概要・あらすじ
休筆宣言をして遊びほうける日々を過ごしていた漫画家の本宮ひろ志は、ある時、政治に関心を持てないという若者の「新聞の内容を漫画にでもしてくれれば」という言葉を耳にし、参議院全国区への出馬を宣言する。そこには、自身が議員になるまでの過程を実況生中継することで、漫画が伝達媒体としてどの程度通用するか試してみたいという思いがあった。
本宮の行動に「週刊少年ジャンプ」編集部は困惑するが、編集長の西村繁男は人気がない場合はほかの漫画と同様に10回で打ち切ることなどを条件に掲載を認める。かくして、前代未聞の政治レポート漫画の企画がスタート。手始めに本宮は自由民主党をはじめ、各党の党首に話を聞かせて欲しいと直筆の手紙を送る。
登場人物・キャラクター
本宮 ひろ志 (もとみや ひろし)
『男一匹ガキ大将』や『俺の空』などで一世を風靡した人気漫画家。休筆宣言をしてゴルフ三昧の日々を過ごしていたが、参議院全国区に立候補して自身が議員になるまでを漫画にすると宣言。周囲の反対を押し切って連載を開始する。比例代表制の導入により、当初予定していた無所属での出馬は難しくなるが、各党党首とのコンタクトには成功。 ついには田中角栄へのインタビューを実現させる。作者である本宮ひろ志本人。
本宮夫人 (もとみやふじん)
「もりたじゅん」の名で活躍していた少女漫画家で、本宮ひろ志の妻。マスコミの取材などによって生活がかき乱されることを恐れ、本宮の参院選出馬には大反対。壮絶な夫婦喧嘩を繰り広げるが、夫の決意の強さに折れ、いざとなったら自分がまた漫画の仕事をして稼げばいいと腹をくくる。
堀内 (ほりうち)
本作『やぶれかぶれ』で本宮ひろ志の担当となった「週刊少年ジャンプ」の編集者。見た目はおっとりしているが有能な編集者で、連載開始にあたって集英社の全面的バックアップの約束を取りつける一方、政治家との折衝においても田中角栄へのアプローチに成功するなど実務面で本宮を助けた。
田中 角栄 (たなか かくえい)
当時、自由民主党の最大派閥だった田中派の長で、第64、65代内閣総理大臣。ロッキード事件の発覚以降、マスコミの取材はほとんど断っていたが、目白の自邸にて本宮ひろ志と面談した。毎日200~300人の陳情を受けていることについて「(自分に)利用価値があるから」と率直に答え、誰も頼ってこなくなったら政治家を辞めると語った。 当時ニューリーダーとされていた竹下登や安倍晋太郎らを、「まだ女中頭」と一刀両断にしている。実在の人物、田中角栄がモデル。
早坂 茂三 (はやさか しげぞう)
田中角栄の政策秘書。本宮ひろ志の意向を聞き、彼の田中へのインタビューを許した。本宮との面談時に田中に関する質問に答えており、ロッキード事件については、たとえ田中が有罪となっても戦い続けると主張(当時は一審の判決が出る直前)。疑惑の本丸である五億円授受についても「(田中は)自らの手に一切入れていない」と強い口調で語った。 かなり厳格な人物で、特に時間にはうるさい。実在の人物、早坂茂三がモデル。
田川 誠一 (たがわ せいいち)
当時の新自由クラブの代表。最初に本宮ひろ志の手紙に反応した政治家で、いち早く本宮に直筆の返書を送った。インタビューの掲載後にも手紙を書き送っており、その中で少年たちから多くの手紙が党に送られてきたことに触れ、本宮の連載が若者の目を政治に向けさせるという部分で少なからず意義があったと伝えた。
菅 直人 (かん なおと)
社会民主連合(社民連)所属の衆議院議員(当時)で、のちの第94代内閣総理大臣。雑誌「プレイボーイ」誌上で本宮ひろ志と対談したことがある。当時は比例代表制の導入直前で、立候補の手段を探る本宮の相談を受けた際、書記長の片岡勝と共に社会民主連合からの出馬を提案する。実在の人物、菅直人がモデル。
湯川 憲比古 (ゆかわ のりひこ)
雑誌「ぴあ」の元編集長で別名「ドクター佐々木」。当時は菅直人の第一秘書をしていた。市民選挙の第一人者を自負しており、本宮ひろ志の参院選出馬宣言を知って選挙参謀となるべく本宮邸を訪ねる。菅とは、彼が東京工業大学の全学改革推進会議のリーダーをやっていた頃からの付き合い。
西村 繁男 (にしむら しげお)
かつて本宮ひろ志の担当をしていた「週刊少年ジャンプ」の編集長。公職選挙法違反の事前運動とみなされる恐れや、実名掲載による名誉棄損、読者の拒否反応による部数減などさまざまなリスクをはらんでいた本宮の連載にゴーサインを出す。
後藤 広喜 (ごとう ひろき)
休筆宣言をした本宮ひろ志を愛読者賞(アンケートで選ばれた人気作家たちの読切を掲載し、読者投票で優勝を決めるという当時の名物企画)に引っ張り出そうとした「週刊少年ジャンプ」の副編集長。本宮が参院選出馬を表明した際、その真意を探るべく編集長の西村繁男と共に本宮プロダクションを訪れた。
井上 ひさし (いのうえ ひさし)
『吉里吉里人』『手鎖心中』などの代表作を手掛けた小説家・脚本家。当時、本宮ひろ志邸の向かいに住んでおり、参院選への出馬を宣言した本宮から後見人の打診を受けた。この依頼自体は拒否するが、悩める本宮に「初めての相手には手紙が効果的」とアドバイス。この井上ひさしの示唆を受け、本宮は各党党首へ直筆の書簡を送ることを思い立つ。 実在の人物、井上ひさしがモデル。
ゴリラ
本宮ひろ志の友人の警察関係者で本名は不明。本宮の連載企画には事前運動として公職選挙法に抵触する可能性があり、知名度のある本宮は選挙違反の見せしめとして警察にとって格好の獲物であることから、出馬したら逮捕される可能性が高いと忠告する。
佐藤 文生 (さとう ぶんせい)
当時、自由民主党の広報部長をしていた代議士。政治学者、ジェラルド・カーティスの著作『代議士の誕生』のモデルとなった人物として知られ、漫画内でもそのことに触れられている。本宮ひろ志との対談では、政権担当政党として自由民主党こそが開かれた国民政党であると主張した。
竹入 義勝 (たけいり よしかつ)
当時の公明党の委員長。本宮ひろ志が創価学会員であることを自ら明かしたうえで、創価学会名誉会長である池田大作のスキャンダルや富士大石寺との軋轢について質問した際、普通の人物であって特別な存在ではないと池田のことをかばった。
田 英夫 (でん ひでお)
当時の社会民主連合(社民連)の代表。対談では自党が野党として力不足であることや、力を持つには金が必要であることなどを率直に明かした。また、田中角栄についてはロッキード事件のことはけしからんとしつつ、彼の政策には認める部分もあると一定の評価を与えている。
佐々木 良作 (ささき りょうさく)
当時の民社党の委員長。対談の前に本宮ひろ志の漫画に目を通していて、やたら擬音が多くてよく分からないと感想を述べるが、一方でそうした漫画を読んで育った世代がやがて社会に出てくることを認めており、「分からないではすまされない」と語った。
飛鳥田 一雄 (あすかた いちお)
当時の日本社会党の委員長。政治を分かりやすく伝えるうえで、漫画というものが近づいてきてくれるのはありがたいと、本宮ひろ志の提案を歓迎する。本宮との対談では、なぜ社会党が政権を取れないのかという本宮の疑問に対して現状の認識を述べた。
小沢 辰男 (おざわ たつお)
厚生大臣や建設大臣などを歴任した新潟県選出の代議士で田中派の中心人物。本宮ひろ志に協力的で、本宮の田中角栄邸への訪問を仲介した。この点について本宮は、政治家というのは一般の人間の頼みを断りにくい人種で、自身がマスコミの人間と見られていないからだろうと分析している。
宮下 あきら (みやした あきら)
『魁!!男塾』などの代表作を手掛けた漫画家。本宮ひろ志の弟子で、当時「週刊少年ジャンプ」で『激!!極虎一家』を連載していた。本宮邸や本宮プロダクションにたびたび顔を出しており、本宮の参議院選挙出馬を聞いて「ダサい」「気色悪い」と反対の意思を示す。
やまざき 十三 (やまざき じゅうぞう)
漫画原作者で、代表作は『釣りバカ日誌』など。本宮ひろ志とはゴルフ仲間で、本宮邸を訪ねた時に選挙騒動をめぐる本宮夫婦の壮絶な喧嘩の場面に出くわす。その際、本宮の参院選出馬をあまり快く思っていなかったことを明かすが、彼が前例のないことをしようとしている点には理解を示した。
その他キーワード
ロッキード事件 (ろっきーどじけん)
米ロッキード社からの対日航空機売込みに絡み、日本の政界に多額の資金が渡ったとされる事件。総理経験者の田中角栄の逮捕・起訴に至ったことから戦後最大の疑獄事件とも言われる。本作『やぶれかぶれ』の連載当時は一審の判決が出る直前で、田中は刑事被告人でありながら自由民主党最大派閥の長として隠然たる力を持っていたことから世論の総バッシングを受けていた。