嘘喰いと賭郎立会人

本作は、迫稔雄の『嘘喰い』の本編完結後に発表されたスピンオフ作品で、時系列は本編の完結時点よりやや遡り、斑目貘が巨大賭博組織である倶楽部「賭郎」の長である「お屋形様」となった直後から始まる。貘の専属立会人である夜行妃古壱に焦点を当て、彼の過去や立会人としての信念を深く掘り下げていく。原作『嘘喰い』は、貘がお屋形様の座を狙い、実在およびオリジナルのさまざまなギャンブルに挑む長編サスペンス作品であり、実写映画化をはじめとする多くのメディアミックスが展開されている。

「お屋形様」に就任したばかりの貘は、親睦会を名目に倶楽部「賭郎」の立会人たちとの面談を開始し、必要に応じて立会人の罷免や再編成を行うと宣言する。最初の相手として選ばれたのは、貘にとってなじみ深い妃古壱だった。そして、始まった奇妙な追憶の旅は、オイルショック真っただ中の昭和時代へと遡る。青年時代の妃古壱が立ち会ったのは、億万長者のゲームメイカー・火羅口赤男と、金銭欲に駆られたギャンブラー・丸子橋龍が繰り広げる1対1の3本勝負だった。それは「黒ひげ危機一髪」に似た「カンダタ危機一髪」で、挑戦者である龍は購入したナイフを順に刺していき、カンダタを解放した瞬間に大金を得ると同時に、「不自由時間」という拘束時間が蓄積されていくという内容だった。しかしその実態は、得られる現金の重さに応じて、不自由時間が終わるまで首が締め付けられる危険な仕掛けが施された、命懸けのデスゲームであった。

貘は、妃古壱の語る過去を聞きながら、挑戦者の龍に憑依するかのように、伝説のギャンブル「カンダタ危機一髪」を追体験していく。それはまるで、当時の彼らが経験した出来事や心情を、貘自身が体感しているかのようだった。一方、若き日の妃古壱は、倶楽部「賭郎」の立会人として、人間の持つさまざまな欲望と賭郎勝負の奥深さを理解していく。龍を快く思わない赤男は、なんの能力も功績もないにもかかわらず大金を求める龍に対して、殺意を募らせていた。そして、その欲望を「カンダタ危機一髪」を通じて発散しようとしていた。危険な戦いを途中まで追体験した貘は、赤男と龍のどちらが勝つかを予測する賭けを妃古壱に持ちかける。個性的なギャンブラーたちが繰り広げる大勝負の結末や、緊張感と迫力に満ちた頭脳戦が繰り広げられるシリアスなストーリーが見どころとなっている。