あらすじ
第1巻
1980年代、世界の軍拡競争はアフリカ大陸にまで及んでいた。アフリカ中央部に位置するコンゴ一帯では激しい内乱が頻発。国連軍が介入し全土が制圧され、コンゴは国連の信託統治国となったが、国内では部族間対立が激化し、146もの部族が独立を宣言するという事態に陥っていた。日本から派遣されて来た家電製品セールスマンのヤスは、同国の小さな部族の村に駐在し、村人に文化的生活の指導を行っていた。ある日、ヤスは部族の酋長から中古の核ミサイル購入の仲介を依頼される。最近核ミサイルを配備した敵対する部族に対抗するためであった。核兵器がアフリカ奥地の部族にまで及んでいる事に驚くヤスは、気が進まないながらも、結局しぶしぶ引き受ける。ヤスは酋長と共に部族の若者を引き連れて、国連軍と商取引の交渉を担当する。そして一行は5ギガトンの核ミサイルを買い付け、弾頭部が壊れかけた核ミサイルを担いで村まで運ぶ事になってしまう。猛獣が棲息するサバンナを横切り、壊れかけた吊橋を渡るなど、アフリカの大地で命の危険にさらされるたびに、ヤスのまぶたには日本に残して来た赤ん坊の顔が浮ぶのだった。
登場人物・キャラクター
ヤス
日本の家電製品メーカーのセースルマンの男性。コンゴの一部族の村に派遣されて来た駐在員。村では昼間から寝転がってテレビのメロドラマを見るほど退屈な日々を送っている。本名は「康雄」だが、原住民からは親しみを込めて「ブワナ・ヤス(ヤス旦那)」と呼ばれている。
酋長 (しゅうちょう)
ヤスが駐在している村を統率する中年の男性。100戸足らずの村ながら、自ら「大統領」を自称して独立国を主張しており、ヤスを相談役として高待遇でもてなす。拝金主義者で、ふだんは西洋風の文化的な生活をしているが、白人観光客の前では無知な原住民を装っている。
ジャンボ
ヤスが駐在している村に住む若妻。グラマーな美女で、いつも上半身裸で豊満な乳房を露出している。人妻ながらヤスに好意を寄せており、ヤスから声を掛けられると、恥ずかしさのあまりスカートをまくり上げて顔を隠す。
ジャンボの夫 (じゃんぼのおっと)
ヤスが駐在している村に住む男性。やきもち焼きで喧嘩っ早い粗暴な性格の持ち主。妻のジャンボとヤスとの関係を疑い、ヤスに向かって槍を突きつけて復讐しようとする。
ダンドリッジ
国連軍で補給部隊長を務める中年の白人男性。コンゴの都市、キクウィトにある核ミサイル格納庫の監理責任者を務めている。自分の立場を利用して、コンゴ国内に林立する部族に中古の核ミサイルを売りつけ、私腹を肥やしている悪徳軍人。ヤスや酋長とは親しい間柄。
少尉 (しょうい)
国連軍の少尉を務める白人の男性。国連軍のヘリ「AE-10」を操縦してヤスと酋長一行を運ぶ役目を担当する。アフリカの環境に順応できず、表情は固く、突然泣き叫んだり怒鳴ったりするという異常行動を起こす。
ターザン
金髪白人の男性。アフリカには自称ターザンが何人もいるため「観光地営業の業者登録をしている元祖ターザン」と自称している。言う事はカッコいいが、やる事はドジばかりという情けないヒーロー。
ヤスの母 (やすのはは)
ヤスの母親。息子に会うためテレビのクイズ番組で勝ち抜き、その賞品でコンゴにやって来た。アフリカでも着物姿で通しており、ヤスには優しい言葉を掛ける穏やかな性格。
運転手 (うんてんしゅ)
コンゴで国連軍に雇われている白人の中年男性。キクウィトからサバンナ地帯まで、核ミサイルを積んで運ぶ役目を担当する。髭面のワイルドな風貌で、ミサイルのネジが外れかかった弾頭部をセロテープで補修するという、乱暴さはあるが根は親切な性格の持ち主。
場所
コンゴ
アフリカ大陸の中央部に位置する地域。かつては「コンゴ王国」として栄えたが、15世紀末から欧州列強国に侵略され、1960年に「コンゴ共和国」として独立した。その後内乱を経て1980年代に国連信託統治国となった。
その他キーワード
トム・トム (とむとむ)
アフリカで発達した楽器で、筒状をした太鼓の一種。「タン、タン」という単調なリズムを繰り返す。コンゴ地方では祭礼以外でも広く用いられており、ヤス一行がミサイルを担いで運ぶ際にも、行進曲の楽器として使われた。
核ミサイル (かくみさいる)
1960年代の米ソ冷戦期から急速に発達した核兵器。核融合爆弾を搭載したロケット型兵器で、発射台から飛行して目的地に着弾・爆発する。ミサイルの弾頭部の先端には起爆針があり、衝撃を与えると核爆発が起きる非常に危険な兵器。
クレジット
- 原作
-
筒井 康隆