あらすじ
第1巻
境町に住む高校生の有馬たくやは、父親の有馬広大を亡くして以来、意気消沈したまま高校生最後の夏休みを迎えることとなった。父親の死で憂鬱な日々を送るたくやは、若くして未亡人となった継母の有馬亜由美のことも心配していた。そんな中、たくやのもとに小包が届くが、中身は複数の宝玉が埋め込まれた謎の装置「リフレクターデバイス」だった。さらに小包には広大の手紙も添えられ、広大が生きていることを示唆する内容と、「今夜10時にリフレクターデバイスを持って剣ノ岬に行け」という指令が書かれていた。たくやは広大の生死と行方を探るために、指示通りの時間に海岸の剣ノ岬に向かうが、その際に三角山付近で倒れている謎の少女と遭遇する。たくやはすぐにその少女に駆け寄るが、目を覚ました彼女はたくやに微笑み、姿を消してしまう。そこへ龍蔵寺幸三が亜由美と共に現れ、たくやにリフレクターデバイスを渡すよう言いながら銃口を向ける。幸三の脅しが本気だと悟ったたくやがためらう中、謎の地響きが起こって大きな光が三人を包み込み、亜由美と離れたたくやはそのまま気を失う。その直前に薄れる意識の中でたくやが見たのは、後ろの岩の上に一人で立つ転校生の少女、波多乃神奈の姿だった。
第2巻
有馬たくやたちが住む境町では、海岸付近で謎の落雷事故が何度も発生していた。事故の原因として疑われているジオ・テクニクスが行う海岸工事の責任者を務める有馬亜由美は、住民やマスコミから何度も糾弾され、精神的に追い込まれていた。たくやはそんな亜由美を救うために奔走する中、再び龍蔵寺幸三に狙われるが、幸三を調査している武田絵里子の協力を得てその場から脱出。リフレクターデバイスの力で過去へ遡ったたくやは再び事故の原因を探っていく中で、豊富秀夫と亜由美が二人きりで話している場面に遭遇する。一連の事件に豊富の陰謀が大きく関係していると悟り、彼の悪事を亜由美の前で暴くために調査を進める。その中でたくやは朝倉香織と再会し、亜由美にかかっている疑惑を晴らそうと、彼女と協力するようになる。たくやは超念石の秘密が書かれた機密書類の一部と引き換えに、香織から豊富の悪事の証拠となる写真を手に入れる。たくやは亜由美を説得するために急いで帰宅するが、そこには豊富から告げられた真実にショックを受け、風呂で手首を切って倒れている亜由美の姿があった。亜由美を救えなかったことに絶望したたくやは、彼女の命を守るために再び過去へ渡るのだった。
登場人物・キャラクター
有馬 たくや (ありま たくや)
境町学園に通う高校3年生の男子。幼少期に母親を亡くしてからは父親の有馬広大に男手一つで育てられてきた。半年前に広大と再婚した継母の有馬亜由美を家族に迎え、三人で暮らしていたが、広大が事故で亡くなってからは複雑な思いを抱きながら、憂鬱な日々を送っている。現在は亜由美と二人暮らしだが、高校生最後の夏休みを迎えた頃に広大から手紙と「リフレクターデバイス」と呼ばれる装置を受け取り、この装置や並列世界を巡るさまざまな陰謀に巻き込まれていく。リフレクターデバイスを入手してからは、別の世界に飛ばされたり、広大や亜由美に関する夢を見たりと、不思議な体験が増えている。一見冷淡に見えるが、実は家族思いの優しい性格をしている。亜由美に対しては継母以上の特別な感情を抱き、家族としても大切に思っている。広大に対しては憎まれ口を叩くことが多く、訃報を聞いた時も悲しまない素振りをしていたが、実際は彼のことも大切に思っていた。広大の死後に亜由美が自殺する夢を見たことがあり、さまざまな陰謀に巻き込まれ追い詰められていく亜由美を救うために、リフレクターデバイスを使って並列世界に渡る形で過去と現在を何度か行き来している。亜由美を利用し苦しめている黒幕が豊富秀夫だと悟ってからは、武田絵里子や朝倉香織の協力を得ながら、彼の悪事を暴こうとする。
有馬 亜由美 (ありま あゆみ)
有馬広大と再婚して有馬たくやの継母となった女性。ジオ・テクニクスの社員。仕事中は茶髪の長髪を三つ編みにしてヘアピンでまとめ上げ、カジュアルスーツを着て眼鏡をかけている。仕事熱心で誰に対しても優しいが、繊細な一面を持つ。大学生時代からあこがれていた恩師の広大の妻となり、幸せな生活を送っていたが、半年も経たないうちに広大が亡くなったため、若くして未亡人になってしまう。ふだんは明るく振る舞っているが広大の死を深く悲しんでおり、たくやからもたびたび心配されている。境町海岸付近の地質調査の責任者を務めているが、落雷事故の原因と疑われている工事に反対する住民やマスコミによる抗議の槍玉となり、広大の死を引きずったまま精神的に追い詰められるようになる。たくやに対しては義理の息子以上の特別な感情を抱き、家族としても大切に思っている。実は広大の意志を継いで、超念石の保存方法および結晶化について研究を続けている。部下の豊富秀夫を信頼しているが、彼の陰謀により、超念石の秘密が書かれた機密書類を盗んだという、濡れ衣同然の疑いをかけられる。陰謀の黒幕が豊富だとは気づかないまま彼をかばい、彼を疑い続けるたくやとはたびたび衝突するようになる。
有馬 広大 (ありま こうだい)
有馬たくやの父親で、歴史学者。落ち着いた性格で、眼鏡をかけている。龍蔵寺幸三とは友人。たくやが幼い頃に妻を亡くし、半年前に大学の教え子でもある有馬亜由美と再婚した。境町で三角山の研究をしていたが、研究取材中の落石事故で亡くなった。直筆の手紙を添えてリフレクターデバイスをたくやに送るなど、実はどこかで生きている様子を見せるが、その行方や目的は謎に包まれている。
武田 絵里子 (たけだ えりこ)
境町学園に赴任して来たばかりの常勤校医の女性。いつも咥(くわ)えタバコで、赤い髪を目元が隠れるほどにボサボサに伸ばしている。学校ではボディコンスーツの上から白衣を羽織っている。赴任して2か月弱しか経っていないが、すでにベテラン教師のような存在感を確立し、生徒からの人気も高い。生徒に対してサバサバした態度で接することが多いが、有馬広大を亡くした有馬たくやのことは心配して気にかけている。実は龍蔵寺幸三に強い関心があり、時おり町に出ては彼の身辺をひそかに調査している。この調査に出る際は、職場とは大きく異なる派手な格好に変装し、前髪を上げてサングラスをかけているため別人のように見える。リフレクターデバイスや超念石に関して知っている様子で、たくやには協力的に接し、幸三に狙われるたくやを危険から守った。
島津 澪 (しまづ みお)
境町学園に通う高校3年生の女子。有馬たくやのクラスメイト。縦ロールの金髪に小さなリボンを付けている。境町市長を務める名士の父親を持つ名家の令嬢だが、島津澪自身はお嬢様扱いされるのを嫌っている。たくやのことが気になってよく話し掛けているが、なかなか素直になれずにいる。
波多乃 神奈 (はたの かんな)
1か月前に境町学園に転入して来た高校3年生の女子。有馬たくやのクラスメイト。おとなしい性格で、濃紺の長髪に黄色いヘアバンドをしている。口数は少ないが、時おりたくやの前に現れては謎めいた発言をする、ミステリアスなところがある。クラスにいっさい馴染もうとせず、たくやにも冷たい態度を取っていたが、三角山の事件ではたくやの前に一人で現れるなど、言動には謎が多い。
結城 正勝 (ゆうき まさかつ)
境町学園に通う高校2年生の男子。茶髪の短髪で、前髪を上げてヘアピンでまとめている。かつて不良に絡まれていたところを先輩の有馬たくやに救われてからは恩を感じ、彼のことを慕っている。島津澪に片思いしてアプローチを繰り返しているが、なかなかうまくいかないでいる。
龍蔵寺 幸三 (りゅうぞうじ こうぞう)
境町学園の学園長を務める中年男性。歴史学を専門としている。髪をオールバックにし、白いひげを生やしている。有馬広大の友人で、有馬亜由美とも面識があり、時おり彼女を境町学園に招いている。死んだはずの広大がどこかで生きていることを把握しており、彼の足取りを追跡すると同時に、有馬たくやのもとへ届けられたリフレクターデバイスを狙っている。また、朝倉香織を差し向けてジオ・テクニクスを調査し、超念石の秘密を探っている。
謎の少女 (なぞのしょうじょ)
三角山に裸で倒れていた金髪の少女。有馬たくやに助けられるが、彼にキスして微笑んだあと跡形もなく消えるなど、その正体は謎に包まれている。
豊富 秀夫 (とよとみ ひでお)
ジオ・テクニクスに勤める男性。有馬亜由美の直属の部下でもある。境町海岸付近の地質調査の現場監督を務めている。亜由美を慕う仕事熱心な部下で、彼女からも信頼されているが、実は強い野心を秘めており、とある企業に自分を高く売り込むために暗躍している。一時は朝倉香織と結託して、超念石の秘密を盗み出そうとしていた。しかし、詳細が書かれた機密書類は亜由美が持っていたため、落雷事故を演出して亜由美を精神的に追い詰めたうえで彼女に近づき、書類を手に入れようと目論む。これらの陰謀に気づいた有馬たくやと手を組んだ香織に見限られ、たくやに書類と悪事の証拠をつかまれてしまう。
朝倉 香織 (あさくら かおり)
報道番組「ニュース・プレゼンス」の花形女性キャスター。緑色のセミロングヘアで、プライベートではミニスカートなど露出の高い服装を身につけている。キャスター時の知的で物静かなイメージはプライベートでは大きく異なり、裏の顔は龍蔵寺幸三と取引を交わすスパイでもある。境町海岸付近で相次いでいる落雷事故の原因が、ジオ・テクニクスが行っている地質調査・工事にあると抗議し、事故が発生するたびにジオ・テクニクスについて徹底調査している。また、超念石が不思議な性質を持っていることも知っている。一時は豊富秀夫と結託して超念石の秘密を盗み出し、結晶化させた超念石を幸三に売ろうとしていた。のちに豊富を見限って有馬たくやに取引を持ち掛け、有馬亜由美にかかっている疑惑を晴らすために協力するようになる。企業相手には積極的に取引するが、力のない一般個人を貶めるのは性に合わず、亜由美を利用し追い詰めている豊富の行動をよく思っていない。そのためのちに、豊富の悪事を暴くための証拠写真をたくやに提供する。
場所
境町学園 (さかいまちがくえん)
境町にある私立学園。有馬たくやたちが通っている。屋上からは海岸や三角山が見える。
三角山 (さんかくやま)
境町海岸にある「剣ノ岬」にそびえる大きな岩山。尖った三角形をしているため「三角山」と呼ばれる。付近の海岸はジオ・テクニクスの地質調査現場となっており、超念石とも関係がある。
ジオ・テクニクス
境町にある地質工学研究所。有馬亜由美や豊富秀夫の勤務先でもある。地質調査を中心にさまざまな研究および開発を行っており、最近は海岸付近で工事を伴う地質調査をしている。しかし工事現場で何度も落雷事故が発生し、死者も出ているため、近隣住民や現場職員の遺族などから工事を取りやめるよう反対運動が起こり、何度も抗議を受けている。
その他キーワード
リフレクターデバイス
有馬広大が発明した謎の装置。広大の手紙と共に有馬たくやのもとへ送られる。8つのくぼみには「宝玉」と呼ばれる、超念石の結晶体が埋め込まれている。世界に刻まれた歴史や次元を記録する超念石の性質を利用し、宝玉に触れることで並列世界に移動したり、元の世界に戻ることができる。しかし、具体的な仕組みは不明で謎が多い。現在はたくやが所有しているが、龍蔵寺幸三に何度も狙われている。
超念石 (ちょうねんせき)
ジオ・テクニクスが調査している謎の物質。人間の精神に反応して絶大なエネルギーを生み出し、超常現象を起こすとされる奇跡の石。石の状態では空気に触れた瞬間に性質が変わり、ただの石になってしまうため、特別な保存生成式によって結晶化することで、真価を発揮する。リフレクターデバイスには、この超念石を結晶化した複数の「宝玉」が埋め込まれている。
並列世界 (へいれつせかい)
有馬広大が有馬たくやに送った手紙に記されていた単語。世界に含まれたさまざまな可能性によって複数の世界に分裂した世界のうち、分裂のもとになった世界を「原世界」、分裂によって生じた世界を「従属世界」と呼ぶ。原世界から見て従属世界にあたる世界は「並列世界」と呼ばれ、これらの世界の構成を説いた原理を「並列世界構成原理」と呼ぶ。たくやはリフレクターデバイスを使うことで、何度か並列世界を渡り歩いている。
クレジット
- 原作
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菅野 ひろゆき , MAGES./5pb.