概要・あらすじ
奈良時代、ある村の外れに住む若者土麻呂と、奴婢の娘小菜女が恋をする。しかし土麻呂は大仏建立の際に懲役に出され離れ離れになる。彼の後を追った小菜女は、大仏建立の指揮を執る国中公麻呂の妻となる。懲役中捕えられた土麻呂が見ている前で小菜女は熱銅と共に大仏に注ぎ込まれたが、その瞬間、彼女はイアラと叫ぶ。
その後、鎌倉時代、 安土桃山時代、江戸時代、そして現代に、イアラという言葉の謎を求め、女を探す土麻呂そのものの顔をした男が現れる。
登場人物・キャラクター
土麻呂 (つちまろ)
整った顔の男性。奈良時代、ある村のみすぼらしい家に生まれる。両親は早くに亡くなり、知識の豊富な祖母に育てられた。里長の家の奴婢・小菜女とお互いに惹かれあうが、大仏建立の際に懲役に出され、彼女と離れ離れになる。小菜女が熱銅と共に大仏に流し込まれる瞬間に叫んだイアラという言葉の意味を求めて、長い旅をすることになる。
土麻呂の祖母 (つちまろのそぼ)
白髪を後ろでまとめた老女。村の外れに住み両親を早く亡くした土麻呂を育てる。よそ者で短命の家系であるため、村からは除け者にされていたが、すぐれた知識を持ち村人の相談を受け、その礼で食いつないでいた。
小菜女 (さなめ)
登場時は奈良時代ある村の里長の奴婢。誰が見ても美しい娘に成長していた。土麻呂と出会いお互いに惹かれあうが、大仏建立の懲役に出された土麻呂とは離れ離れになる。彼を追って大仏建立の現場まで行き、倒れていたところを国中公麻呂に拾われ、その妻となる。国中公麻呂の命令で、大仏に入れる「たましい」となるために熱銅と共に大仏に流し込まれるが、その寸前にイアラと叫ぶ。
国中 公麻呂 (くになか の きみまろ)
厳しい顔をした男性。百済からの渡来人の子孫。大和国中村に住み、すぐれた鋳匠として大仏建立の指揮を執る。土麻呂を追ってきた小菜女を妻とした後、彼女を大仏の「たましい」とする。
加藤次 (かとうじ)
鎌倉時代、蒙古襲来の危機に晒された九州の海岸端の村に住む男性。海岸に流れ着いた高麗の女トラジを助け、村人の反対を押し切って妻とする。
トラジ
鎌倉時代の高麗の女。九州の海岸に流れ着いたところを加藤次に助けられ、妻となる。村人達に蔑まれながらも加藤次のため献身的に働くが、故郷を思って涙することもある。薬草を探している途中、行者の土達と出会う。
土達 (つちたつ)
剃髪した行者姿の男性。鎌倉時代、奈良・吉野山の麓に住む行者。顔は土麻呂と似ている。豊富な知識で薬などを人々に施して回る。全国を行脚しているが、年に一度、大仏開眼の日に奈良に戻る。九州の海岸端の村でトラジを見かけ「似ている」と声をあげ、以降その村に滞在する。 長い間「イアラ」という言葉の意味を考え苦悶している。
ゆき
安土桃山時代、荒野の一軒家に住む女性。祖母りえ、母はななど、人並み以上に美しい女性を生む家系に生まれたが、彼女は美しくなかった。母はなから、代々の女達は、みな一度は不思議な男を見る事、また昔は高貴な暮らしをしていたことを聞かされて育った。倒れていた細井新助を助け、その妻となる。 のちに豊臣秀吉、千利休に出会うことになる。
細井 新助 (ほそい しんすけ)
安土桃山時代の武将。顔は土麻呂と似ている。倒れていたところをゆきに助けられ、彼女を妻とした。
曽良 (そら)
江戸時代の旅姿の男性。顔は土麻呂と似ている。ある女を追って旅をする中で、芭蕉と名乗る老人と同道することになる。
芭蕉 (ばしょう)
江戸時代の実在の俳人松尾芭蕉がモデル。旅で出会った男・曽良と共に旅を続け、折に触れて俳句を作る。
津椰姫 (つやひめ)
江戸時代中期の大名家の娘。成長するにつれて人目を惹く美しい女性となるが、わがままで自惚れが強い。徳川家の血筋をひく広信を夫とするが、付き人の忠兵衛に心を奪われ、逢瀬を重ねるようになる。
鳥内 靖子 (とりうち やすこ)
昭和時代の高度経済成長期に生まれ育つ。普通の女子大生だったが、ある店先に展示されていた古ぼけた壺に目を留める。それから憑かれたように結婚もしないまま古いものを集めて過ごす。その後、異なる年代の壺や椀に同じ筆跡でイアラという文字が刻まれていることに気づき、その謎を追う。
イアラ
年齢・性別は不明。話す言葉ははっきりしない。「あまりにも長く生き過ぎた」と語る土麻呂にそっくりな男にイアラと名付けられ、仕えている。