狭い世界のアイデンティティー

狭い世界のアイデンティティー

漫画業界を才能のある人間達が集う一種の戦場として見立て、業界内で発生する日々の出来事や人間模様をカリカチュアライズして描く、バイオレントなブラックユーモアが満載の作品。「月刊モーニング・ツー」2016年10月号から連載の作品。

正式名称
狭い世界のアイデンティティー
ふりがな
せまいせかいのあいでんてぃてぃー
作者
ジャンル
ブラックコメディ
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あらすじ

第1巻

新人漫画家の神藤マホは、件社が開催する年末の謝恩祭へ参加するため、帝王ホテルへとやって来た。無数の漫画家達の功名心や承認欲求が渦巻く会場にいて、一人醒めた目をしていたマホの真の目的は、件社に漫画の持ち込みに行った兄を殺害した犯人を見つけ出す事にあった。新人賞受賞者としての抱負を語る檀上で、「暴の力でこの業界を邁進する」という抱負を述べ、己の立ち位置をあらわにしたマホは、件社を牛耳る編集王に気に入られ、有能な新人編集者・月井葉助を担当につけられる。以後、マホは漫画業界に身を置きながら、あらゆる手段を講じて兄を殺害した犯人を探し出そうとする。そんな中、アシスタントをしている先輩漫画家・諸星花雄の誘いで漫画家の交流会に出席したマホは、会場に突如として現れた編集王と遭遇。編集王は交流会に出席していた漫画家に争うように促し、最後に生き残った漫画家に件社の漫画誌「グッドナイト」の連載枠を与えると宣言。マホは、降ってわいたチャンスに血眼になった漫画家同士の死闘に巻き込まれてしまう。

第2巻

編集王の宣言で始まった、漫画誌「グッドナイト」の連載枠を勝ち取るための漫画家同士の血で血を洗う戦い。そんな死闘の中でもひときわ異彩を放っていた新藤マホは、次々とほかの漫画家を葬り去り、編集王に対し兄の死の詳細を説明するように迫る。マホの才能に感嘆した編集王は、詳細を話す条件として、先輩漫画家・諸星花雄を倒す事を要求する。しかしこの要求を拒絶したマホは、花雄に対し、漫画家としての高みを目指すように告げたうえで、自ら敗北を選ぶのだった。残された花雄は自身の漫画家として才能のなさに長らく苦しんでいたが、マホの言葉をきっかけに覚醒。これまでにない才覚を発揮するようになった花雄は、担当編集者・有栖川を血祭りにあげたうえで、その年の優れた漫画を選出するムック本「このマンガがすごい!」のトップ10に選出された強豪作家・浅野いにおに挑む。しかし、戦いの中でいにおの漫画家としての覚悟と格の違いに圧倒された花雄は己の負けを認め、最終的にいにおと意気投合するのだった。そのころ、二十年来の友人同士である漫画家の押切蓮介清野とおるは、旧交を温めるため、河川敷を歩いていた。

登場人物・キャラクター

神藤 マホ (しんどう まほ)

件社の年間佳作賞を受賞した、新人漫画家の少女。件社が主催した年末謝恩祭で、同じ場に居合わせた新人漫画家を瞬殺するほどの才能の持ち主。人体の経穴を突く事で、相手の意思や体を自在にコントロールできる、異質な技を使いこなす。もともとは漫画家志望ではなく、件社に漫画の持ち込みに行った際に殺された兄の敵を見つけるために漫画業界へと入った。 嫉妬や怨嗟が渦巻く漫画業界の現実に失望しつつ、兄を殺した犯人を捜し続けるが、その際に出会った漫画家・諸星花雄の漫画に対する真摯な姿勢に兄の面影を見る。

諸星 花雄 (もろぼし はなお)

漫画家の青年。漫画に対する思いが強く、日々の努力も怠らない生まじめな性格。件社の漫画誌で連載していたが、地味な作風が災いして人気は振るわず、単行本の売り上げもいまひとつだったため、3回目の打ち切りを食らってしまう。アシスタントとして雇った神藤マホから、漫画家として高みを目指すように請われたあと、苦悩の末に才能を開花させ、強豪漫画家・浅野いにおに挑む。 アシスタントとして入ったマホの才能をすぐに見抜き、いずれ彼女が業界に旋風を起こす事を予見した。

編集王 (へんしゅうおう)

件社で強大な権勢を振るう男性編集者。本名は不詳。利益をもたらさない中堅漫画家を拷問部屋に押し込めたり、打ち切りになった漫画家を年末謝恩祭の壇上で張りつけにしてさらし者にするなど、自社を中心とする漫画業界を盛り上げるためなら手段を選ばない残虐非道な性格。その凶暴性は同業者にも向けられ、無能な編集者にもいっさいの容赦はせず、あらゆる方法を駆使して廃人へと追い込む。 その一方で、自社の権益を拡大するための正しい忠告は、厳しい言葉であっても素直に聞き入れる姿勢も併せ持つ、かなりの食わせ者。

月井 葉助 (つきい ようすけ)

件社の社員で、漫画誌「グッドナイト」の新人男性編集者。編集王の命令により、神藤マホの担当となる。「瞬時に売れる作品」以外に興味はなく、雑誌や漫画家よりも自分の感性を信じ尊重する性格。野心と向上心は人一倍あるが、持ち込まれた作品を1ページ目で見切るという極端なやり方に固執していた。マホによって叩きのめされてそのやり方を改めるが、マホの兄の死の真相を語ろうとして件社のタブーに触れ、廃人にされてしまう。

押切 蓮介 (おしきり れんすけ)

ギャグ漫画家の男性。デビュー当初は人間の内面をある種グロテスクに描く作風を持ち味としていたが、弱肉強食の漫画業界を生き抜く中で徐々にそのスタイルを変質させ、一般的な萌え作風に近い『ハイスコアガール』でスマッシュヒットを飛ばしている気鋭の漫画家。二十年来の友人である清野とおるとは互いの才能を認め合い、さらに互いの才能に嫉妬し合う単なる友人を越えた、複雑でただれた関係を築いている。 作者である押切蓮介がモデル。

浅野 いにお (あさの いにお)

精緻で美しい筆致に定評があるイケメンの男性漫画家。ムック本「このマンガがすごい!」のトップ10入りを果たすほどの才能の持ち主。近年は周囲から求められるスタイリッシュな人物像と、本来の自分のギャップをすり合わせる事への負担、そして彼の才能に嫉妬する有象無象の誹謗中傷に苦しんでいる。のちに諸星花雄の挑戦を受けた際は、戦いの中で自身の苦悩を吐露していた。 実在の人物、浅野いにおがモデル。

清野 とおる (せいの とおる)

ギャグ漫画家の男性。デビュー当初は不気味かつシュールな、おぞましい不条理系の作風だったが、近年は社会派風のおとなしい作風に転じており、著作『赤羽』のテレビドラマ化も果たしている期待の漫画家。二十年来の友人である押切蓮介とは、今でも顔を合わせれば互いの才能を絡め手で褒めたたえ、けん制し合うという、複雑な関係を築いている。 実在の人物、清野とおるがモデル。

利き腕折り (ききうでおり)

三人の女性で構成された、件社のお抱え地下アイドル。本名は不詳。件社からの依頼を受け、不祥事を起こしたり、打ち切りになった漫画家に厳罰を与える活動に従事している。漫画家にとっては命ともいえる利き腕を折る事が名前の由来。実際は利き腕だけではなく、両手両足を折ったり、舌を引っこ抜くなど、より過激な行為も平然と行う残虐性を備える。

有栖川 (ありすがわ)

件社の男性編集者。諸星花雄の担当編集者だったが、3回目の打ち切りに至ってしまった花雄の事を凡庸な作家として見下しており、あからさまにぞんざいな扱いをしていた。のちに才能を開花させた花雄によって公園に呼び出され、身も心もズタズタにされる。

集団・組織

件社 (くだんしゃ)

漫画業界に君臨する大手出版社。漫画誌「グッドナイト」の編集王を筆頭に、売れる漫画を作るためなら手段を選ばない苛烈な経営方針を全面に打ち出しており、漫画を持ち込んだ作家の卵を殺害したり、粗相をした作家の利き腕をへし折るといった、鬼畜な所業を日常的に行っている。自社ビルの25階は、使い捨ての漫画家や編集者に罰を与える魔境となっており、拷問にかけられた憐れな犠牲者の断末魔の声が響き渡っている。

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