かぞくを編む

かぞくを編む

おっちょこちょいなケースワーカーの須田ひよりが、さまざまな養子縁組の相談と真摯に向かい合い、問題解決に向けて奔走する。養子を欲しがっている夫婦や、子供を産みながらも自信を持てずにいる母親など、子供に関する悩みを抱えた人々が、民間養子縁組あっせん機関のひだまりの子を通じて子育てに前向きになっていく姿を描いたホームドラマ。学生妊娠や、性被害の末に生まれてしまった子供など、社会的な問題も多数盛り込まれている。講談社「BE・LOVE」2018年24号から2019年11月号にかけて連載された作品。

正式名称
かぞくを編む
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かぞくをあむ
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あらすじ

黒沢夫妻と京

民間養子縁組あっせん機関であるひだまりの子で働く須田ひよりは、説明会に参加した黒沢龍黒沢晴から面談を希望され、それに応じることとなった。黒沢夫妻は、不妊治療を止めながらも、子供を育てることはあきらめきれないという。若いながらも熱意あふれる姿を見せる二人に、ひよりは彼らになら子供を任せてもいいかもしれないと考える。しかし、その様子を見ていた宮本は、二人の様子をもう少し注意深く見てから決めるようにと、ひよりに忠告する。これを受けたひよりは翌日、黒沢夫妻を注目したところ、不妊治療の話になると晴が黙り込んでしまうことに気づく。すると晴は、かつて不妊治療の末に妊娠に成功したものの、流産したことによって精神に大きな傷を負ったことを語り、龍に対してまずはそれに向き合うべきではないかと主張する。龍も、晴に負担をかけたくない一心で、流産したという事実から目を逸らしていたことを認め、夫妻は改めて、産まれることができなかった子供の分まで愛してあげたいと強い思いを示す。その姿を見たひよりと宮本は、彼らなら子供を幸せにしてくれると信じて、未成年で出産し、育てることが困難になった母親が泣く泣く手放した赤ちゃんのを預けることを決める。こうして、黒崎夫妻は京を引き取り、精いっぱいの愛情をもって彼に接していく。しかし、晴は責任感が強すぎるあまり、京の世話を自分一人でやらなければならないという強迫観念に苛まれてしまい、ひだまりの子へのレポートも、京のことばかりを記載して、晴自身の悩みについては何一つ打ち明けなかった。晴の精神が疲弊していることを察したひよりは、黒崎夫妻の家を訪問し、晴に対して、頼ることは決して悪いことではないと諭す。それを聞いた晴は、自分で自分を追い込んでいることを悟り、龍やひよりに頼りつつ、心にゆとりを持って京と接することを決意するのだった。

小暮夫妻と栞奈

ひだまりの子に、人気インテリアコーディネーターの小暮葉子が、夫の小暮静次を伴って現れる。葉子はもともと結婚する気はなく、40近くまで独身だったが、ふとしたきっかけで静次と出会い、恋愛結婚をしたという。そして、子供が好きな静次のために、ひだまりの子に養子縁組の依頼に訪れたのである。葉子のファンである須田ひよりは、彼女に会えたことに若干舞い上がりつつも、小暮夫妻の覚悟を本物であると見定め、37歳の母親が病気で育てることができなくなった鈴木栞奈を託すことを決める。葉子は、静次と共に栞奈を慈しみ、さらに雑誌で、栞奈をモデルにした連載企画を立てるなど、仕事と家庭を両立するために懸命に励んでる様子をひよりに伝えていた。しかしそんな葉子も、葉子の母親の干渉が過剰であると感じる悩みを抱えていた。さらに、母親と電話をしている最中、栞奈がベビーベッドから落ちて頭を打ってしまう。幸い、健康に別状は見られなかったものの、すぐさまひよりに連絡し、慎重に栞奈の経過観察を行っていく。そんなある日、葉子の母親が居合わせる中、ひよりが小暮夫妻の家庭訪問に訪れる。葉子と葉子の母親が、母親としての干渉についていい合う中、子育てに当たって遠慮や我慢こそが何よりの障害になることを知るひよりは、自分や静次の前で二人が言いたいことをすべて話すよううながす。しかしその時、頭を打った後遺症により栞奈が体調を崩すが、病院に連れて行った結果、幸い大事に及ぶことはなかった。葉子は、ひよりのアドバイスにより互いに理想の母親であろうとしすぎたことに気づくと共に、母親がいかに自分を大事にしてくれていたかを思い出し、和解する。そして、ひよりに対して改めて、三人で栞奈をしっかりと育てることを約束するのだった。

渡辺夫妻と大海

5年前に、ひだまりの子の支援によって渡辺夫妻と養子縁組をした渡辺大海は、幼稚園の中で「ぼくには母親が二人いる」と言っては、怪訝な目を向けられていた。大海は両親の都合でしばらくのあいだアメリカに行くことが決まっており、生みの母親に会いたいと願っていたのである。しかし、大海の生みの母親は性被害に遭い、堕胎もできなくなったことで大海を産んだという過去を持ち、現在も心に傷を負っているためとても会わせられる状況にはなかった。そんな中、大海は宮本が渡辺夫妻に住所の書かれたカードを渡していたことを思い出し、そこに生みの母親が住んでると思い込んで、一人で向かってしまう。そして実際に家を訪れるが、そこは須田ひよりの家で、事情を悟ったひよりは、大海がこれほどに生みの母親に会いたがっていることを認識すると、なんとかしてやれないかと思い悩む。これに対して宮本は、大海を思いやるのはわかるが、下手に動いて生みの母親の心の傷を開く事態になったら、それこそ取り返しがつかなくなると、ひよりを叱責する。改めて、生みの母親の苦労を知ったひよりは、知り合いの児童相談所職員である本田、弟の須田志音に相談した結果、大海に生みの母親が辛い気持ちになっていることを、無論事情を伏せたうえで伝える。ひよりは、大人の都合で大海に我慢を強いるという欺瞞を悔いるが、大海は、自分には渡辺夫妻やひよりがいてくれることを心強く思うと、感謝の気持ちを打ち明ける。そして、生みの母親の心の傷が癒えることを願いつつ、アメリカへと向かう。ひよりは、自分は大海の力になれたかわからなかったが、宮本から、いつかわかる日が来るかもしれないと言われ、大海から別れ際にもらった手紙に思いを馳せるのだった。

流羽と愛流

恋人とのあいだに子供ができた斎藤流羽は、恋人にLINEで相談を持ち掛ける。しかし、長いあいだ待たされ続けた挙句、「堕胎するための金なんてない」と無責任極まりない返答をされたことで早々に見切りをつけ、働こうとしない父親を追い出した流羽の母親と同様に、一人で子供を産み、育てることを決意する。しかし流羽は、勤めていた派遣先の会社からは育児休暇を認められず、妊娠に対する風当たりが強いことを実感しつつも、それに負けまいと意識を改め、流羽の母親と共に精一杯働き、やがて娘の斎藤愛流を出産する。子供が生まれたことで今まで以上に充実した日々を送っていた。しかしその矢先に、流羽の母親が事故に遭い、経済面で苦しくなってしまう。そこで流羽は、職場の人たちの好意で愛流の面倒を見てもらいながら、流羽の母親がパートをしていたスーパーマーケットで働くようになる。そして、愛する愛流や大切な母親と共に暮らしたいという理想と、生活の破綻を防がなければならない現実に悩んだ末に、本田の所属する児童相談所に相談に訪れる。本田は流羽の悩みに真摯に向き合い、まずは何より自分を追い込まないようにと助言。そして、ひだまりの子とケースワーカーの須田ひよりを紹介する。流羽は、親身になって相談に乗ってくれるひよりに心強さと好感を抱くが、労働と子育て、そして流羽の母親のお見舞いなどをこなすうちに疲弊し、それを聞いたひよりから、一時的に愛流を養子に出すことを視野に入れてはどうかとアドバイスされる。愛流から離れたくない流羽はひよりの言葉に対し、心にゆとりがないことから、つい「子供を産んだこともないくせに」と突っかかってしまう。そんな彼女にひよりは、自分もまた、高校生時代に妊娠と出産を経験しており、その際に宮本須田志音たちに助けてもらったことを告白する。そのうえで、保護者との生活が困難な就学前の子供を保護して養育する「乳児院」に、3か月ほど預けることを提案する。改めてひよりの真摯な心に触れた流羽は、愛流の幸せを願い、その提案を受け入れることを決心するのだった。

登場人物・キャラクター

須田 ひより (すだ ひより)

ひだまりの子のケースワーカーとして働いている女性。年齢は26歳。弟の須田志音と同じアパートに住んでおり、両親とは離れて暮らしている。説明会でアンケート用紙をうっかり忘れるようなおっちょこちょいな性格で、調子に乗りやすい一面を持つことから、上司の宮本に叱責されることもしばしば。しかし、相手を思いやる気持ちは非常に強く、母親としての苦労や幸せをよく知っていることから、養子縁組によって親になる人たちからは強い信頼を得ている。それだけに、相手に肩入れしすぎることも多く、養子縁組の決断を迫られる時は、迷いを見せることもある。また、困った時は、助け合ったり他者に頼ることを肯定しており、責任感が強すぎるゆえになんでも一人でやろうとするような人に対しては、特に世話を焼きたがる傾向にある。実は高校時代に、同級生の恋人とのあいだに子供ができてしまい、さらにその恋人に裏切られた。さらに、母親からは子供を堕胎するように求められたが、その時に相談役として世話になった宮本や、志音に助けられ、出産したうえでひだまりの子を通じて養子縁組をすることに成功する。このことが、ひよりがひだまりの子で働くきっかけの一つとなった。ひだまりの子と関係の深い児童相談所の職員である本田や東とは親しく、本田からはすぐ人に頼ることに辛辣な物言いをされることも珍しくないが、一生懸命なところは認められている。黒沢龍、黒沢晴の夫妻や、小暮葉子、小暮静次の夫妻などの相談と真摯に向き合い、彼らの養子縁組の成立に一役買う。また、SNSで知り合った美空が、恋人に裏切られながらも子供を産んだ際も、同じ過去を持つ者として相談に乗ってその心を救うなど、他者を思いやる心によって幾度も成果を上げている。渡辺夫妻や斎藤流羽の問題を解決してから8年経ったあとも、ケースワーカーとしての仕事を続けている。さらに高校時代に産んだ娘との関係も良好で、志音と共に娘の高校の卒業式に出席する。

宮本 (みやもと)

ひだまりの子に勤めている女性。須田ひよりの上司。養子縁組に関する仕事を長年にわたって続けており、冷静に物事を見つめながら、ひよりのことを日々厳しく指導する。妥協を許さない性格で、つねにリスクを考えて行動する。そのため、ひよりが大事なことに気づかなかったり、後先考えずに行動しようとした時は特に厳しく言い含めて、行動を改善するように求める。しかしそれは、養子縁組をするすべての大人と子供がを幸せになれることを重視するためである。養親になる夫婦や養子になる子供たちをつねに思いやりつつ真摯な態度で仕事に臨むところや、一人ではやりきれないと判断したら、すぐに周りの協力を仰いで、最善の結果を出そうとする、ひよりの姿勢については高く評価している。ただし、彼女が調子に乗りやすいことを知っているため、面と向かって賞賛することは滅多にない。かつてひよりが高校生でありながら妊娠してしまった時に、彼女の母親から堕胎するよう説得して欲しいと依頼される。しかし、ひよりが赤ちゃんに罪はないと考えた結果、ひだまりの子の伝(つて)を使って子供を養子縁組に出すために尽力した。そのため、ひよりからは恩人として深く感謝されており、現在も変わらず敬意を向けられている。

須田 志音 (すだ しおん)

須田ひよりの年の離れた弟。ひよりと同じアパートに住んでおり、両親とは離れて暮らしている。高校に通いながらコックになるために料理の勉強に励んでいる。その料理の出来栄えはひよりや斎藤流羽から高い評価を得ている。姉に似てポジティブな性格で、軽口を叩くなど、調子に乗りやすいところも姉譲り。ソーシャルゲームをプレイしており、ひよりにお小遣いをせがむなど、今時の子供らしいところも見受けられる。その一方で、他者を思いやる心はひよりに負けておらず、高校生のひよりが妊娠した時は、叱責する両親をよそに自らを「おじさん」と称して、母親になるひよりと共に彼女の子供を守ろうとするなど、宮本と並んで彼女の大きな心のよりどころとなっている。ひよりが渡辺夫妻や流羽の問題を解決してから8年経ったあとも、ひよりとの関係は変わらず良好で、彼女の娘が高校を卒業した時は、ひよりといっしょに卒業式に出席した。

月島 (つきしま)

食堂で働いている青年。優れた料理の腕を持つ。須田ひよりが昼食を摂る時によくひだまりの子の事務所まで出前に訪れ、時にはおひたしのサービスなども差し入れている。ひよりに片思いをしており、出前料理が美味しいと言われた時は顔を赤らめて喜ぶため、宮本やひだまりの子の同僚たちからはその思いを悟られているが、肝心のひよりはまったく気づいていない。また、児童相談所から訪れた本田や東を見た時は、ひよりの彼氏ではないかと焦るなど、そそっかしい一面も見られる。なお、ひよりに娘がいることは知らない様子。

黒沢 龍 (くろさわ りゅう)

妻の黒沢晴と共にひだまりの子の説明会に参加した男性。年齢は36歳。心優しい性格で、つねに妻を思いやっている。説明会が終わると面談を希望し、かつて不妊治療を行っていたこと伝えたうえで、妻といっしょに幸せな家庭を築きたいという考えを明かした。しかし、宮本や須田ひよりからは、面談の最中に晴と目を合わせず、発言もほぼ黒沢龍のみが行っていたことから、安心して子供を託すことはできないと考えられてしまう。そして、のちの面談で、晴が実は2度妊娠に成功したものの、いずれも流産していたことを明かす。そして、妻のためとはいえ大切なことを隠していたことを詫び、自分たちが親になるにはまだ早いかもしれないと打ち明ける。しかし、養子を迎えるために辛い過去を明かしたことから、ひよりたちから子供を迎えて愛したいという気持ちは本物であると信頼されるようになる。そして、京と呼ばれる赤ちゃんを託され、半年後の特別養子縁組の審判に向けて準備を進めていく。しかし、晴が京と養子縁組を行いたい一心から、彼女が龍のことをないがしろにしているのに気づかず、それが原因で軽いトラブルとなってしまう。花が大好きで、ガーデニングを趣味としている。

黒沢 晴 (くろさわ はる)

夫の黒沢龍と共にひだまりの子の説明会に参加した女性。龍と同様に心優しい性格だが、責任感が強過ぎるあまり、一人で問題を解決しなければならないと考えている。かつて不妊治療の末に妊娠に成功しており、明るい家庭を築けることを心から喜びながら出産の日を心待ちにしていた。しかし、2度にわたって流産をしたことから、妊娠そのものに恐怖心を抱くようになる。しかし、子供を育てたいという気持ちを抑えることができずに、養子縁組するためにひだまりの子を訪ねた。説明会に参加したのちに面談を行うが、その際に龍と一度も目を合わせなかったことから、須田ひよりや宮本から何かを隠していると不審に思われる。そして次の面談で、ひよりから何か悩みを抱えているのではないかと問いかけられ、流産の経験を隠していたことを涙ながらに語り、二人の子供に対する真摯な思いを汲み取ったひよりと宮本から、仮の養子縁組として京を託され、彼を幸せにすることを固く誓う。責任感が強すぎるあまり、時には睡眠や食事すらとらないこともあったが、赤ちゃんを育てることに執心するあまり、自分を追い詰めてはいけないことや、誰かに頼ることは決して悪いことではないことをひよりから諭され、龍やひだまりの子のスタッフたちに素直に頼ることを決める。これを契機に、人に頼ることを自然と勧めてくれるひよりに強い信頼感を抱く。夫の龍と同様に花を好み、二人でガーデニングを楽しんでいる。

(きょう)

ひだまりの子に預けられた男の子の赤ちゃん。未成年の時に出産した母親から「赤ちゃんを幸せにしてくれる人に育ててほしい」と希望され、仮の養子縁組として、黒沢龍と黒沢晴に預けられた。龍と晴の愛情を一身に受け、彼らのガーデニングによって咲き誇る花に囲まれながら、穏やかかつ幸せな日々を過ごす。しかし、時に理由がわからないまま泣くということを繰り返し、責任感の強い晴に「本当の母親じゃないから泣き止んでくれないのかもしれない」と思わせてしまう。しかし、ひよりの助言を受けた晴と龍によってゆとりを持って育てられることで、順調に成長していく。のちに正式に養子縁組を結び、「黒沢京」となる。

小暮 葉子 (こぐれ ようこ)

インテリアコーディネーターを務めている女性。年齢は42歳。本を出版したりテレビに出演したりと精力的に活動している。女性を中心にファンが多く、須田ひよりからもあこがれられている。明るくしっかりとした性格で、少々のことでは動じない意志の強さを持つ。しかし、何かと世話を焼きたがる葉子の母親をあまり快く思っておらず、過ぎた干渉に苛立つこともある。もともと結婚するつもりはなく、仕事と趣味に生きる予定でいたが、数年前にカフェで働いていた小暮静次と出会い、惹かれ合って結婚する。さらに、静次が街の子供たちから慕われていたことから、自分たちも子供が欲しいと思うようになり、夫を連れてひだまりの子を訪れる。そして、小暮夫妻の熱意や家庭を持つに十分な環境を持つと判断したひよりと宮本から、仮の養子縁組によって鈴木栞奈を預けられた。それからは、いい母親であろうと心がけつつ、連載している企画で彼女を起用したり、行き詰った時に栞奈に癒されたりと、互いにいい影響を及ぼしていく。しかし、わずかに目を離しているスキに栞奈がベビーベッドから落ちて頭を打ってしまうというアクシデントに見舞われ、自信が揺らぐ。さらに、ひよりの家庭訪問の際に、葉子の母親と口論になってしまうが、これは我慢や遠慮を続けることが、子育ての上で害になることを知っているひよりの計らいによるもので、素直な気持ちをぶつけ合うことでストレスから解放されていく。しかしその矢先に、頭を打った後遺症から栞奈が体調を崩してしまい、大きく狼狽する。

小暮 静次 (こぐれ せいじ)

カフェの店長を務めている男性。年齢は35歳。かつてアルバイトをしていた店で小暮葉子と出会い、互いに惹かれ合って結婚する。その経歴から料理が得意で、特にお菓子作りに優れた才能を発揮する。子供が好きで、小暮静次自身もその温和な性格から子供たちに好かれやすい。そのため、当初は子供を作る予定がなかったが、妻の葉子の勧めによって養子縁組を行う決意を固めて、彼女と共にひだまりの子を訪れる。まじめで責任感も強く、葉子と共に鈴木栞奈を愛情を持って接して、大切に育てようと励む。一方でやや控えめなところがあり、葉子と葉子の母親の言い争いに圧(お)されたり、須田ひよりの思い切った行動にたじろぐことも少なくない。家での料理を主に担当しており、栞奈のために凝った離乳食を自作することもある。

鈴木 栞奈 (すずき かんな)

生後6か月の女の子。37歳の母親が経済的な理由から育てることができなくなり、ひだまりの子に預けられた。ひだまりの子に面談に訪れた小暮葉子と小暮静次に、仮の養子縁組として託される。葉子と静次から愛情を注がれ、葉子の母親からも溺愛されている。また、葉子が行き詰まりから悩んでいる時におもちゃを差し出して和ませるなど、生まれて間もないながらも優しいところを見せ、葉子を強く感動させる。しかし、葉子のわずかな不注意からベビーベッドから落ち、のちにその影響で体調を崩してしまう。このことで小暮夫妻や葉子の母親、須田ひよりを大きく焦らせるが、幸い大事には至らなかった。さらに、葉子と交流を重ねるにつれて、彼女も母親から大事にされていたことを思い出させるに至り、葉子と葉子の母親の関係を改善するきっかけにもなった。のちに小暮夫妻と正式に養子縁組して、「小暮栞奈」となる。

葉子の母親 (ようこのははおや)

小暮葉子の母親。葉子のことを大切に思っており、彼女がインテリアコーディネーターとして大成したことを誇りに思っている。一方で過干渉なところがあり、さらにその対象が小暮静次や鈴木栞奈にまで及んでいることから、葉子からはあまり快く思われていない。しかし、須田ひよりが家庭訪問に訪れた際に、彼女の計らいによって葉子とお互いの主張をぶつけ合うことで、わだかまりをある程度解消する。さらに、栞奈が体調を崩したことをきっかけに、親子で支え合っていた時を互いに思い出し、共に謝罪する。そしてひよりに対して、葉子が成功を収めたことを喜びつつも、自分の手から離れたことを改めて実感し、一抹の寂しさを感じていたことと、葉子が自分と同じように娘を慈しみ、育てていく姿を楽しみにしていることを告白する。ただし、栞奈の世話を焼きたい気持ちは変わっておらず、それに対してはあまり譲るつもりがない様子。

渡辺 大海 (わたなべ たいが)

ひだまりの子を通じて、渡辺夫妻と養子縁組を行った男の子。年齢は5歳。渡辺夫妻から惜しみない愛情を注がれたことで、素直で心優しい性格に育つ。また、須田ひよりのことを呼び捨てにするなど生意気なところもあるものの、好意をまったく隠そうとせず、よく懐いている。電車が大好きで、ひだまりの子や幼稚園では、よく電車のおもちゃを使って遊び、友達からも電車に詳しいことで一目置かれている。渡辺夫妻を心から愛している一方で、生みの母親の存在も認識しており、「ぼくにはお母さんが二人いる」と言うほどの思い入れを抱いている。さらに、渡辺夫妻の都合によってアメリカに行くことが決まってからは、その前に一目会ってみたいという思いを募らせることとなる。しかし、渡辺大海の生みの母親は、性被害に遭ったことで心に深い傷を負っており、さらにそれを誰にも言い出すことができず、両親がそれに気づいた頃には堕胎すらできなくなっていたという、凄絶な経緯がある。生みの母親は精神的なショックから、大海の存在にいっさい関知することすらできず、大海という名前も命名を拒否した生みの親に代わって宮本が付けたものである。当然ながら大海はそれを知らず、生みの母親を思う故に、自分は元気であることを伝えたいと主張し、ひよりや渡辺夫妻を困らせてしまう。しかし、ひよりに思いの丈を伝えたところ、彼女から事実を伏せられたうえで、今は心をケガしているから、大海と会うことはできないと涙ながらに告げられて思い留まる。そして、渡辺夫妻やひよりが、自分をどれだけ大切にしてくれているかを改めて自覚し、それを喜びながらアメリカへと渡った。ひよりが渡辺夫妻や斎藤流羽の問題を解決してから8年経った頃は、すでに日本に戻っており、変わらず元気な姿を見せている。

渡辺夫妻 (わたなべふさい)

ひだまりの子を通じて、渡辺大海と養子縁組を行った夫婦。養子となった大海をつねに思いやっており、大切に育てている。夫の仕事の都合でアメリカに家族ぐるみで移住することが決まるが、大海が生みの母親の存在を認識しており、アメリカに行く前に一目会いたいと希望していること、さらに生みの母親が性被害に遭った結果として大海を出産しており、現在もひだまりの子と連絡が取れないことから、思い悩んでいる。また、大海が生みの母親を思う理由が、自分たちがきちんと彼を見てあげられなかったからと考えるようになる。しかし宮本から、大海が自分の希望をしっかり伝えられるのは、彼が渡辺夫妻に何一つ不自由を感じたことがないからと諭され、安堵する。それから間もなく、大海を伴ってアメリカへと渡るが、須田ひよりが渡辺夫妻や斎藤流羽の問題を解決してから8年経った頃は、すでに日本に戻っていた。

本田 (ほんだ)

同僚の東と共に、ひだまりの子と提携している児童相談所で働いている青年。一見クールに見られがちだが、実際は勤勉な性格で、職務に対してつねに真摯に向き合っている。須田ひよりとも交流があり、東と共に時おり頼られることがあるが、彼女のだらしないところやおっちょこちょいな一面には、苦言を呈することもある。また、悩み続けるよりは行動するべきという持論を持っており、ひよりが愚痴をこぼした時は、それを改善するために行動するよううながす。一方で、仕事に対してまじめなことや、困った時はみんなと力を合わせて解決しようとする姿勢には好感を抱いており、ひよりが渡辺大海とその生みの母親の件で悩んでいた際は、自分たちの仕事が人の人生を左右するものであることは事実だが、それを恐れて何もしないのはひよりらしくないと、遠回しに励ましたこともある。斎藤流羽が児童相談所に相談に訪れた際に、ひよりの名刺を差し出してひだまりの子を紹介するなど、ケースワーカーとしての彼女の仕事を高く評価している。宮本のことも尊敬し信頼しており、本田がひだまりの子に信頼を置くのは、二人の存在によるところが大きい。ひよりや東からも、本田が仕事に関して熱心に取り組むことを知られており、よく頼られている。また、ひよりに思いを寄せる月島からは、本田がひよりの彼氏ではないかと心中で疑われたことがある。

(ひがし)

同僚の本田と共に、ひだまりの子と提携している児童相談所で働いている青年。本田とは対称的に温和な性格で、気難しい本田と、おっちょこちょいな須田ひよりのあいだを取り持っている。東自身も二人が仕事に一生懸命なことをよく知っており、頼まれごとを引き受けることも多い。ひよりからは本田と共に頼られているが、ひだまりの子の宣伝を任せられたり、本田への伝言を頼まれるなど、本田と共に貧乏くじを引かされがち。

美空 (みあ)

須田ひよりとインターネット上で知り合った高校生の女子。ハンドルネームは「スカイ」で、ひよりからは終始その名前で呼ばれている。ひよりとは年が離れているものの非常に仲がよく、頼れる大人として尊敬している。両親と同居しているものの、彼らがほとんど家にいないことから孤独感を感じていた。SNS上で知り合った大学生の恋人がおり、のちに彼の子供を身籠る。恋人にそのことを告げると連絡が取れなくなったことに落胆するも、子供が生まれることで孤独感から解放されると希望を抱くようになり、堕胎を思い留まる。両親にもこのことを言い出せず、ひだまりの子に勤めていたひよりにのみその事実を打ち明ける。陣痛を迎えると、ひよりと宮本によって病院に連れられ、娘のソラを無事に出産した。そして、ひだまりの子と提携している児童相談所の本田から、今後の展望として自分で育てるか、乳児院に預けるか、養子に出すかの三つの案を提示される。まじめな性格で成績も優秀だったため、両親から信頼されていたが、妊娠したことを知らせなかったことや、子供が生まれたことを強く叱責されてしまう。だが、ひよりから、子供を産むことは悪いことなんかじゃないと元気づけられ、やがて娘のソラに強い愛情を抱くようになり、産んでよかったと思うようになる。しかし、ソラを育てることが困難である現実に思い悩み、養子に出すという選択肢を捨てきれなくなる。

ソラ

美空が高校生の時に出産した娘。孤独感に苛まれていた美空を愛らしい仕草で癒し、やがて彼女の心のよりどころとなる。しかし美空の境遇や家庭の事情から、育てることが困難となり、やがてひよりのアドバイスを聞いた美空の苦渋の決断により、養子に出されることが決まる。そして、まるでそのことを知ったかのようにソラが泣き叫ぶと、美空の心を震わせる。のちに、ひだまりの子を通じてある夫妻に引き取られることが決まり、引き取った養親たちから愛情を注がれて大切に育てられる。さらに、養親たちもまたソラの存在に元気づけられ、やがてソラを産んだ美空に感謝の言葉を伝えるきっかけとなった。

斎藤 流羽 (さいとう るうか)

流羽の母親と二人で暮らしている派遣社員の女性。明朗快活な性格で、仕事ぶりも優秀なことから社員に頼られることが多い。母親とは非常に仲がよく、化粧や仕事などについて語り合っている。シュンという恋人がおり、やがて彼との子供を妊娠する。しかし、そのことを伝えてもなかなか返事がなかった挙句、堕胎するための金はないと告げられる。すると、すぐに彼に見切りをつけて、一人で子供を産んで育てることを決意する。妊娠を理由に派遣先から解雇されるトラブルもあったが、その優秀さからすぐに新しい会社へ就職し、やがて娘の斎藤愛流を出産する。その後、母親と力を合わせて愛流を育て、充実した日々を過ごしていたが、ある日母親が交通事故に遭い、働けなくなってしまう。母親の勤めるスーパーマーケットで働くことになり、スタッフたちの好意によって愛流の面倒を見てもらっていたが、いつまでも甘えてはいられないと、本田や東が所属している児童相談所を頼り、本田から須田ひよりとひだまりの子を紹介される。自分たちを気遣ってくれるひよりに対して好感を抱き、愛流を育てながら働く方法をいっしょに考えるようになる。しかし、ひよりから愛流を育てるために斎藤流羽自身まで身体を壊してしまったら、それこそ本末転倒だと諭され、一時的に愛流と離れる選択も視野に入れることを勧められる。その言葉に裏切られたという思いから、「子供を産んだことがないくせに」とひよりに暴言を吐いてしまう。

流羽の母親 (るうかのははおや)

斎藤流羽と二人で暮らしている女性。年齢は42歳。スーパーマーケットで荷卸しなどの仕事に就いている。かつて夫がいたが、働こうとしないことから追い出し、一人で流羽を育て上げた。流羽と仲がよく、彼女が子供を身籠って一人で育てていく決意をした際も、まったく反対することなく受け入れ、応援している。そして、流羽が斎藤愛流を出産すると、二人で愛流を育てる充実した日々を過ごす。しかし、不注意から交通事故に遭い、後遺症が残るケガを負ってしまう。

斎藤 愛流 (さいとう ある)

斎藤流羽が出産した女の子の赤ちゃん。流羽と流羽の母親からからたくさんの愛情を受けながら育つ。流羽の母親が交通事故に遭ったことで流羽たちの生活に余裕がなくなると、流羽の母親が働いていたスーパーマーケットのスタッフに面倒を見られるようになるが、問題の先延ばしでしかないと考えた流羽によって、ひだまりの子を通じて今後の処遇が相談された。最終的には須田ひよりのアドバイスにより、3か月のあいだ、乳児院に預けられることになった。

集団・組織

ひだまりの子 (ひだまりのこ)

生みの親が育てることができない子供と、子供を育て上げることを希望する夫婦のあいだに養子縁組を成立させる役割を担う機関。須田ひよりや宮本などが勤めている。養子縁組のための手続きや面談のみならず、子供を育てるにあたって悩みを抱えていたり、精神的および経済的な点から育児が困難になった人への援助やアドバイスを行なっている。職員は大半が女性であるため、主に母親からの相談を受けることが多く、さまざまな案件に対して親身になってサポートしていることから、本田や東など、児童相談所の職員たちからも高い評価を得ている。

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