あらすじ
第1巻
妖怪達の棲む魔都大江戸に暮らす唯一の人間、雀は、大首のかわら版屋の記者をしており、今日も相棒の桜丸と共に、炎蛇の手によって発生した火事の起こった現場へ取材に向かう。炎蛇とは陰の気から生まれた魔が、何かの火種を吸い、大きくなった妖怪で、その火は普通の水では消せない。水神の火消し部隊が結解を張り、聖水をかけて鎮火する様子を間近で見た雀は、やはり妖怪の世は面白い、と胸を高鳴らせる。ある日、桜丸が人間の少女を拾って来る。飛鳥山の田んぼのあぜ道にぽつんと佇んでいた小枝は、人間の江戸の町から魔都大江戸に落ちて来たらしい。もといた世界に戻りたくないという小枝に、雀の尊敬する鬼火は好きにするように言い、雀に面倒を見るように告げる。困惑しながらも、雀は、自身が魔都大江戸に落ちて来た時と同じような状況の小枝が気持ちの整理がつくまで、見守る事を決める。小枝に、魔都大江戸の賑やかな暮らしぶりを案内する雀と桜丸とポー。遊び疲れて眠ってしまった小枝を前にして、桜丸とポーに、妖怪の世界と人間の世界は時間の進み具合が違うため、人間の世界に戻るのならば、早いうちがいいと諭される雀。それを聞き、自身が次元の隙間に落ちて魔都大江戸に落ちて来た当初、拾ってくれた鬼火の前で散々荒れ狂い、この妖怪の世界で生きる事を決めた過程を思い出す。人情あふれる妖怪の世界は居心地がいいが、小枝は育ちもよさそうだし、子供で何より女の子だ。後悔のない選択をさせてやりたい雀は、もとの世界に戻る決心がつかない小枝を連れて、火天宮見物に出かけるのだった。
第2巻
火天宮で火の鳥を見た小枝は、生きる喜びに打ち震えた。これまで過ごしてきた人間界では、形式的な家庭に生まれたため、感情を素直に表す事すらためらわれる生活をしていたのだ。伸び伸びと楽しそうな様子の小枝を海に連れて行った雀は、河童の妖怪、タロ吉と相撲を取り、仲を深める小枝を温かく見守る。やがて夕陽が傾き、海へ帰っていくタロ吉を見送る小枝は、この別れが、人間界に戻れば永遠の別れになる事に気づき、ひどく落ち込むのだった。自身の今後に悩む小枝を連れて、雀達は次に吉原へ向かう。最高の花魁、菊月太夫の花魁道中を目にした一行は、彼女のあまりの美しさに息を呑む。人形のような菊月の美しさに恐怖すら感じる小枝だったが、地虫が悪さをし、暴れ馬に轢かれそうになったところを菊月に助けられるのだった。菊月の強さと気高さを知り、昔、母親が同じように暴れ馬から身を挺してかばってくれた事を思い出した小枝は泣きじゃくり、人間界へ戻る事を決める。雀は小枝を笑顔で送り出しながら、戻る場所がある小枝の幸せを羨むのだった。鬼火が無事に小枝を人間界へ送り返すのを見届けながら、雀は自身が人間界へ戻らず、魔都大江戸で生きる事を選択した日々を振り返る。次元の隙間から魔都大江戸に落ちて来たばかりの自分を拾い、親身に世話を焼いてくれた鬼火をはじめ、出会い頭に菓子を御馳走してくれた百雷、空を飛び、自由に生きる喜びを教えてくれた桜丸。すべての出会いは、雀が妖怪の世界で生きる意思をあと押ししてくれたのだ。心の感じるままに、自分の生きたいように、きちんと生きていく。人間界ではできなかった生き方をまっとうする事を、雀は気持ちも新たに決意するのだった。
第3巻
水天の婚礼の取材で、キュー太に花嫁の写生を頼んだ雀は、桜丸やポーと共に水天宮への花嫁行列を見物に行く事にした。左右に分かれた騎手のあいだから水が湧き出て、うねる川になる様を見て驚いた雀は、空を行く鳥達が口々にくわえていた花をその水の流れに落とし、祝福するのを見て、温かい気持ちになる。華やかな花々の落ちた水の中からは、水神の象が現れ、その巨大な象の上の神輿の中には、美しい花嫁がかしこまって座っているのだった。やがて水天宮の鳥居をくぐった花嫁が水天と対面するのを見届けた雀は、一連の様子を書き留めたキュー太が、それを絵巻物にして大首に提出したのを見て、恍惚とする。キュー太の絵描きとしての腕前に改めて関心したところで、雀は、キュー太が日吉座一の役者、蘭秋の肖像画をも仕上げた事を知る。蘭秋の肖像画の依頼主である油問屋の大河屋に会うために、魔都大江戸一の船茶屋、竹の春へ向かった雀、キュー太、ポーは、大河屋の計らいで蘭秋本人と対面する事になる。実際に会った蘭秋は、大の男と並んで戦えるような力強さを持つ、美しい人型の妖狐だった。離れの庵にいた蘭秋と同席していた百雷に驚く雀達だが、蘭秋は百雷に好意を寄せているらしい。百雷は鈍感なので蘭秋の気持ちに気づいていないようだが、妖怪の世界では、種を超えた結婚はできるのかと気になった雀は、大首のもとへ帰る道すがら、ポーに疑問を投げかける。よほど身分の高い妖怪でない限り、種族を超えてつがいになる事を気にする者はいないと言うポーに、人間の世界よりもよほど自由だと雀は笑い、自分もいつか、この妖怪の世界で誰かと家族になるのだろうかと考えるのだった。それからしばらく経ったある日、雀と桜丸とポーの三人は、大河屋の伝で日吉座の桟敷席で芝居見物をする事になった。身分不相応な高級席に気後れしながらも、雀は、舞台に上がった途端に観客全員を虜にした蘭秋の芝居の迫力に度肝を抜かれる。
第4巻
日吉座の芝居を観劇する雀は、舞台にあがった蘭秋の美しく、可憐で凛々しい姿に見惚れてしまう。翌日、改めて蘭秋の取材に向かおうとしていた雀は、飛んで来た桜丸に、李角が何者かに殺されたと聞く。現場に急行した雀は、李角の死体の奇妙な点に気づく。調査の結果、李角は事故死と判明したが、それを契機に百雷に告白する蘭秋。蘭秋は美しいが男性であるため、百雷にふられてしまうが、それでも凛とした佇まいを崩さない蘭秋に、雀は何とも言えない色香を感じるのだった。やがて年末が近づき、雀は桜丸とポーと共に海上銭湯に行く事になった。露天風呂で酒盛りを楽しんだ雀は、人間界にいた時と違い、四季を通した行事を重ねる魔都大江戸での充実した暮らしに感謝する。そして大晦日、地天宮に古道具を置きに行った雀は、すでに山のように積み重ねられている古道具に自分のものを混ぜ、この妖怪の世界に来てからずっと生活を支えてくれた古道具達に感謝と別れを告げる。古道具達が、夜に百鬼夜行をする事を教えられて期待に胸を膨らませる雀は、桜丸に連れられて千年榎に灯る狐火の幻想的な光景を見物したあと、鬼火のもとで鍋を囲んで暖まるのだった。夜、楽しみにしていた百鬼夜行を見物しながら、雀は、楽しい年越しを迎えられた事に感謝し、来年もいい年になるようにと祈る。
第5巻
雀と桜丸、ポーは、蘭秋に招待され、正月から日吉座の舞台を見に行く事になった。その日の芝居が人間界の絵本、シンデレラと酷似した内容であった事から、雀は脚本を書いた妖怪に興味を持ち、会いたいと思う。日吉座の座長、菊五郎に脚本家について尋ねてみたところ、最近の新しい芝居の脚本のほとんどは、菊五郎の娘である雪消が書いている事を知る。さっそく雪消に会いに行った雀だが、厳重な結界符を貼られた座敷牢に入れられた雪消を目にして驚愕する。雪消は、人やほかの妖怪を喰う白鬼であるため、一生を座敷牢の中で過ごすのだという。長く座敷牢にいるため、外界を知らず、そのため仙人のように浮世離れしたところのある雪消は、非常に美しい女性に見え、雀は彼女の一生がそこで終わる事を寂しく思う。雪消は雀の人間界での話の新鮮さに喜び、雀もまた、雪消との語らいを楽しみに、頻繁に彼女のもとに足を運ぶようになるのだった。語らいを重ねるうちに、過去に惹かれた相手を喰い殺した事で自身のコントロールできない人喰いの本性を恐れ、自らの意思で一生座敷牢にいる事を決めている雪消の芯の強さを知り、雀は雪消にどんどん惹かれていく。ある日、雪消に縁談話が持ち上がった。相手は上級武士、旗本の三男坊、保坂栄之進という猪の妖怪だが、非常に外聞の悪い男で、雪消の力欲しさに言い寄って来ているのだと判明。武力で無理やり縁談を押し通そうとする栄之進だが、菊五郎により、雪消が一生座敷牢から出られない身の上である事を知らされると、退散するよりほかなかった。雀が、平和だとばかり思っていた魔都大江戸にも、相手を見下したり暴力で物事を解決しようと考える者がいる事にショックを受ける。そんな中、栄之進の守役が現れ、雪消をさらっていってしまう。虚栄心から雪消を思い通りに動かそうとする栄之進だが、特殊な結界符の貼られた座敷牢を出た雪消は、無差別に他者を襲う人喰い鬼へと変貌。雪消を助けに栄之進の屋敷に来た雀は、白鬼となり理性を失いつつある雪消に襲われ、絶体絶命の状況に陥る。
第6巻
雀は、保坂栄之進の屋敷で雪消に襲われ、絶体絶命の状況に陥るが、間一髪のところで鬼火に助けられる。雀の身代わりに、白鬼となった雪消の長く鋭利な爪に貫かれた鬼火は、自身の血を使い、雪消の額に封印を刻み、白鬼の姿を封じる事に成功。難を逃れた雀は、鬼火の出血量の多さに驚くが、鬼火は雪消を再び日吉座の座敷牢に封じ込める封印符を書くために自身の血を提供。雀は、再び座敷牢に入れられた雪消と面会し、雪消にとっての安息の場所は、この座敷牢の中しかないのだという事を痛感するのだった。季節は巡り、春になり、桜の綺麗な名所で花見をする事になった雀と桜丸とポーとキュー太。途中から百雷と蘭秋も参加し、楽しい酒の席が展開される中、雀は大蟒蛇の妖怪にからまれている少女の姿をした妖怪の夏初と出会う。ぶつかった詫びに大蟒蛇の酒のお酌を強要されて困っていた夏初を守るために、雀に代わって酒飲み対決を受ける事にした蘭秋は、見た目と違って酒には非常に強く、大蟒蛇を負かして拍手喝采を浴びた。後日、その酒飲み対決の様子を雀がかわら版にして雪消に見せたところ、雪消が面白がり、鬼と蘭秋が酒飲み対決をするという筋書きの脚本を書き、さっそく日吉座で上演される事になる。日吉座の舞台効果もあり、酒飲み対決のかわら版は何度も版を重ね、草紙も作られるほどの大ヒットを記録した。大首に特別報酬をもらい、懐の温かくなった雀は、ある日、空から落ちて来た天空人魚の息吹と出会う。息吹は花見で夏初を助けてもらった礼をしたいと言い、雀を天空の竜宮城へ連れて行ってくれるという。快諾した雀は、息吹に抱きかかえられて空を飛び、天空の竜宮へと向かうのだった。
第7巻
雀は、息吹に連れられて天空の竜宮へ降り立ち、桃源郷のように厳かな竜宮村の暮らしに歓喜する。天空魚と天空魚の餌である風点を売る事で生計を立てている竜宮村では、天空魚職人が一番偉く、ただの村役場の勤め人でしかない息吹は、邪険に扱われている様子。これに怒った雀だが、息吹は、親も家も田畑も持たない自分が、役場勤めをさせてもらえるだけありがたいのだと言って、笑う。天空魚の飼育場で夏初と再会した雀は、夏初が天空魚職人の見習いをしている事を知り、蘭秋へのお土産にと、「紫」と名付けられた天空魚を持たされる。天空にあり、結界により雨も通さない空飛ぶ要塞である天空の竜宮村の水源はどこにあるのか、と疑問に思う雀は、息吹により、村役場裏の鎮守の森へと連れていかれる。鳥居をくぐって森を進むと、無限水という石があり、そこから滾(たぎ)るように水があふれている。無限水が天空の竜宮村の暮らしを支えているのだと知った雀がさらに奥へ進むと、広い湖があり、水神の象とよく似た象が佇んでいた。象と意識を通して会話できる事を知った雀は、象により、この妖怪の世界が地球ではない場所にあるのだという事を教えられる。何でも知り尽くしている、竜宮の守護神のような象に、雀は自分が地球から妖怪の世界に来た理由を尋ねるが、答えは自分にしかわからないものだと返される。雀はその深い言葉に、鬼火達に支えられて自分らしく生きる事が答えなのだと悟るのだった。珍しいものをたくさん見聞きした雀は、息吹に連れられて意気揚々と魔都大江戸に帰還するが、道中、刺客に襲われる。迎えに来てくれた桜丸に助けられて事なきを得たが、息吹が天空の竜宮の神守りであるために狙われたのだと知った雀は、移動可能な飛ぶ要塞を作る事も可能な無限水が狙われている事をも知る。平和に見える妖怪の世界も案外穏やかではない事を知り、驚愕する雀だが、天空の竜宮で出会った象の言葉を胸に、日々を楽しく生きていきたいと改めて感じるのだった。
第8巻
雀は、ある秋の日、ポーから魔都大浪花の秋の風物詩、雷馬の話を聞く。巨大な台風のような雷馬は、毎年秋に魔都大浪花沖を南から北へと通過していくが、魔都大浪花城から海上警備が雷馬を食いとめる姿は壮観だという。天空の竜宮に行って以来、魔都大江戸の外に広がる世界への関心が俄然高まっている雀は、是が非でも魔都大浪花に取材旅行に行きたいと、必死にかわら版を売り、大首を説得できるだけの稼ぎを出そうと奮闘する。だが、いくらかわら版を売っても、大首は首を縦に振ってくれない。だが、見かねた雪消が大金を貸してくれたため、雀は桜丸と共に魔都大浪花へと旅立つ事が叶った。雀は、鬼火の計らいで魔都大浪花を気に入り、よく出入りしている鬼火とそっくりの人間、修繕屋と出会う。修繕屋の案内で魔都大浪花観光を楽しむ雀は、派手で華やかだが、着飾らない町人達とすぐに打ち解ける。さらに、非常に発達した食文化や、町中に水路が通り、どこへでも舟で行く事ができる魔都大浪花の面白みに目を輝かせる。だが、その平和な町に、今年は雷馬が直撃するという。雀は、京の伏見一族が総出で結界を張り、魔都大浪花を雷馬から守ろうと躍起になっている事を知る。伏見一族の腕を信じ、雷馬が無事に魔都大浪花のそばを通り過ぎる様を漏らさず書き留められるよう、雀は気を引き締めるのだった。
第9巻
魔都大浪花見物を楽しむ雀は、いよいよ明日、雷馬が魔都大浪花に到達する事を知る。やきもきしながらも見物を続ける雀は、修繕屋の案内で、異邦人達の集まる町、唐人町を訪れた。唐人町で人間界にある肉まんそっくりの食べ物を食べたり、修繕屋自前のたこ焼きプレートでたこ焼きを楽しみながら、雀は、人間界にいたころの仲間と飲み食いした楽しい思い出を振り返る。必ずしも嫌な思い出ばかりではなかった人間界の事を考えるうちに感傷的になり、雀は落ち込む。しかし、この妖怪の世界で頑張ってきたからこそ、今の、心のままに生きる自分らしい自分が在るのだと思い直すのだった。やがて雷馬の到達する時刻が迫り、魔都大浪花沖のかなたに落ちた稲妻であたりが真っ白になり、あたりは騒然となる。次の瞬間、魔都大浪花沖に雷馬が現れ、ものすごいスピードで魔都大浪花に迫るが、それを迎え撃つ伏見一族ら術士が総出で結界を張り、なんとか雷馬の進行方向を変える事に成功。かくして魔都大浪花の平和は保たれたのだった。雷馬と伏見一族の闘いを間近で見ていた雀は、素晴らしいかわら版が作れそうだと満足し、修繕屋に別れを告げ、魔都大江戸に帰ろうとする。帰り際、術を使って人間界へ戻してやろうかと持ち掛けてくる修繕屋の言葉に一瞬躊躇した雀だが、今の家族が待つ場所へ戻ると言い、魔都大江戸へと帰っていくのだった。雀が魔都大江戸に戻ってしばらくしたある日、今度は修繕屋が魔都大江戸にやって来た。5~6年に一度の割合で次元を超えてやって来る渡来船を見物に来たという修繕屋を連れ、雀はさっそく渡来船の船着き場である魔都大江戸城へと向かう。魔都大江戸城で人のごった返す中、渡来船見たさに家を抜け出してきた箱入り娘の初花と出会った雀は、彼女と共に、現れた渡来船の豪華さに驚く。そこへ百雷が現れ、初花が百雷の妹だという事が判明する。
第10巻
初花は、人狼の雌に生まれた宿命で、生まれつき体が弱く、そのため大事をとって田舎暮らしを強いられてきた。何かあっては心配だと、一刻も早い帰郷をうながす百雷を説得した雀は、修繕屋と初花を連れて、魔都大江戸観光を再開した。道中、佐保風という少女と出会った雀だが、彼女は非常に不思議な娘で、雀と初花には少女に見えるが、修繕屋には少年に見えてしまう。修繕屋は佐保風のその現象を雌雄同体の一種だと結論付ける。しかし佐保風は、雀のかわら版屋稼業や魔都大浪花からたまたまやって来ていただけの修繕屋の個人情報にも詳しく、二人は彼女の正体に首をかしげるのだった。さらに雀は、魔都大江戸観光を進めるうちに、佐保風が鬼火の知り合いである事を知る。だが、鬼火の家に立ち寄った際、佐保風を見て鬼火が顔色を悪くし、佐保風の言いなりになって、食事や寝床の世話をする姿を見て動揺する。鬼火にわがままを言えるのは、本来なら魔都大江戸将軍の東方くらいであるはずだったが、結局佐保風の正体はわからないままだった。翌日、雀達は、百雷の計らいで日吉座に観劇に行く事になった。日吉座の舞台を初めて見る修繕屋と初花の喜ぶ様に、魔都大江戸の魅力を余す事なく伝えたと満足する雀だが、夜になると、犬族の眷属が理性を失い、凶暴化する事態が発生。人狼である百雷も凶暴化し、雀と修繕屋を襲うが、鬼火によって拘束される。満月の浮かぶ夜空に魔狼を見つけたポーが、犬族の眷属が凶暴化したのは魔狼の災厄という伝染病にかかったからで、魔狼を倒せば、みんな元に戻ると教えてくれる。そして、鬼火の兄弟子である佐保風の力で狼の姿に変身した初花の活躍により、無事に魔狼は成敗され、魔都大江戸は平和を取り戻すのだった。
登場人物・キャラクター
雀 (すずめ)
魔都大江戸で、大首のかわら版屋の記者をしている少年。つねに大福帳を首からぶらさげており、ネタ探しに奔走している。妖怪の棲む魔都大江戸で暮らす唯一の人間である事から、その独自の目線でつづられた記事は毎回大反響を得る。次元の隙間から魔都大江戸に落ちて来たところを鬼火に拾われ、生き方を諭された事から、鬼火を非常に尊敬している。 人間界にいた頃は生まれた時から荒んだ環境に身を置かざるを得ず、荒れた生活をしていた。人間界にいた頃、太陽に顔を向けてまっすぐに立つ向日葵が、泥水をすするような生活を強いられる自身を見下しているように感じ、嫌いだった。しかし、魔都大江戸に来て自由を手にして以降、美しいその様を素直に称賛できるようになった事に喜びを感じている。 「雀」の名は鬼火が命名したが、その由来は、短い髪をわずかに結わった際、その結わった先が雀の尻尾のように見えたためである。
大首 (おおくび)
魔都大江戸でかわら版屋を営んでいる妖怪。雀の上司で、真っ赤な大きな大首。仕事の出来には人一倍厳しいが、魔都大江戸に落ちて来たばかりの雀に仕事を与え、生活の世話をしてやるなど、人情にもろい一面を持つ。雀やポーには「親方」と呼ばれて親しまれている。
キュー太 (きゅーた)
魔都大江戸で、大首のかわら版屋の挿絵師をしている妖怪。いつも雀の版下に挿絵を描いてくれるが、雀のつたない説明でも、非常にリアルな絵を描き上げる才能を持つ。その才能は魔都大江戸中に知られ、名のある歌舞伎役者の肖像画を依頼されるなど、大首のかわら版屋を超えて仕事を受注する事もあるほど。言葉はいっさい発さず、樽に布をかけた姿で、口もとから文字を書いた紙を出し、会話する。 名前は特になく、雀が来る前はみんなに「白助」と呼ばれていた。
ポー
魔都大江戸で大首のかわら版屋の記者をしている妖怪。雀の同僚で、文芸担当。探偵のような服装をした猫の妖怪で、雨の日は元気がなくなる。キザな性格で、「いい朝だね。生まれ変わった気分だよ」と毎朝のように言っている。つねにキセルをくわえており、ワインやウイスキーが大好物。魔都大江戸に落ちて来た雀を兄のように温かく見守るスタンスを貫いており、飲み友達の桜丸と共に、雀に魔都大江戸の暮らしかたを教える。
留 (とめ)
魔都大江戸で刷り師をしている妖怪。末とそっくりな背格好をしており、腕が六本ある蜘蛛の姿をしている。非常に兄貴肌で、雀の至急の依頼にも嫌な顔をせずに応じてくれるため、雀に篤い信頼を寄せられている。
末 (すえ)
魔都大江戸で刷り師をしている妖怪。留とそっくりな背格好をしており、腕が六本ある蜘蛛の姿をしている。非常に兄貴肌で、雀の至急の依頼にも嫌な顔をせずに応じてくれるため、雀に篤い信頼を寄せられている。
桜丸 (さくらまる)
魔都大江戸で暮らす、雀といつもつるんでいる魔人の男性。「風の桜丸」の異名を持ち、風を捕まえて、空をも自在に駆ける事ができる。ただし、鳥のように空を飛行し続ける事はできず、あくまで高い跳躍力と風の力を利用し、跳びあがるだけであるため、足場の極端に少ない場所では飛ぶ事ができない。雀の取材に協力し、雀を背負って移動してやる事も日常茶飯事で、見た目は美麗な人間の男性にしか見えないが、首や額に彫り物を持つ事から魔人と区別できる。 雀のかわら版が気に入っているため、彼の取材にはいつも協力的であり、遠方でも躊躇せずについていく。赤い髪に綺麗な着物をひらひらさせながら空を飛んで来たため、初対面の小枝には仙女と誤解されたが、本人は女性と間違われる事を非常に嫌う。 酒好きで、女好きなやんちゃな性分だが、いざという時には、その高い魔力、戦闘力で危機にさらされた雀達を守る、非常に頼りがいのある仲間である。
節 (せつ)
魔都大江戸の食事処「うさ屋」の店員をしている妖怪。人間の女性の姿をしているが、一つ目である。いつも取材に追われて奔走している雀を労ってくれる、うさ屋の看板娘。
鬼火 (おにび)
魔都大江戸で暮らす魔人の男性。魔都大江戸の神田に居を構えている。人間の男性の姿をしており、つねにサングラスをかけてキセルを口にくわえている。魔都大江戸に落ちて来た雀を最初に発見し、家へ連れ帰ってケガの手当てをした事から、雀が一番心を開き、尊敬している人物。雀にとって、兄のような、父親のような大きな存在。 みんなに「旦那」と呼ばれ、親しまれている。なお、サングラスは、お洒落のためにかけているという説と、妖力の力量を気取られないようにかけているという説で、仲間内で意見が割れており、真相は謎に包まれている。雀のいた人間界に非常に詳しいが、それは次元の狭間を行き来できるほど能力の高い魔人だからである。その魔力の高さから、魔都大江戸城将軍の東方とも親交がある。
小枝 (さえ)
人間の江戸の町から魔都大江戸に落ちて来た少女。魔都大江戸に落ちた当初、飛鳥山の田んぼのあぜ道にぽつんと佇んでいたところを桜丸に拾われた。6歳で、大きな呉服商の家に生まれた事から、裕福だが堅苦しい暮らしを強いられ、皿を割り、母親に叱られる事を恐れて押し入れに隠れていたところ、そこに次元の隙間ができ、魔都大江戸に落ちた。 非常に好奇心が強く、機知に富んでおり、幼いながら広い視野で物事を考える事ができる。仙女や仙人にあこがれていたため、妖怪を見ても恐がらず、海で出会った河童の妖怪、タロ吉ともすぐに打ち解け、なかよくなった。魔都大江戸に落ちて最初に見つけてくれた桜丸と、桜丸と仲のいい雀と鬼火に特に心を開く。母親が恋しくなり、人間界に戻る事を決めたが、時間の進み具合の違う魔都大江戸から人間界へ戻る際、1年と少し時間の経った世界へ戻る事になった。
菊月太夫 (きくづきたゆう)
魔都大江戸で暮らす妖怪。吉原で月下楼の花魁をしている。花魁道中で闊歩する際の美しさは、まるで人形のようだと小枝に評されたほどで、男性のみならず、女性の目をもくぎ付けにし、花魁道中はつねに人だかりになる。小さな妹が一人おり、小枝と同じ年の頃のため、感情移入して小枝が暴れ馬に襲われた際、とっさに高い下駄を脱ぎ捨て、小枝をかばった。 知性と度胸と冷静さを兼ね備えた、桜丸のお気に入りの花魁である。
タロ吉 (たろきち)
魔都大江戸で暮らす河童の妖怪。海に住んでおり、相撲が大好き。小枝と相撲勝負をし、意気投合した。最終的に小枝に一本取られるが、次に会った時には新しい相撲の技を教えると約束し、上機嫌で海へと帰っていった。
百雷 (ひゃくらい)
魔都大江戸で暮らす人狼。八丁堀同心をしている。侍然とした立ち姿で、悪人を取り締まっている。職業柄、非常に厳格な性格をしているが、甘いものに目がなく、魔都大江戸に落ちて来たばかりの雀を、問答無用で菓子屋である菊屋に連れていき、自身のおすすめの菓子を何箱も買い与えた。また、小枝との初対面時も、怯える小枝に干菓子をやり、かわいがった。 ポーには「でんつく」と呼ばれている。色恋事には疎く、蘭秋の分かりやすいアプローチにも気づかなかったが、蘭秋にはっきりと気持ちを伝えられてからは、蘭秋が男性である事から交際自体は断るものの、まんざらでもない様子である。初花という妹が一人いるが、病気がちである事もあり、非常にかわいがり、彼女の事になると過保護なほどに心配性になる。
藤十郎 (とうじゅうろう)
魔都大江戸で人気の一座、日吉座の看板役者を務める妖怪。水も滴るいい男の見本のような美麗な容姿をしている。魔都大浪花出身で、子供の頃から舞いが好きで、京の神舞いの名手といわれる華節師匠のもとで3年ほど修業に励んだ。しかし芽が出ず、たまたま魔都大浪花に大江戸歌舞伎役者を探しに来ていた菊五郎にスカウトされ、日吉座の役者となった。 術で女性になった時の修繕屋のような容姿の女性が好みのタイプである。
李角 (りかく)
魔都大江戸で人気の一座、日吉座の看板役者を務める妖怪。非常に体格がいい男性の姿をしている。同じく日吉座の看板役者を務める藤十郎とは、違った意味での男前である。酒癖が悪く、酔っては好意を寄せている蘭秋に絡んでいた。ある日、酔った勢いで蘭秋の好きな菓子を持ち、蘭秋の控室を訪れたところ、蘭秋が不在だったため、頭にきて、菓子を踏みつぶすが、その菓子に足をとられて、頭から床に激突して死亡した。
蘭秋 (らんしゅう)
魔都大江戸で人気の一座、日吉座の看板役者。伏見一族出身の妖狐だが、兄弟姉妹16人の中でただ一人妖力を持たずに生まれてきた。唯一できる変化の術を繰り返し行い、腕を磨いていたところ、女型に変化したまま狐に戻れなくなってしまい、その女型も尻尾の消えていない不完全な人型である事から、一族を追われる事となった。 立てば芍薬座れば牡丹、歩く姿は百合の花と形容されるほどの美人。劇場の外で暴れるならず者を一瞬で取り押さえてくれた百雷に好意を持ち、積極的にアプローチするものの、鈍感な百雷には気づいてもらえない。李角の死をきっかけに百雷に告白したが、男性であるために振られてしまった。大酒飲みで、酒飲み対決で大蟒蛇に勝つほどの酒豪だが、酒を美味しいと感じるのは最初のお銚子2、3本目くらいまでのため、本人はその体質をつまらなく思っている。 菊五郎と藤十郎とは、京から魔都大江戸への早船に偶然乗り合わせた縁で意気投合し、日吉座の役者になる事になった。男勝りで喧嘩っ早い一面も持つが、基本は人情に厚く、感激しやすく涙もろい性格である。
菊五郎 (きくごろう)
魔都大江戸で人気の一座、日吉座の座長を務める妖怪。雪消の父親で、非常に大らかな性格の持ち主。蘭秋と藤十郎をスカウトし、彼らの容姿を存分に活かした舞台を作り上げる事で、伸び悩んでいた日吉座を一気にトップ一座に叩き上げた。娘の雪消が人喰いの本性を持つため、人間の雀と対面させて、雀を怖がらせやしないかと配慮するなど、鬼火や桜丸同様の立ち位置で雀を温かく見守っている。
雪消 (ゆきげ)
魔都大江戸で人気の一座、日吉座の脚本家を務める白鬼の妖怪。日吉座の座長、菊五郎の娘である。型にはまらない脚本を書くところが蘭秋や藤十郎に評価されており、特に蘭秋は、雪消を「雪消師匠」と呼び、自身に似合った脚本を書いてくれる事に日々篤い感謝をしている。本質が人喰いである白鬼として生まれたため、結界符の貼られた座敷牢に常時閉じ込められており、そこで一生を過ごす予定である。 結界符は彼女の母親の血が使われた特殊なもので、唯一無二の封印力を持つ。子供の時に好意を抱いていた近所の子供を喰ってしまった事で、雪消自身が白鬼である事を知り、その時の喰い気を抑えられない感覚から、一生座敷牢に閉じこもる覚悟を決めている。 外界から隔離された場所で生活しているため、仙人のような浮世離れした雰囲気を持っている。酒好きの甘党で、菊屋の豆大福が大好物。
保坂 栄之進 (ほさか えいのしん)
魔都大江戸で旗本を務める保坂家の三男坊。猪の妖怪で、当主を務めていた長男が跡取りを残さず亡くなり、次男が病気がちである事から、次期当主の座を継ぐ予定となっている。腰に魔剣を刺しており、その剣は古く貴重なもの。性格は非常に横暴で、身分主義なところが目立つ。守役を使って結界から出られない雪消を無理やり自身の屋敷に連れて来ようとするなど、武力にものを言わせて物事を推し進めようとする。 非常に強引な性格で、外聞が悪い。
夏初 (なつは)
天空の竜宮村の村長の姪。天空魚の飼育職人の見習いをしており、勤めて3年目になる。少女の姿をしている天空人魚で、村から魔都大江戸に花見観光に来ていたところを雀と出会った。花見の席で大蟒蛇に絡まれたところを助けられて以来、雀に並み以上の好意を持つようになる。大蟒蛇と酒飲み対決をし、負かしてくれたお礼に蘭秋に自身の天空魚「紫」をプレゼントした。
息吹 (いぶき)
天空の竜宮村の村役場に勤める天空人魚の男性。一人称は「儂」で、非常に気さくな性格をしている。親も家も田畑も持っていない事から、勤め先である村役場の2階に寝泊まりしている。表向きは冴えない村役場の役人であるが、本職は天空の竜宮の神守りであり、この事実は村長である天岡と、息吹を神守りに選んだ者しか知らない。 陰からご神体を警備する役目を持つため、非常に武闘派で、よく鍛錬して闘いに慣れている節がある。天空の竜宮には神守りの許可がないと入れないため、天岡の命を受けて雀を魔都大江戸まで迎えに来た。
天岡 (てんこう)
天空の竜宮村の村長を務める男性の妖怪。夏初の母親の兄であり、姪の夏初を非常にかわいがっている。あごのあたりまで垂れ下がった福耳が特徴的で、非常に気さくな性格をしている。息吹が神守りである事を知る、数少ない者のうちの一人。
水野大老 (みずのたいろう)
魔都大江戸の魔都大江戸城に勤めている男性の妖怪。魔都大江戸城では将軍の次に偉く、魔道士と手を組み、天空の竜宮にある無限水を狙い、天空の竜宮の神守りである息吹を襲った。非常に野心家である。
令月 (れいげつ)
魔都大浪花城の家老を務める男性の妖怪。魔都大浪花将軍、西方の第一の部下であると同時に、西方に意見できる唯一の存在。つねに冷静でどっしり構えている大男で、血の気の多い西方を叱咤激励したり、甘い菓子でなだめるなど、その扱い方をよく心得ている第一人者。
修繕屋 (しゅうぜんや)
人間界に暮らす男性。次元の狭間で鬼火に会った際、互いにそっくりな容姿である事から、違う次元の同一人物である事に気づく。以来、鬼火と親交を持つ。魔都大浪花が気に入っており、よく出入りしている。鬼火に教えられて魔導士となった縁から、魔都大浪花将軍である西方とも親交を持つようになった。魔都大江戸の言葉遣いを非常に気に入っている。 同じ人間界出身という事で、雀を気にかけており、リクエストを受けてはレトルトカレーやパスタの材料を人間界から調達している。
初花 (はつはな)
百雷の妹の人狼で、14歳の少女。百雷から雀のかわら版の評判をよく聞かされており、雀の書く記事のファンとなった。人狼だが、女性なので獣面ではなく、少女の姿をしている。人狼の雌に生まれた宿命で、幼い頃から病弱である。そのため、のどかな田舎暮らしを強いられてきたが、魔都大江戸にいる兄にあこがれ、自身も広い世界を見たいという思いから、田舎の叔父宅を抜け出し、武士のかっこうをして単身で魔都大江戸までやって来た。 一人で心細く感じていたところを雀に声を掛けられ、それからは雀に感謝し、好意を抱いている。幼い頃に母親を亡くして以降、周囲は人狼の雄だらけだったため、大人の女性を見ると飛びついて甘えてしまう癖がある。
西方 (にしかた)
魔都大浪花城で将軍職に就く男性の妖怪。魔都大浪花一の権力者だが、非常に気さくな性格で、そのため城下の民に好かれている。性格は少々子供じみているところがあり、甘い物が好きであったり、威圧的な魔都大江戸の若将軍、東方とは、会話したくないなど駄々をこねる事が多いが、その都度、第一の家臣である令月に厳しく叱咤される。 身分が高いので窮屈なしきたりの中で生活しなければならないため、自由な暮らしにあこがれている。魔都大浪花と人間界を自由に行き来する事のできる修繕屋の生き様を羨ましがり、いつも異界の話をしてくれるようねだっている。
佐保風 (さほかぜ)
鬼火の姉弟子にあたる女性の妖怪。術を使わない時には少女の姿をしているが、見る者によっては少年にも見える。つねにキセルをくわえており、立場上、鬼火は逆らう事ができない。鬼火は彼女の訪問を嫌うあまり、家に結界を張っていたが、雀との問答により結界を破った佐保風に、家への侵入を許してしまうはめになった。粗暴でわがままな面も目立つが、強力な力を持つ者として、町の危険が迫った時には率先して戦闘に参加し、事態を治めようと奮闘する。
集団・組織
魔人 (まじん)
妖怪と共に魔都大江戸に存在している血種の一つ。鬼道が使える事と、体に入れ墨のような彫り物があるのが特徴。魔都大江戸城を固める要職のほとんどが魔人で占められている。
日吉座 (ひよしざ)
魔都大江戸で劇場を構える人気歌舞伎一座の一つ。大江戸三大座の筆頭一座である。座長を務めているのは菊五郎で、看板役者は蘭秋、藤十郎、李角。蘭秋を一座に加えて、和事と荒事を融合させる芝居ができるようになった事で人気No.1の一座へと成長した。妖気に立ち向かうたくましい武将とその美しき恋人の愛を描く芝居や、英雄を苦しめる邪教の女神の息を呑む色香を表した芝居、夫と共に敵討ちに挑む強き妻とその夫婦愛を描いた芝居などが人気が高い。 数ある芝居のうち、殺された女が墓場から血みどろで現れ、男に復讐するという、蘭秋と藤十郎の「怨念もの」は特に人気を博している。脚本のほとんどを菊五郎の娘、雪消が書き下ろしている。
伏見一族 (ふしみいちぞく)
京に棲む妖狐の一族。みんな美しい白狐姿をしている。京の伏見一族として名を馳せており、妖狐の中で最も由緒正しい大妖怪の集団。代々、魔都大浪花で要職を務めており、その権力は魔都大浪花の殿様に匹敵するといわれている。現当主は長至で、魔都大浪花城の凶事を予知しては術を使い、災いを防ぐ役割を担っている。蘭秋の出身一族。
鬼族 (おにぞく)
妖怪世界に存在する種族のうちの一つ。鬼族には眷属が多く、赤鬼、青鬼、山姥、山爺などが鬼族の一種である。鬼族の中でも白鬼は稀少で、その稀少性からほかの血と混ざりやすい傾向にあるが、まれに先祖返りで純血種の白鬼が生まれる事がある。先祖返りは女性にしか現れない性質で、白鬼の本性は人喰いであるため、他者殺しが御法度の魔都大江戸では、白鬼が生まれたら厳重に見張りをつける必要がある。
人狼 (じんろう)
妖怪世界に存在する種族のうちの一つ。雄は獣面人身だが、雌は完全人型で生まれ、体が弱く短命である事が多い。雌が短命のうちに生涯を終えるのは、その力筋の強さのせいで「雌」という性に相当な負担がかかるためである。雌の人狼は数が少なく、雄は同族以外の雌と番う事が多い。人狼の力筋が強い事から、同族以外と番っても血が混じる事はなく、ほとんどの場合、純血の人狼が生まれてくる。
場所
魔都大江戸 (まとおおえど)
妖怪の棲む都市の一つ。昼空に龍が飛び、夜空を大蝙蝠が舞い、墨田川には大蛟、飛鳥山には化け狐、魔都大江戸城には巨大な骸骨やがしゃどくろが棲んでいる。卵売りが鶏の妖怪だったりする珍妙な世界だが、人情あふれる妖怪達が平和に暮らしている。時々違う次元の隙間から人間が落ちて来る事がある。
竹の春 (たけのはる)
魔都大江戸で一番高級な船茶屋。敷地内にいくつもの庵を所有しており、小路を通って行き来できる。主が蛍の妖怪のため、夜景の美しさには趣向が凝らされており、小路を飾る竹林が発光する様は非常に幻想的。また、小路自体にも夜光石が敷き詰められており、夜道は足元にも星空があると錯覚するような美しさを誇る。豪華な料亭を抱えており、出て来る酒も料理も一流のものである。 油問屋などが接待などで利用している。
竜宮 (りゅうぐう)
妖怪の棲む地域の一つ。川と海と空に一地域ずつ存在している。空の竜宮は天空魚の特産地として有名であり、天空魚職人がヒエラルキーの頂点にいる。また、天空の竜宮は重力がないため、階段の非常に多い造りの村であるが、老齢の村人も疲弊する事はない。天空魚の器にするギヤマン作りの村と親交が深いため、村役場の窓にはガラスがはめられているなど、一部近代的である。 天上に隔離された天空の竜宮の水源は、村のてっぺんにある村役場の奥の鎮守の森に鎮座する石、無限水から湧き出る水であり、無限水からさらに森の奥に進むと湖が広がっており、竜宮の守り神である神聖な象が佇んでいる。象は守り神達に陰ながら守られており、永遠に湖にたたずみ、天空の竜宮を守護する役目を果たす。
魔都大浪花 (まとおおなにわ)
妖怪の棲む都市の一つ。魔都大浪花城を中心に栄えており、町中に水路が通っていて、舟でどこへでも行ける仕組みになっている。水龍の棲む琵琶湖を内包しているため、水は非常に澄んでおり、水の都と呼ばれるほどきれいである。また、水路に垢を舐める妖怪、垢舐めを大量に放つなど、水をきれいに保つ工夫もしている。派手でにぎやかな町人達は着飾らず、町の外から来た者にも友好的に接する。 食文化が特に発達しているのが特色で、出汁を丁寧にとった薄味が非常に美味であると評判。
唐人町 (とうじんまち)
魔都大浪花にある町の一つ。獣面人身や異邦人の集まる町で、異国文化にあふれている。ずっと遠くの唐から来た者も多い。肉まんなど、人間界にあるものとほぼ同じ食品が店に並んでいるため、修繕屋のお気に入りの場所である。
うさ屋 (うさや)
魔都大江戸で営まれている食事処。雀や桜丸が朝、昼、晩と通っている。店主はうさぎの妖怪で、見た目はうさぎそのもの。大柄で二足歩行をし、エプロンを着用している。旬の食材を多く取り入れた料理には舌鼓を打つ者が多い。人気の食堂ながら、出前もしているため、日吉座などにいつも弁当を届けに行っている。
その他キーワード
天空魚 (てんくうぎょ)
妖怪の世界で見られる、空を飛ぶ魚の総称。天空の竜宮の特産品であり、風点という鞠のように小さい風の精を食べて育つ。金持ちが観賞用に購入する事がつねである。
無限水 (むげんすい)
天空の竜宮村の中心地・鎮守の森にある石。つねに水を湛えており、天空に隔離されている竜宮村の貴重な水源となっている。また、空間を曲げる力を持っており、その力を手に入れようと多くの権力者達に狙われている。
雷馬 (らいば)
魔都大浪花に、毎年秋になるとどこからともなく現れる台風のようなもの。魔都大浪花沖を南から北へと通過していく正体不明な突風だが、雲のあいだに見え隠れする姿はとてつもなく巨大な人型の女のようで、下半身は百をゆうに超える触手を生やしている。さらに雷馬は、髪も触手のようにうねらせており、その体に嵐をまとい、稲妻を放ちながら現れる。 意思がなく、ただ現れては去っていくだけの存在だが、その様は時に巨大な力が形となって現れ、神のような存在と例えられる事がある。魔都大浪花の秋の風物詩といわれており、魔都大浪花城からの海上警備が雷馬を食いとめる姿は壮観であると評判。毎年の雷馬の出現情報は、京の伏見一族の凶事予知能力により、提供される。
渡来船 (とらいせん)
5、6年おきに次元を渡って魔都大江戸にやって来る船の通称。魔都大江戸には物資交換を目的に渡来する。異邦人や渡来犬が多く乗船しており、渡来船が来ると、異文化交流が活発に行われる。
魔狼の災厄 (ふぇるりんのさいやく)
かつて大欧州で流行した伝染病の一種。満月の日に門が開き、魔狼が現れると、周囲の犬族はみんな理性を失って凶暴化する。魔狼を滅し、門を閉じる以外に凶暴化した犬族をもとに戻す方法はない。大欧州でこの伝染病が流行った当初は、対処の仕方がわからなかったため、甚大な被害を被る事となった。魔都大江戸にも渡来船に乗ってやって来た渡来犬により病が持ち込まれたが、月の力を吸収する事ができる特別な女性である初花により、災厄は早い段階に防がれた。
炎蛇 (えんじゃ)
陰の気から生まれる魔が、何かの火種を吸い、大きくなった姿。妖の一種で、見た目は炎に包まれた大蛇に見える。普通の水ではその炎は鎮火できず、水神の聖水でのみ鎮火できる。
水神 (すいじん)
魔都大江戸の火消し屋をしている妖怪軍団。普通の水では消せない炎蛇の火消しで特に活躍し、聖水を放ち、魔の炎を鎮火させる事ができる。水神の火消しの中でも、背骨から生やした翼で空を飛ぶ空火消しは、花形職業といわれている。空を飛ぶには、相当な才能と修行が必要とされるからである。巨大な象を保有しているが、その象は非常に巨体で、足が竹馬のように細い姿をしている。 水神の象は水天の花嫁行列で、神輿に乗った花嫁を背に乗せて水天の待つ水天宮まで運ぶ大役を担った。
クレジット
- 原作
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香月 日輪
書誌情報
大江戸妖怪かわら版 11巻 講談社〈シリウスKC〉
第1巻
(2014-04-09発行、 978-4063764628)
第2巻
(2014-11-07発行、 978-4063765090)
第3巻
(2015-03-09発行、 978-4063765311)
第4巻
(2015-07-09発行、 978-4063765564)
第5巻
(2015-11-09発行、 978-4063765830)
第6巻
(2016-04-08発行、 978-4063906226)
第7巻
(2016-11-09発行、 978-4063906622)
第8巻
(2017-04-07発行、 978-4063906950)
第9巻
(2017-11-09発行、 978-4065103388)
第10巻
(2018-04-09発行、 978-4065113035)
第11巻
(2018-11-09発行、 978-4065134382)