あらすじ
第1巻
神戸の紅華音楽学校の記念すべき100期生として入学した渡辺さらさは、2年後の紅華歌劇団の舞台を目指し、厳しい稽古に励んでいた。そんなある日、さらさは入学して4か月も経つのに、いつまでも退屈な座学カリキュラムを続ける演劇授業に辟易し、実技で表現力を磨きたいと考えていた。伝統を重んじるあまり、古臭いまま改修されない校風を疑問視していた教師の安藤守を味方につけ、持ち前の人懐こさと紅華歌劇団への愛を説いて、さらさはついに名誉教授の国広茂登に首を縦に振らせる事に成功する。こうして初の練習演目、「紅華版ロミオとジュリエット」でティボルトを演じる事が決まったさらさは、ルームメイトの奈良田愛らと共に猛練習の日々を送る。2週間後に迎えた発表会で、さらさは愛扮するジュリエットに言い寄るロミオを恋敵と見定め、嫉妬に狂うティボルトを見事に演じてクラスメイトを唸らせるが、それを見た安藤は、今のままでは、さらさはトップスターにはなれないと断言する。紅華歌劇団冬組のトップスター、里見星の演技をそっくり模倣して演じていたさらさは、自分にしか演じられない個性を出せと言う安藤に戸惑う。幼い頃から恋人の白川暁也と並び、古典歌舞伎の伝統芸を模倣する稽古ばかりをしてきたさらさにとって、役柄を憑依させたような演技以外は馴染みのないものだった。自分らしい演技を模索するさらさは、紅華音楽学校に入学して以来、初めての大きな壁にぶつかる事となる。
第2巻
夏休みになり、紅華音楽学校の寮を出た渡辺さらさは、ルームメイトの奈良田愛を伴い、東京浅草の実家に一時帰省した。愛は、初めてできた友達のさらさの家族に会えるという事で大喜び。浅草に着き、畳屋の祖父、渡辺健宅へ向かうさらさは、すれ違う人々に必ずと言っていいほど話し掛けられる人気ぶりだった。さらさの明るくてまっすぐな人柄に改めて触れた愛は、よりさらさにあこがれる自分に気づくのだった。健宅に着くと、そこではさらさの恋人の白川暁也が待っていた。二人の再会は、さらさが紅華音楽学校に入学して以来初めてのものだったが、愛は、二人のあいだに恋人同士特有の甘い空気がない事に首を傾げる。そんな愛をよそに、暁也はさらさと愛を、自身が出演する歌舞伎公演へと誘う。幼少期に、女性であるために舞台に上がれないという挫折感を抱える原因となった演目「助六」を見たさらさは、改めて歌舞伎の素晴らしさを感じ、また自身がこれから歩むべき歌劇女優としての成功を胸に誓うのだった。そして、奮起するさらさを前に愛は、「私達には銀橋がある」と激励するのだった。
第3巻
夏休みが明けて、紅華音楽学校の新学期が始まった。今年は10年に1度の、紅華大運動会の開催年で、紅華音楽学校の生徒達も、専科と合同で紅華歌劇団の各組をサポートする事になった。専科とはどこの組にも属さないベテラン女優達を指すが、渡辺さらさと奈良田愛ら、予科生は、専科の一条明羽や野原ミレイの指導のもと、運動会準備を着々と進めていく。準備中、ミレイがかつて演じたジュリエットの大ファンだった沢田千秋は、先日の演劇授業で発表した「紅華版ロミオとジュリエット」でジュリエットを演じた事をミレイに報告し、激励を受けて喜ぶ。だが沢田千夏は、先日の発表会で愛にジュリエット役を譲ってしまった事を後悔し、千秋の無邪気で無神経な喜びように怒りを爆発させる。小さな嫉妬心は、千夏に、双子とはいえ千秋と自分は別個体である事を再認識させる事となったが、双子だからこそ分かり合える事もあると思い直し、将来にわたり、共に並んで歩く日を目指してがんばっていく事を誓うのだった。
紅華大運動会開催日が差し迫る中、夏組の組対抗リレー出場予定者が捻挫してしまうハプニングが発生する。夏組トップスターの椎名に相談された一条は、記念すべき100期生の中から代走者を選定しようと言い出す。
第4巻
渡辺さらさは一条明羽の独断により、紅華大運動会の組対抗リレーで、夏組のピンチヒッターに抜擢された。成績関係なく、あえてイレギュラーな選抜をしたと語る一条だが、この決定に納得のいかない紅華音楽学校の生徒達の嫉妬心を一身に受け、さらさは居心地の悪い思いをする事となる。だが、人前に立ったり目立つというのはそういう事なのだという奈良田愛の助言を受け、さらさは平常心を取り戻すのだった。紅華大運動会当日、何かの役を演じてしか人前に立った事のないさらさは激しく緊張するが、里見星に、代走者のばかでかい女の子の役を演じていると思い込めばいい、という助言を受けて冷静になる。組対抗リレーの本番を迎え、並走する里見にぶつかられて共に転倒するハプニングに見舞われたさらさは、観客が観たいのはただのリレーではなく、歌劇女優達の勇姿だという事を意識し、里見に華を持たせる形で競技を終える。紅華大運動会終了後、その機転を里見に感謝されたさらさは、伝統ある紅華乙女のあるべき姿をその身で感じ、自身の目指す道を再認識するのだった。紅華大運動会が終わると、「紅華音楽学校文化祭」と銘打たれた、本科生の卒業発表会の準備が始まる。予科生は、例年たたき台としてコーラスをする程度だが、今年は国広茂登の提案で、予科生も演劇をする事となった。その演目は、安藤守が授業でさらさ達に演じさせた「紅華版ロミオとジュリエット」だという。
第5巻
紅華音楽学校文化祭で演じる「紅華版ロミオとジュリエット」は、10分間の寸劇のため、予科生四十人中四人しか舞台に出られない。ざわめく予科生達に、安藤守はオーディション形式で演者を決めると発表する。男役のロミオとティボルト、どちらの役に立候補するか悩んだ渡辺さらさは、前回の発表会のリベンジの意味も込めてティボルト役に志願。自分にしか演じられないティボルトを発掘しようと奮闘するさらさは、奈良田愛に、役を理解し、役の人生に寄り添う事が大切だと助言されるが、ロミオを激しく憎みながら死んでいくティボルトに、いまいち感情移入できずに頭を抱える。そんな中、さらさは幼少期に、女性であるために歌舞伎役者になれなかった自分が、歌舞伎役者として順調に突き進む白川暁也をひどく羨んでいた事を思い出す。暁也が歌舞伎をできなくなればいいとすら願った、ひどく醜い激情に呑まれた日の事を振り返ったさらさは、自分の中で、何か新しい感情が芽生えた事を感じ取るのだった。一方、愛はさらさと共に銀橋を渡る夢を叶えるために、何が何でもジュリエット役を勝ち取らねばならないというプレッシャーに押し潰されそうになっていた。愛はオーディション当日まで、ジュリエットの恋心が理解できずに苦しんでいたが、そんな中、入学した時から、キラキラと明るい存在感で、そばにいるだけで心が躍ったさらさへのあこがれをロミオへの慕情へと置き換え、見事に役を演じ切るのだった。
関連作品
本作『かげきしょうじょ!!』は、斉木久美子の『かげきしょうじょ!』の続編にあたる。前作では、渡辺さらさと奈良田愛が紅華音楽学校への入学を志望した理由や、重度の人見知り、かつ男性嫌いの愛が、紅華音楽学校の寮で同室になったさらさに心を開いていく過程が描かれており、本作の前日譚となっている。
テレビアニメ
登場人物・キャラクター
渡辺 さらさ (わたなべ さらさ)
紅華音楽学校に100期生として入学した少女。年齢は16歳で、身長は178センチ。『ベルサイユのばら』の「オスカル」にあこがれて紅華音楽学校へ入学した。非常に前向きで明るい性格で、天然なところがある。余計な一言も多いが、悪気がない事をみんなが知っているため、誰からも好かれている。紅華歌劇団で一番好きな演目は「ベルサイユのばら」だが、祖母が好きだった「巴里の白い花」という昔の演目も好きで、台詞や歌もすべて覚えている。 極度のアニメ好きで、会話の端々にアニメネタを仕込むほどのめり込んでおり、「床の王様」というアニメのフィギュアを奈良田愛にプレゼントされた際には、絶叫して喜んだほど。体幹が鍛えられている事から、付け焼刃のバレエも様になると教師に褒められている。 幼い頃からいわゆるごっこ遊びや古典歌舞伎で舞台を経験してきたため、演技は完璧に模倣する事ができる。一方で、自分ならではの演技をする事は苦手で、トップスターになるには独自の個性を見つけ出さなければならないと安藤守に指摘され、思い悩む事となる。幼い頃、「助六」に一度だけ代役として出演した事をきっかけに、歌舞伎役者になりたいと真剣に思うようになった。 しかし「助六」になりたいと公言したところ、女子は絶対に歌舞伎役者にはなれないと言われてから、「絶対になれない」という言葉は呪いの言葉として嫌っている。
奈良田 愛 (ならた あい)
紅華音楽学校に100期生として入学した少女。年齢は16歳。国民的人気アイドルグループ、JPX48の元メンバーで、未だに男性ファンが多い。アイドル時代の愛称は「奈良っち」で、紅華音楽学校のクラスメイトにも同じ愛称で呼ばれ、親しまれている。しかしJPX48内では、その無表情さから「ロボ」とあだ名されていた。人付き合いが苦手で、幼少期のトラウマから、特に男性が苦手。 だが紅華音楽学校に入学し、寮で同室となった渡辺さらさの底なしの明るさに触れるうちに心を開くようになる。初めてできた友達という事もあり、さらさとの友情を大切にするあまり、さらさの恋人である白川暁也に過剰なライバル心を抱く。小学校、中学校にあまり通っておらず、高校からは一般授業をやらない紅華音楽学校に入学してしまったため、学業が苦手。 漢字が特に苦手で、アイドル時代はマネージャーが難しい漢字にはふりがなを振ってくれていた事から、これまで漢字が不得手である事に気づかなかった。紅華音楽学校で漢字だらけの台本を手にして、初めてこのままでは駄目だと自覚し、星野薫に助けを求めて、学校生活を精いっぱいがんばる事を決意した。 すでにアイドルとして大きな舞台を経験しているため、堂々とした演技を見せ、華もある。しかし、男役に恋する観客目線に寄り添った演技ができない点から、娘役トップスターにはなれないのではないかと安藤守に指摘された。のちにさらさへのあこがれを慕情と置き換える事で、その弱点を克服した。くじ運が非常にいい。
奈良田 君子 (ならた きみこ)
奈良田愛の母親。人気実力派女優。演じる役を理解し、役の人生に寄り添う事が演者として一番大切な事だと愛に教えた。容姿端麗で男遊びが激しいが、男を見る目はない。家に連れ込んだろくでもない男が、幼い愛にも色目を使って来た事が、愛が人間不信に陥る原因となった。
星野 薫 (ほしの かおる)
紅華音楽学校に100期生として入学した少女。年齢は18歳。母親と祖母が紅華歌劇団出身で、祖母はかつて「春の白雪姫」と謳われた、人気の娘役トップスターだった。負けん気が強いためプロ意識も高く、クラスのリーダー的存在。演技の練習場所に困った渡辺さらさが、道端で練習したらどうかと提案した際、未来の紅華女優がそんな事をしたら客の夢を壊すと大激怒した。 怒りやすく短気な性格に見られがちだが、それは紅華女優だった母親や祖母のような女優にならなければならないというプレッシャーが、その大きな理由となっている。一番好きな紅華女優は、冬組の男役として人気の高いトップスターの里見星。星野薫自身も男役を志望しているため、夏の暑さに辟易した際、躊躇せず髪を切ってからショートカットにしている。 実家は神奈川県の海のそばで、紅華音楽学校入学前の一般高校在学中は、校則違反ではないと言い張り、毎日日傘を差して登下校し、日焼け予防に命を懸けていた。
安藤 守 (あんどう まもる)
紅華音楽学校で演劇および演技指導の授業を担当している男性教師。元役者であった縁で、教頭と教師の大木にスカウトされ、紅華音楽学校で教鞭を執る事になった。座学講義ばかりで実技がまったくない授業カリキュラムを疑問視した渡辺さらさの声を聞き、舞台に立つうえでもっとも大切な表現力を身につけたい、という生徒達の声を教頭に伝えた。 これにより、何十年も変化のなかった演技カリキュラムを改革する偉業を成し遂げた。やる気のなさそうな態度とは裏腹に、生徒思いな熱い性格の持ち主。10年ほど前、在籍していた日本屈指のミュージカル劇団「颯」の劇団員として演じたファントムが大当たりした過去を持ち、「ファントム」のあだ名で呼ばれている。その後、事故で本番中に奈落に落ちて、杖を使う生活を余儀なくされたため、「颯」を去る事になった。
白川 暁也 (しらかわ あきや)
歌舞伎役者の男性。梨園名家の美里屋宗家十六代目「歌鷗」に一番近いとされる。幼い頃に通っていた日本舞踊教室で渡辺さらさと知り合った。さらさの幼なじみで、恋人である。さらさより2歳年上で、本名は「宏」。かつて歌舞伎役者だったが、若いうちにあっさり引退し、現在は洋食屋を営んでいる父親がいる。そんな父親の代わりに、白川暁也を立派な歌舞伎役者に育て上げようと奮闘する母親に、日々プレッシャーをかけられながら過ごしている。 初舞台では、同じ舞台に立つ子役がインフルエンザで倒れたため、一人で舞台に立つ事になった。その際、観劇に来ていたさらさが代役で舞台に上がる事になり、初舞台ながら堂々とした態度でいるさらさに、役者としての天性の才能を感じた。
白川 煌三郎 (しらかわ こうさぶろう)
古典歌舞伎役者の男性。白川暁也の兄弟子。屋号は美里屋で、白川歌鷗の娘婿。渡辺さらさの16歳の誕生日に、16本の真っ赤な薔薇の花束を贈るようなキザな性格。暁也とさらさの幼なじみで、二人の恋仲をからかいつつも温かく見守る。子供の頃に日本舞踊を習いに来ていたさらさに、「大先生」と呼ばれていた。
国広 茂登 (くにひろ しげと)
紅華歌劇団で、かつて脚本演出家を務めていた男性。80歳を超えても、週に2回は紅華音楽学校に演技指導に通うなど、紅華歌劇団への愛情は随一である。紅華音楽学校名誉教授であり、紅華音楽学校の予科生は、まず紅華乙女として恥ずかしくないよう演技の知識を学び、見識を広げるべきだと考えている。そのため、授業ではある程度年月が進むまで、実技よりも座学中心のカリキュラムを組んでいた。 頑固な性格で、演技指導の実技をもう少し早い段階から取り入れたいと進言した安藤守の意見を頑なに拒んだが、それは誰よりも紅華歌劇団を愛しているためである。子供の頃に紅華歌劇団の大ファンになったが、女性しか紅華歌劇団に入れない事を知り、泣く泣く歌劇団員の道をあきらめた。 だがその後、当時のトップスターである白薔薇のプリンスの出待ちをして脚本をもらい、紅華歌劇団とかかわりを持つために、脚本家になるべく勉強を始めた。その後、白薔薇のプリンスにサインをしてもらった脚本は空襲で焼けてしまったが、みんなに夢と希望を与えるために、白薔薇のプリンスと共に紅華歌劇大劇場を復興し、脚本家として本格的に活動を始めた。 のちに白薔薇のプリンスと心を通わせ、結婚。現在は、高齢のため入院中の白薔薇のプリンスのもとに足繁く通う日々を送っている。偶然出会った渡辺さらさと紅華歌劇団の演目の話で意気投合し、さらさを気に入る。さらさの高身長は個性として突出し過ぎているため、センターに立つのが一番収まりがいいと語り、トップスターを目指して頑張るようにと激励した。 「エリザベート」という犬を飼っており、紅華音楽学校の近くが毎日の散歩コースになっている。
沢田 千夏 (さわだ ちなつ)
紅華音楽学校に100期生として入学した少女。年齢は16歳。非常に内気な性格で、演技の練習で「紅華版ロミオとジュリエット」を演じる事になった際、元アイドルでみんなの期待を一身に受ける奈良田愛に遠慮し、ジュリエットの役を譲り、自身は乳母を演じる事に甘んじた。発表会では緊張して、台詞を言い間違えるが、とっさにコミカルな演技をして乗り切った。 その後、やはりジュリエットを演じればよかったと後悔し、ジュリエットを演じて喜ぶ沢田千秋に嫉妬心から怒りを爆発させるが、専科の野原ミレイを通じて仲直りする。双子の妹、千秋と共に紅華音楽学校を受験した際、自分だけが合格してしまったため、千秋と同時入学するために、一度合格を見送った過去がある。 ミレイがかつて演じた「紅華版ロミオとジュリエット」のジュリエットが大好き。
沢田 千秋 (さわだ ちあき)
紅華音楽学校に100期生として入学した少女。年齢は16歳。かつて双子の姉の沢田千夏と紅華音楽学校を同時受験したところ、自分だけ落ち、部屋に引きこもって泣き続け、千夏に入学を見送らせて翌年共に再受験した過去がある。自分のために入学を辞退した千夏を気にしており、100期生受験の合格発表の日は、自分の番号よりも千夏の番号を先に見つけて喜んだ。 基本的に姉思いで、いつもべったりくっついているが、紅華音楽学校の受験結果を通して、双子でも別の人間なのだという事をシビアに悟っている。専科の野原ミレイがかつて演じた「紅華版ロミオとジュリエット」のジュリエットが大好き。
里見 星 (さとみ せい)
紅華歌劇団冬組の男役で、トップスターを務める女性。美少女好きで、かわいいものが大好き。奈良田愛を理想の顔立ちだと語り、とても気に入っている。紅華音楽学校入学当初は、娘役希望だった。その理由はお姫様にあこがれ、紅華女優になってドレスを着たかったから。しかし入学当初156センチだった身長が、予科生の時に7センチ伸び、さらに卒業間際には170センチに達してしまった。 そのため泣く泣く娘役を断念し、男役に路線変更したが、男役として紅華歌劇団に所属する事が決まった時には、ショックのあまり紅華音楽学校を飛び出し、失踪した経験を持つ。本名は「矢部靖子」で、芸名の「里見」は、母方の田舎で、今はもうない「里見村」から取っている。「星」は本名から取ったものだが、娘役としての芸名は「里見星羅」にしようと考えていた。 暗い演技に定評があり、紅華歌劇団で冬組トップスターに就任したあとの初演目は、「オペラ座の怪人」のファントム役で、相方の娘役にはこの役を「究極のヤンデレ」と評された。ちなみに初恋の相手は、かつてファントムを演じた安藤守で、観客の立場ではなく、実際に教師として安藤が目の前に現れても、安藤に対する恋心は変わる事がなかった。 紅華歌劇団入団直前に、退団したら結婚してほしいと思いのたけを打ち明けたが、返事はもらっていない。ボーイッシュな見た目に反して、乙女チックな一面を持つ。星野薫が最もあこがれている現役歌劇女優である。
渡辺 健 (わたなべ けん)
渡辺さらさの祖父。浅草で畳屋を営んでいる。妻を亡くしたあと、さらさが紅華音楽学校へ入学するまで、さらさと二人暮らしをしていた。気取らない性格の江戸っ子。さらさが紅華音楽学校に入学したあとも、顔を見せに来てくれる白川暁也を気に入っている。
のの
渡辺健の家で飼われている猫。大柄で、ずんぐりとしていて、昼寝が大好きである。奈良田愛を気に入り、すぐに懐いた。
白川 巴 (しらかわ ともえ)
白川歌鷗の妹。日本舞踊教室を営みながら未来の歌舞伎役者達を指導している女性。左眉の上に大きなほくろがある。白川暁也にそそのかされて、幼い渡辺さらさに、女性は決して歌舞伎役者にはなれないと言い、深く傷つけた事を後悔している。
白川 歌鷗 (しらかわ かおう)
古典歌舞伎役者の重鎮である男性。人間国宝でもある15代目白川歌鷗。白川煌三郎と白川暁也を弟子に持つ。幼い頃、妹の白川巴の指導する日本舞踊教室に通っていた渡辺さらさには、「大大先生」と呼ばれていた。
一条 明羽 (いちじょう あきは)
紅華歌劇団 専科の女性。専科のリーダー格であり、つねに冷静沈着な人格者。現役トップスターにあこがれられるほどの威厳を持ち、紅華歌劇団の理事も兼任している。渡辺さらさが祖母と観劇し、大ファンになった10年前のオスカルを演じていた人物。
野原 ミレイ (のはら みれい)
紅華歌劇団 専科の女性。専科のリーダー格であり、元娘役を務めていた。かつて演じた紅華版ロミオとジュリエットのジュリエット役が非常に好評で、沢田千秋と沢田千夏は彼女の演技の大ファンである。
奈良田 太一 (ならた たいち)
紅華音楽学校のバレエ教師。奈良田愛の叔父。愛が唯一心を開いている男性。愛が幼い頃から、親代わり、兄代わりとして愛の面倒を見てきた。恋愛対象は男性である。
山田 彩子 (やまだ あやこ)
紅華音楽学校に100期生として入学した少女。年齢は16歳。紅華音楽学校に入学できた事で気が緩み、お菓子を食べ過ぎてぽっちゃりしてしまった事を気にして、つねにダイエットを意識している。予科生で一番の歌姫である。
野島 聖 (のじま ひじり)
紅華音楽学校の99期生の少女。本科生として、奈良田愛の指導役を務める。アイドルグループ、JPX48の大ファンであり、元メンバーの愛に非常に甘い。JPX48の中ではセンターの小園桃が一番好きで、紅華音楽学校に入学する前は、握手会にも頻繁に通っていた。JPX48の中で小園桃が一番好きな理由は、野島聖自身がクラスの女子に孤立しがちだった時、握手会で誠心誠意励ましてくれる小園桃のプロ意識に尊敬の念を抱いたからである。 紅華歌劇団所属後は娘役を希望しており、あこがれの男役トップスターに観客全員の思いを代弁し、寄り添えるような娘役トップスターになろうと、志を高く持っている。粗野な渡辺さらさが愛のそばにいると、悪影響になるのではないかと心配している。 さらさの事が気に入らないが、彼女に注意する際は、私情はいっさい挟まないプロ意識を持つ。中山リサに性格が悪いと言われた事を根に持っており、さらさをいじるたびに、リサに対して「私は性格が悪いから仕方がないよね」と言って邪悪に笑うのが通例である。
中山 リサ (なかやま りさ)
紅華音楽学校の99期生の少女。本科生として、渡辺さらさの指導役を務めるラテン系の美女。さらさの高身長を見て、彼女より高身長の男役が現れない限り、さらさがオスカルを演じる事は不可能だろうと瞬時に悟ったが、さらさの心情を考えて無言を貫いた。お転婆なさらさに手を焼いているが、しっかりと注意して指導するよう、野島聖に口を酸っぱくして言われている。 厳しい物言いを苦手としているが、一生懸命言葉を尽くしてさらさの指導に務めている。
竹井 (たけい)
紅華音楽学校の99期生の少女。本科生の委員長を務めている。つねに冷静沈着に振る舞い、胆が据わっている人物で、本科生にも予科生にも一目置かれている存在。
杉本 紗和 (すぎもと さわ)
紅華音楽学校に100期生として入学した少女。年齢は16歳。まじめで正義感の強い性格で、成績も優秀のため予科委員長を務めている。紅華歌劇団オタクで、トップスターと校内で会話しただけで、鼻血を出すほど恋焦がれている。バレエコンクールの優勝経験を持つため、予科生の中では誰よりも勝負ごとにシビアでプレッシャーに強い。 紅華歌劇団の美しさの一つは各組の団結力だと考えているため、つねに冷静さと公平さを忘れないように気を配っている。
集団・組織
専科 (せんか)
紅華歌劇団の舞台に立つが、どこの組にも属さないベテラン女優達を指す総称。芸に長けたプロフェッショナル集団で、各組に特別出演する縁の下の力持ち的な存在である。各組のトップスターや組長も頭の上がらない、紅華歌劇団のヒエラルキーにおいて頂点を越えた雲の上の存在。
紅華歌劇団 (こうかかげきだん)
大正時代に創設され、未婚の女性だけで構成された歌劇組織。春、夏、秋、冬の4組で構成されている。全国に二つの劇場を持ち、収容観客数はそれぞれ2500人。舞台役者も裏方も、伝統を非常に重んじる傾向にある。衣装部は、1点1点の衣装をすべて手縫いで飾り付けするこだわりを持ち、大道具部隊は、紅華歌劇団で使用するすべての大道具を、大劇場の舞台のすぐ裏で製作している。 歌劇団4組の各頂点に君臨する役者を「トップスター」と呼ぶ。各組には男役トップスターと娘役トップスターがおり、公演で必ず主演を務める。紅華歌劇団のトップスターは、歌劇団300人中たったの八人しか存在しない、紅華音楽学校生にとって雲の上のあこがれの存在である。
場所
紅華音楽学校 (こうかおんがくがっこう)
紅華歌劇団のスターを育成する2年制の音楽学校。紅華音楽学校に通う生徒は「音高生」の通称で呼ばれる。受験資格は中学3年生から高校3年生まで。1年生は予科生、2年生は本科生と呼ばれる。予科生にとって、一人のミスは連帯責任として扱われる。本科生は予科生にマンツーマンで生活態度や掃除当番の指導にあたる。
イベント・出来事
紅華大運動会 (こうかだいうんどうかい)
紅華歌劇団が10年に1度、秋に開催する大掛かりなファンイベント。リレーや綱引きなどの一般的な種目のほか、ファン参加型の椅子取りゲームや大玉転がしなどが行われる。ファンイベントのため、紅華音楽学校の生徒はほとんど競技に参加せず、専科と共に雑務や小道具づくりの裏方仕事を中心に行う。紅華歌劇団員の勇姿を見せるために特に力を入れているのは、入場行進とハーフタイムショーで、これには紅華音楽学校生も参加する事になる。 毎回、優勝を狙う各組のトップスターが、自衛隊や相撲部屋に体力作りの相談や指導を願い出ており、非常に本気度の高い熱戦が繰り広げられる。
紅華音楽学校文化祭 (こうかおんがくがっこうぶんかさい)
紅華音楽学校で毎年1月末に、紅華小劇場で2日間かけて行われる恒例行事。本科生の卒業発表を兼ねているため、基本的に本科生の演目が多い。1日目に予科生のコーラス、本科生の紹介フィルム上映や、本科生によるダンスショーもしくは日舞が披露される。2日目には本科生によるオムニバスミュージカルなどが行われるのが通例。
その他キーワード
紅華版ロミオとジュリエット (こうかばんろみおとじゅりえっと)
ウィリアム・シェイクスピアの戯曲『ロミオとジュリエット』を、紅華音楽学校で独自にアレンジした舞台演目。シェイクスピア版との相違点は、モンタギュー家とキャピュレット家の因縁に加えて、ティボルトもジュリエットに思いを寄せている設定となっているところである。ロマンチックをさらにロマンチックに見せる紅華流の舞台が見どころの作品。
助六 (すけろく)
古典歌舞伎の演目の一つ。江戸文化の華やぎを集めたもので、数ある古典歌舞伎の中で、渡辺さらさがもっとも好きな演目。
紅華コード (こうかこーど)
紅華音楽学校の暗黙のルール。具体的には紅華歌劇団の団員の年齢や本名を詮索しないという事。「団員は舞台の夢を見せるフェアリーである」というのがその理由である。主に専科のベテラン女優達に適用される。