概要・あらすじ
19世紀末パリ、天才との呼び声が高い画商テオドルス・ファン・ゴッホが画壇を席巻していた。彼は既存の権威にとらわれた保守的な画壇に反発し、人々のありのままの日常を描いた若手作家の作品を世に出すことを目指す。そしてテオドルス・ファン・ゴッホは、当時は無名画家だった実兄フィンセント・ファン・ゴッホの才能に心酔しており、その作品の売り出しに奔走する。
登場人物・キャラクター
テオドルス・ファン・ゴッホ
画廊グーピル商会のモンマルトル通り19番街にある支店の支店長。パリ一の画商として知られている。画家フィンセント・ファン・ゴッホの実弟であり、天才的な画才を持つ兄を有名にするべく画策する。天才的な頭脳と人を引きつけるカリスマ性の持ち主。権威主義的なパリ芸術界のありようを良しとせず、若い無名の画家たちと共に展覧会「アンデパンダン展」を企画する。 既存の権威を否定したことからジェローム、ムッシュボドリアールらの反感を買う一方、アンリ・ド・トゥールーズロートレックら若い画家からは信望を集める。
フィンセント・ファン・ゴッホ
同名の実在人物をモデルとしている。テオドルス・ファン・ゴッホの実兄で、無名ながらも天才的な才能を持つ画家。弟でさえ彼が怒ったところを見たことがないと語る温和な人物で、怒りの感情が欠如している。偏見や嫉妬を持たず、この世のすべてを美しいと受け入れる感性の持ち主で、喜びだけでなく哀しみ・孤独といった多様な感情を絵画として描き出す。 テオドルス・ファン・ゴッホを深く信頼しており、ジェロームに脅迫された彼が自分の身代わりになって死ぬと言い出したさい、初めて激高する。
マルクス
グーピル商会でテオドルス・ファン・ゴッホの部下として働く男。真面目だが小心な人物で、既存の権威に反抗するテオドルス・ファン・ゴッホの行動にいつも振り回されている。
ムッシュボドリアール
フランス学士院お抱えの高名な美術評論家。身分を偽り、パリ市街で浮浪者の扮装をして市井にまぎれる趣味を持つ。浮浪者の扮装時は、他の浮浪者たちとチェスをして賭け金を巻き上げるといったことをしていたが、テオドルス・ファン・ゴッホに正体を見破られチェスでも敗北する。それをきっかけにグーピル商会を訪問するが、テオドルス・ファン・ゴッホに「パリ画壇の犬」と揶揄され、彼に敵意を抱くようになる。
ジェローム
パリ画壇の重鎮で、芸術とは「品格ある題材を描くもの」という信念の持ち主。冷酷な人物で、彼に反抗する若手画家の腕を折るなどの強硬手段に出ることもある。絵画「枢機卿の肖像」を描きイーサン画廊の開館式に出品したが、そのさいにテオドルス・ファン・ゴッホに挑発されたのをきっかけに彼への圧力をかけるようになる。 テオドルス・ファン・ゴッホを脅迫するため、フィンセント・ファン・ゴッホの殺害を企てる。
アンリ・ド・トゥールーズロートレック
同名の実在人物(画家)をモデルとしている。物語内ではコルモン画塾に属する22歳の若手画家として登場。ムーラン・ド・ラ・ギャラットの娼婦を描くなど、既存画壇にはない作風の持ち主。日の目を見ない芸術家が集うモンマルトルの酒場で、テオドルス・ファン・ゴッホと知り合う。最初はテオドルス・ファン・ゴッホを誤解して敵視していたが、彼が実は保守的な画壇に批判的な人物であると知り、認めるようになる。 テオドルス・ファン・ゴッホが主催した、若き才能を集めた展覧会アンデパンダン展にも参加する。
ニコラ
テオドルス・ファン・ゴッホらが企画した展覧会アンデパンダン展に参加した若い画家の一人。当初会場とする予定だったギャラリーで受付を担当していたが、ギャラリーの館長に会場の使用を断られ、その旨を他の画家たちに伝える。
ジャン・サントロ
売れない戯曲家。彼が脚本を担当した講演を見たテオドルス・ファン・ゴッホによって才能を認められる。テオドルス・ファン・ゴッホは彼に「とある画家の人生を丸ごと作り替える」ための脚本を依頼し、フィンセント・ファン・ゴッホの絵を見て感動した彼はその依頼を快諾する。
マダム・ブールジーヌ
グーピル商会の顧客である貴婦人。雨の翌日に来店するのを常としており、テオドルス・ファン・ゴッホが用意したカバネルの絵画「フェードル」を購入する。「フェードル」は義理の息子に恋をした王妃の悲劇を描いた絵画であり、テオドルス・ファン・ゴッホは彼女の行動や嗜好を的確に把握していた。
浮浪者 (ふろうしゃ)
パリ市街でたむろする「街一番のチェス名人」だが、「シェルジュ」を名乗り市井に紛れ込んでいたムッシュボドリアールとの賭けチェスで連敗。有り金を巻き上げられていたところを、テオドルス・ファン・ゴッホの助言で勝利する。
パン屋 (ぱんや)
パリ市街にあるパン屋の主人で、絵を描くのが趣味。テオドルス・ファン・ゴッホは、彼が描いたパンの絵を気に入ってそれを預かることを申し出る。その後、テオドルス・ファン・ゴッホは、モンマルトル路上でパリの現代絵画技法を踏まえた肖像画と、このパン屋の絵のどちらが売れるか、アンリ・ド・トゥールーズロートレックとの間で賭けを行う。
おばあちゃん
フィンセント・ファン・ゴッホが放浪していたさいに出会った老婆。彼女は、若かりしころに結婚の約束を交わしたまま戦争に行き戻らなかった男を40年間待ち続けていた。フィンセント・ファン・ゴッホは老婆の話を聞き、彼女と男が出会った40年前の夏の風景を絵画として描き出す。
集団・組織
グーピル商会 (ぐーぴるしょうかい)
『さよならソルシエ』に登場する会社。テオドルス・ファン・ゴッホは、グーピル商会のモンマルトル通り19番街にある店舗の支店長。絵だけではなく「品格」も売ることをモットーとしており、顧客は選ばれしブルジョアのみ。扱う絵画はフランス学士院に属する芸術アカデミー大家の作品。パリで最も栄誉ある一流画廊だが、テオドルス・ファン・ゴッホは本部の意向に逆らっている。 出資者のセント氏は、テオドルス・ファン・ゴッホのおじ。
イベント・出来事
アンデパンダン展 (あんでぱんだんてん)
『さよならソルシエ』に登場するイベント。権威主義なパリ芸術アカデミーの審査に通らず、日の目を見ることのなかった無名の若手芸術家たちの作品を集めた展覧会。当初はリュー・ド・リヴォリ交差点にあるギャラリーで開催される予定だったが、アカデミーの不興を買うことを恐れたギャラリー側の保身のため、会場の使用を断られる。テオドルス・ファン・ゴッホの機転で街をすべて使った展示に変更される。