概要・あらすじ
涼原太陽は、青響高校1年生の男子。PCで毎日作曲を行う音楽好きだが、人前で演奏する事など夢にも考えていない平凡な少年だった。憧れのミュージシャン達は、いつも画面の向こうで、太陽にとっては遠い世界の存在だった。高校の文化祭を翌日に控えたある日、太陽は体育館で軽音部イベントのリハーサルを行う、篠原アリスを見かける。
彼女は隣のクラスの転入生。明るく可愛く、帰国子女のため英語がペラペラという有名人だった。一人だけの軽音楽部という状況にもかかわらず、ステージをやろうというアリスを見て、自分とは住む世界が違うと改めて感じる太陽だった。クラスの催し物である「たこ焼き屋」の試作品を、各部活に届ける役目を引き受けた太陽は、軽音楽部を訪れた。
そこには、ソファで眠りこけるアリスの姿があった。あられもない寝姿のアリスを見て、早々に退散しようとする太陽だったが、部屋の片隅にKORGのシンセサイザーを見つける。以前から触ってみたかった機材を前に、つい演奏してしまう太陽。その音に気づいて眠りから目覚めたアリスは、演奏を大絶賛する。慌てた太陽はその場を逃げ去るが、生徒手帳を落としてしまった。
それを拾い上げたアリスは、太陽の名前を確認し、「これは運命だ」と喜ぶ。学校帰りの電車で、太陽はアリスに再会する。生徒手帳を返す代わりに、自分に付き合えというアリスの誘いを太陽は渋々承知した。アリスに連れてこられたのは、音楽スタジオで、彼女の居候先だった。もう一度、演奏を聴きたいと迫るアリスの気迫に負け、キーボードを叩く太陽。
アリスはそれに合わせて、歌いだした。渋々演奏を始めた太陽だったが、アリスの声に引っ張られるかのように、指が止まらなかった。その曲は、アリスが2年前にネットで見つけたボカロ曲だった。アリスは、その曲が好きで何百回も聴いていたが、ある日投稿者が削除してしまい、それっきりだったという。作者を探していたが、アリスと同い年の日本人で「S・TAIYO」という名前しか手がかりがなかったのだ。
つまり偶然にも、アリスは転校先で探し人を見つけたのだ。一緒に音楽をやろうと誘うアリスだが、太陽は他人の評価や傷つく事を恐れており、その誘いを断った。逃げるようにしてスタジオをあとにする太陽に、アリスは「明日の文化祭ライブを見に来い」と言葉を放つ。
翌日、迷いを振り切って、太陽はアリスのライブを見るために体育館にやってきた。大勢の観客の中、いよいよライブが始まろうというときに、体育館に雷が落ちて停電になる。この状況では、マイクはもとより伴奏用のCDも流せない。ざわつく会場の中で、アリスは静かに太陽を待っていた。舞台の下手にはピアノがある。この状況でアリスを救えるのは太陽だけだった。
「失敗すれば笑われる」と太陽は怖気づくが、心の葛藤を乗り越えてピアノを弾く。二人のセッションに、会場は興奮に包まれた。鳴り止まないアンコールの拍手を聞きながら、アリスは決意を新たにする。アリスは太陽の手を握り、「音楽で世界征服しよう」と微笑みかけた。こうして「平凡に生きる」はずだった太陽の未来が、少しずつ変わり始めた。
登場人物・キャラクター
涼原 太陽 (すずはら たいよう)
青響高校1年生の男性。前髪が長く、右目がいつも隠れており、常にヘッドフォンをかけているのが特徴。ほぼ毎日作曲するほど音楽が好き。14歳のときにボカロ曲をネットにアップするが、周囲の反応に傷ついた過去を持つ。以来、発表したり人前で演奏する事を恐れ、平凡に生きる事を理想とする。歌手を目指す篠原アリスとの出会いで、徐々に音楽に対する姿勢が変わっていく。
篠原 アリス
青響高校に転入してきた1年生の女子。明るく可愛い帰国子女で、学内の有名人。音楽を愛する軽音楽部唯一の部員。2年前に、涼原太陽がネットにアップしたボカロ曲に惚れ込んで、以来作曲者を探し続けていた。転入先の高校で偶然太陽と出会い、「音楽で世界征服しよう」と持ちかける。
坂東 (ばんどう)
青響高校軽音楽部顧問。日本史の教師。丸メガネに細い目をした長身の男性。飄々とした風貌だが、音楽の知識は豊富。涼原太陽と篠原アリスに対して、的確で毒気の強いダメ出しを行う。