あらすじ
第1巻
昭和の終わりの頃、祖父母の家に一人で遊びに来ていた少年の田原秀樹は、寝たきりの祖父のギンジと留守番をしていた時に、突如やって来た謎の訪問客が、玄関のガラス戸越しに祖母のシヅやギンジの名前を連呼する不気味な姿を目撃する。ギンジの一喝で訪問客は消え失せたものの、「聞こえたら戻ってきよんで」というギンジの一言に秀樹は戦慄を覚える。25年後、東京の製菓メーカーの社員として働いていた秀樹は、妻の田原香奈の出産を控えてマンションを購入するなど、公私にわたって充実した生活を送っていた。しかし、後輩の高梨重明が、秀樹への訪問客があった事を伝えた直後に右腕を負傷し入院。その後に著しく体調を崩して退職するというトラブルに見舞われる。秀樹は娘の田原知紗が生まれたあとに、シヅが語っていた、人を捕って山へ連れ帰るという化け物のぼぎわんの事を、幼少の記憶と重明の件と結び付け、不安を抱いていた。自宅に大量のお守りを飾るなどの対策をしていたある日、香奈と知紗がぼぎわんに遭遇してしまう。学生時代の友人の伝で、オカルトライターの野崎昆と知り合った秀樹は、昆の紹介で比嘉真琴という、お祓いをしている若い女性からぼぎわん対策のアドバイスを受ける。その後、週に1度、昆と真琴の訪問を受ける事になり、徐々に平穏な日常生活を取り戻していった秀樹だったが、とある日の夜、真琴がぼぎわんの存在を感知し、その強大さに恐怖してしまう。自身では手に負えない事を悟った真琴は、姉に連絡を取る。真琴の姉の紹介で、秀樹は複数の高名な住職を紹介されるが、いずれの住職からも、この件に関わる事を拒否されてしまう。唯一、話を聞いてくれたアマチュアの霊能者の逢坂勢津子と秀樹、昆が相談中、ぼぎわんから電話がかかって来る。電話に出ていたあいだに、勢津子が右腕を切断され、家族も標的にされるという恐怖にかられた秀樹は、真琴の姉から電話口でアドバイスを受けて単身で自宅に戻り、ぼぎわんを遠くへ追いやれるという呪術の準備を進めるのだった。
登場人物・キャラクター
田原 秀樹 (たはら ひでき)
会社員の男性。年齢は32歳。東京の製菓メーカーに勤めており、妻の田原香奈、娘の田原知紗とマンションで三人暮らしをしている。育児にも非常に積極的に参加している現代的な若者。25年前、祖父母の家で1度だけ遭遇した謎の化け物のぼぎわんが、最近身の回りに出没するようになったため、その影に怯えて暮らしている。ぼぎわんの正体を見極めるため、自分なりに祖父の田舎の伝承などを調べて、ぼぎわんの正体を突き止めようとしていたが、まるで埒が明かないため、中学時代の友人である民俗学者の唐草を頼り、その伝でオカルトライターの野崎昆や、お祓いをしている比嘉真琴と知り合う。非科学的な事象への猜疑心が強いため、当初は昆と真琴の事をかなりうさん臭く思っていたが、自宅まで頻繁に足を運んで秀樹と家族を心配してくれる二人に対して、徐々に信頼を深めていく。一見すると夫婦仲はよく、知紗の事もかわいがっているが、ぼきわん対策として、真琴から「奥さんとお子さんに優しく接してあげてください」と言われるなど、表からはうかがえない複雑な家庭事情を抱えている。
ぼぎわん
訪問客を装って玄関先で住人の名前を呼び、扉を開けさせようとする、得体のしれない化け物。田原秀樹の祖父母の家で言い伝えられている。一見すると人間の女性のような姿をしているが、漂わせる雰囲気は異様そのもので、シルエットが揺らいだ影のようになっており、顔立ちもはっきりと認識できない。秀樹の祖父であるギンジは生前、玄関に来たら閉めて放っておけばいいが、勝手口に来た場合は非常に危なく、捕まって山まで連れていかれてしまうと語っていた。幼少の秀樹は夏休みに祖父母の家に遊びに行った際にぼぎわんとガラス戸越しに遭遇し、ギンジと祖母のシヅ、そしてすでに亡くなっている叔父の久徳の名前を連呼する姿を見ている。極めて執念深く、成人して家庭を持った秀樹の前に再び現れる。電話でコンタクトを取って来る事もあり、電話口に出た秀樹は、肉親や知人の声を真似るぼぎわんの声を聞いている。人間を飲み込めるほど大きな口を持っており、秀樹の後輩の高梨重明の右腕を負傷させ、霊能者の逢坂勢津子の右腕を食いちぎった。
野崎 昆
オカルトライターの男性。ぼぎわんの恐怖に苛まれた田原秀樹が、唐草を通じてコンタクトを取った。一見するとクールで無愛想に見えるが、生真面目で真摯な性格をしている。秀樹に比嘉真琴を紹介したうえで、秀樹の家に真琴といっしょに週一で通い、ぼぎわんへの対策を取ろうとしていた。プロレベルのブラウニーを作ってみんなに振る舞って驚かれるなど、意外と器用な一面も持つ。既婚者だったが、すでに離婚している。子供は若干苦手としており、田原香奈の遊び相手をする際は、あからさまに動作や表情が硬くなっていた。
比嘉 真琴 (ひが まこと)
ショートカットの髪をピンク色に染めている若い女性。野崎昆の知人で、霊的なものや得体の知れないものに困った人々を助けるため、お祓いやおまじないを施している。ふつうの人間とは異なる鋭敏な感覚の持ち主で、他人には見えないモノを感知できる。頭があまりよくない事を自覚しており、理屈では説明できないものの、霊的なものに困っている人々に頼られた時は対処法を教えていた。昆の紹介で田原秀樹と出会った際は、彼の家庭にある「スキマ」を瞬時に見抜き、ぼぎわん対策として「奥さんとお子さんに優しくしてあげてください」というアドバイスをしていた。外に出るとなぜか鳩の大群に囲まれてしまう事が多いため、昼間の外出を控えている。子供好きで、秀樹のもとを訪問した際も、彼の娘である田原知紗とすぐに打ち解けていた。のちにぼぎわんを知覚するが、そのあまりの異様さと強大さに、自身には手に負えないと悟る。
真琴の姉 (まことのあね)
比嘉真琴の姉。ずば抜けた霊能力の持ち主で、幼い頃から怨霊や妖怪といった類と相対しており、田原秀樹に電話で対策をアドバイスしていた。一度も遭遇していないが、すでにぼぎわんの強大さ、恐ろしさを知覚しており、ぼぎわんの強大さに怯える秀樹達に対して、「真琴ではどうにもなりません」と率直に伝えていた。高名な住職にぼぎわん対策の依頼を取りつけるなど、業界ではかなり顔が広い。しかし、ぼぎわんのあまりの強大さに、彼女が話を通したほとんどの人物は依頼を投げ出してしまった。真琴曰く、自分とは違い、お金を取れるレベルの仕事をしているとの事。
田原 香奈 (たはら かな)
田原秀樹の妻。秀樹とはスーパーでパートリーダーをしていた頃に知り合い、結婚に至った。一人娘の田原知紗を授かるが、突如として現れたぼぎわんと遭遇。その時の事は覚えていないが、それ以降言い知れぬ不安に苛まれ、体調を大きく崩してしまう。表向きは夫婦仲がいいが、その裏では秀樹とのあいだに複雑な事情がある事を、比嘉真琴は瞬時に見抜いていた。
田原 知紗 (たはら ちさ)
おとなしい性格をした女児。田原秀樹と田原香奈の一人娘。あまり笑わない女の子だったが、ぼぎわんへの対策で秀樹の家を訪問するようになった比嘉真琴のピンクの髪を気に入り、彼女に非常に懐き、朗らかな笑顔を見せていた。
高梨 重明 (たかなし しげあき)
東京の製菓メーカーに勤めている男性。田原秀樹の後輩。会社に現れたぼぎわんの応対をした直後、右腕に大ケガを負い、緊急入院する事になった。右腕に謎の嚙み傷があった事から、重明の父親が恐怖におののいていた。入院後は見る影もなくやつれてしまい、復職できないまま退職する。
逢坂 勢津子 (おうさか せつこ)
アマチュア霊能者の中年女性。明るく、社交的な性格をしている。真琴の姉が高校生だった頃からの知り合いで、彼女の頼みでぼぎわんに苦しむ田原秀樹の相談に乗る。ぼぎわんから秀樹に電話が来た際に、となりで様子を探っていたが、突然右腕を嚙み切られ、重傷を負ってしまう。
ギンジ
三重県に住んでいた寝たきりの老人。田原秀樹の母方の祖父。秀樹が中学生の時に亡くなった。秀樹が小学生の頃に祖父母の家に遊びに行った時には、すでに寝たきりの生活を送っており、意識も朦朧としていた。しかし、家にぼぎわんが現れたその一時だけは完全に意識を取り戻し、秀樹にぼぎわんの恐ろしさを伝えていた。
シヅ
三重県に住んでいる女性で、田原秀樹の母方の祖母。秀樹が中学生の時、ギンジが亡くなった通夜の席で、ギンジが生前に恐れていた、山に人間を連れ去るという得体の知れない化け物のぼぎわんについて語っていた。
唐草 (からくさ)
御茶ノ水の大学で民俗学の准教授をしている男性。田原秀樹の中学生の時の同級生で、ぼぎわんの調査に行き詰まりを感じていた秀樹の連絡を受けた事から、知り合いであるオカルトライターの野崎昆を紹介する。
クレジット
- 原作
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澤村 井智