概要・あらすじ
時は明治、民俗学者の一ノ宮勘太郎は、裏では妖怪退治屋も営んでいた。そんなある日の妖怪退治中に、勘太郎は憧れていた鬼切り天狗の塚を見つける。なんとかして封印を解くことに成功した勘太郎は、鬼切り天狗と友達になるため、彼に春華という名前を付けるのだった。こうして、勘太郎と勘太郎の家に住んでいるヨーコ、春華の3人の生活が始まる。
登場人物・キャラクター
一ノ宮 勘太郎 (いちのみや かんたろう)
表向きは民俗学者で本を執筆するなどの仕事をしており、裏では妖怪退治を請け負う青年。見た目は若いものの、蓮見了寛や源頼光に対して年下扱いをするなど、実年齢はかなり上である。子供の頃から妖怪が見える体質で、妖怪だけが友達だった。今の性格は幼い頃から大きく変わっており、したたかで腹黒い。春華に名を付け、形だけは自分に隷属させているが、友達関係でいたいと思っている。 英語をネイティブに扱うことができ、英語圏の神父の通訳までこなす。
春華 (はるか)
伝説の鬼切り天狗の男性。見た目は若いが、500年は生きている。封印される前は、「臨」という名前で天才女陰陽師の藤に使役されていた。一ノ宮勘太郎によって封印を解かれてからは、彼に付けられた「春華」という名前で過ごしている。クールな性格で、ヨーコによってジゴロの特訓をさせられていることもあり、女の扱いは上手い。 なお、勘太郎によって封印を解かれた後も、「臨」の名前を持ち続けていたため、「臨」と「春華」の2つの名前を持つ二重契約の状態にあった。のちに勘太郎によって「臨」の名前を解除され、本来の力を発揮できるようになり、庚申眼の鬼切り天狗となった。
ヨーコ
一ノ宮勘太郎を主とする妖狐の女の子。勘太郎の家の火の車の家計事情を鑑みて、自らウェイトレスのアルバイトに勤しんでいる。名前の由来は妖狐だから「ヨーコ」という安易な理由から。明るく男前な性格で、春華にジゴロの特訓を施し、日々の家計の助けにしようと画策している。
スギノ
杉野村を根城としている、スギノ山の2代目の白天狗。むーちゃんとはプラトニックな関係の夫婦である。むーちゃんがなついている一ノ宮勘太郎に嫉妬をしており、よく勘太郎といがみ合っている。春華が「臨」という名前だった頃のことを知っており、勘太郎に使役されている現在の彼を心配している。勘太郎の家にはむーちゃんを連れてよく遊びに来る。
むーちゃん
ぬいぐるみのような形をしている妖怪。言葉を話さないが、理解はしている。霊力が高く、九字を飲み込んで消すことができるほど。一ノ宮勘太郎を気に入っているため、夫婦関係にあるスギノによく嫉妬されているが、スギノのことは真剣に愛している。
蓮見 了寛 (はすみ りょうかん)
一ノ宮勘太郎が留年した大学の、大学時代の後輩の男性。有名な民俗学者。妖怪のことを信じてはいないため、勘太郎の営んでいる妖怪退治屋をうさん臭く思っている。生真面目な性格で、よく勘太郎にいじられていながらも、交友関係は良好。
ロザリー
エドワーズが所属していた秘密結社「叡智と髑髏」に囚われていたイギリス生まれの少女。秘密結社「叡智と髑髏」に捕らわれていたが、のちに蓮見了寛の養女となる。妖怪を見ることができ、それが理由で一ノ宮勘太郎と仲が良い。霊媒体質で、その力をエドワーズや源頼光に利用されてしまう。
レイコ
一ノ宮勘太郎の民俗学研究の本やルポライター、コラムを担当する編集者の女性。したたかな勘太郎に振り回されることが多い苦労人。勘太郎が締め切りを守らないことが多いため、家に押しかけてくることがある。
源 頼光 (みなもと らいこう)
源家の当主を務める18歳の少年で、近衛師団呪術第一連軍の隊長も務める。「源頼光」は、源家が代々受け継いできた名前であり、平安時代の当主も先代の当主も、同じく「源頼光」と名乗っていた。源家に代々伝わる名刀「童子切安綱」を愛刀とし、鬼切り天狗である春華のことを「先祖が唯一倒せなかった相手」として執拗に狙っている。 自信家でナルシストな部分があり、腹黒さは一ノ宮勘太郎と同等。
渡辺 末吉延 (わたなべ すえきちのぶ)
源頼光の傍仕えをする男性で、近衛師団呪術第一連軍の四天王の一人。「女性には優しく」が信条で、本人も無自覚のうちに六股をかけるほど女癖が悪い。頼光が幼少の頃から仕えており基本的に従順だが、ひとたび頼光が暴走すれば、彼を止める役割も担っている。
近衛 篤範 (このえ あつのり)
大日本帝国陸軍呪術連隊の大将を務める男性。春華の珠を狙っている。また茨木童子を倒した一ノ宮勘太郎のことを深く知りたいとの考えから、勘太郎を逮捕したうえで蠱毒を用いた虫で襲った。
茨木童子 (いばらぎどうじ)
今一番人気の娘義太夫「綾小路昇菊」として活動しているが、本性は茨木童子という鬼。史実では源頼光と4人の従者によって酒顛童子と共に倒されたとされているが、実際は生き延びており、今は現代の頼光のもとで生活している。
エドワーズ
当初は一ノ宮勘太郎たちに助祭神父と名乗っていたが、その正体は秘密結社「叡智の髑髏」の一員。飄々とした青年で、源頼光に協力することはあるものの、自身はどこの味方でもないと語っている。「叡智の髑髏」の一員として、ロザリーのことを「自動人形」と呼んでいる。
源 あやめ (みなもと あやめ)
「摩訶不思議研究会」に所属している、妖怪の大好きな女の子。源頼光の妹だが、兄とは違って一ノ宮勘太郎にも友好的に接する。蓮見了寛のことは研究会の師として慕っているため、勘太郎と了寛の仲を取り持つことが多い。
藤 (ふじ)
はるか昔に春華を使役していた女陰陽師。春華に「臨」という名前を付け、縛っていた。自分が春華と同じだけの長さの時を生きられないと知り、酒顛童子と手を組んで春華を封印し、後世でまた出会えるように仕組んだ。
酒顛童子 (しゅてんどうじ)
平安時代、京近くの大江山に棲んでいた凶暴な鬼で、茨木童子の仲間。酒顛童子と茨木童子の一味は、当時の源頼光とその四天王、渡辺綱、坂田金時、碓氷貞光、卜部季武が討伐したとされていた。しかし実際は酒顛童子は藤と手を組み、また茨木童子も討伐されることなく今まで生き延びている。
鶫 (つぐみ)
村の人間に神様として祀られていた少女。本性は鵺。鵺には人の体を離れた魂を呼ぶことが可能で、死人返りをすることができる。名前で縛られ無理やり使役されていたことが理由で、体に負荷がかかっている。
伊東 稲斎 (いとう どうさい)
世界的にも認められている、妖怪画専門の男性画家。一ノ宮勘太郎も彼のファン。「おとろし」という妖怪によって悪夢を見始め、妖怪画が描けなくなってしまったところを、旧知の勘太郎に助けられた。
古谷 広司 (ふるや こうじ)
婚約者の千鶴に対して首を絞めたりと酷いことをした男性。実は怨鬼に取り憑かれており、その影響で千鶴に酷いことをしてしまった。彼に取り憑いた怨鬼は神喰いをして力をつけていたため、一般人では敵わない力を持っていた。
やっこ
一ノ宮勘太郎の幼なじみの芸者。ドSで、一度彼女の座敷に行くとお金を絞り取られることで有名。勘太郎に対しても、何かと心配をしつつもSな部分を発揮する。昔、勘太郎がいじめられていたことを知る数少ない人物。
雲海 (うんかい)
杉野村に住んでいる和尚で、一ノ宮勘太郎とは旧知の仲。腹黒さでは勘太郎といい勝負で、2人が話をすると黒いオーラが漂うほど。妖怪は、人間かどうかを見分けられる程度には見ることができるが、勘太郎と同等の能力を誇った先祖ほどの力は持っていない。
朱雀院 恭子 (すざくいん きょうこ)
陰陽道の宗家、土御門の流れを汲む家柄である朱雀院家の夫人で、五穀豊穣の朱雀祭を先導する。朱雀院舞と朱雀院雅の母親。朱雀祭の巫女の占術のサポートとして、一ノ宮勘太郎が訪れた先で出会う。
朱雀院 舞 (すざくいん まい)
母親である朱雀院恭子似のきりっとした少女。朱雀院雅の双子の姉。占術の力は雅より弱いため、村で行われる朱雀祭では占術を行わない。自分に力がないことにコンプレックスを抱く反面、雅のことを誇りに思っている。
朱雀院 雅 (すざくいん みやび)
朱雀院恭子の娘で、守ってあげたくなるようなはかなげな雰囲気の少女。朱雀院舞とは違い、強い占術の力を有している。生まれつき体が弱く不治の病を抱えているため、朱雀祭においては占いを行わないほうがいいと言われている。
沼田 (ぬまた)
一ノ宮勘太郎と蓮見了寛の大学の師で、還暦を迎えそうな老人。芸者遊びが好きで、勘太郎たちが在学中はよく勘太郎と了寛を連れてやっこのもとを訪れていた。学会では民俗学の第一人者として知られている。
櫻沢 宏子 (さくらざわ ひろこ)
明治時代においては珍しい女社長で、布の貿易を行う会社を営む。社員たちが妖怪に取り憑かれたり、社内で物音がしたりと怪事件が相次いだため、一ノ宮勘太郎に調査と退魔を依頼した。実は阿片の密輸に関わっており、勘太郎を欺いていた。
お義母さん (おかあさん)
一ノ宮勘太郎の義理の母親。実の母親の妹で、仏門に入っている。頑固な勘太郎のことを心配しており、実の母親以上に気にかけている優しい女性。勘太郎が対して母親への恨みの気持ちを持っていることは知っているが、常々気持ちは変わり、憎しみから解放されると勘太郎に言い聞かせている。しかし、勘太郎はいつも突っぱねている。
蔵前 百合 (くらまえ ゆり)
娘義太夫の茨木童子の仮の姿である綾小路昇菊の弟子で、「道成寺現在鱗」の演目を好む。春華に想いを寄せ、夜遅くに出歩くことを余儀なくされる自分のことを護衛して欲しいと頼んだ。その想いは春華には悟られており、「自分に深入りするのはやめろ」と告げられる。
集団・組織
叡智の髑髏 (えいちのどくろ)
錬金術の研究実践を軸にした、オカルト色の強い秘密結社。エドワーズは術の指導者であり、研究実践も行っている。ロザリーは元々孤児だったところをこの組織に引き取られ、組織内で「自動人形」と呼ばれて霊媒として扱われていた。
摩訶不思議研究会 (まかふしぎけんきゅうかい)
蓮見了寛が主催している研究会。了寛曰く「真の宗教信仰及び日本文化の向上にとって大きな障害となる、迷信や俗説を常識論と科学知識で打破するための研究会」である。了寛と源あやめの他、何名かが所属している。
場所
杉野村 (すぎのむら)
スギノがいる山、スギノ山のある村。代々天狗が山におり、スギノはそこの2代目の天狗。天狗信仰も厚く、スギノのことを崇め奉っている。スギノ自身はあまり人間に興味がないため、何が起こっても基本的には放置している。
その他キーワード
鈴 (すず)
妖気を感じると震えて音で知らせる、一ノ宮勘太郎の7つ道具のひとつ。妖怪にのみ反応し、過去、母親と暮らしていた時に出会った。元々は勘太郎の母親の持ち物で、勘太郎が母親の遺体の中から持ち去った。
珠 (ぎょく)
一定以上の力を持つ妖怪が持つ魂のようなもので、普通の小物の妖怪には存在しない。妖力の塊で、その能力は持っていた妖怪の力によって異なる。例えば、源頼光によって殺された鶫は、人の魂を呼ぶことができるという鵺の能力にちなみ、人の魂を集める力のある珠となった。
鬼切り天狗 (おにきりてんぐ)
伝説として語られている元々は妖怪であった天狗のことで、特に鬼に対して強い力を持ち、鬼を食らうことができるという。今となっては存在する鬼切り天狗は春華のみ。常に自分専用のお茶碗を持ち歩いており、この茶碗でしかご飯を食べない。
庚申眼の鬼切り天狗 (こうしんがんのおにきりてんぐ)
鬼切り天狗である春華の本当の姿。目が赤く染まり、鬼を食えるようになる。平安時代に最も恐れられた姿で、藤が使役していた時は、この姿で活動していた。庚申眼の鬼切り天狗の状態から力を開放すると、髪が伸びて目つきが変わる。
白天狗 (しろてんぐ)
元々妖怪ではなく、人間から天狗道に堕ちた天狗のことを白天狗と呼ぶ。法力が使え、その実力は妖怪にも劣らない。天狗道へは人に嫌気が差すことで堕ちるため、人嫌いな白天狗が多い。スギノはその典型である。
九字 (くじ)
一般的に使われるなかでは陰陽道最強とされる、主に妖怪を退治する時に用いられる攻撃用の術。春華や一ノ宮勘太郎も陰陽道をかじっているため、九字を使える。「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前」と唱え、縦横に9つの印を結ぶ手法の呪術。
十字 (じゅうじ)
九字以上に強力な術。強力だが、術者に力が跳ね返ってくるという恐ろしいリスクがある。結果、相打ちとなることもあり得るため、多くの術者は使わない。十字をかけた本人と妖怪との名前主従契約をすべて白紙にしてしまうため、十字は「裏解除」とも呼ばれる。
神喰い (かみくい)
神様をかたどった食べ物や生贄の動物を食べて、ご利益として超人的な力を得るという風習。古谷広司に取り憑いた怨鬼は、広司に取り憑く前に神喰いをして力をつけていた。妖怪にとっては一般的な行動で、他にも神喰いをして力を高めるものは存在する。
妖怪見世物小屋 (ようかいみせものごや)
巷で有名なさまざまな妖怪をショウ仕立てで見せる見世物小屋。レイコは本物の妖怪なのか疑っていたが、一ノ宮勘太郎が見物に行ったところすべて本物の妖怪であり、団長さえも妖怪であったことが発覚した。
後天八卦鏡 (こうてんはっけきょう)
風水の羅針盤で、妖怪を縛りつける力を持つ。妖怪見世物小屋の団長はこれを用いて、妖怪を見世物小屋で働かせていた。春華を縛りつけておくほどの、効力を持っている。
かごめ歌 (かごめうた)
地方によっては神降ろしの儀式とも呼ばれる。多い人数の中、目隠しした状態で後ろの人間を当てるのは至難の業で、当てられた子供は霊力が高いとみなされた。また「かごめ」は籠の網目のことを示し、呪術的に悪霊を払う力があるとされる。多数の「かごめ」が重なりあってできた「籠」は、大切なものを守る霊力の強い入れ物となる。
蠱毒 (こどく)
妖怪の虫を生むための呪術。蠱毒の虫は、大量の虫を共食いさせ、生き残った虫に術を施す。その虫は術者の指定した人間の体内に入り、その人間の内臓を食い散らかすと言われている。
続編
tactics 新説 (たくてぃくす しんせつ)
木下さくら、東山和子の『tactics』の続編にしてシリーズ最終章。妖怪退治師の一ノ宮勘太郎は、伝説の最強妖怪「鬼喰い天狗」の春華と主従契約を結ぶ。そんな二人に重大な変化が起こったことで、物語が終局へ... 関連ページ:tactics 新説