概要・あらすじ
現役での美大受験に失敗し、関東美術学院で浪人生活を送ることとなった人見知りで奥手な主人公・岡本桃寧。父親が失踪した一方で兄姉からは過保護気味に可愛がられている桃寧は、そのことにいささかの気後れを感じつつもあれやこれやと世話を焼かれていた。それは浪人生活をするにあたって一人暮らしを始めてからも変わらず、桃寧の住む歌川荘にはことあるごとに兄・岡本太郎と姉・岡本深紅が来訪。
また、関東美術学院では友人で同じく浪人生の中原夏樹や由芽らとともに受験に向けた課題制作に追われながら、ほのかに抱くようになった恋心など、多感な年頃ならではの青春の日々を送るのだった。
登場人物・キャラクター
岡本 桃寧 (おかもと ももね)
美大志望の浪人生で、関東美術学院に通っている。それまでは実家ぐらしだったが、浪人生活のスタートに際して家を出てアパート・歌川荘で一人暮らしを始めた。家族や友人からはももの愛称で呼ばれる。家族は父、母、兄、姉の4人がいるものの、「ももの父」は失踪中。兄・岡本太郎と姉・岡本深紅からはやや過保護気味に可愛がられているが、太郎や深紅とは異なり、父親のことは嫌っておらずむしろ尊敬している。 人見知りの気があり、恋愛関係も奥手。ただし恋愛に興味がないわけではなく、関東美術学院では気になる相手が複数登場した。そのうちのひとり、アルバイト講師で芸大生の藤田卓哉には恋人がいたためあっさりと失恋。 その後、関東美術学院のクラスメイトである松本竣とひょんなことから知り合い、徐々に距離を縮めていく。一時は松本に彼女がいるものと誤解し、もやもやとした気持ちに苛まれることに。受験シーズンとなり、ある美大の実技試験の当日、道に迷い会場に辿りつけずにいたところ、松本が自分も遅刻するというリスクを選択してまで探しに来てくれたことで思いが深まる。 その美大には結局不合格になってしまうが、最終的に第一志望の美大に合格。一方、松本は関西の美大に合格した。その時点でも松本に彼女がいると誤解したままだったが、東京を離れる当日に、松本が餞別代わりに画集をアパートに届けてくれたことで感情が爆発。拙いながらも松本に思いを伝えた。
岡本 深紅 (おかもと みく)
岡本桃寧の姉で、桃寧のことをいたく可愛がっている。我の強い性格をしており、両親の期待にあえて逆らって絵の道には進まなかった。ただ絵自体は好きなため、大学は文学部に進学し美術史を専攻。また、青山のギャラリーでバイトをしている。家族を捨てて失踪した「ももの父」については冷めた視線を送るが、両親の関係性については一定の理解を示す。
岡本 太郎 (おかもと たろう)
岡本桃寧の兄。両親の影響でもともとは絵に親しんでいたが、岡本太郎という名前が重くのしかかり、途中で絵を諦めて公認会計士というまったく異なる道を選んだ。あえてその名を付けた父親を恨んでいる。真面目かつ責任感の強い性格で、「ももの父」が失踪したのちは深紅と桃寧の父親代わりに振る舞った。 ただし家族の中で唯一「ももの父」と連絡を取り合っている。
ももの母 (もものはは)
岡本桃寧の母親。岡本絵画教室を経営しており、それなりに繁盛している。もともとは旧家の娘だったが、自称芸術家の「ももの父」と出会い、駆け落ち同然で結婚。「ももの父」が普通に働くことができない人間だったため、岡本家の家計を支えるようになる。その後、太郎・深紅・桃寧の一男二女を授かった。 家族を捨てて失踪した「ももの父」とは離婚を決意しつつも、自分の前に現れず、離婚を成立させられないことをどこか喜んでいる。
ももの父 (もものちち)
岡本桃寧の父親。自称芸術家で、あるとき知り合った「ももの母」と駆け落ち同然で結婚するが、まともに働くことができない性格だった。太郎・深紅・桃寧という一男二女を授かった後もその性格は変わらず、職を転々としたり事業を起こして失敗したりした挙句、家族を捨てて失踪。ただし完全に関係が絶えたわけではなく、太郎とはときおり顔を合わせている。 また妻のもとに顔を出すと約束しながら、離婚を申し出られる気配を感じて結局訪れなかったことも。桃寧のことは気にかけており、受験シーズンにミカンを贈ったり、合格後に祝いの品を太郎に託したりした。
中原 夏樹 (なかはら なつき)
関東美術学院に通う浪人生で、岡本桃寧の親しい友人。油絵に関する独特のセンスの持ち主で、関東美術学院でもその評価は高い。同じく美大志望の浪人生・船塚とは高校一年のときからの付き合いだったが、次第にぎくしゃくし、別れることに。黒髪のロングヘアで、服装も女性らしいものが多い。 なお、浪人生になる前の夏樹と船塚の関係は、冬目景の他作品『イエスタデイをうたって』に描かれている。
由芽 (ゆめ)
関東美術学院に通う浪人生で、岡本桃寧の親しい友人。茶髪のショートヘアで、服装はボーイッシュなものを選ぶ。関東美術学院の講師・梅原に思いを寄せるが、受験が終わるまで気持ちを伝えることを避けようとしていた。しかし梅原が結婚することを知ったため、不完全燃焼のまま失恋してしまう。 このことが桃寧の背中を押すひとつのきっかけになったが、桃寧が想いを寄せた藤田卓哉にも恋人がいたため、こちらも失恋に終わる。
松本 竣 (まつもと しゅん)
九州出身で関東美術学院に通うため上京。岡本桃寧とおなじ昼間の部のカリキュラムを受講するが、ペットショップでのバイトのためひとり夜に登校していたので、桃寧とは当初は面識もなかった。だがあるきっかけで桃寧と言葉を交わすようになる。社交辞令を嫌い、言ったことは守る性格。桃寧のことを次第に意識するようになっていった。 ある美大の実技試験の当日、桃寧が会場に現れなかったため、自分も遅刻するというリスクを選択してまで探しにいった。結局、関西の美大に合格。東京を離れる当日、餞別として画集を桃寧に贈る。それがきっかけとなり、桃寧は拙いながら松本に対する気持ちを伝えることになった。