あらすじ
第1巻
美倉洋介は、新宿で出会ったアルコール中毒の女バルボラを、自分の家に住まわせる事にした。美倉がマネキンや雌犬を女性と錯覚して恋をする奇行のたびに、バルボラは呆れかえり、美倉のもとを去っていくが、数日経つとまた同棲を始めるという不思議な関係を続けていた。ある日、スウォンダ・ルッサルカが美倉のもとを訪れると、彼はバルボラと面識がある事を匂わす。さらにスウォンダは、バルボラの正体は芸術の女神であるミューズだと言い出す。半信半疑の美倉だったが、バルボラを主人公のモデルにした作品「狼は鎖もて繋げ」を執筆すると、大ヒットしベストセラーとなる。
第2巻
かねてより美倉洋介を利用しようとしていた衆議院議長の里見権八郎が脳溢血で倒れると、今までみすぼらしい姿をしていたバルボラが、美倉を魅了するほどの麗しい姿へと変貌を遂げる。そんなバルボラに惹かれた美倉は、彼女との結婚を決意する。その後、美倉は寝室に針で刺された権八郎の人形を見つけ、権八郎が倒れたのはバルボラの黒魔術が原因だと知る。バルボラが魔女だとを知ったうえで、美倉は彼女と結婚式をあげるが、黒ミサ式で行われた結婚式は警察に踏み込まれた事で中止を余儀なくされる。美倉が結婚式の際に麻薬を服用し、ヌーディストまがいの行為をした容疑で逮捕されると、バルボラはまたも姿を消し、彼は孤独に陥ってしまう。しばらくして、梅田の地下鉄にバルボラらしき女性がいるという情報を得た美倉は、彼女を見つけ出し、自分のもとに戻って来るように説得を始める。しかし、彼女には美倉の記憶がなく、仕方なく美倉はバルボラの事をあきらめる。それから6年後、美倉は権八郎の娘・里見志賀子と結婚して子供を授かるが、満足のいく作品が書けないでいた。そんな中、再びバルボラを見つけ出した美倉は、彼女に自分のそばにいてほしいと懇願する。
世界進出・メディア化など
クラウドファンディングによる英語版出版
2012年、日本製コミックの翻訳出版などを手がける米Digital Mangaが「Barbara(原題:ばるぼら)」の英訳版の刊行資金を米Kickstarter.comサイト上でファンドとして6500ドル公募。2日間で目標額を突破、刊行が決定した。
この作品で2013年にアイズナー賞の最優秀アジア作品部門にノミネートされている。
実写映画化
2020年11月20日公開
R15+指定
監督:手塚眞
撮影監督:クリストファー・ドイル
キャスト:稲垣吾郎、二階堂ふみ ほか
映画「ばるぼら」公式読本
キネマ旬報社 2020年11月20日発売
原作漫画:再録
登場人物・キャラクター
美倉 洋介 (みくら ようすけ)
耽美主義の天才と呼ばれ、文壇に独特な地位を築いた流行作家。いくつかの作品は海外にも紹介されており、多くのファンを持つ。外見は健康体だが、異常性欲という持病に日夜さいなまれている。傲慢なところがあり、新宿駅の片隅に座り込んでいた奇妙な女、バルボラを拾ってからは、問題を起こす彼女を怒鳴りつけては手を上げる。それでも次第にバルボラにのめり込んでいき、離れられないようになる。
バルボラ
新宿駅で柱の陰にうずくまっていたところを美倉洋介に拾われた女性。慢性のアルコール中毒で、美倉の家にある酒を勝手にどんどん飲み、原稿料も盗んで使ってしまう。不思議な力を持っており、美倉の危機を救ったり、呪いの人形で人を殺すこともできる。美倉のプロポーズに応えてからは、魔女としての姿を露わにするようになる。結婚式が中断された後に行方をくらましたが、大阪で美倉と再会した時には彼のことを忘れ、別人の「ドルメン」として振る舞う。
須形 まなめ (すがた まなめ)
美倉洋介がサイン会の帰りにデパートの婦人服売り場で出会った不思議な女性。売り場の薄暗い片隅に立っていた姿に、美倉はひと目で引きつけられた。彼女の名前を知りたくなった美倉はデパートに電話を掛けるが、そんな女性はいないと言われてしまう。翌日美倉が再び訪れたデパートで再会し、美倉の部屋を訪ねる約束をする。
永浜 るみ (ながはま るみ)
美倉洋介の作家仲間である四谷広行の許嫁。文民劇場の女優でもある。いつも手入れの行き届いたアフガンハウンドを連れている。四谷の出版記念会で美倉と出会い、雨の中、駐車場まで傘を貸したのが縁で、永浜るみの車に同乗する。その夜に美倉がるみの部屋を訪ね、関係を持とうとする。
座長 (ざちょう)
バルボラの知り合いで、劇団「黒い広場」を主催している男性。元々はポルノの前衛劇団だったが、今では観客参加型のSMクラブ組織に変わっている。バルボラに執着しており、美倉洋介との関係を知り激しく嫉妬している。劇団の公演に美倉を参加させて、演技のふりをして殺そうと企む。
片貝 亜子 (かたがい あこ)
美倉洋介のもとに頻繁にファンレターを送っていた片貝博子の娘。美倉がファンレターに書かれた住所を頼りに訪ねていくと、博子は半年前に亡くなっていた。母親の蔵書を美倉に差し上げたいと申し出、さらにぜひ一晩泊まっていって欲しいと頼む。
スウォンダ・ルッサルカ (すうぉんだるっさるか)
美倉洋介の友人。ウルカ共和国出身の世界に誇る作家だが、最近は反政府活動に力を入れていて作品をほとんど書いていない。バルボラとは以前からの知り合い。日本で開催された国際会議に参加した際、同伴していたバルボラに逃げられてしまう。バルボラを神聖視しており、バルボラの正体は芸術の女神であるミューズで、彼女が去ってからまったく小説を書けなくなったと打ち明ける。 今では政府組織に追われ、命を狙われている。
ムネーモシュネー
バルボラの母親。「ムネーモシュネー」とはギリシア神話に登場する記憶を神格化した女神のことで、9人のミューズを産んだと言われている。新宿の裏通りで骨董屋を営んでおり、店内には本物の名画がゴロゴロ転がっている。美倉洋介にピカソの絵を一枚くれるが、美倉は偽物だと思い込んでいた。骨董屋はムネーモシュネーの気まぐれにより入れる時と入れない時があり、入れない時は扉ごと姿を消して店を見つけることができない。
易者 (えきしゃ)
街角で占いをしているところを美倉洋介と出会う。生年月日から職業とバルボラの存在を言い当て、今書いている小説の主人公を殺すと美倉自身も死ぬことになると予言する。まともに取り合わない美倉に付きまとい、何度も忠告を繰り返す。
甲斐 (かい)
美倉洋介の本を出版している甲斐書房の社長。娘の可奈子を美倉と結婚させて、彼の作品を独占して売るイニシアチブを取ろうとしていた。美倉の新作「狼は鎖もて繋げ」がベストセラーになり、甲斐書房は一躍一流出版社にのし上がった。
マネージャー
バルボラの昔なじみの男性。美倉洋介の新作「狼は鎖もて繋げ」が大ヒットしたことで多忙になることを見越して、マネージャーとして役に立つからとバルボラが連れてきた。髪を切って変装すると美倉そっくりになり、執筆以外の仕事を一手に引き受けるようになる。
里見 権八郎 (さとみ ごんぱちろう)
衆議院議長。娘の里見志賀子を美倉洋介と結婚させようとしていた。都知事選挙に立候補するため、著名人である美倉を利用しようと後援会の会長になって欲しいと依頼する。辞退した美倉に、名前を貸してくれるだけでいいからと頼み込んで結局は承諾させるが、選挙直前に脳溢血で倒れる。
里見 志賀子 (さとみ しがこ)
父親の里見権八郎に言い含められ、美倉洋介に近寄りなにかと世話を焼こうとする。バルボラをライバル視しており、初対面の時は掴み合いのケンカになった。父親が亡くなった後も美倉を政治家にして後を継がせるのを諦めず、バルボラに去られて意気消沈していた美倉と結婚してからは、どうにかして政治の世界に引っ張り出そうと奔走する。
紫藤 路友
ジュリアード音楽院を首席で卒業した、日本人離れした才能を持つ天才音楽家。吾家山のホテルに滞在しており、旅行中の美倉洋介とバルボラに出会う。バルボラは紫藤路友がピアノを弾く姿に強烈に惹きつけられ、その姿を見て美倉が嫉妬するほど。紫藤もバルボラに興味を持ち、接近しようと試みる。
筒井 隆康 (つつい たかやす)
美倉洋介の作家仲間。美倉とバルボラの結婚式の立会人として招待される。好奇心が非常に強く、2人の結婚式が黒魔術の黒ミサ方式で行われると聞き、期待して想像を膨らませていた。儀式中に警察に踏み込まれて中止になった時は美倉と一緒に逮捕された。バルボラが美倉のもとを去った後、大阪でバルボラを目撃したことを美倉に伝える。
立場 陰堂
「偉大なる母神」協会の日本支部会会長。美倉洋介がバルボラと結婚式を挙げる時に祈祷をしていた老人。世界的に有名な呪術師であり、儀式を冒涜したとして美倉に罰を与えようとする。警察にはこれまで何度も逮捕されており、その度に精神病院に送られている。