ぼくのツアーリ

ぼくのツアーリ

西暦201X年のワルキア共和国を舞台に巻き起こる権力闘争を描いた作品。前半はワルキアを支配するナスターセ家の王子であるユーリィ・ナスターセとヴィクトル・ナスターセの骨肉の争い、後半は温厚な政治家から恐ろしい独裁者に変貌したミルチャ・ツビグンとナスターセ兄弟の戦いを主軸に物語が展開される。また、ユーリィと被差別民であるリュー・サットンとの交流が全編を通して描かれ、彼らの関係も物語の重要な要素となっている。政権争いのみならず、貧困層における薬物の蔓延や民族浄化などの社会問題も扱っている。「ヤングエース」2019年7月号から2020年7月号にかけて掲載された作品。

正式名称
ぼくのツアーリ
ふりがな
ぼくのつあーり
原作者
草下 シンヤ
漫画
ジャンル
心理戦・頭脳戦
 
政治家・政界
関連商品
Amazon 楽天

あらすじ

骨肉の争い

民族浄化がはびこるワルキア共和国において、第二王子のユーリィ・ナスターセヌマーク人の粛清を任されていた。ユーリィは「青い目の悪魔」と恐れられる一方で、ヌマーク人の孤児を従者として引き取るなど、奇矯な振る舞いでも知られていた。ある日、ワルキアのツアーリ(最高指導者)であるピョートル・ナスターセが急死する。これを受けて、第一王子のヴィクトル・ナスターセは自らがツアーリとなるべく奸計を巡らし、手始めにユーリィの従者であるリュー・サットンにピョートル殺害の濡れ衣(ぎぬ)を着せ、ユーリィの立場を揺らがせようとした。さらにヴィクトルは、投票権を持つ大臣を抱え込むなど万全を期していたが、ユーリィの権謀術数により計略は瓦解し、副議長のミルチャ・ツビグンがツアーリに就任する。しかし、選挙の直後にユーリィの車が爆破される事件が発生し、ユーリィは戦いが未だ終わっていないことを悟るのだった。

独裁者との戦い

ワルキア共和国ツアーリとなったミルチャ・ツビグンヌマーク人への差別意識を取り除くべく、民族間の融和政策を進めていた。しかし、投石を浴びてヌマーク人を恨むようになり、最悪の独裁者に変わり果ててしまう。やがてミルチャは、ヌマーク人が暮らすゴート地区の焼き討ちを構想する。その背景には、ヌマーク人を中心に流行する新型麻薬、ペレットの根絶という大義名分があり、プロジェクトは浄化作戦と命名された。危機感を募らせたユーリィ・ナスターセヴィクトル・ナスターセは、ミルチャを打倒するべく動き始める。やがてヴィクトルはミルチャ自身がペレットの流布に関与していたという情報をつかみ、ミルチャを失脚させることに成功する。こうして、ツアーリの座は再び空席となった。

悪魔の計画

ユーリィ・ナスターセピョートル・ナスターセが毒殺されていたことをつき止め、黒幕を殺害したうえで実行犯であるラウラ・ナスターセを糾弾する。自らの妻が犯人だと知ったヴィクトル・ナスターセはロシアへ亡命し、ユーリィはついにツアーリとなった。政権を牛耳ったユーリィはかねてより企んでいた計画を実行に移す。それはピョートルの落胤(らくいん)であり、ルーデシア人ヌマーク人のハーフであるリュー・サットンに「悪魔」を退治をさせ、ワルキア共和国の英雄に押し上げるというものだった。ユーリィは自らの悪名を確固たるものにするべく、浄化作戦の決行を全軍に通達する。作戦の当日、ヌマーク人を救いたいと考えたリューは拳銃を手にユーリィの説得へ向かうのだった。

登場人物・キャラクター

ユーリィ・ナスターセ

ナスターセ家の第二王子。金髪碧眼の美青年で、左手に銃創がある。冷静沈着で権謀術数に長(た)けているが、寝起きが悪いのが玉に瑕(きず)。ピアニストを目指していたが、国務に専念するために左手と愛用のピアノを拳銃で撃ち抜き、音楽への未練を断った。現在は国防軍大佐を務めており、国家保安局執行部の部長としてワルキア共和国の治安維持を担っている。冷徹に粛清を指示する姿から「青い目の悪魔」と恐れられているが、報復の危険がある現場に赴くこともあり、部下からの信頼は厚い。親族ともうまく付き合っているが、皮肉な発言や超然とした態度が原因で、兄のヴィクトル・ナスターセには嫌われている。出生の秘密を伏せて、リュー・サットンをユーリィ・ナスターセ自身の邸宅に住まわせている。体面上は従者だが、友人と認識しており、彼と接する際には他人には見せない柔和な表情を浮かべることも多い。のちに自分が道を誤ったなら止めて欲しいとまで懇願している。ピョートル・ナスターセの死後はワルキアの未来のために権力闘争を繰り広げ、やがてツアーリとして君臨。あえて残酷な独裁者として振る舞い、リューに自分を殺させることで、彼をワルキアの英雄に仕立て上げようとした。

リュー・サットン

ユーリィ・ナスターセに仕える少年。母親のアマラ・サットンの死後は天涯孤独となり、教会で暮らしていた。教会では神父の暴力に苦しんでいたが、ユーリィに救われて住み込みの従者となる。邸宅では家事全般に熟しつつ勉学に励み、母国語に加えてロシア語を習得した。また、生い立ちゆえに聖書への造詣も深い。「かわいい」と評される容姿ながら精神は屈強で、殺人容疑で拘束された際には1日16時間にも及ぶ自白強要に1週間も耐えた。独立20周年式典の4年後には青年期を迎え、従来の黒髪に金髪が混ざり始めた。これはヌマーク人とルーデシア人のハーフであることに起因しているが、自他共にヌマーク人と認識しており、真実を知る者は少ない。この頃にはゴート地区の特別審査官を務めるようになり、人種の壁を越えた交流の場を設けるなど尽力し、ワルキア共和国の希望と称されるまでになっていた。しかし、国家の秘密を知ってユーリィへの信頼が揺らぐなど、精神的な試練にも見舞われている。その後もヴィクトル・ナスターセへのスパイ活動などで活躍するも、浄化作戦の是非を巡ってユーリィと対立し、彼の命と同胞の命を天秤にかけて苦悩することになる。

タルコス・ベレゾフスキー

ユーリィ・ナスターセの側近を務める大柄な男性。国家保安局執行部第一警邏隊の隊長でもあり、ユーリィの命令を汲んで反乱分子の摘発や粛清などの現場指揮を行う立場にある。冷酷なユーリィに対して恐怖心を抱くと同時に、ワルキア共和国には必要不可欠な有能な人物と認めており、彼に仕えることに喜びを見出し、忠誠を尽くしている。ユーリィからの信頼も厚く、帰宅時の護衛やユーリィの生命にかかわる重要任務を任されることも多い。リュー・サットンが格別の扱いを受けていることに対しては、ヌマーク人からの敵愾心(てきがいしん)を和らげるのが目的であるというユーリィの言い分を信用しているが、内心では面白く思っていない。また、苛立つと喫煙量が増える悪癖がある。対象が子供であろうと、命令があれば粛清を実行する胆力の持ち主だが、子供を銃殺することには心を痛めており、冷酷になりきれないところがある。

ザウルフ

国家保安局の執行部第一警邏隊に所属する男性。隊長のタルコス・ベレゾフスキーと共に、ユーリィ・ナスターセの補佐を務めている。隊員の中でもタルコスに次いでユーリィに近いポジションにあり、移動の際にはハンドルを任されることが多い。しかし、タルコスほどの忠誠心は持ち合わせておらず、保身を第一に考えている。ユーリィの悪い噂を雑談の俎上(そじょう)に載せたこともあり、この時はタルコスから王室侮辱罪に相当するとして厳しく叱責されてしまう。独立20周年式典の直前には、ユーリィの車に仕掛けられた爆弾によって負傷している。療養に際しては国の実情を知るべく、身分を偽ってスラムに近い病院に入院し、ヌマーク人と同じ病室でテレビを囲み、式典を観覧した。この経験により、貧民に対する同情心が芽生えている。退院後は職務に復帰しているが、右目に傷跡が残ってしまう。

ダリア・チェルカソワ

ユーリィ・ナスターセのフィアンセの女性。ナスターセ家との顔合わせも済ませており、周囲からはロイヤルファミリー入りも時間の問題と思われている。しかし、肝心のユーリィが結婚に踏み切らないため、もどかしさを感じている。感情表現が豊かで、ユーリィが電話に出なければ職場に押し掛けるほどの行動派だが、彼に優しくされるとすぐに許してしまうなど、いわゆるチョロい性格である。また、ユーリィが従者のリュー・サットンをかわいがっていることについては面白く思っておらず、ユーリィに特殊性癖の持ち主であるという噂が立っていることを気にしている。しかし、宮廷晩餐会では個人の感情を正義感が上回り、貴族に虐(いじ)められていたリューを助けに入っている。この際、リューが自分の悪口ではなくユーリィの悪口に対して反論していたことを知り、彼への評価を見直すことになった。なお、独立20周年式典から4年が経過しても結婚には至っておらず、相変わらずフィアンセとして親族の会合に呼ばれている状況である。

グレゴリー

ユーリィ・ナスターセに仕える老齢の男性。眼鏡をかけている。リュー・サットンの教育係を任されており、貴族の従者に必要となる教養を日々、叩き込んでいる。歴史教育も行っているが、ワルキア共和国が未承認国家である事実は伏せて、血河の反乱などのルーデシア人を正義とする事象のみを説明している。車中でもリューの理解度を確かめようと設問を用意するなど教育には熱心で、リューがミスをすれば鞭で叩いて躾(しつ)けることもあるが、直向(ひたむ)きに学ぼうとするリューの態度は好ましく思っている。また、観察力にも優れており、休日を返上してリューの洋服選びに同行した際には、リューに嫌がらせをしてきた相手が爵位を持つギガ家の人間であることを瞬時に見抜いた。

ピョートル・ナスターセ

ナスターセ家の当主を務める中年男性。豊かな髭を蓄え、ツアーリとしてワルキア共和国を支配している。25歳の頃に白狼戦争で革命軍を指揮した際には、自ら自動小銃を手に先陣で戦い、味方を勝利へと導いた。ツアーリに就任してからは外交および内政共に力を発揮し、絶対的な君主としての地位を確固たるものにした。現在でも演説の際に戦場で辣腕(らつわん)を振るっていた時代の片鱗を見せることがあり、宮廷晩餐会では熱を帯びたスピーチで会場を熱狂させ、次代を担う三人の息子を猛アピールしている。ヴィクトル・ナスターセに外交を、ユーリィ・ナスターセに治安維持を委ねた両輪の体制に自信を覗かせていたが、晩餐会の直後にメモ書きを遺して死亡した。解剖の結果、虚血性心疾患に伴う心停止と判断されている。なお、遺言にはピョートル・ナスターセ自身の後継者となるべき息子の名前が記されていたが、いち早く現場に到着したヴィクトルがそれをにぎり潰してしまい、公表されることはなかった。のちに家政婦のアマラ・サットンに手を出していたこと、リュー・サットンの遺伝上の父親であることが判明する。

ガリーナ・ナスターセ

ピョートル・ナスターセの妹。ほうれい線の目立つ熟年の女性で、ナスターセ家に連なる女性の中でも現実的な考えの持ち主。ヌマーク人を差別しており、宮廷晩餐会ではダリア・チェルカソワとアラ・ナスターセのガールズトークに割って入り、リュー・サットンが気になるというアラに冷水を浴びせている。ミルチャ・ツビグンのツアーリ就任発表を控えた独立20周年式典の直前には、明るく振る舞っていたステパン・ペテロフに対して、ナスターセ家からツアーリを立てた方が商売がうまく運ぶ点を指摘している。巧みに躱(かわ)されて追及はできなかったが、結果として彼の目論見(もくろみ)をみごとに言い当てたことになる。ステパンの屋敷で行われた食事会では、若者らの談笑を断ち切ってヴィクトル・ナスターセ、ユーリィ・ナスターセに次期議長選の話題を切り出し、兄弟の力を合わせて、独裁者と化したミルチャを追い込むようにうながしている。

ヴィクトル・ナスターセ

ナスターセ家の第一王子。外務次官を務める短髪の男性で、ロシアとのパイプ役を担っている。身内の集まりでも歓談より国務を優先する仕事人間で、育児への参加をうながす妻の言葉を顧みることすらない。しかし、家族に無関心なわけではなく、ピョートル・ナスターセの遺体を目の当りにした際には痛哭(つうこく)の表情を浮かべていた。この時、兄弟に先んじてピョートルの遺言を掌握し、ユーリィ・ナスターセを出し抜いてツアーリとなることを決意している。直後に開かれた臨時評議会ではアレクセイ・バベンコによる推薦を受け入れた上で、あえてユーリィをツアーリに推薦し、直接対決の場を調えた。しかし、一連の工作はことごとくユーリィに看破され、決着は持ち越されることになった。ミルチャ・ツビグンの暴走に際しては、彼を擁立したユーリィを強く非難している。その後はリュー・サットンの協力を得て、新型麻薬、ペレットの流通経路をつかみ、盗聴を駆使してミルチャを失脚に追い込むことに成功した。だが、ユーリィの調査によって妻のラウラ・ナスターセがピョートルに毒を盛っていたことが判明。妻への怒りを押し殺し、家族とロシアに亡命した。

ラウラ・ナスターセ

ヴィクトル・ナスターセの妻。ボブヘアの豊満な女性で、貿易商のステパン・ペテロフを父に持つ。息子のドミトリー・ナスターセの世話に手を焼いており、仕事人間のヴィクトルに苦言を呈することもある。一方で、ヴィクトルの出世に期待しており、彼が次期ツアーリとして君臨することを切望している。宮廷晩餐会に出席した際には、ピョートル・ナスターセに「ヤマミフクラギ」と呼ばれるインドの植物の毒を盛る役目を担った。これはヴィクトルをツアーリに押し上げて、自社の貿易を有利に進めたいペテロフの指示に基づいた行動である。のちにピョートル殺害の実行犯であることをユーリィ・ナスターセに暴かれ、家族と共にロシアへ亡命した。

ドミトリー・ナスターセ

ヴィクトル・ナスターセとラウラ・ナスターセの息子。そばかすのある少年で、愛称は「ミーチャ」。王室の年少者であり、祖父のステパン・ペテロフに懐いている。政治闘争とは無縁の存在だが、第一王子の息子という立場から、大人に囲まれた環境で食事をする機会が多く、つねに退屈そうにしている。ヴィクトルが自身の邸宅に支持者を招いて行った食事会では、ヴィクトルの支持を表明する大臣らに嫌悪感を抱き、不機嫌な態度を見せていた。のちにヴィクトルは、ドミトリーは大臣たちの醜悪な本性を感じ取っていたのだろうと解釈している。祖父の死後は真相も知らず家族に連れられ、ロシアへ亡命することになった。

ステパン・ペテロフ

ラウラ・ナスターセの実父にして、ヴィクトル・ナスターセの義父。ワルキア共和国で最大の貿易商を営む熟年の男性で、ダリア・チェルカソワからは親族が集まった際に雰囲気を和ませるムードメーカー的な存在として信頼されている。屋敷には高価な装飾品が並んでおり、ダリアの観察眼によれば、その財産はナスターセ家を凌駕(りょうが)するという。ツアーリから経済面のアドバイスを求められるほどの切れ者でもあり、独裁者と化してからのミルチャ・ツビグンに対しても助言を行っていた。のちに、西側諸国との交流を深めるよりもロシアに従う方が私腹を肥やせると考えていたこと、ロシアへの依存を減らす方針だったピョートル・ナスターセが邪魔になって毒殺を指示していたことが判明する。ピョートルを葬ったあとはヴィクトルをツアーリに据えてロシアとの関係を強化する筋書きだったが、ユーリィ・ナスターセに阻まれている。ユーリィの爆殺計画も未遂に終わり、その後は過激な行動を控えていたが、ユーリィに犯人しか知らないはずの発言を指摘されてすべてが露見し、皮肉にもピョートルに盛ったヤマミフクラギの毒で殺されてしまう。

ワシリー・ナスターセ

ナスターセ家の第三王子。頭脳明晰な青年で、容姿はユーリィ・ナスターセに似ているが、左目尻に泣きボクロがあり、表情も柔和である。また足が不自由なため、杖を使用している。温厚な性格で、ユーリィと折り合いの悪いヴィクトル・ナスターセとの潤滑油の役目を担っている。また、冗談を口にする機会も多く、リュー・サットンからは面白い人と評されている。ワルキア国際関係大学を首席で卒業したあとは、産業開発にかかわる研究所へ就職した。政道を歩む二人の兄弟とは道を分かつ形となったが、ロシアに依存するワルキア共和国の行く末を憂う気持ちは強い。研究職に進んだ理由は、技術革新によってレアメタル産業を発展させ、ワルキアを経済的に自立させたいからである。のちにリューの問いに応じる形で、国民に伏せられているワルキアの秘密について説明した。また、リューの頭髪の変化から彼の出生に疑問を抱き、独自の調査を実施。彼がピョートル・ナスターセの不義の子であることをつき止めている。

アラ・ナスターセ

ナスターセ家の第一王女。後頭部に大きなリボンを付けた少女で、類いまれな美貌から「皇室の華」と讃えられている。ダリア・チェルカソワとはガールズトークをする間柄で、「兄(ユーリィ・ナスターセ)より格好よい人は存在しない」「ダリアは幸せ者」など、ブラザーコンプレックスとも受け取れる発言をしている。また、犬のようでかわいいという理由から、リュー・サットンに興味を抱いていた。父親であるピョートル・ナスターセの急逝はショックが大きく、独立20周年式典の直前には、父親の死から1か月しか経っていない状況で政治の話ばかりしている親族に嫌気が差し、独り泣き腫らしていた。その際、リューから慰めの言葉を掛けられ、ヌマーク人に同情された事実に怒りを感じている。しかし、リューが母親を亡くしていることを知ると、同じ痛みを知る者の言葉として真摯に受け止めた。その後はリューとの対話に安心感を覚えるようになったが、逆に素っ気ない態度を見せるようになり、ワシリー・ナスターセに揶揄(やゆ)されている。リューがヴィクトル・ナスターセのスパイを行っていた際には、ユーリィを裏切ったと勘違いして軽蔑の言葉をぶつけている。

ミルチャ・ツビグン

ワルキア共和国の評議会副議長を務める老齢の男性。顔にシミがあり、「泣き虫ミルチャ」と呼ばれている。ピョートル・ナスターセとは白狼戦争を共に戦った戦友の間柄で、彼の没後に開かれた評議会では進行役を任されながら滂沱(ぼうだ)の涙を流し、大臣たちに侮られてしまう。しかし、ユーリィ・ナスターセの暗躍によりツアーリに就任し、独立20周年式典では涙ながらの演説で民心をつかみ、政権は祝福をもって迎えられた。就任当初はヌマーク人への差別緩和に尽力していたが、ゴート地区を視察した際に投石を受け、右目の周りに大きな痣(あざ)が残ってしまう。この経験により疑心暗鬼に陥り、最悪の独裁者に変貌。意見を違えた大臣をラーゲリ(強制収容所)に送り、ヌマーク人の粛清を断行した。その勢いは粛清を担ってきた保安局員すら躊躇(ちゅうちょ)するほどで、身内に対しての猜疑心も加速し、子供の銃殺を命じた際には人形との入れ替えを疑い、死体の確認まで行っている。のちに浄化作戦を企画するも、盗聴テープが証拠となり、新型麻薬、ペレットを蔓延させてヌマーク人を追い込み、民族浄化へ漕ぎつけるシナリオが露見。命乞いの果てにユーリィに眉間を撃ち抜かれて死亡した。

アレクセイ・バベンコ

ワルキア共和国の外務大臣を務める中年男性。口髭を蓄えている。ピョートル・ナスターセの頓死を受けて実施された臨時評議会において、独立20周年式典での後任発表を提案した。さらにツアーリに相応しいのはヴィクトル・ナスターセと語り、議長選に推薦した。後日の投票においては予定どおりヴィクトルに投票するも、事前に抱き込んでいた大臣らが過去の罪を暴かれて翻意したことで、目論見は空振りに終わってしまう。また、ミルチャ・ツビグンの政権下では提言がミルチャの怒りを買い、ラーゲリ送りとなっている。ラーゲリでは採掘に従事し、同様にラーゲリ送りとなったフェリクス・モロトフと合流。憎み合っていた過去を水に流し、彼との仲を深めることになった。弾劾決議を経てミルチャが失脚すると、政治手腕を有用と見たヴィクトル、ユーリィ・ナスターセの判断で評議会に復権した。なお、ユーリィがヴィクトルを権力の座から遠ざけようとしたのは、ヴィクトルがツアーリとなれば親ロシア派の外務省(バベンコ)の発言力が大きくなり、最悪の場合はワルキアがロシアに飲み込まれてしまうと危惧したからである。

フェリクス・モロトフ

ワルキア共和国の国防大臣を務める禿頭の男性。丸眼鏡をかけている。ユーリィ・ナスターセの上官にあたり、評議会におけるユーリィの数少ない味方である。頭の切れる人物で、ピョートル・ナスターセの死後に開かれた臨時評議会ではヴィクトル・ナスターセを支持するアレクセイ・バベンコが派閥を形成していることを看破し、無用な衝突を避けるべく、一時的に賛同の姿勢を見せた。投票日には堂々と寝返り、ユーリィの策略に呼応している。ミルチャ・ツビグンがツアーリの座に収まると、行き過ぎた弾圧に関する諫言(かんげん)が彼の逆鱗に触れ、ラーゲリに送られてしまったが、ミルチャが失脚すると評議会に呼び戻された。これはモロトフを評価するナスターセ兄弟の相談の結果である。解放時には眼鏡にヒビが入ったみすぼらしい姿になっていたが、何が起ころうとも採掘よりはマシと軽口を飛ばす余裕があった。なお、モロトフのほかに軍関係者として国軍大将のゴラン・ダーリが登場しており、モロトフの不在時に実施された浄化作戦を議題とする会議にはダーリが出席していた。

ウラジミール・ストルガツキー

ワルキア共和国の保健大臣を務める男性。肥満体で鼻梁の左にイボがある。ピョートル・ナスターセの急死を受けて開催された臨時評議会に出席した段階で、既にアレクセイ・バベンコの計画に賛同しており、ヴィクトル・ナスターセをツアーリに押し上げるつもりだった。しかし、女性を暴行したうえで死に至らしめた過去をネタにユーリィ・ナスターセに脅され、止むを得ずミルチャ・ツビグンに投票した。ミルチャ政権ではゴート地区に新型麻薬、ペレットを蔓延させるなど暗躍していた。しかし、ミルチャの独裁政権の存続を支持していたわけではなく、ミルチャが続投を意味する発言をした際には困惑の表情を浮かべていた。のちにベッドでの会話を盗聴され、ペレットの密売に関与していたことが露見してしまい、評議会の真っ最中にヴィクトルに頭を撃ち抜かれて死亡した。

イワン・ゴルシコフ

ワルキア共和国の国務大臣を務める黒髪の中年男性。ピョートル・ナスターセの死後に開かれた臨時評議会ではツアーリ選出までの流れを説明した。この時点でアレクセイ・バベンコの計画に加担しており、選挙でヴィクトル・ナスターセに投票することを約束していた。しかし、ユーリィ・ナスターセにペドフィリアであること、過去に幼女に手を出していたことをネタに強請(ゆす)られ、約束を反故(ほご)にしてミルチャ・ツビグンに投票した。ミルチャが失脚した直後には、1週間だけ臨時でツアーリを務めるよう強要されている。この際、大人の女性に盗聴されて破滅に至ったウラジミール・ストルガツキーを引き合いに出され、ユーリィから子供が相手なら盗聴の心配がないという痛烈な皮肉を言われている。

シャーヤ・ラシードフ

ワルキア共和国の財務大臣を務める顎の尖ったオールバックの男性。つねに飄々(ひょうひょう)としており、評議会の最中でも態度を崩さない。突然死したピョートル・ナスターセの代理を決めるべく行われた臨時評議会に出席した際には、自薦する者がいないか出席者に問うている。この際、ウラジミール・ストルガツキーから、内心でツアーリの座を狙っているのではないかと窘(たしな)められているが、実際はアレクセイ・バベンコの計画に呼応しており、ヴィクトル・ナスターセをツアーリに押し上げるつもりだった。しかし、ユーリィ・ナスターセにマフィアとの癒着の証拠をつきつけられ、立場を守るためにミルチャ・ツビグンに投票した。その後は暗躍することもなく、職務を全うしている。

コンスタンチン・コリョフ

ワルキア共和国の経済労働大臣を務める年配の男性。短髪で目尻に深いシワがある。ピョートル・ナスターセの急逝に対応するべく開かれた臨時評議会に出席した際には、候補者選びの難しさを指摘しているが、その裏ではアレクセイ・バベンコの計画に協力し、ヴィクトル・ナスターセの支持を決めていた。しかし、不正な手段で富を築いていた事実をユーリィ・ナスターセにつかまれ、脅迫を受けた結果としてミルチャ・ツビグンへと票を投じた。ミルチャ政権下でも大臣として続投していたが、すっかり白髪になってしまう。

ニコライ・ラシードフ

ヴィクトル・ナスターセの側近を務める小柄な男性。ヴィクトルの補佐を務めるようになって5年ほど経過しており、外務特別審議官のポストを与えられている。無実の少年であるリュー・サットンを犯人に仕立て上げてまでツアーリになろうとするヴィクトルの胸中を察して冷や汗を流していたが、ヴィクトルの決意表明を受けて忠誠心を高め、側近としての務めを果たそうと奮起した。独立20周年式典の直前には、奇(く)しくもヴィクトルがライバル視するユーリィ・ナスターセの側近であるタルコス・ベレゾフスキーと同席することになり、表面上では穏やかに言葉を交わしつつ、内心では互いに火花を散らしていた。

イリヤ・ペトロフ

トゥマーン(評議会特捜部)の部長を務める男性。冷酷無比な性格をしている。ヌマーク人の処刑を視察するミルチャ・ツビグンに同行し、子供を逃がそうと画策していたユーリィ・ナスターセとリュー・サットンを威圧した。浄化作戦を議題とする会議の場ではミルチャの護衛を担い、突如としてウラジミール・ストルガツキーを射殺したヴィクトル・ナスターセに即応する形で銃を向けるなど、高い能力を示している。しかし、その場で実施された弾劾決議によりミルチャが失脚すると、すでにトゥマーンへの命令権は剝奪されたとしてミルチャの嘆願を聞き入れず、ユーリィのミルチャ射殺を黙認した。

ウマル・アルハノフ

反政府組織「青き月」の幹部を務める男性。ヴェロニカ・バサエフとペアで活動することが多い。皮肉屋で、独立20周年式典を観覧した際には、ナスターセ家の人気をコンサートのようだと表現した。ゴート地区で蔓延している新型麻薬、ペレットの存在には頭を悩ませており、ペレットを摂取するヌマーク人に暴力を振るう場面がある。リュー・サットンが単身でゴート地区に現れた際には、部下を率いてリューを軟禁し、ワルキア共和国が未承認国家である事実を教えた。これはユーリィ・ナスターセの従者であるリューに疑念の種を植えつけ、あわよくばスパイとして利用しようという企みである。組織の窓口を担当することもあり、浄化作戦の直前には教会の告解室にて情報収集を行っていた。この際、リューから作戦の概要を聞き出したうえで、ゴート地区を守るためにはリューが行動する必要があると諭し、拳銃を授けることで言外にユーリィを射殺するように仕向けた。

ヴェロニカ・バサエフ

反政府組織「青き月」の幹部を務める女性。ウマル・アルハノフとペアで活動することが多い。毒舌家で、ナスターセ家をクズと呼び蔑んでいる。独立20周年式典を観覧した際には、ミルチャ・ツビグンの演説に沸き立つ国民を冷ややかに見つめ、茶番と言い放った。ゴート地区にてリュー・サットンと接触した際には、彼を保安局の犬と批判している。また、ヌマーク人をテロリスト扱いしているルーデシア人も国際的にはテロと見なされていることを暴露し、リューの精神を激しく揺さぶった。一方で、保健局が新型麻薬、ペレットの流布にかかわっているという情報をリューにもたらしており、この情報がミルチャ政権をつき崩すきっかけとなる。

アマラ・サットン

リュー・サットンの母親で、故人。ナスターセ家の家政婦として働いていたが、ピョートル・ナスターセのお手付きとなり妊娠してしまい、屋敷から出奔した。その後はゴート地区に移住してリューを出産し、親子で慎ましく暮らしていた。しかし、事情を把握していなかったユーリィ・ナスターセに声を掛けられて逃走を図り、不運にも車に轢(ひ)かれて絶命してしまう。アマラの逃亡に疑念を抱いたユーリィは独自の調査によりリューを発見し、ルーデシア人とヌマーク人のハーフである彼に民族融和の希望を見出すことになる。

集団・組織

ナスターセ家 (なすたーせけ)

ワルキア共和国を支配する独裁者の家系。血河の反乱を鎮圧した英雄として知られるミハイ・ナスターセの血を引いている。王室や皇室と称されることが多く、見目麗しい王子、王女らはルーデシア人から熱烈な支持を受けている。当主のピョートル・ナスターセはツアーリとして政権を完全にコントロールしており、長男のヴィクトル・ナスターセに外交を、次男のユーリィ・ナスターセに国内の治安維持を任せるなど盤石の布陣を敷いている。しかし、ヌマーク人の大半をゴート地区に押し込めて反乱分子として扱っているため、彼らにとってナスターセ家の人間は不倶戴天の仇敵である。なお、ピョートルの妻であるマリアは10年前に死亡している。

トゥマーン

評議会特捜部の通称。一般的な犯罪に対応する内務省の警察部、テロ対策や特殊工作を任務とする国防省の保安局と並ぶ第三の保安機関だが、原則としてツアーリの指示にのみ従うため、事実上の私兵と認識されている。「トゥマーン」はロシア語で「霧」を意味する言葉で、拘束された者は霧の中に消えたように姿(くらま)を晦ましてしまい、2度と表には戻れないという恐ろしい噂がある。ミルチャ・ツビグンの政権下においては、アレクセイ・バベンコとフェリクス・モロトフをあらぬ嫌疑でラーゲリ送りにするなど暗躍した。なお、権力闘争に乗り出したヴィクトル・ナスターセもトゥマーンの力を借りようと出動を要請しているが、ヴィクトルの依頼したリュー・サットンの拘束と自白強要は実現しなかった。これはヴィクトルの動きを察知したユーリィ・ナスターセが手段を選ばぬトゥマーンからリューを守るべく、警察部にリューを逮捕させたからである。

青き月 (あおきつき)

ルーデシア人に虐げられているヌマーク人によって組織された反政府組織。ナスターセ家の独裁体制に問題があるとして、革命を志している。ゴート地区に拠点を構えており、とある教会の告解室が木曜の日中のみ、組織との窓口として機能している。幹部のウマル・アルハノフ、ヴェロニカ・バサエフのほかにも多くの構成員が登場しているが、その多くがユーリィ・ナスターセの率いる保安局執行部、あるいはユーリィの手によって処刑されている。なお、ユーリィの車に爆弾を仕掛けて殺そうとしたのも、新型麻薬、ペレットを蔓延させたのも青き月の仕業とされていたが、どちらも濡れ衣(ぎぬ)であり、真相は異なる。

場所

ワルキア共和国 (わるきあきょうわこく)

ソビエト連邦の崩壊に乗じて誕生した東欧の小国。人口は162万7000人とされているが、政府はヌマーク人の総数を把握しておらず、正確な数字ではない。政権は白狼戦争でルーデシア人を統率したナスターセ家が牛耳っており、反乱分子の粛清と称するヌマーク人への虐殺が横行している。また、レアメタル採掘を基幹産業としているが、過酷な作業は専らヌマーク人が担っている。ルーデシア語を公用語としながら、旧ソ連領であること、主要貿易国であることから、ロシア語を嗜(たしな)む者も少なくない。天然ガスに代表される資源もロシアに依存している。また、国土の防衛を目的としてロシア軍を駐留させているが、ロシアからすれば、西側諸国との緩衝地帯としてワルキア共和国を利用している形である。社会的には国として認められていない未承認国家だが、無用な混乱を招くとして言論統制が敷かれ、事実を知らない国民も多い。領土と主張する区域からの外出も厳しく制限されている。ユーリィ・ナスターセは前述の理由でピアノ国際コンクールに出場できず、夢を奪われてしまう。そのため、自分の命を投げ打ってでもワルキアを正式な国家にしたいと考えている。

ゴート地区 (ごーとちく)

血河の反乱をきっかけに誕生したヌマーク人の居住区。ワルキア共和国に流れるヴァラ河の西側に存在する。家屋の多くはバラックで、地区内には10万から20万人のヌマーク人が暮らしていると推測されている。また、反政府組織「青き月」のメンバーが潜伏しており、政府から警戒されている。政権がミルチャ・ツビグンに移行した直後には、被差別民のヌマーク人と彼らを見下していたルーデシア人の関係を改善する目的で、交流の場が設けられた。しかし、ある事件をきっかけに豹変したミルチャにより再び弾圧が行われるようになり、両民族の関係が雪解けに至ることはなかった。さらに新型麻薬、ペレットの流行が追い打ちとなり、貧困と薬物が蔓延し、餓狼(がろう)が子供を喰い殺す阿鼻叫喚(あびきょうかん)の地獄絵図と化してしまう。

その他キーワード

ペレット

ワルキア共和国を蝕んでいる新型麻薬。ミルチャ・ツビグンの政権下において流行が始まり、政府関係者を悩ませている。オピオイドに毒性の強いストリキニーネなどの成分を混ぜて作られたもので、摂取は注射によって行われる。効果が切れるとストリキニーネが引き起こす激痛に苛まれるため、摂取者は常用を強いられ、破滅へと向かうことになる。売人の多くはヌマーク人で、反政府組織「青き月」の資金源になっていると噂されていた。しかし、リュー・サットンの調査により、国家保健局が国外から持ち込み、ゴート地区にバラまいたものであることが判明。ペレットの蔓延に関与していた保健大臣のウラジミール・ストルガツキーは「ヌマーク人に対する堕胎政策」と表現した。

ルーデシア人 (るーでしあじん)

ワルキア共和国の人口の大半を占める民族。ヌマーク人に対して、強い差別意識を持っている。イズー家、ウェクスラー家、シオラン家、シリバシュ家、ギンツブルク家、カレリン家、ブーニン家、ツァラ家、ギガ家、ほか七つの家系が爵位を賜り、貴族としての扱いを受けている。ギガ家は血河の反乱でヌマーク人に温情ある対応をしたことから「温かき公爵家」と称されていたが、その末裔はヌマーク人を露骨に嫌悪し、虐げる側に回っている。また、白狼戦争で活躍したナスターセ家は国家の中枢に居座り、事実上の独裁者として君臨している。

ヌマーク人 (ぬまーくじん)

ワルキア共和国のゴート地区で生活する黒髪の民族。血河の反乱を契機にヴァラ河の西側に追いやられ、スラム街を形成した。ヌマーク人の多くが国家の主要産業であるレアメタル採掘に従事しているが、ルーデシア人からは差別的な扱いを受けており、そこにいるだけで罵倒されるほどである。法律上は人種差別撤廃条項が存在しており、人種差別主義者は3年以下の禁固刑に処すことが定められているが、政府関係者が率先してヌマーク人の弾圧を推し進めるなど、完全に形骸化している。なお、ごく少数ではあるが、スラムを出て成功したヌマーク人も存在する。

ツアーリ

ロシア語で「皇帝」を意味する言葉。ワルキア共和国では本来の意味ではなく、最高指導者である国家評議会議長を指す言葉として用いられている。建国以来、ツアーリの称号はピョートル・ナスターセが死守していたが、突然の死によって空席となり、ツアーリの座を渇望するヴィクトル・ナスターセと、兄の取りまきを信用できないユーリィ・ナスターセのあいだで骨肉の争いが行われることになった。結果として穏健派のミルチャ・ツビグンがツアーリに据えられたが、ミルチャは暴走の果てに失脚に追い込まれ、ユーリィがツアーリとして君臨することになった。

血のスープ (ちのすーぷ)

ナスターセ家の伝統料理である具のない真っ赤なスープ。赤色は素材となる根菜に由来するもので、名称は明言されていないが、その形状と特徴はビーツに酷似している。ユーリィ・ナスターセは「特別な仕事(反乱分子の処刑)」を行った日の夕食は血のスープにライ麦パンを添えた簡素なものにすると決めている。これはワルキア共和国の大地には無数の人間の血が染み込んでいるという事実を忘れないための儀式であり、調理はリュー・サットンに一任されている。なお、ピョートル・ナスターセの治世において、ユーリィが血のスープを飲む頻度は3か月に1度だけだった。しかし、新たなツアーリとなったミルチャ・ツビグンが暴走を始めると処刑の頻度が急増し、ユーリィが血のスープを口にする機会も激増してしまう。これにはユーリィも苦言を呈している。

血河の反乱 (けつがのはんらん)

1869年に勃発した動乱。ヌマーク人が農作物の価格決定権を求めて蜂起し、ルーデシア人の部隊に鎮圧された事件である。これをきっかけに人種ごとに居住区が分けられ、ヴァラ河の東にはルーデシア人、西にはヌマーク人が住むことになった。なお、ナスターセ家の先祖であるミハイ・ナスターセが鎮圧部隊の指揮を担っていた。

白狼戦争 (はくろうせんそう)

ワルキア共和国の建国にかかわる独立戦争。ソビエト連邦の崩壊時にトランスバニア共和国が誕生し、そこでの暮らしに不満を感じたルーデシア人が武装蜂起する形で勃発した。ピョートル・ナスターセの指揮により、ルーデシア人はトランスバニアの一部地域を占領することに成功し、「ワルキア共和国」と号することになった。しかし、現在でも未承認国家に留まっており、国際的には現在もトランスバニアを不法占拠している状態である。なお、狼はワルキアを象徴する動物であり、国旗や国章にも雄叫(おたけ)びを上げる狼の姿が描かれている。

独立20周年式典 (どくりつにじゅっしゅうねんしきてん)

ワルキア共和国が国家として独立してから20周年を迎えるにあたって企画された特別式典。ナスターセ家の面々が国民の前に立ってスピーチを行うというもので、学生の身分だったワシリー・ナスターセやアラ・ナスターセの演説デビューも予定されていた。しかし、ピョートル・ナスターセの急死によって内容が大きく変更され、両名の演説デビューは中止となり、ツアーリに就任したミルチャ・ツビグンのスピーチを主軸に国家の新体制を祝う場となった。なお、ワルキアの国章は山頂で吠える狼を中心に麦や「鎌と槌」を配したソ連共産主義の影響が強いものだったが、ピョートルの死後に発見された新たな国章からは「鎌と槌」が排されていた。これはロシアからの自立を意味するものであり、新たな国章の発表こそ、式典の目玉だったのではないかと予想されている。

浄化作戦 (じょうかさくせん)

ヌマーク人が生活するゴート地区を焼き払い、民族浄化を一気に進めようという虐殺計画。発案者のミルチャ・ツビグン曰(いわ)く、新型麻薬、ペレットの蔓延に抗(あらが)うための政策である。しかし、そもそもペレットの流布が国家規模の陰謀であり、虐殺を実施するための方便にすぎない。本件に対して、ヴィクトル・ナスターセは国際的に問題視される恐れが高いとして中止が妥当と考えていた。同様にワシリー・ナスターセも国際問題への発展を懸念していた。曰く、国連軍の介入から駐留ロシア軍の出動につながり、最悪の場合にはワルキア共和国が戦火に包まれてしまうという。ユーリィ・ナスターセも中止を仄(ほの)めかしていたが、ツアーリ就任後は一転して意見を翻し、実施を主張するようになった。体面上は癌を根治するには病巣を切除するしかないと説明しているが、実際には自身の悪名を高めることが狙いである。

クレジット

原作

草下 シンヤ

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