あらすじ
第1巻
江戸の大店「長崎屋」の一人息子にして若だんなの一太郎は、身体が弱く、寝込みがちの生活を送っていた。そんな一太郎を心配した祖父は、お稲荷様から遣わされた妖の佐助と仁吉を彼の傍に置き、成長した彼らは「長崎屋」の手代(丁稚と番頭の中間身分)となって一太郎を守っていた。ある晩、とある秘密を抱えた一太郎は屏風のそきを身代りに、黙って一人で外出するが、出先で殺人事件に巻き込まれる。一太郎を狙った野盗は、ある町人を殺害していたのだ。佐助と仁吉は、一太郎に危害が及ぶのを恐れ、妖達を使い調査に乗り出す。殺害されたのは徳兵衛という大工で、彼の大工道具が盗まれていた事が明らかになる。
登場人物・キャラクター
一太郎 (いちたろう)
廻船問屋(荷主と船主の間にあって、積み荷の取り扱いをした業者)と薬種問屋を営む大店「長崎屋」の跡取り息子。数えで17歳。長崎屋の主人である父親とたえの息子で、一人っ子。心優しい性格で、繊細な心配りのできる聡明な少年だが、極度の虚弱体質。その身体の弱さを心配した祖父が、お稲荷様に、ご自分の代わりに妖を遣わして下さいと頼み、犬神という妖である佐助と、白沢という妖である仁吉が、自分を守る存在として遣わされた経緯がある。そのため、幼い頃より妖が側にいるのがふつうの状態。またそれが尋常ではないという事も理解している。病弱なために両親から溺愛されており、また若だんなという立場から周囲に気を使われるのが居心地が悪く、一太郎自身も仕事を手伝おうとするのだが、いつも仁吉に止められている。ある晩、こっそり一人で外出した際、野盗に襲われあと、人が殺されているのを目撃してしまう。また、こっそり出かけた裏にはある秘密を抱えている。佐助や仁吉からは「若だんな」と呼ばれている。
佐助 (さすけ)
大店「長崎屋」の廻船問屋で水夫を仕切る手代の男性。人間の姿をしているが、その正体はお稲荷様より一太郎に遣わされた「犬神」という妖。男らしい偉丈夫で、仁吉と共に一太郎を守っており、優先順位はつねに一太郎が第一と考えている。
仁吉 (にきち)
大店「長崎屋」の薬種問屋を背負う手代。業務全般を仕切っている男性。人間の姿をしているが、その正体はお稲荷様より一太郎に遣わされた「白沢」という妖。切れ長の目をした美形で、佐助と共に一太郎を守っており、優先順位はつねに一太郎が第一と考えている。一太郎が箸より重い物を持ったら疲れて死んでしまうと思っており、一太郎が心配でたまらず、なにかと世話を焼く。
鳴家 (やなり)
小鬼の姿をしたかわいい妖。子猫ほどの大きさで、複数で群れており、一太郎の部屋の中にいる。喜怒哀楽が激しく、「きゅい」「きゅわわ」と鳴く。お腹に大きなリボンを付けており、スカートのような腰巻を巻いている。
屏風のそき (びょうぶのぞき)
一太郎の部屋にある古い屛風の付喪神(古い器物に霊が宿って誕生する妖怪)。市松模様の着物を着た艶めかしい男性の姿をしている。病床にいる事が多い一太郎の身代りを務めている。もともとが紙である事から水に弱い。身体の悪い一太郎を夜歩きに出した罰として、佐助と仁吉からきついお仕置きを受ける。
栄吉 (えいきち)
和菓子屋「三春屋」の跡取り息子。一太郎の幼なじみ。和菓子作りに真剣に取り組んでいるものの、餡作りが下手。一太郎がみんなに隠れて画策している事に協力しているのだが、一方で病弱な一太郎の身を案じている。
鈴彦姫 (すずひこひめ)
お稲荷様にお仕えしている鈴の付喪神。大きな鈴を頭に載せた愛らしい少女の姿をしている。天女のように空を舞い、頭の鈴がいい音色を奏でる。一人で夜歩きする一太郎を心配し、店まで送っていた際に、野盗に遭遇する。
ふらり火
お稲荷様に仕える火の姿をした妖。犬のような顔をしている。野盗に狙われた一太郎に呼ばれて参上した。自身の光で野盗を誘い、一太郎を助けた。
野盗 (やとう)
夜歩きをしている一太郎を襲った男性。その前に人を殺しており、血の匂いをさせていた。屋号が描かれた提灯を持っていた一太郎の顔を目撃している可能性が高く、一太郎の身を案じた佐助や仁吉が妖を使って犯人探しに奔走する。野盗の顔を見た一太郎には、そのがっしりした体つきや服装から、町人だと推測されている。
たえ
一太郎の母親。大店「長崎屋」の主人の妻。細面のはかなげな美人。一太郎の兄が死んだあと、子宝に恵まれず、お稲荷様に願をかけて庭に祠を作って熱心にお願いしていた。そこまでして授かった一太郎を溺愛しており、身体が弱い一太郎が心配で仕方がない。
祖父 (そふ)
一太郎の祖父。既に亡くなっている。体の弱い一太郎を案じて、お稲荷様に孫を守るものを遣わしてほしいと頼み、妖である佐助と仁吉を長崎屋に連れて来た張本人。幼い一太郎に、彼らが妖だという事は周囲には黙っているよう言い聞かせた。
日限の親分 (ひぎりのおやぶん)
岡っ引き(町奉行所の同心に私的に抱えられて、犯罪人の探索、逮捕にあたった者)の男性。妻のさきは縫物の腕が評判で、しっかり稼いでいるという噂があるが、なぜか手元不如意で好物の菓子を控えている。「長崎屋」に探りを入れ、殺された大工の徳兵衛の情報を一太郎に話した。
徳兵衛 (とくべえ)
殺されていた大工の男性。日限の親分によると、首が落とされていたというが、一太郎が目撃した死体には首があった。自由奔放な性格をしている。女房持ちであり、棟梁として六人の大工を使っていた。鬼瓦のような強面で、賭け事もやらず色っぽい事にもまったく興味がなかった。また、殺害場所である昌平橋を渡った先とは地縁がない。
野寺坊 (のでらぼう)
人型をした妖。強面で、ボロボロの袈裟を着た坊主の姿をしている。殺害された徳兵衛の事を一太郎に報告するが、既にわかっている事ばかりで、あまり役に立っていない。有力な情報ではなかった事に落ち込むが、一太郎にかりん糖をもらって機嫌を直す。
獺 (かわうそ)
人型をした妖。髪を二つに束ね、着物を身につけた少女の姿をしている。殺害された徳兵衛の事を一太郎に報告するが、有力な情報ではなかった事で落胆する。しかし一太郎に飴をもらって機嫌を直したあとに、徳兵衛が大工道具を箱ごと盗まれていたとの重要情報を口にする。
クレジット
- 原作
-
畠中 恵
- その他
-
山田 順子