軽音部をテーマにした青春群像劇
本作は原作者のクワハリが、集英社が運営する誰でも漫画が投稿できるwebサービス「ジャンプルーキー」に投稿した漫画『ふつうの軽音部』を基としている。クワハリはコロナ禍をきっかけにSNSで自身の高校生活を題材としたエッセイ漫画を描き、連載していた。その作品を描き終えたあと、次回作は「よりストーリーに起伏を作れるフィクションを作ってみたい」と考え、『ふつうの軽音部』を描き始めたと語っている。「軽音部」をテーマに選んだのはクワハリ自身が軽音部に所属しており、「大人数の軽音部を扱った作品はなく、差別化できるのでは」と考えたからで、本作はほかのバンド漫画とは一線を画して登場人物が多く、バンドメンバーの入れ替わり立ち替わりが激しいことも特徴となっている。
意外と問題だらけの軽音部
主人公の鳩野ちひろは自他共に認める「陰キャ」だが音楽が大好きで、高校に進学したらギターを購入し、軽音部に入部することを目標にしていた。しかし軽音部は40人以上の大所帯で、ちひろは多くの入部希望者の中に埋もれてしまう。そんな中、新入生同士でバンドを組むことになるが、人とコミュニケーションを取ることが苦手なちひろはなかなかバンドが組むことができず、結局はあぶれたメンバーでバンド「ラチッタデッラ」を結成する。本作はバンド漫画でありがちな「仲のいい者同士でバンドを組む」というセオリーはなく、ほぼ全員が初心者であるため、バンド活動もままならない。また興味が移ろいやすく、恋愛に熱を上げやすい思春期特有の問題も描かれ、やる気のないメンバーが軽音部をあっさり退部したり、恋愛問題で軽音部の退部を強要されたりする問題も発生する。
独特の歌声で聴く者を魅了する
ちひろは精力的にバンド活動に励むものの、簡単にギターがうまくなるはずもなく、バンドメンバーもやる気を失ってバンド「ラチッタデッラ」は解散状態となる。しかし、この状況はすべて幸山厘の暗躍によるもので、厘はちひろに新たなバンドを結成することを提案する。そして、半ば強引に「sound sleep」でバンド活動をしていた内田桃を引き込み、新バンド「はーとぶれいく」を結成し、ちひろがボーカルを務める初のライブに挑む。しかし、初ライブは散々な結果に終わり、ちひろは理想と現実のギャップに打ちひしがれてしまう。ちひろは悔しさをバネにギターの修行を決意し、夏休みに公園で弾き語りを始める。そんなちひろの歌声は、次第に人の心を動かしていく。
登場人物・キャラクター
鳩野 ちひろ (はとの ちひろ)
大阪のとある高校に通う1年生の女子。年齢は15歳。黒髪を長く伸ばし、圧倒的に地味な雰囲気を漂わせている。自他共に認める「陰キャ」で、思い込みが激しく、ネガティブ思考に陥りがち。父親の影響で「銀杏BOYS」など一昔前のJロックが大好きだが、中学までは同じ趣味の友達が一人もいなかった。高校入学を機に、母親に借金をして向井秀徳が愛用しているフェンダーのテレキャスターを買い、軽音部に入部した。しかし、もともと人付き合いが苦手なため、なかなかバンドを組めずにいたが、同じ中学出身の友達の紹介で幸山厘と出会う。そして、厘と男子二人でバンド「ラチッタデッラ」を結成する。言葉には出さないが無駄に楽観的なメンバーの男子たちとは反りが合わず、バンド活動にも納得できないでいる。その後、厘の策謀でバンドは解散するが、内田桃をメンバーに加えて新バンド「はーとぶれいく」を結成する。歌は決してうまくはないが、その独特な歌声は聞く者の心を魅了するポテンシャルを秘めている。厘はちひろの才能を出会った当初から見抜いており、全力で彼女をサポートしている。新バンド結成後、ボーカルとして初ライブに挑むものの盛大に失敗してしまう。その悔しさをバネに、夏休みはギターの弾き語りの猛練習に明け暮れる。バンドはandymoriが一番のお気に入りで、銀杏BOYZ、ナンバーガール、志村がボーカル時代のフジファブリックも好き。桃からは「はとっち」、厘からは「はとちゃん」と呼ばれている。
幸山 厘 (こうやま りん)
鳩野ちひろと同じ高校に通う1年生の女子。軽音部に所属している。女子としてはかなりの長身で、黒髪をショートヘアにしている。一見すると物腰が柔らかく、おっとりとした雰囲気を漂わせているが、実は感情の機微に聡い黒幕系女子。特技は暗躍することで、口癖は「機は熟した」と、それを略した「機熟」。ちひろの歌声をたまたま聞いて、その歌声に心底ほれ込み、彼女を神として崇めている。当初はちひろと男子二人でバンド「ラチッタデッラ」を結成していたが、男子たちが不真面目でやる気がないと判断するとすぐさま見限り、ひそかに策動してバンドを解散させた。その後、内田桃を孤立させて無理やりバンドに引き込み、新たなバンド「はーとぶれいく」を結成する。情報収集から交渉までなんでもこなす才女で、バンド活動が円滑に進むように裏で暗躍している。ただし、桃からはその手口に反感を持たれており、バンドを組んでからも「性格が悪い」「裏がある」と嫌われている。
内田 桃 (うちだ もも)
鳩野ちひろと同じ高校1年生の女子。軽音部に所属している。長く伸ばした赤みがかった髪を三つ編みおさげにした美少女。明るく朗らかな性格で、入学当初にちひろに声をかけて友達となった。恋愛感情が欠落していることにコンプレックスを抱いている。軽音部では中学時代からの友人である乃木舞伽、大道優希の三人でバンド「sound sleep」を結成する。バンドは1年生の中でも抜群の演奏力を誇り、部内での評価も高かったものの舞伽が同じ軽音部の鷹見項希と破局したことで、バンド活動に陰りが見え始める。舞伽はそのショックで退部を決意し、内田桃はそれを説得して引き留めようとするも、売り言葉に買い言葉で二人は大ゲンカをしてしまう。さらに幸山厘の策謀で、優希も桃に隠れて先輩と付き合っていた事実が判明して優希ともケンカとなり、「sound sleep」は事実上解散状態となる。ふだんは明るいムードメーカー的存在で、ちひろから「陽キャ」と思われているが、実は依存体質で独占欲も強い。桃自身もその悪癖を自覚しており、高校ではそれを改善すべく、多くの友人をつくろうとしていた。のちに舞伽と優希に謝罪し、和解の一歩を踏み出した。厘に踊らされたことは釈然としていないが、厘同様にちひろの歌声に可能性を感じ、「sound sleep」解散後はちひろと厘のバンド「はーとぶれいく」に加入する。
クレジット
- 原作
-
クワハリ
書誌情報
ふつうの軽音部 4巻 集英社〈ジャンプコミックス〉
第1巻
(2024-04-04発行、 978-4088840192)
第2巻
(2024-06-04発行、 978-4088840826)
第3巻
(2024-09-04発行、 978-4088842387)
第4巻
(2024-11-01発行、 978-4088842608)