あらすじ
上巻
藤井貴博は、恋人、古藤多郎の誕生日にペアリングを送ろうと計画していたが、出来上がったリングを受け取りに行った際に事故に遭い、交際していた2年間の記憶をすべて失ってしまう。事故の知らせを受けた多郎は、急いで病院へと向う道中で、二人のこれまでの思い出を回想する。 高校生の時、多郎は同じ学年の貴博を誘い、興味本位でキスを交わし、そのままセフレ関係となった。貴博は幼い頃から姉、藤井かずよに憧れていたが、彼女の結婚を機に、その思いに区切りをつける決意を固める。この時、貴博からすべてを聞かされた多郎は、貴博がずっと服の下に身につけていたおもちゃの指輪を、彼の気持ちごと譲り受ける。こうして二人は晴れて正式な恋人同士となり、同棲を開始する。 多郎はそんな2年間をすべて忘れてしまった貴博に対し、「元のように日常の生活を送ると、記憶が戻るかもしれない」という医者からのアドバイスを受け入れ、ひとまず恋人である事を伏せたまま、ルームシェアを続ける。ところが、貴博は記憶を取り戻さないままに、多郎と自分の情事を収めたDVDを見てしまい、以降は性的な感情を含めて多郎を意識するようになっていく。貴博は自分のそんな気持ちを、多郎にそっくりな双子の妹、古藤多恵が好きだからに違いないと、思い込みで片付けようとするのだった。
下巻
藤井貴博は、古藤多恵を好きだと思い込むようにしていたが、彼女といっしょに過ごしているあいだも、どこか上の空になっている自分に気づく。不思議な気持ちを抱えながら古藤多郎と暮らす部屋に戻った貴博は、多郎が何気なく身につけたエプロン姿に欲情し、一線を超えてしまう。多郎はその夜、死んだように静かに眠る貴博を見つめながら、彼がペアリングを受け取りに行かなければ事故に遭う事もなかったのにと、深い悲しみに包まれる。 一方の貴博は、記憶が戻らないまま、親友だと思っていた多郎と一線を超えてしまった事を思い悩んでいた。そしてそれから数日後、貴博は多郎との距離を置こうと、二人暮らしの部屋を出て実家に帰ってしまう。
登場人物・キャラクター
藤井 貴博 (ふじい たかひろ)
19歳の男子大学生。古藤多郎の同性の恋人で、二人で部屋を借りて同棲している。明るい髪色のくせ毛で、髪型は襟足を刈り上げ、トップにボリュームを持たせたショートヘア。事故に遭って、2年間の記憶をすべて失っている。多郎との交際は2年前の高校生の時に始まっているため、実質的に多郎と交際していた記憶の一切がない状態。高校生の頃は多郎よりも背が高かったが、今は多郎の方が少し高い。 藤井かずよの弟で、幼い頃には結婚の約束と共におもちゃの指輪を贈るなど、本気でかずよに思いを寄せていた過去がある。しかし、かずよが結婚したのを機にその思いを封印し、以降は多郎と正式に交際するようになった。この時、つねに身につけていたおもちゃの指輪を多郎に贈った。 照れると怖い顔になってしまう癖があり、言動もがさつ。だが、目の前で痴漢の被害に遭っている女性がいれば、身体を割り込ませて庇うなど、実際は優しい性格の持ち主。
古藤 多郎 (ことう たろう)
撮影関係の仕事に就いている男性。年齢は19歳。藤井貴博の同性の恋人で、二人で部屋を借りて同棲している。また古藤多恵、古藤美恵、古藤佳恵、古藤弥恵という、学生から乳児まで4人の妹がおり、彼女達の生活費の面倒を見ている。髪型は黒髪のストレートで、前髪を目の下までかかるくらいまで伸ばし、サイドに流している。 貴博が自分へのプレゼントとしてペアリングを買いに行った際に事故に遭い、交際期間と同じ2年間の記憶を失ってしまった。そのため、寂しく思う気持ちと同時に、自分を責めている。もともと双子の妹である多恵が大好きで、いつもべったりしていた。しかし、多恵から彼氏ができたから放っておいてほしいと言われ、大きなショックを受ける。 その寂しさから自分も彼氏を作ればいいと考え、高校時代からなかば投げやりに同性交際を開始した。その後、同性同士の交際を後悔し始めた時に貴博に会い、何かと自分に親切にしてくれた彼に好意を抱くようになった。貴博を高校時代から一途に慕っており、それは現在でも変わらない。高校時代は小柄だったが、今は貴博より少し背が高い。 細い身体に似合わず大食漢だが酒には弱く、貴博と同じペースでは飲めないため、いっしょにいるだけで楽しんでいる。実は不器用で、卵をまるごとレンジにかけるなど、驚異的な料理下手。
藤井 かずよ (ふじい かずよ)
藤井貴博の姉。ゆるいウェーブのかかった長い髪を、肩下まで伸ばしている。結婚しており、乳児を一人持つ母親でもある。貴博と古藤多郎が交際している事を知っており、交際期間中の記憶をすべてなくしてしまった貴博と、多郎の関係を心配している。ただし、細かく詮索したり、うるさく意見したりはせず、余程の事がない限りは静かにに見守る立場に徹している。 貴博から幼い頃に結婚の申し込みと共に贈られたおもちゃの指輪を大切にしていたが、目を離した時になくしてしまった。
古藤 多恵 (ことう たえ)
古藤多郎の双子の妹。古藤家の4姉妹の長女。ストレートの黒髪を背中にかかるほど長く伸ばしている。3人の妹の世話を、親代わりとして一手に引き受けている。多郎とそっくりの顔だちをしているが、料理は得意。記憶をなくした藤井貴博が熱を出して寝込んだ際、多郎に代わって世話をした。その時、貴博が記憶を失う前に片思いしていた相手と間違われてしまう。 実は腕力が非常に強く、家の買い出しでは、貴博でも重さによろめくほどの大荷物を抱えて平気で歩いている。
古藤 美恵 (ことう みえ)
古藤多郎の妹で学生。古藤家の4姉妹の次女。真っ直ぐな黒髪をツインテールの髪型にしている。多郎の恋人の藤井貴博を気に入っており、彼が古藤家にやって来ると、妹の古藤佳恵といっしょになって矢継ぎ早に話しかけるなど、家族のような距離感で接している。
古藤 佳恵 (ことう かえ)
古藤多郎の妹で学生。古藤家の4姉妹の三女。明るい色の髪をふんわりとボリュームのあるボブヘアにしている。藤井貴博を気に入っており、時折古藤家にやって来ると、姉の古藤美恵といっしょになって矢継ぎ早に話しかけるなど、家族のような距離感で接している。
古藤 弥恵 (ことう やえ)
古藤多郎の0歳の妹。古藤家の4姉妹の四女。黒髪で前髪を真っ直ぐに切りそろえた髪型で、頭の中央の髪が一房ひょこんと立ち上がっている。古藤美恵に吸いつき癖を伝授されており、兄姉の首筋に痕が残るくらいに吸いついている。そのため、古藤家を訪れた藤井貴博から抱っこされると、すぐに首筋に吸いついた。
その他キーワード
おもちゃの指輪 (おもちゃのゆびわ)
藤井貴博が、姉の藤井かずよに結婚の申し込んだ際に、プレゼントした指輪。かずよも大事に持っていたが、かずよが目を離したスキに貴博がこっそりチェーンに通し、肌身離さず首に下げていた。だが、貴博はかずよへの憧れから決別するため、古藤多郎に告白すると共に贈った。しかし、事故に遭って多郎と交際していた2年間の記憶を失った貴博は、このおもちゃの指輪をまた自分で身につけるようになった。
ペアリング
藤井貴博が購入した指輪。古藤多郎との交際から2年後、彼の誕生日である3月31日に贈る予定だった。両方15号の大きさで、女性には大きすぎて、店員にサイズ間違いではないかと確認された。これを貴博はかずよのおもちゃの指輪と同じように、チェーンに通してネックレスにし、プレゼントとして贈るつもりだった。だが貴博は、ペアリングを買ったあとに事故に遭い、2年間の記憶を失う。 このペアリングは事故後に貴博の荷物の中から発見され、多郎が預かっていたが、多郎はこのペアリングを貴博が事故に遭った原因と見なし、藤井かずよに捨ててほしいと託した。