ジョーカー・ゲーム THE ANIMATION

ジョーカー・ゲーム THE ANIMATION

TVアニメ『ジョーカー・ゲーム』のコミカライズ作品。昭和初期の日本を舞台に、帝国陸軍内に極秘裏に設立されたスパイ養成学校D機関の面々が、スパイとして暗躍する姿をオムニバス形式で描く。「月刊コミックガーデン」2016年3月号から2017年2月号にかけて連載された作品。

正式名称
ジョーカー・ゲーム THE ANIMATION
ふりがな
じょーかー げーむ ざ あにめーしょん
原作者
柳 広司
漫画
ジャンル
ヒューマンドラマ
関連商品
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あらすじ

第1巻

帝国陸軍の参謀本部に所属する軍人・佐久間は、スパイ養成学校D機関の連絡係として出向を命じられる。そこで佐久間は、結城をはじめとしたD機関のメンバー達と邂逅を果たすが、軍人であるはずの彼らの異質さに気づき、衝撃を受ける。その後、佐久間は上官である武藤の命令で、スパイの嫌疑がかかっているアメリカ人ジョン・ゴードンの邸宅捜査の任務に就く。しかし、ジョンの家からはスパイの証拠が見つからず、さらに佐久間は失敗の責任を取って腹を切る事になってしまう。だが切腹を目前にして、ジョンの家の神棚にその証拠が隠されている事に気づいた佐久間は、切腹を免れ、武藤の機密保持違反の証拠をつかむ事に成功する。そして佐久間は、この事態のすべてが結城の画策によるものだった事を知り、彼らのスパイとしてのスキルの高さを痛感するのだった。(file01「ジョーカーゲーム(前編)」、file02「ジョーカーゲーム(中編)」、file03「ジョーカーゲーム(後編)」。ほか、2エピソード収録)

第2巻

上海派遣憲兵隊の職務に就いていた本間英司は、上官である及川政幸から上海派遣憲兵隊の中にいる敵の内通者を調査するよう極秘の命令を受ける。そんな中、政幸の邸宅を狙った爆弾テロが発生。英司は内通者による情報漏れの線を疑い、犯人探しに躍起になる。新聞記者・塩塚朔による情報提供から、英司はとある違法カジノにたどり着く。そこで英司は違法賭博に興じる政幸の姿を目撃した。後日、英司は政幸が憲兵隊内にあったアヘンを横流していると知り、さらに政幸がその証拠隠滅のために前任者の宮田伸照を殺していた事も知る。そこで英司は政幸に掛け合い、事実を公表するように迫る。政幸は本性をあらわにして、仮に捕まったとしても問題ないと高を括るが、隊内にいた吉野により銃殺された。吉野は政幸が証拠隠滅のために殺害した及川の世話係の恋人だったのだ。そして吉野は復讐を果たしたのちに、銃で自害してしまう。(file06「魔都(前編)」、file07「魔都(後編)」。ほか、2エピソード収録)

第3巻

D機関のメンバー田崎は「瀬戸礼二」に扮してアントン・モロゾフの弱味を握り、協力を得る事に成功する。その後、アントンから連絡を受けた田崎は、金と情報を交換するために列車に乗り合わせる。しかし、情報交換を目前に、アントンは何者かに殺害されてしまう。それがソ連の秘密防諜機関の手による犯行だと気づいた田崎は、列車にいた子供達を使って秘密防諜機関の捜索を開始。その結果、犯人が列車の車掌であると突き止めた田崎は、彼を無力化する事に成功する。さらに、車掌の協力者を務めていたのが、アントンといっしょにアメリカに亡命する予定だった女性エレーナだった事も判明。正体を知られたエレーナは、田崎への協力を誓うのだった。その後、田崎は伝書鳩を使ってアントンが握っていた情報を日本陸軍に伝達するが、彼は日本陸軍がこの有益な情報をうまく利用できるかどうか、不安を覚えていた。(file10「アジア・エクスプレス(前編)」、file11「アジア・エクスプレス(後編)」。ほか、2エピソード収録。)

第4巻

風機関のメンバー風戸哲正は偽の経歴を使い、スパイ容疑のかかっている英国総領事のアーネスト・グラハムと親しくなったあと、内部協力者・の手引きでアーネストの邸宅への侵入を果たす。こうして哲正は、アーネストと白旗樹一朗がつながっている確たる証拠を摑んだのち、張を殺害、さらにアーネストと樹一朗の確保に向けて動き出す。そんな中、哲正は陸大出の軍人を侮っている結城の鼻を明かすため、彼らを出し抜いてやろうと必死になっていた。しかし、樹一朗を捕縛するために内部協力を得ていた「森島邦雄」は実は結城側であるD機関実井という人物だった。さらに結城やD機関のメンバーの企みによって結局、風機関によるアーネストと樹一朗の捕縛は失敗に終わる。さらに結城からスパイとして失格だと言われた哲正は、その恥辱に耐えられず自決という道を選ぼうとする。(file14「ダブル・ジョーカー(前編)」、file15「ダブル・ジョーカー(中編)」、file16「ダブル・ジョーカー(後編)」、file17「ダブル・ジョーカー(完結編)」。ほか、2エピソード収録)

第5巻

1918年のドイツで軍人を務めていたヘルマン・ヴォルフは、「魔術師」の異名を持つ凄腕のスパイ結城を捕らえる事に成功する。しかし、ほんの少しの油断によりヘルマンは結城を取り逃がしてしまい、さらにヘルマンは右目を失うケガを負う。その22年後、ヘルマンは大佐にまでのぼりつめ、100人ものスパイを捕らえた男として周囲からの尊敬を集めるようになっていた。そんな中、ヘルマンは日本のスパイ真木克彦を捕らえ、彼の経歴などを聞いた事により結城につながっていると考え、再び結城を捕らえるために躍起になる。しかしヘルマンは結局、結城に出し抜かれてしまい、真木の持っていたスパイ協力者のリストも結城により回収されてしまう。(file20「柩(前編)」、file21「柩(後編)」。ほか、2エピソード収録)

登場人物・キャラクター

結城 (ゆうき)

陸軍の中佐を務めている男性で、D機関を設立した。白髪をオールバックにしている。冷淡にして狡猾な性格で、さまざまな策謀を巡らせる手腕から、「魔王」という異名で呼ばれている。D機関を設立する以前は優秀なスパイとして、長年敵国での任務にあたっていた。その際は日本陸軍に多くの有益な情報をもたらしていたが、その優秀さを怖れた味方の裏切りによって敵国に捕らえられ、拷問を受けた。 その際に片手を失っており、その特徴を隠すために白い皮手袋を着用している。普段から杖をついて歩いているが、それは自らの特徴を偽装するためで、歩行する程度であれば杖がなくても問題はない。また自らの情報についても偽装しており、その正体は謎に包まれている。その正体を暴くためにアーロン・プライスが彼の出自を調べ、有崎晃とのなんらかのつながりがある事を摑んでいるが、その出自すらも偽装され、結局正体が明かされる事はなかった。 D機関を設立する際は天保銭組の軍人を使わずに民間人のみを採用しており、それにより風機関との対立を招いていた。

波多野 (はたの)

D機関に所属している男性で、D機関による教育を受けたあとはドイツ占領下にあるフランスでのスパイ任務に就いている。短髪で小柄な体型で、潜入任務に際しては眼鏡をかけたり、口に綿を詰め込んで変装している。D機関で学んだ技術のほかにも、達人といえるほどの格闘術を身につけている。任務に際しては日本からの留学生「島野亮祐」という名前を手に入れ、フランスでの生活に溶け込んでいた。 しかし、老婆をドイツ軍人から助けようとして、銃身で殴られて記憶喪失に陥っている。その後、レジスタンスとして活動していたアラン・レルニエによって救出され、記憶喪失からも回復。フランスでは傍観者、対独協力者、レジスタンスの比率を調べ上げ、これを結城に報告している。 その後、次の任務地へと向かうために、フランスをあとにする事を決意している。

福本 (ふくもと)

D機関に所属している男性で、D機関による教育を受けたあとは上海に潜伏している。もともとは黒髪で細身の体型だが、上海に潜り込む際は変装して別人のようになる。「草薙行人」や「塩塚朔」といった人物に成りすまし、それぞれの名前で生活を送っていた。及川政幸が、アヘンの横流しと共に情報も流している事に気づいてから、憲兵の本間英司に彼を告発させるよう仕向けた。 その際は塩塚に成りすまし、それとなく情報を提供している。政幸の事件がひと段落ついてからも、上海に潜伏している。

神永 (かみなが)

D機関に所属している黒髪短髪の男性で、D機関による教育を受けたあとはイギリスに潜伏している。イギリスに潜伏する際は写真師「伊沢和男」としての経歴を持ち、オックスフォードストリートにある写真館に勤めていた。しかし、イギリスの外交官・外村均により情報を漏らされたため、イギリス軍に身柄を拘束された。その後、自白剤を使っての尋問を受けたのち、二重スパイになる事を強要される。 そんな中、イギリス軍にばれないようにSOSのサインを味方に送ったのち、隙を見て部屋から逃げ出している。その後、内部協力者であるフライデーの協力を得て、拘束場所から脱出した。

田崎 (たさき)

D機関に所属している短髪の男性で、D機関による教育を受けたあとは「瀬戸礼二」という名前で満州国の情報収集任務に就いている。日本の協力者となったアントン・モロゾフと情報交換をしようとするも、取引をする前にモロゾフをソ連の秘密防諜機関に暗殺されてしまう。その後、暗殺の現場となった鉄道列車の中で犯人を捜すべく、鉄道列車に乗り合わせた子供達を使って犯人を特定した。 暗殺者であった車掌を薬で眠らせたのち、暗殺の協力者であったエレーナの特定にも成功している。

甘利 (あまり)

D機関に所属している短髪の男性で、D機関による教育を受けたあとは「内海修」いう名の技術者の肩書を手に入れて「朱鷺丸」に乗船。ルイス・マクラウドを日本に来させないようにする任務を請け負った。罠を仕掛けてルイスを発見したあと彼を拘束するも、拘束したルイスは毒の入れられていたワインを飲んで死亡した。その後、ルイスを殺した犯人を捜すために奔走し、シンシア・グレーンが犯人だと暴いた。 そして、シンシアがイギリス軍に出頭したあとは、彼女の娘であるエマ・グレーンと愛犬フラテを引き取っている。ちなみにシンシアの夫と容姿が若干似ている。

実井 (じつい)

D機関に所属している短髪の男性で、D機関による教育を受けたあとは「森島邦雄」という名前で白旗樹一朗の邸宅に書生として潜入する。そして、わざと後ろ暗い経歴を用いて、別の諜報機関が樹一朗に近づいて来た際の囮役を担っていた。その罠に風機関が嵌まったあとは、殺される寸前に風機関のメンバーを気絶させる事で難を逃れた。

三好 (みよし)

D機関に所属している短髪の男性で、D機関による教育を受けたあとはドイツに潜伏してスパイ活動を行っている。ドイツで活動を行う際は、美術を学ぶためにヨーロッパに渡って来た美術商「真木克彦」という偽の肩書を手に入れた。スパイとして協力者を募る活動を行っていた際の列車での移動中、突発的な事故により死亡してしまう。その命が尽きるまでのあいだ、協力者の名前が記載されたマイクロフィルムをシャツの襟の生地のあいだに縫い込んでいた。 その後、死体となった真木のもとを結城が訪れ、マイクロフィルムを回収している。

飛先 弘行 (おだぎり)

陸軍に所属していた短髪の男性で、演習中の病気で動けなくなった仲間をかばって上官に反抗、それが上官暴行罪と捉えられて、軍法会議にかけられてしまう。その後、結城による勧誘を受けて、D機関に所属。D機関では「飛先弘行」の名を捨てて、新たに「小田切」という名を手に入れた。D機関での教育を受けたあとは、スパイであるカール・シュナイダーの監視任務に就いている。 しかし、カールと交際関係にあった女性・野上百合子が幼少期に世話になった西山千鶴と似ていたため、彼女に気を取られるあまり安原ミヨコの抱いていた感情の機微に気づかなかった。その失敗をきっかけに感情を捨て切る事ができないと自覚。事件解決後、D機関のほかメンバーのようにはなれないと、再び「飛先弘行」を名乗り陸軍に戻った。

佐久間 (さくま)

陸軍に所属している男性で、階級は中尉。黒髪の短髪。陸軍士官学校を卒業しており、当時の軍人が持っていた極端な思考や愛国心、価値観などを持っている。陸軍参謀本部から連絡係としてD機関への出向を命じられている。その際、D機関に所属するメンバーの異様さと優秀さを化け物だと称しており、彼らとの軍人としての価値観の違いを思い知らされている。 その後、上官である武藤の命によりスパイ容疑のかけられているジョン・ゴードンの邸宅捜査の任務にあたっている。その際は武藤から邸宅捜査に関する重要な情報を知らされておらず、任務失敗の責を取らされてジョンの目の前で切腹をさせられそうになった。しかし、その寸前にジョンがスパイである事を証明する物的証拠を発見して、切腹を回避した。 その後、この件において暗躍していた結城の真意などに気づいており、それを認められた事により結城からはD機関に勧誘されている。しかし、駒として使い捨てられる事を嫌い、結城の誘いを断った。

武藤 (むとう)

陸軍に所属している男性で、階級は大佐。陸軍参謀本部の指揮を担当している。黒髪の短髪で、恰幅がいい。ジョン・ゴードンにスパイ容疑がかけられた事から、憲兵隊に家宅捜査を指示。しかし、その証拠が発見できなかった事から自らのミスを隠蔽するために、佐久間に二度目の家宅捜査を命令している。その事を酒に酔った勢いから馴染みの芸者相手にうっかり漏らしており、彼のあとをつけていた結城にその弱味をにぎられている。 それにより、D機関に対して機密費など予算を出さざるを得ない状況に陥ってしまう。

ジョン・ゴードン (じょんごーどん)

アメリカ人の男性。大手貿易会社の招きで来日しており、日本に輸入されている精密機械の点検確認業務を請け負っている。金髪をオールバックにしており、恰幅がいい。親日家として知られ、日本家屋に住んでいるほか、朝晩は御真影に柏手を打つなど日本に対しての敬意を払っている。しかし、陸軍参謀本部からスパイ容疑がかけられており、憲兵達による家宅捜査を受けている。 その際はスパイとしての活動にかかわる証拠を御真影の裏に隠していたため、憲兵による捜査の手は入らなかった。その後、佐久間率いるD機関による二度目の捜査を受けており、その際は佐久間の機転でスパイとしての証拠を摑まれる。その身柄は結城により捕縛される事となり、D機関における「教材」として利用されている。

アラン・レルニエ (あらんれるにえ)

フランス人の青年で、レジスタンス活動を行っている。短髪で、凛々しい顔立ちをしている。フランス人の老婆を助けるためにドイツ軍人に逆らった「島野亮祐」こと波多野を救出した。その際、記憶喪失に陥りながらも不審な点の多い島野の素性を訝しんでいた。その後、隠れ家にやって来たドイツ軍人から逃げおおせたのち、絶体絶命の窮地から救ってくれた島野をレジスタンスに勧誘している。

マリー・トーレス (まりーとーれす)

フランス人の女性で、レジスタンスのメンバーの一人。髪を頭の後ろで編み込んでいる。実はレジスタンスである事がドイツ軍にばれており、家族を人質に取られた結果、ドイツ軍の協力者となってレジスタンスの監視役を務めていた。ただ、レジスタンスのメンバーであるアラン・レルニエやジャン・ヴィクトールには危険が及ばないようになんとかやり過ごす予定だった。 その1か月後にアラン・レルニエが「島野亮祐」こと波多野を救出。その際、島野の居場所をドイツ軍に漏らして、彼を拘束してもらう予定だった。しかし、島野がドイツ軍に対して大きな被害を与えたため、家族に危害が及ばないようにアランらもろとも島野を拘束しようとした。だがこれに失敗して逆に島野に拘束され掛けるも、ジャンにより救出されている。 その後、ジャンと共にアランらのもとから逃げ出すに至っている。

ジャン・ヴィクトール (じゃんゔぃくとーる)

フランス人の青年で、レジスタンスのメンバーの一人。短髪の大柄な体格で保守的な性格をしている。ドイツ軍に逆らった「島野亮祐」こと波多野をアラン・レルニエが救出した際も、自分達にもドイツ軍による被害が及ぶ危険性があると反対している。さらに素性の怪しい島野をアランがレジスタンスに勧誘しようとした際は、これにも反対している。 実はマリー・トーレスに恋心を抱いており、彼女がドイツ軍のスパイである事を明かした際は彼女の側についている。

及川 政幸 (おいかわ まさゆき)

上海派遣憲兵隊の職務に就いている男性で、階級は大尉。黒髪を七三分けにしている。上海の中でも最も治安の悪いとされている地区の担当となり、まじめで潔癖な性格から職務を完璧にこなそうと全力を尽くしていた。しかし、そのあまりの治安の悪さに心身共に衰弱していき、やがて人格が破綻していく。そんな中、カジノでの遊びに興じて、憲兵隊の保管庫にあるアヘンをカジノの関係者に横流しするようになった。 その後、宮田伸照によりアヘンの横流しを悟られるも、及川の世話係を唆して伸照を殺害させた。さらに証拠隠滅のために、及川の世話係を爆弾で殺害した。しかし、それが本間英司に知られ、悪事の公表を求められる。それに際しても問題ないと高を括っていたが、吉野により殺害された。

本間 英司 (ほんま えいじ)

上海派遣憲兵隊の職務に就いている男性で、階級は軍曹。黒髪の短髪で、肌が浅黒い。職務に就いてからまだ3か月の新参者だが、その立場を利用して3か月以上前から起こっている情報漏洩をもたらす内通者を探すための担当者となった。その事件を調査するにあたり「塩塚朔」に接触して、真相を探ろうと試みる。彼からもたらされた情報などを利用して、くだんの一件が上司である及川政幸が企てた自作自演だと気づいている。 その後、政幸には真相の公表を求めたが、目の前で吉野により政幸が殺されるのを目撃した。

宮田 伸照 (みやた のぶてる)

上海派遣憲兵隊の職務に就いていた男性で、階級は伍長。黒髪をオールバックにしている。保管庫にあるアヘンの数量が記録と合わないという事実に気づいたあと、保管庫から消えたアヘンの行方を追っていた。しかし、アヘンの横流しをしていた及川政幸により殺害される。その死後、政幸により憲兵隊の中にいる敵への内通者を探す任務に就いていた事にされていた。

及川の世話係 (おいかわのせわがかり)

及川政幸が出入りしていたカジノで、男娼として働いていた少年。また、政幸のもとで世話係をしていた。黒髪を頭の後ろで束ね、中性的な顔立ちをしており、胸元に蝶の形をした痣がある。政幸により金で唆された結果、実行犯として宮田伸照を銃殺している。その後、証拠隠滅のために、政幸によって爆殺された。なお、伸照を殺害する前に当時付き合っていた吉野にやめるよう諭されていたが、聞き入れずに凶行に及んだ。

吉野 (よしの)

上海派遣憲兵隊の職務に就いていた男性で、階級は上等兵。黒髪の短髪で、肌が浅黒い。及川の世話係とは恋仲で、彼が事件に巻き込まれる直前に、その事に気づいていながらも止めきれなかった。及川の世話係が死んだあともその事を後悔しており、及川政幸を射殺して復讐を遂げたあと、自殺する道を選んだ。

ジェームズ

上海で警部の職に就いている、恰幅のいい男性。治安維持の担当官でありながらも、まともに捜査をする事のない悪徳警官。及川政幸の家が爆破される事件が起こった際も、現場に赴きながらろくな捜査をする事もなかった。さらにその事件の犯人を犠牲者となった物乞いだと決めつけたのち、捜査を打ち切ってしまう。

ハワード・マークス (はわーどまーくす)

イギリスの諜報機関に所属している男性で、優秀なスパイとして知られている。頰がこけた細面の顔立ち。スパイから得た情報に従って「伊沢和男」こと神永を捕らえたのち尋問、さらに伊沢を二重スパイに仕立て上げようとした。その後、伊沢には隙を見て部屋から逃げられるも、建物からは逃がさないように偽の地図を用意しておくという罠を仕掛けていた。 しかし、内部諜報員のフライデーの存在には気づいておらず、結果として伊沢を逃がしてしまった。

外村 均 (そとむら ひとし)

イギリスの外交官を務めている男性。女性に篭絡された事により「伊沢和男」こと神永がスパイだという情報をイギリス軍に漏らしてしまう。その後、外村均が情報を漏らした事が公になったため、イギリスの外交官側は陸軍に弱味をにぎられている。

フライデー

イギリス軍に在籍している男性で、日本陸軍の内部協力者。普段は国王陛下の忠実な兵士として働いているが、英国諜報機関に日本のスパイが捕らえられた場合にのみ内部協力者となる。「伊沢和男」こと神永がイギリス軍に捕らえられた際は、逃げ出した伊沢を目撃しながらも見て見ぬふりをしていた。

アントン・モロゾフ (あんとんもろぞふ)

在満州ソ連領事館に勤務している二等書記官の男性。短髪で眼鏡をかけており、恰幅のいい人物。ハルビンの夜の街で踊り子に入れあげていたところ、それを「瀬戸礼二」こと田崎に知られた事で弱味をにぎられる。その後、新聞の尋ね人欄を使って瀬戸に緊急連絡を送ったのち、大金と引き換えに機密性の高い情報を明け渡す予定だった。しかし、瀬戸に情報を渡す前に、ソ連の秘密防諜機関により暗殺された。

エレーナ

ハルビンで踊り子をしていた女性。黒髪のショートヘアで、毛先にパーマをかけている。アントン・モロゾフと知り合ったのち、彼といっしょにアメリカへ亡命しようと持ち掛けられていた。しかし、彼と亡命するつもりはなく、ソ連の秘密防諜機関に協力。モロゾフを殺す手助けを行った。のちに、その事を「瀬戸礼二」こと田崎に知られ、日本の協力者となった。

ルイス・マクラウド (るいすまくらうど)

英国諜報機関に雇われていた男性。黒髪の短髪で、口髭を生やしている。クロスワードパズルなどを解かずにいられない性癖を持つ。欧州での戦争の際、ドイツ軍の使っていた暗号「エニグマ」の解読に貢献した。諜報機関在籍時の暗号名は「教授」。「エニグマ」の解読に際して無謀な作戦を立てた事で多数の犠牲者を出しており、その事による反感から軍を追われている。 その後、顔を変えながらアメリカ人の貿易会社を営んでいる人物「ジェフリー・モーガン」という偽の肩書で「朱鷺丸」に乗船したが、「内海修」こと甘利によって身柄を拘束されたのち、毒入りワインを飲まされ死亡している。

シンシア・グレーン (しんしあぐれーん)

「朱鷺丸」に乗船した女性。髪を頭の後ろで編み込んでいる。かつてルイス・マクラウドの立てた無謀な作戦により夫を失った事から、復讐心でルイスを殺害した。その後、「内海修」こと甘利によって犯行が暴かれ、イギリス軍に身柄が拘束された。

エマ・グレーン (えまぐれーん)

「朱鷺丸」に乗船した幼い少女で、シンシア・グレーンの娘。ショートヘアで、頭にはリボンを付けている。シンシアがイギリス軍に身柄を拘束されたのち、「内海修」こと甘利により引き取られた。

アーネスト・グラハム (あーねすとぐらはむ)

英国総領事を務めているイギリス人の男性。ふくよかな体型をしており、口髭を生やしている。風戸哲正には、単純な性格で人一倍猜疑心が強く見栄っ張りの野心家であると分析されていた。本国に返り咲く材料になり得る日本軍の最高機密である「統帥鋼領」の情報を欲しており、それを手に入れるために白旗樹一朗と情報のやり取りをしていた。 そんな中、そのやり取りが日本軍により気取られた結果、哲正により捜査の手が入った。哲正が変装した「蒲生次郎」に対して何の疑いも持っておらず、彼をチェス仲間として信頼していた。その後、哲正によって樹一朗とやり取りをしていたという証拠を摑まれるも、樹一朗から危機を告げる連絡を受け、妻ジェーン・グラハムを連れて上海航路の船に乗り込む。

ジェーン・グラハム (じぇーんぐらはむ)

アーネスト・グラハムの妻。ショートヘアで、毛先が外はねしている。日本軍により探りを入れられつつある現状に怯えており、アーネストに対してもその事を相談していた。中国大陸での日本軍の振る舞いに不信感を抱いており、日本がどんどん悪い方向に進んでいる事を危惧している。アーネストが白旗樹一朗と情報のやり取りをする際、知らず知らずのうちに情報の運び屋として使われていた。 その後、日本軍による動きを察したアーネストと共に、上海航路の船で日本を発っている。

風戸 哲正 (かぜど あきまさ)

日本陸軍に所属している男性で、階級は中佐。黒髪の短髪。D機関を設立した結城が陸大出身の天保銭組を侮っていると知り、彼に対して強い対抗心を抱く。そして、風機関の結成に際してメンバーの教育を行う一方で、風機関の有用性を日本陸軍に認めさせるためにスパイ容疑のかかっているアーネスト・グラハムに接近。彼と親しくなったのちに、その物的証拠を探っていた。 アーネストと親しくなる際には、テーラー・テラシマの店員「蒲生次郎」という偽の経歴を手に入れている。また、張に金銭的な貸しを作る事で、内部協力者としてアーネストの情報を横流ししてもらっていた。しかし、確たる証拠が出ないとわかると、張による協力を得てグラハム家に侵入。その後、アーネストが白旗樹一朗とつながっているという証拠を摑んだのちに、協力者の張を殺害。 さらにアーネストと樹一朗が直接取引をしている現場を押さえようとした。しかし、結城により出し抜かれたうえに作戦は失敗。さらに自らの犯した失敗を結城に指摘された事で過ちを認め、自決している。

白旗 樹一朗 (しらはた きいちろう)

かつて英国大使を務めていた元外交官の老齢の男性で、現在は伊豆の別荘にて蟄居している。白髪で、眼鏡をかけている。ドイツと手を結ぶという日本軍の方針に頑として異を唱え、親英派としても知られる事から英国人の友人も多い。日本軍から、軍の最高機密である「統帥鋼領」を盗読した疑いをかけられており、英国総領事のアーネスト・グラハムとのつながりを風戸哲正により調査されていた。 その後、旅館の仲居からもらった電話により自分の身に危機が迫っていると知り、アーネストに危機を告げる連絡を入れたうえで自らも逃げ去る。

(ちょう)

英国総領事館に勤めている男性。黒髪で、眼鏡をかけている。風戸哲正に多額の借金をしており、その返済を待ってもらう代わりとしてアーネスト・グラハムの情報を哲正に漏らしている。また、哲正により脅迫された結果、彼が英国総領事館に侵入するための協力をする事になった。その後、哲正に協力した事で多額の報奨金を得るが、証拠隠滅を図った哲正により殺害された。

アーロン・プライス (あーろんぷらいす)

英国秘密情報部に所属しているスパイで、短髪の男性。結城の正体を摑もうと彼の素性を探っており、その結果として里村のもとを訪ねて有崎晃という人物にたどり着く。そして、晃がのちの結城である事を悟った。しかし、調査の最中でスパイ容疑をかけられて、日本軍にその身柄を拘束されている。その後、自ら死を選ぼうと決意する中、突然釈放された。 そして、日本軍から釈放された理由を知るために再び里村のもとを訪れた。そこで里村の聞いた晃の経歴がすべて出鱈目である事を知り、晃と結城が別人である事を悟る。さらに日本軍に捕まったのはD機関による罠だと察したのち、自分のスパイとしての情報を奪われた事で引退を決意する。

里村 (さとむら)

かつて有崎家の家令を務めていた老齢の男性。白髪で眼鏡をかけている。有崎直哉の生前についてアーロン・プライスに尋ねられ、彼や有崎晃の事について話した。ただし晃の経歴については、とある人物により指示された偽の経歴であり、繰り返し偽の経歴を覚え込まされていたために、里村自身もどれが本当の経歴なのかわからなくなっている。 アーロンが憲兵から釈放されたのち、晃の経歴について彼に話している。

有崎 直哉 (ありさき なおちか)

子爵の爵位を持っていた男性。黒髪で口髭を生やしており、背が高く体格がいい。性格は豪放磊落である一方、世の中を斜に見る冷笑的なところがある。女性に非常にモテるが、若くして妻を亡くしたあとも、再婚をする事はなかった。明治29年の冬に突然、どこからか有崎晃を連れ帰って来た。そして、晃に対して周囲の者が呆れかえるほどの厳しい教育を施した。 特に武術に関しては一歩間違えれば命を落としかねないほどの苛烈さで、自ら晃の指導を担当した。その後、晃を有崎家の戸籍に入れないまま死去したため、家が断絶して爵位も返還されている。

有崎 晃 (ありさき あきら)

明治29年の冬に有崎直哉がどこからか連れ帰って来た黒髪の少年。直哉が芸者に産ませた子供ではないかなどさまざまな噂が飛び交ったが、その真偽は不明。その後、直哉により周囲が呆れかえるほどの熱心な教育が施され、数か国語の語学をはじめ、数学や歴史、物理・化学のほか、武術に関しても厳しい指導を受けた。特に武術に関しては直哉自身が指導を担当し、有崎晃は信じられないほどの学習能力で習得した。 13歳になってから直哉の指示で陸軍幼年学校を受験、優秀な成績で試験を突破した。しかし、周囲の学生といざこざを起こした結果、陸軍幼年学校を退学。その後は英国に留学して、スパイ・マスターのマンスフィールド・カミング海軍大佐に指示を請う。それらの話を里村から聞いたアーロン・プライスは、晃は結城ではないかと推測するも、結局は結城による素性の隠れ蓑に利用されていただけだった。 晃本人は先の世界大戦に義勇兵として参加、ドイツ軍の毒ガス攻撃を受けたあと、昏睡状態に陥ったまま里村家で20年以上眠っている。

ヘルマン・ヴォルフ (へるまんゔぉるふ)

ドイツ軍に所属する短髪の男性。1918年に、当時「魔術師」の異名で知られていたスパイの結城を捕らえる事に成功するも、一瞬の隙を突かれて逃げられてしまう。その際、結城による手榴弾の爆撃を受けて右目を負傷、以後黒色の眼帯をつけており、その周囲には火傷の跡がある。1940年にはドイツ軍の大佐となって軍の指揮を執っており、捕らえたスパイの数は100人以上ともいわれている。 その際、捕らえた捕虜の中からスパイ「真木克彦」につながる痕跡を発見。さらに真木に通じていると推測される結城を捕らえようと躍起になった。しかし結局、結城には出し抜かれてしまう。

バウアー

ドイツ軍に所属する短髪の男性。階級は中尉で、ヘルマン・ヴォルフの補佐を務めている。ヘルマンを優秀な軍人として尊敬している一方、結城にかかわる事件についてヘルマンが冷静さを欠いていると考えていた。

カール・シュナイダー (かーるしゅないだー)

短髪のドイツ人の男性で、ソ連とドイツの二重スパイをしていた。ドイツにある新聞社の記者という偽の肩書を持ち、日本で情報収集を行っていた。そんな中、日本で得たソ連とドイツの動きにかかわる情報を、今度はイギリスに渡そうとしていた。しかし、その動きをソ連に気取られた結果、スパイであった安原ミヨコにより毒殺された。ちなみに野上百合子と1年前から交際関係にあったが、そのためミヨコの嫉妬を受ける要因になっていた。

野上 百合子 (のがみ ゆりこ)

劇団に所属している役者の女性。黒髪のショートヘアで、毛先がカールしている。西山千鶴と外見が酷似している。1年前からカール・シュナイダーと交際関係にあったが、カールの死にひどく動揺していた。さらに同僚であった安原ミヨコがカールを殺した犯人だったと知り、大きなショックを受けて劇団を辞めた。その後、新天地でもう一度芝居の勉強をしたいと思い立ち、映画会社からの誘いもあって満州へと渡っている。

安原 ミヨコ (やすはら みよこ)

劇団に所属している女性で、人気のある看板役者として活躍している。癖のある髪をショートヘアにしている。実はソ連のスパイを務めており、三重スパイとして暗躍しているカール・シュナイダーを暗殺した。しかし、その犯行を「小田切」によって暴かれたため、最終的に犯行を認めて自白した。

西山 千鶴 (にしやま ちづる)

飛先弘行が父方の祖父母に預けられた際、その面倒を見ていた黒髪の女性。弘行にとっては唯一心を開く事のできる存在であり、育ての親も同然だった。弘行からは「ちづねぇ」と呼ばれている。その後、男と駆け落ちするも彼に捨てられてしまい、故郷に帰る事もできずに胸を患って亡くなった。ちなみに野上百合子と容姿がよく似ていたため、弘行は百合子に気を取られるあまり任務でミスを犯してしまう。

集団・組織

D機関 (でぃーきかん)

結城によって設立されたスパイ養成学校で、教育を受けた者達は敵国でスパイ任務にあたっている。D機関の受験者は経歴や氏名、年齢までもが極秘事項として扱われており、所属する者達の名前はすべて偽名。また、D機関では数か国語に及ぶ外国語や医学、薬学、物理学、通信技術の習得をはじめ、プロのスリや金庫破りの常習犯による実技指導、ジゴロによる女の口説き方までさまざまな技術を習得させられている。 厳しい訓練によってふるい落とされていき、最終的には八名の優秀な人材に絞られる。D機関には陸軍士官学校の卒業生は一人も存在せず、すべて民間人によって構成されている。これは設立者である結城が、陸軍士官学校出身者は優秀なスパイにはなれないと考えているためであり、当時としては異例な人事となっている。 なお、当時の陸軍内部には「スパイ=卑怯」という認識があったため、陸軍内部からは猛反発を受けている。

風機関 (かぜきかん)

近代戦において情報の有用性が高まっている事から、風戸哲正によって立ち上げられたスパイ養成機関。陸軍士官学校出身者により構成されており、教育では「躊躇なく殺せ、潔く死ね」などの教えが徹底されている。哲正が「統帥鋼領」にかかわる作戦を遂行したのち、その功績として日本陸軍の特務機関として正式に承認される予定だった。しかし、旅館で軍の関係者だと仲居にバレてしまうなど、スパイにあるまじき疎かな失敗を犯した事で、結城からはスパイごっこに興じる裸の王様だと馬鹿にされていた。

クレジット

原作

柳 広司

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