下級武士から警察のトップに成り上がった男
本作は一介の下級武士に過ぎなかった正之進が、やがて現在の警察の礎を築くまでの軌跡が描かれる。さまざまな特技を持つことから薩摩藩主の斉彬(なりあきら)から厚遇されていた正之進は、特に情報収集力に優れており、薩摩藩や斉彬の脅威となる存在を潰すべく、熾烈(しれつ)な情報戦を繰り広げていた。また、単行本のおまけページには当時警察官だった作者の泰三子が、本作を描き上げるに至った経緯が記されている。正之進は初代の警視総監を務め、警察官のあるべき姿を訓示した『警察手眼』は、現在も警察官のバイブルとして広く読み継がれている。
規格外の男たちの出会い
正之進と彼の幕末時代の盟友で、のちに対立関係となる西郷吉之助の出会いから物語が始まる。下級の武士の家に生まれた正之進は、13歳の時に斉彬に側近として取り立てられ、剣術や砲術、漢学を学ぶ。さらに黒船来航をきっかけに本格化した、外敵に備えるための軍隊調練でただ一人皆伝を受けるなど、目覚ましい活躍を見せていた。そんな中、正之進は斉彬に謁見している時に、庭掃除係を担っていた吉之助と出会う。吉之助の悪評を耳にしていた正之進は、斉彬が彼を厚遇していることを疑問に思っていたが、斉彬の命を遂行するひつれ親しくなり、やがて吉之助の度量の大きさと魅力に気づくのだった。
激動の幕末をコメディタッチに再現
本作は黒船来航や将軍継嗣問題、桜田門外の変など、幕末に実際に起こった事件が、主に薩摩藩の視点から描かれている。起こった事件は史実に基づいている一方で、その過程はいわゆるインターネット・ミームや流行語などを交えて解説されており、正之進はその事件に対してボケ役とツッコミ役を担っている。幕末を駆け抜けた地味な正之進、そして彼と当時の風潮や薩摩藩との関係が、コミカルな表現を交えて分かりやすく解説されている。
登場人物・キャラクター
川路 正之進 (かわじ しょうのしん)
薩摩藩出身の武士の青年。日本の警察制度を確立し、「日本警察の父」とも呼ばれる「川路利良」の若き日の姿。自らを「ギリ武士」と評するなど、武士として下級の家柄に生まれた。しかし、13歳の時に藩主の斉彬に側近として召し抱えられ、江戸でさまざまな学問を学ぶ。さらに、若くして誰よりも早く陣列太鼓の皆伝に至るなど、目覚ましい成長を遂げる。生真面目な性格で辛抱強く、口が達者で詭弁(きべん)を弄する才能に長(た)けている。また、他者のわずかなスキも見逃さないことから諜報(ちょうほう)活動が得意で、よくも悪くも腹黒いと評される。自らを側近として取り立ててくれた斉彬に強い感謝の念を抱いており、できるだけ長く彼の下で働きたいと考えている。だが、斉彬が理不尽な発言をした場合は、辛辣なツッコミを入れることもある。実在の人物、川路利良がモデル。
西郷 吉之助 (さいごう きちのすけ)
薩摩藩出身の武士の青年。のちに明治維新の立役者となる「西郷隆盛」の若き日の姿。天真爛漫(らんまん)な性格で、言いたいことをはっきり言うため、空気が読めないと陰口を叩かれている。だが、気配り上手で人並外れた度量の大きさから斉彬に気に入られており、いつかナポレオン・ボナパルトのような、歴史を変えるほどの英雄になることを切望されている。正之進が斉彬と謁見している際に姿を現し、早々に空気の読めない発言をして正之進に疑念を抱かれる。しかし、共に斉彬からの命令を遂行するにつれ、やがて良好な関係を築いていく。実在の人物、西郷隆盛がモデル。
書誌情報
だんドーン 5巻 講談社〈モーニング KC〉
第1巻
(2023-10-23発行、 978-4065332979)
第2巻
(2024-01-23発行、 978-4065343517)
第3巻
(2024-04-23発行、 978-4065351185)
第4巻
(2024-07-23発行、 978-4065362419)
第5巻
(2024-10-22発行、 978-4065370285)