歌とお金を愛する少女が抱く二つの夢
本作の舞台は、映像と音声が同時に流れる「トーキー映画」が広がりはじめた昭和初期。主人公・水瀬小夜子は、母の連れ子で、父と兄・姉たちとは血が繋がっていなかった。父から差別を受けていた小夜子は、二つの夢を持っていた。一つはお金をたくさん稼いで母と妹・千代子だけで暮らすこと。もう一つは、歌の才能を活かして、いつか映画で歌うことだった。幼い頃、母から「本当の父はトーキー映画の機材を作っていた」と聞かされた小夜子は、全国で自分が歌う映画が公開されれば、本当の父と会えるかもしれないと考えていたのだ。ある日、「子役」という存在を知った小夜子は、撮影所を訪れる。そこで有名女優・海堂静代やその息子・浅海などと出会った小夜子は、映画への想いを強くしていく。
ライバル・小鳥遊月子との出会い
浅海に勧められ、子役オーディションに参加した小夜子は、みすぼらしい格好をした小鳥遊月子と出会う。月子は悲しい生い立ちの少女で、臓腑をえぐるような重く深い歌声を持つ天才少女だった。オーディションの場に居合わせた浅海の母・静代は、小夜子と月子の才能を認め、どちらかを弟子にすることを宣言する。そんな中、小夜子の母は、自分が本当の母親ではないことを置き手紙に記して失踪してしまう。小夜子はショックで歌えなくなり、静代の弟子は月子に決定した。しかしその後、大好きな母にも自分の声を届けるために、小夜子は立ち直った。そして4年後、端役ながら女優としての仕事を始めた小夜子は、少女スターとなった月子と再会。二人のライバルストーリーが再び始まった。
小夜子をめぐる二人の男性
本作では、小夜子に好意を寄せる男性が二人登場する。一人は、小夜子が初めて撮影所を訪れた際に出会ったピアノの神童・浅海である。ケンカから始まった二人の仲だったが、やがてお互いの才能に惹かれて親しくなった。そして浅海は、小夜子が歌う曲を自分が作ることを約束して海外へ留学する。もう一人は、不良一味のリーダーだった敷島天良。女優として歩き始めた小夜子をゴロツキから助けたことがきっかけで知り合いになり、抗争を止めてしまうほどの小夜子の歌声に惹かれるのだった。また、生まれながらのスター性を持つ天良は、小夜子を訪ねて撮影所に来た際、スカウトされて俳優になった。やがて、帰国した浅海と小夜子の仲がこじれる一方、小夜子と天良の距離は近づいていく。
登場人物・キャラクター
水瀬 小夜子 (みなせ さよこ)
天性の歌声を持つ少女。実家は寿司屋だが、家族の誰とも血が繋がっていない。実母は歌がうまかった大部屋女優ですでに死亡、実父は映画機材の技術者だという。自分を育ててくれた後失踪した母とまだ見ぬ父に歌声を届けようと、歌って踊れる映画スターを目指す。
海堂 浅海 (かいどう あさみ)
大女優・海堂静代の息子。ピアノの神童と呼ばれる少年。幼い頃から撮影所で劇伴演奏をしていた。子役を目指す水瀬小夜子と出会い、次第に仲良くなり、彼女に曲を作る約束をして海外へ留学する。
敷島 天良 (しきしま たから)
不良一味を束ねていたリーダー。「烏天狗の天良」の異名を持ち、滅法ケンカに強い。ゴロツキに絡まれていた水瀬小夜子を助けたことで知り合いになる。ひと目で人を惹きつけるスター性の持ち主で、スカウトされて俳優になりたちまち人気者になる。小夜子に好意を寄せている。
小鳥遊 月子 (たかなし つきこ)
非凡な歌唱力を持つ少女。三味線演奏でお金をもらう盲目の母と暮らしていたが、自分がそばを離れたために母が殺されてしまい孤児になる。その後、海堂浅海の叔父に助けられたことをきっかけに、大女優・海堂静代に弟子入り。人気少女スターになる。