世界観
幕府の統治が続く架空の日本が舞台。人体改造を施され、強力な兵士として育てられた鉄姫と呼ばれる少女たちと、「鉄姫」をサポートする医療スタッフ・刀医の少年の交流と、謎の敵との戦いが描かれる。美少女たちが刀を振るって戦う和風バトルアクションとしての側面と、緻密な設定に支えられたSFとしての「人造人間もの」の2つの側面がある。
あらすじ
幕府が存続する、改元禄43年の日本。諸藩は医療技術の発達により鉄姫と呼ばれる少女兵士たちを生み出し、その性能で国力の優劣を競っていた。若くして鉄姫たちをサポートする医療スタッフ・刀医の資格を得た長光蓬は、その技術を活かすため、鉄姫たちが集まる高等塾・府立桜田門高等塾に通うことになる。しかし入学式の日、蓬はさっそく紀伊藩と多度津藩の争いに巻き込まれてしまう。
コラボレーション
2012年9月、本作『くろがね姫』のコミックス第2巻と、宗我部としのりの別作品『みずたまリンドウ』のコミックス同時発売を記念して、コラボキャンペーンが実施された。こちらは、両作品のコミックスの帯についた応募券を2枚、はがきに貼ってキャンペーンに応募すると、宗我部としのり描き下ろしのコラボQUOカードが当たるというもの。
登場人物・キャラクター
長光 蓬 (ながみつ よもぎ)
府立桜田門高等塾に通う1回生で、鉄姫たちを調整・治療する刀医の少年。前髪を目の上で切り、髪全体を外にはねさせたショートカットヘアにしている。一時期、浅海ほのかになぜか兄と認識されており、「お兄ちゃん」と呼ばれていた。小柄でかわいらしい雰囲気だが、10代にして刀医の資格を得た実力者。穏やかで責任感が強く、負傷した鉄姫を放っておけない心優しい性格。 入学式の日、多度津藩と紀伊藩の争いに巻き込まれ、重傷を負ったほのかを助けたことで親しくなる。やがてほのかが兄である浅海真を探していると知り、協力するようになる。
浅海 ほのか (あさみ ほのか)
多度津藩の鉄姫で、府立桜田門高等塾に通う1回生の女子。前髪を目の上で切り、腰まで伸ばしたストレートロングの姫カットの髪型を、ヘアバンドでまとめている。戦闘中、あまりにも激しい戦いをするために服が脱げてしまうことが多く、「全裸女」と呼ばれている。また、松平橘からは「田舎侍」と書いて「いなかむすめ」と呼ばれている。 おっとりと物静かな雰囲気だが実力は本物で、最上鉄姫である橘をあっさり負かすほどの技量を持つ。しかし、浅海ほのか自身は「最上鉄姫」として登録されていないなど謎が多い。兄である浅海真を探しているが、自身の記憶にはもやがかかっており、入学式の日に出会った長光蓬のことを誤って兄と認識してしまう。
徳川 葵 (とくがわ あおい)
徳川将軍家の鉄姫で、最上鉄姫の女子。また、府立桜田門高等塾の3回生で、塾内の風紀委員的存在である「桜花所司代(おうかしょしだい)」の奉行でもある。その立場から「姫様」「一の姫」と呼ばれることが多いが、一方で高杉蕾からは「クソセレビッチ」呼ばわりされている。前髪を真ん中で分けて額を全開にし、腰まで伸ばしたストレートロングヘアを低い位置で髪飾りで2か所まとめている。 常に笑顔を絶やさないおっとりとした雰囲気だが、塾内最強の鉄姫として君臨している。何かとキスをしたがる、キス魔でもある。
井伊 素直 (いい すなお)
徳川家伝統の臣、井伊家の姫で、彦根藩出身の鉄姫であり最上鉄姫の少女。府立桜田門高等塾の2回生で、塾内の風紀委員的存在である「桜花所司代(おうかしょしだい)」の副奉行も務めている。前髪を左寄りの位置で分けて額を全開にしたショートカットヘアに、眼鏡をかけている。生真面目で厳格な性格で、風紀を乱す「鉄姫」には容赦がない。 一方で重大な秘密をうっかりこぼしてしまったり、すでに装着しているのに「眼鏡が見つからない」と慌てたりと天然気味な一面もある。
松平 橘 (まつだいら たちばな)
徳川御三家である紀州松平家の姫で、紀伊藩の鉄姫であり最上鉄姫の少女。桜田門高等塾の2回生で塾内の風紀委員的存在である「桜花所司代(おうかしょしだい)」の隊士を務めている。前髪を右寄りの位置で斜めに分け、胸まで伸ばした巻き髪ロングヘアをバラの髪飾りでまとめている。ロリータファッションを好み、フリルの付いた持ち物が多い。 丁寧なお嬢様口調で話し、一見物腰柔らかく上品だが、プライドが高く好戦的な性格。入学早々、偶然見かけた長光蓬と浅海ほのかに因縁をつけ、返り討ちに遭い重傷を負う。しかし、蓬の適切な処置を受けたことで一命をとりとめ、以来蓬を命の恩人と捉えて気に入り、何かと接触を持つようになる。
高杉 蕾 (たかすぎ つぼみ)
長州藩の鉄姫であり最上鉄姫の少女。桜田門高等塾の3回生でもある。前髪を目の上で切り、腰まで伸ばしたストレートロングヘアを高い位置でツインテールにしている。小柄でかわいらしい容姿をしており、実年齢より幼く見える。他の長州藩の鉄姫たちからは「姉さん」と呼ばれ慕われている。刃蔭を所有しているために声帯がほぼ使い物にならず、基本的にメールや筆談でコミュニケーションをとる。 徳川葵にも引けを取らぬほどの実力者だが、気難しく反抗的な性格。一方で、ぬいぐるみなどのかわいらしいものが大好きという少女趣味な一面もある。
春野 晴子 (はるの はるこ)
丸亀藩の鉄姫であり最上鉄姫の少女。桜田門高等塾の3回生でもある。前髪を眉の高さで切りそろえ、顎の高さまで伸ばした内巻きボブヘアにしている。穏やかで心優しく面倒見の良い性格で、家族と藩を何よりも大切に想っている。1回生の時点で多くの武功を重ねて最上鉄姫の称号を受け、刃蔭を持たない最上鉄姫となった。しかし、戦闘における度重なる負傷により、大規模な再生人造化に耐えられない身体になっており、現在では右腕と左足が義体となった状態で暮らしている。
松平 孔雀 (まつだいら くじゃく)
会津藩出身の鉄姫であり最上鉄姫の少女。府立桜田門高等塾の3回生で、塾内の風紀委員的存在である「桜花所司代(おうかしょしだい)」の副奉行も務めている。前髪を真ん中で分け、胸まで伸ばした外はねロングヘアにしている。物腰柔らかく優雅な人物。長光蓬とは、浅海ほのかと春野晴子の打ち合いの日に知り合った。 打ち合いの場に現れた浅海真を捕らえようとしたところ、真に同行している謎の少女に斬り殺された。
徳川 珠 (とくがわ たま)
徳川葵の妹。前髪を眉の高さで切りそろえた後ろ下がりのボブヘアにしている。14歳で婿を取り、すでに子供が1人いる。現在は2人目を妊娠中。おっとりとした穏やかな性格で、過酷な戦いに身を投じる葵のことを案じている。
徳川 千代 (とくがわ ちよ)
徳川葵と徳川珠の妹。前髪を髪飾りで上げて額を全開にし、胸まで伸ばしたロングヘアにしている。明るく元気な性格で、鉄姫の過酷な実態を知らず、鉄姫に憧れている節がある。嫁入りがすでに決まっており、夫になる男性とうまくやっていけるか悩んでいる。
浅海ほのかの義父 (あさみほのかのぎふ)
浅海ほのかと浅海真の義父で故人。前髪を右寄りの位置で10対0に分けた撫でつけ髪をし、モノクルをかけ、口ひげとあごひげを生やしている。両親を亡くしたほのかと真を引き取り、ほのかを武家の娘として、真を医師として育てた。しかし実際は小児性愛者で、ある日ほのかを強姦。真実を知り激高した真に殺害された。しかし、この義父との記憶自体が、真がほのかに植え付けた嘘の記憶の可能性もある。
小松 美清 (こまつ みさや)
薩摩藩出身の鉄姫であり最上鉄姫の少女。府立桜田門高等塾の3回生でもある。前髪を眉の高さで切り、胸まで伸ばした癖のあるロングヘアを2本の三つ編みにしてまとめている。「~よぉ」「~だわぁ」と、語尾が延びた話し方をする。刃蔭の影響により左足の運動機能を失っており、そのために、刃蔭を持ちながらも前線には立てず、主に後方支援を担当している。 ゆえに前線に立てない自分よりも、東郷智隼の方が薩摩藩の最上鉄姫にふさわしいと考えており、智隼に強い期待を寄せている。
東郷 智隼 (とうごう ちはや)
薩摩藩出身の鉄姫で、府立桜田門高等塾の1回生の女子。前髪を目の上で切りそろえ、胸まで伸ばしたロングヘアをツーサイドアップにしている。やや口が悪く、「~っしょ」「超○○」といった、ギャルっぽい口調で話す。刃蔭を持たない普通の鉄姫でありながら、入学当初より過酷な戦場に投入されている実力者。明るく快活な性格で人当たりもいいが、攻撃的で残忍な一面もある。 島津義興に強く憧れ、尊敬している。
島津 義興 (しまづ よしおき)
島津藩主を務める若い女性。元最上鉄姫でもある。前髪を髪飾りで上げて額を全開にし、腰まで伸ばしたロングヘアをハーフアップにしている。藩の一大事業として浅海真を支援し、謎の研究を続けている。
浅海 真 (あさみ まこと)
浅海ほのかの兄の若い男性。前髪を目が隠れそうなほど伸ばしたウルフカットで、眼鏡をかけている。「才谷涛次郎」の名を騙ることもある。家と藩を捨て、違法に刀医の技術を身につけた犯罪者。約10年前にほのかに、ご法度である「幼年時の人造化」を施して鉄姫にし、多度津班を脱藩。そのデータを西国の有力藩に渡す代わりに、その保護のもと、人体人造化技術の研究を続けている。 現在は島津藩に身を寄せ、島津義興の支援のもと、謎の研究を続けている。
謎の少女 (なぞのしょうじょ)
浅海真と行動している謎の少女。前髪を目の上で切り、顎の高さで切り揃えたボブヘアをヘアバンドでまとめている。左頬に一本線の大きな傷跡がある。浅海ほのかに非常によく容姿が似ている。基本的に言葉は発さず、真の命に従い松平孔雀を殺害したり、長光蓬に重大な情報を入れたメモリーを渡したりと、神出鬼没。
場所
府立桜田門高等塾 (ふりつさくらだもんこうとうじゅく)
長光蓬や、浅海ほのから鉄姫たちが通う学校。幕府御城址「桜田門」に位置し、最寄り駅はER墨引線有楽町駅。諸藩から「参勤留学制度」により集められた「鉄姫」たちのみならず、撫子と呼ばれる一般生徒も通っている。府立桜田門高等塾において名を上げた生徒は輝かしい将来が約束されており鉄姫たちは自分の実力を誇示するための闘争が絶えない。
その他キーワード
鉄姫 (てっき)
諸藩が幕府から独立するために興した、少女の肉体を人工的に強化し、強力な兵士にするという医療産業。あるいは鉄姫となるために肉体改造された少女たちそのものを指す。鉄姫たちは身体の一部を改造されており、鋼鉄の骨格と、人造の臓器・筋組織を持つ。そのため、鉄姫たちの身体を治療・調整するための職業として刀医がある。鉄姫は、身体的成熟と、生涯代謝のピークが伴うことを主な理由に、10代半ばの少女が素体として選ばれる。
刀医 (とうい)
鉄姫たちの身体を治療・調整する医療スタッフ。刀医になるためには幕府が定めた試験に合格する必要があり、合格後も長い実習期間を要するため、40代以上の年長者が多い。そのため10代にして刀医となった長光蓬はかなりのエリートで特殊な存在。基本的には男性で、女性は高い技術を有している場合でも、原則助手にしかなれない。 しかし、薩摩藩は島津義興の意向により、例外的に9割の刀医が女性となっている。
撫子 (なでしこ)
軽度の改造人種。a-ips細胞の生体培養や、腎臓臓器適合の臨床などを目的として生まれた。府立桜田門高等塾にも「撫子」の女子が多数在籍しているが、帯刀は懐刀のみ認められており、打ち合いの対象にはならない。そのため、塾内では一般生徒として扱われている。
最上鉄姫 (ぷれみあ)
鉄姫の中でも、各藩や幕府において最も強く刃蔭を持つ鉄姫を指す言葉。徳川葵、松平橘、井伊素直などが該当する。例外として刃蔭を持つが最上鉄姫として登録されていない浅海ほのかと、逆に、刃蔭を持たないが最上鉄姫となった春野晴子もいる。
刃蔭 (はがくれ)
一部の鉄姫にのみ現れる特殊身体現象。浅海ほのか、松平橘のような身体能力の著しい向上、高杉蕾の、体内から雷電を発する自然発生現象などが該当する。刃蔭は鉄姫のうち1万人に1人ほどしか現れず、さらに刃蔭を持つ鉄姫は総じて強い。つまり、刃蔭を持つことは最上鉄姫となる条件でもある。しかし刃蔭には一部身体機能の欠損という副作用があり、たとえば橘は味覚・嗅覚がほぼ失われており、蕾は刃蔭が原因で声帯がほぼ使い物にならない。
参勤留学制度 (さんきんりゅうがくせいど)
鉄姫を府都に一定期間留学させる制度。幕府は諸藩に「鉄姫」に関する技術を提供させる代わりに、自治を容認している。また、各鉄姫の戦闘能力を計測するため、鉄姫たちには帯刀と打ち合いが許可されている。そのため鉄姫たちの生活エリアでは、敵対する藩の鉄姫たちの闘争が絶えない。
a-ipsカプセル
外傷治療用機器。20世紀後半に発見されたips細胞理論を応用して作られた。負傷した皮膚や筋肉を短時間で治療することができ、比較的軽傷の鉄姫の治療にも用いる。人間がまるまる入れる大きさの長方形のカプセルで、使用する際は裸でカプセル内に入り、治療を行う。
夷狄 (いてき)
ロシア皇国と中華共立帝国の研究により生まれた怪物。人体人造化の軍事転用を目的に、「ヒトと動物のハイブリッド化」を目指して作られたため、人間と獣が融合したような姿をしている。高い身体能力を持ち、成長と生殖が非常に速い。しかし、急速な交配、淘汰を繰り返した結果、現在は運動能力が向上した代わりに知能の退行が激しく、群れを成し、単純な道具を武器として扱う程度の知能しかない。 日本元号平治41年、中華共立国南西部の実験施設で事故が発生した際、数百個体が脱走。以来、世界各地に分布し、人類の敵として立ちはだかるようになった。