩原正毅にバクチを教えたというつながりがある。

コンパニヨン

エピソード「もんぱり」に登場する。ベアトリス・マリー・ド・タルボットの家庭教師を務める女性。まじめで少々お堅いが、お茶目でもあり、ベアトリスに忠実。島田に恋したベアトリスのために、彼が頻繁に現れるカフェを訪れた際、同じく彼を探す金澤千畝と出会い、ほのかな恋心を抱く。悪い貴族から宝石を盗み、貧しい人々を救う正義の使者「白いカーネーション」という裏の顔を持つ。 盗んだ宝石をお金に替えるため、闇宝石屋に出入りする高級娼婦に変装することもある。

ロベルト・ド・マルタン (ろべるとどまるたん)

エピソード「もんぱり」に登場する。東洋人留学生の良き理解者と名乗る伯爵。父親が白人至上主義者であり、その反発から東洋人に肩入れしている。破天荒でユニークな島田を高く評価し、指導官、金澤千畝に追いかけられている彼を匿っている。正義を名乗る窃盗団「白いカーネーション」に興味を持ち、父親の宝石をエサに、島田と組んで彼らの正体を暴こうとする。

金澤 千畝 (かなざわ ちうね)

エピソード「もんぱり」に登場する。日本の文部省より派遣され、留学生の指導および相談を担当している指導官の男性。国費留学でイギリスに滞在するはずだった島田を追い、パリに探しにやって来た。島田をどうしようもないいい加減な男とみなす生真面目な人物。国費泥棒は許せないと、執念深く島田を追いかける。同じく島田を探すコンパニヨンと知り合い、お互いを意識する間柄となる。

ベアトリスの父 (べあとりすのちち)

エピソード「もんぱり」に登場する。ベアトリス・マリー・ド・タルボットの父親。「身分」を重んじ、貴族は貴族としての品位と暮らしを保たねばならない、という考えの持ち主。実情はかなりお金に困っている没落貴族で、娘のベアトリスを、オーストラリア王室につながる名家に嫁がせようとしている。

萩原 正直 (はぎわら まさなお)

エピソード「蝮」に登場する。萩原正毅の長男で、版画家の巨匠と呼ばれる芸術家。山暮らしをしながら創作活動をしているワイルドな風貌の大男。2年に一度くらいの割合で、実家の呉服屋「萩原屋」に里帰りしている。感性が鋭く、新入りのトモジがカタギではない剣呑な男だと直感する。トモジの正体を摑むため、彼の過去の足取りを、弟・萩原幾美とともに探りに行く。

萩原 幾美 (はぎわら いくみ)

エピソード「蝮」に登場する。萩原正毅の次男で、小柄だが、帝国大学を出て外交官になったエリート。実家の呉服屋「萩原屋」には2年に一度位の割合で里帰りしている。組織の人事に鼻が効き、岸谷勘二がトモジについて、何か危機感を感じているのを察知する。フランス赴任を延期し、トモジの正体を摑むため、彼の過去の足取りを、兄・萩原正直とともに探りに行く。

作造 (さくぞう)

エピソード「蝮」に登場する。呉服屋「萩原屋」のベテラン男性店員。岸谷勘二に出世で先を越されたが、「萩原屋」の次期番頭だと目されている。ただし器の小さいところがあり、店員たちからも見抜かれている。有能なトモジに先を越されるのではないかとの危機感から、卑劣な手段でいやがらせをする。

三宅 松太郎 (みやけ まつたろう)

エピソード「蝮」に登場する。貴族院議員をしている、小太りで赤ら顔の中年男性。妻の実家が赤坂の呉服屋「川嶋屋」であり、「萩原屋」に客を取られて立ち行かなくなっているため、「萩原屋」の新宿店出店を妨害する気だったと噂されている。男色で倒錯した性癖があり、トモジを一目見て魅了される。

しの

エピソード「蝮」に登場する。呉服屋「萩原屋」の女性店員。同僚の隆三から、新宿店オープンによる多忙で、別れを切り出される。寂しがり屋で、いつも誰かに側にいてほしいタイプ。トモジに話を聞いてもらううちに彼と付き合うようになる。彼に利用されて、新宿店の新作をライバル店「川嶋屋」に漏えいした犯人にされてしまう。

太郎 (たろう)

エピソード「蝮」に登場する。呉服屋「萩原屋」で萩原正毅の教育係をしていた男性。早くに母親を亡くしたことによる、正毅の女好きを矯正すべく、真剣に正毅と向き合う生真面目な人物。正毅の頼みで吉原へ連れて行き、「勝山太夫」として当時一番人気だった萩原いくと彼を出会わせた張本人でもある。正毅の人となりに感服することも多く、彼に忠誠を誓っている。 のちに彼の子供・萩原正直、萩原幾美、養子に入った萩原善次郎の教育係となる。

大谷 三郎 (おおたに さぶろう)

エピソード「蝮」に登場する。乾物屋「大谷屋」の二代目の男性。稼業を継ぐまでは「歳三」と名乗っていた。「大谷屋」は薄汚い商売で成り上がった嫌われ者であり、自身も不作時に高値で売ることを目的に、塩を大量に保管した。そのため、のちに大谷屋事件に発展して身を持ち崩すこととなる。萩原いくを借金で縛り付け、一生吉原から出られないようにした人物でもある。 いくを奪った萩原正毅に対して、強い憎しみの念を抱いている。

伊波田 光太郎 (いなみだ こうたろう)

エピソード「片想い」に登場する。伊波田家の長男で、下働きをしていたキヨと将来を誓い合った青年。大学卒業後、出版社で編集の仕事に就き、小説家の霧島達之進と懇意にしていた。髪をオールバックにした優男風情で、にこやかで皆に好かれていた人物。キヨにプレゼントされた腹巻をずっと身に着けていた一途な男性で、生涯独身を貫いた。 キヨからは「坊ちゃま」と呼ばれていた。

荻窪 英子 (おぎくぼ えいこ)

エピソード「奇蹟」に登場する。昭和初期の東京に住み、出版社「珍書館」に勤務する。度数が高いうずまきメガネをかけた若い女性。おとなしいが、少し天然なところがある。作家となった島田の大のファンで、自身が担当となった際、戦争賛美の国策文学を嫌う島田に対して、国策文学の皮を被った島田の作品を読みたいと訴える。

場所

萩原屋 (はぎわらや)

東京の市ヶ谷にある創業来八十余年の老舗の呉服屋。ドレスや洋服をいち早く置くなど、ハイセンスでハイカラな店であり、顧客には有力者や富裕層を多く持つ。二代目の店主が萩原正毅で、現在は息子の萩原禅次郎が店主を務めている。番頭は岸谷勘二。ご隠居・正毅の「ヒトガタ」作りや遊行費に金が掛かり、禅次郎が頭を悩ますことも多いが、商売はおおむね順調。 兼森誠二や島田が帝国大学の大学生となった春、岸谷勘二を店長として新宿店が開店する。議員の三宅松太郎から大量の発注を受けた本店が全焼し、のちに新宿店の新作がライバル店「川嶋屋」に漏えいされたことにより、大きなダメージを受け、一時、経営の危機に陥る。

イベント・出来事

大谷屋事件 (おおたにやじけん)

乾物屋「大谷屋」が塩を買い占めたことに始まる一連の事件。「大谷屋」は価格の暴落した塩を大量に蔵に保存し、潮の出荷量が減る雨量が多い年に高値で売り、市井の人々を苦しめた。人の道に外れた「大谷屋」から、正毅は商人仲間とともに、塩を盗み出して民衆に正当な値段で売った。これにより、商人会を除名された「大谷屋」は、数日後、何者かに放火された。 明治10年に起きたこの一連の出来事を指して「大谷屋事件」、または「塩事件」と呼ばれている。のちに、主犯、大谷三郎は、明治14年に青森県にて妻および子供2名と一家心中した。ただし、遺体が3体しか上がっていないことが、「萩原屋」が全焼して傾きかけた頃、萩原正毅の耳に入る。

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