あらすじ
第1巻
平成27(2015)年、41歳のマンガ家、大月悠祐子は、同じくマンガ家である夫の大井昌和と二人で暮らしている。悠祐子が目を覚ますと、すぐ近くの実家から父親が来て、台所でカレーを作ってくれていた。悠祐子の父親は、昭和の時代に『ど根性ガエル』で大ヒットを飛ばしたマンガ家の吉沢やすみ。20歳の時にデビュー作『ど根性ガエル』で成功を収めたが、連載終了後にスランプに陥り、仕事と家族を捨てて失踪したのだった。悠祐子は、一度ドン底に落ちて再生した父親と家族の話を、マンガとして描こうと決意する。
昭和43(1968)年、マンガ家を目指して、高校を卒業後に上京した吉沢は、「少年ジャンプ」で連載するマンガ家の貝塚ひろしのもとでアシスタントをしていた。貝塚から、「自分のマンガ」を描くようアドバイスを受けた吉沢は、生まれて初めてストーリー漫画を完成させる。その作品『ど根性ガエル』は「少年ジャンプ」で連載され、TVアニメ化もされて大ヒット。吉沢は文子と結婚して二人の子宝にも恵まれ、幸せと希望に満ちあふれていた。しかし、『ど根性ガエル』の終了後、ヒットが出せずに苦しんだ吉沢はギャンブルにはまり、連載3本と読み切り10本という仕事、妻と二人の家族を捨てて失踪する。しばらくはギャンブルで暮らす吉沢だったが、ついに資金も尽き、ボロボロになって帰宅する。しかし、家が生活費に困窮する状況でありながら、吉沢はギャンブルをやめる事ができず、家庭は荒んでいく。
第2巻
昭和48(1973)年、大ヒットマンガ『ど根性ガエル』を連載中の吉沢やすみは、喫茶店で出会った文子に一目惚れして告白。交際を始めた二人は結婚し、長女の大月悠祐子、長男のやっちんが生まれる。悠祐子は父親の書斎にある大量のマンガを読んで育っていくのだった。
月日は流れ、悠祐子は16歳になっていた。ギャンブルにはまった父親は悠祐子の入学祝い金までくすねて、風呂にも入らず、有り金が尽きるまで何日も賭け事に興じていた。ギャンブルに負けて帰って来ると、その悪臭で父親の帰宅がわかるほどだった。文句を言った悠祐子に、父親は「殺すぞ」と激昂する。父親にサイフまで盗まれた事を母親に相談しても、家庭を壊したくない一心の母親は、逆に悠祐子を責めるのだった。そんな姉を見て、弟のやっちんは父親にお金を盗まれないよう工夫し、のちに医師となり、妻と子供と幸せな家庭を築く事となる。一方、当時高校生だった悠祐子は、眠る事と食べる事ができなくなってやせ細り、拒食症から過食症となり、引きこもるようになっていった。
そして現在、マンガ家となった悠祐子はとあるインタビューで、父親の悲惨な姿を見て育ったのに、なぜ自分もマンガ家になったのかという質問を受ける。父親の事を思い返した彼女は、父親が決して漫画を憎む事がなかったから、自分も漫画を嫌いにならなかったのだと納得するのだった。
第3巻
失踪した吉沢やすみの帰宅を願う妻の文子は宗教にすがるようになる。吉沢は家に帰って来たもののギャンブルはやめられず、娘の大月悠祐子のお金にも手を付ける。母親はその事実を知りながら、父親のプライドを保ち、父親に仕事をさせるために家族の前で悠祐子に土下座を強いるのだった。両親は悠祐子の精神の弱さを責め、彼女の居場所はなくなる。
平成27(2015)年、日本テレビで『ど根性ガエル』がTVドラマとして放送開始され、時を同じくして悠祐子は父親と家族の話を描いたマンガ『ど根性ガエルの娘』の連載を「週刊アスキー」にて開始する。出版社が求めるのは、あくまで「感動の家族の再生ストーリー」であり、あまり酷いエピソードは描かないように要求されるのだった。そして平成27年9月、『ど根性ガエルの娘』単行本1巻(KADOKAWA版)の発売を記念して、吉沢と悠祐子の親子対談が企画される。しかし、そのインタビュー中、吉沢は悠祐子の話が長いとキレ、退席してしまうのだった。悠祐子はその時に辛くて悲しくてみじめだった事をその後、父親に伝える。父親からはその弱さを責められたものの、生まれて初めて自分の気持ちを父親に伝えられた事に手ごたえを感じた悠祐子は、あらためて『ど根性ガエルの娘』を描いて、父親に読んでもらおうという思いを強くする。しかし平成27年11月、『ど根性ガエルの娘』の第1巻発売から1週間後、出版社から打ち切りを言い渡される。コミックスは全2巻で終了予定となり、悠祐子は最終話の執筆を進める。悠祐子は、編集部が求める最終話が、希望に満ちた明るい結末である事はわかっていた。しかし、まだまだ描きたい事が残っている悠祐子は、夫である大井昌和の後押しもあり、残り2話ぶんの原稿を渡さずに連載を引き上げる事に決める。しかし平成28年7月、吉沢は雀荘にて脳卒中で倒れ、入院してしまうのだった。
第4巻
大月悠祐子は漫画『ど根性ガエルの娘』の第2巻を出さずに原稿を引き上げる意向を担当編集者に伝える。部数が大幅に落ちるであろう第2巻を出すと、続きを執筆するための出版社が見つけられなくなると、考えた事による決断だった。もし出版社が見つからなければ、自費出版してでも続きを描く決意を固めていた。それから5か月後の平成28年5月、『ど根性ガエルの娘』が白泉社の「ヤングアニマルDensi」で連載再開する事が決まる。一方、脳卒中で入院した父親の吉沢やすみは必死のリハビリを続けていた。悠祐子は『ど根性ガエルの娘』のネームを父親に見せ、執筆を進めていく。平成29年7月、介護老人保健施設に移っていた父親は、『ど根性ガエルの娘』について、本当にあった事をそのまま描き過ぎだから、もっとオブラートに包んで描くようにと悠祐子に伝える。その後、悠祐子は母親から、父親が『ど根性ガエルの娘』を読んで、自分がひどい人間だと泣いていたという話を聞く。自分の気持ちを口で言っても伝わらない父親でも、漫画だったら伝わるのだと悠祐子は嬉しさで涙し、本当に伝えたい事はこれから描く、と母親に伝えるのだった。
登場人物・キャラクター
大月 悠祐子 (おおつき ゆうこ)
かつて『ど根性ガエル』で一世を風靡したマンガ家・吉沢やすみの長女で、本作品の作者。41歳。8歳のときに初めて失踪して以来、めったに帰ってこない父親と、家計を支えるために夜勤までして働く忙しい母親と、幼くして精神的に自立せざるをえなかった弟との4人家族。小さい頃からいじめられっ子で、父の書斎のマンガを読むことを心のよ----りどころにして育つ。 高校卒業後は、不眠と摂食障害に悩まされ、短大は卒業したもののひきこもりになる。25歳でマンガ家としてデビュー。その後、マンガ家の大井昌和と結婚し、家を出る。2013年2月、38歳のときに自宅のベランダから飛び降り自殺をしようとして思いとどまる。本作品を描くことで、再生をはかる。 作者の大月悠祐子がモデル。
吉沢 やすみ (よしざわ やすみ)
大月悠祐子(ゆうこ)の父。昭和の時代、20歳にしてデビュー作『ど根性ガエル』で大ヒットを飛ばしたマンガ家。作品はアニメ化され、大人気となり、結婚して2人の子供にも恵まれる。しかし、『ど根性ガエル』連載終了後はヒット作に恵まれず、1982年(昭和57年)、32歳のときに失踪。連載3本と読み切り10本の原稿を一気に落とす。 自殺は思いとどまったものの、ギャンブルとアルコールに依存し、失踪と帰宅を繰り返し、日常的に家庭内で暴力をふるうようになる。一時は駅の清掃員として働いたが、その間にサラ金から借金。妻である文子が働いて返済した。料理がうまく、機嫌のいい時は家族に豪勢な手料理をふるまうが、自分の思うとおりにならないと、唐突にキレて暴れる。 2016年7月、本作品の連載中に、脳卒中で倒れる。半身マヒなどの重い障害を抱える。実在の漫画家吉沢やすみがモデル。
文子 (ふみこ)
大月悠祐子(ゆうこ)の母で、吉沢やすみの妻。1973年(昭和48年)、地方から上京して独り暮らしをしているとき、行きつけの喫茶店で一目ぼれされ、吉沢やすみと結婚。しかし、結婚して預金通帳を見せられるまでは夫が人気マンガ家だとは知らず、貧乏だと思いこんでいた。2人の子供、大きな家、何人ものスタッフに恵まれて順風満帆な人生だったが、1982年、スランプによる夫の失踪により生活は一変する。 ギャンブルに依存し、家庭内で暴れる夫と、まだ小さい子供を抱え、一家を支えるために看護師の資格を生かして働きに出る。常にギリギリの生活のなかで、一時、精神的に壊れてしまう。夫が娘のお金を盗んでいることも知っていたが、夫のプライドを守るため、娘の勘違いだと決めつけて土下座をさせるなどの行動で、悠祐子を追い詰める。 どんな目にあっても夫のことを愛し続けるため、子供たちからは「筋金入りのダメンズ好き」といわれている。
やっちん
大月悠祐子(ゆうこ)の弟で、吉沢やすみの息子。ものごころつく頃には、すでに家庭が崩壊状態だったため、人生のかなり早い時期に社会の厳しさと向き合うことになる。小学生のときには自動販売機で取り忘れられたお釣りを集め、バイトができる年齢になってからは、あらゆるバイトを掛け持ち。父親に盗まれないように自衛もした。絵を描くのが好きで、マンガ家に憧れる気持ちはあったが、温かい家庭を持つのが夢だったため、堅実な人生を選ぶ。 『ど根性ガエル』のキャラクターがドリンク剤のCMに使用された印税で大学に進学。放射線技師の資格をとる。同じく技師の妻と結婚し、男の子に恵まれる。
大井 昌和 (おおい まさかず)
大月悠祐子(ゆうこ)の夫で、マンガ家。妻の過去や家庭内の事情、葛藤などをすべて知った上で、本作品を描くようにアドバイスし、励まし続ける。『週刊アスキー』の連載の打ち切りが決まった時は、白泉社のパーティーで編集者にそのことを伝え、移籍に尽力する。ゆうこの家族とは円満な関係を築いている。実在の漫画家大井昌和がモデル。
マコ
大月悠祐子(ゆうこ)の義妹で、やっちんの妻。結婚してしばらく、夫の実家に同居して息子のカン太を育てる。こっそりパチンコに出かけようとする義父・吉沢やすみをつかまえては、「ご出勤ですか?」「夕方、何時頃にお帰りですか?」などとやんわり釘を刺し、「いってらっしゃい」と笑顔で送り出す。吉沢やすみを上手に誘導し、一日中、孫の面倒をみるまでに成長させる。
カン太 (かんた)
大月悠祐子(ゆうこ)の甥っ子で、やっちんとマコの一人息子。父・やっちんは幼い時、家族にかまってもらえずに寂しい思いをしたため、カン太を連れてサーフィンや山登りなどしてアクティブに動き回り、「家族で冒険に出かける」という長年の夢をかなえる。祖父・吉沢やすみと仲良しで、休日は2人で公園に出かけ、お絵かきなどをして遊ぶ。