1000年前の大戦と50年前の厄災により終末を迎えた世界
1000年以上前、人類は大戦を引き起こし、滅亡の危機を経験している。そのとき多くの生物を絶滅させてしまった反省から、残された人類は外界から遮断された「都市」で生涯を送ることにする。それは、自然界への干渉を最低限に抑えるための決断だった。それから長い年月を経た約50年前、非常に強力な瘴気を撒き散らしながら人間を蹂躙する、異形の怪物たちが突如発生する。これらの存在は、大戦を起こした人類の罪を裁くために現れたと噂され「断罪者」と名付けられた。瘴気を吸った人間は、体中から鉱物に似た結晶体が生成される「結晶病」に侵され、たちまち死に至る。治療法はなく、その遺体は腐敗せずに瘴気の発生源となった。こうした一連の大災害は「厄災」と呼ばれ、人類のほとんどは死滅してしまった。
孤独な終末感を際立たせる緻密な背景
本作の主人公、丑三技研機関の臨時調査員・丑三小夜の任務は、結晶病の浄化と生存者の探索である。浄化とは、瘴気の発生源となっている結晶病感染遺体の回収と火葬、埋葬を指す。第1話で示された浄化率は、目標の0.002パーセントであり、小夜の任務が果てしないものであることがわかる。無人の地を旅する、壮大で孤独な終末感が本作の魅力の一つだが、それを引き立てているのが、緻密に描きこまれた廃墟や崩壊した都市である。「anan」2023年11月8日号掲載のインタビューによると、背景の作画は「廃墟写真などの資料の他、土木作業の関連本からイメージを膨らませた。廃墟につきものの繁茂する植物の様子などは、街中の植物が絡まった建物などを参考にしている」という。また、終末世界を描くにあたり、弐瓶勉の代表作『BLAME!』に強い影響を受けたことも明かされた。
遺された人間の想いが描かれる
物語の序盤、絶望の世界を旅する小夜が出会うのは、死体とロボットばかりである。しかしそこには「人間の想い」が遺されている。例えば、映画館で出会ったロボットは、映画を愛するオーナーの人格がコピーされており、今でも映画を見続けている。また、豪華な屋敷の主人は、メイドロボットへの想いを音声チップに残して亡くなり、メイドもまた、主人に寄り添い続けている。本作は、小夜が遺された想いに触れることで「人間」を理解していくヒューマンドラマでもある。物語が進むと、イサミとカノコの兄妹が登場。彼らは結晶病に感染した母親の遺体から生まれた人間で、結晶病に耐性を持っている。小夜とイサミ、カノコは、断罪者の発生源を調べている宇佐という人物の情報を得て、宇佐が向かった地に向かうことになる。
登場人物・キャラクター
丑三小夜 (うしみつ さや)
丑三技研機関の臨時調査員の少女。人類がほぼ死滅した世界で、結晶病という奇病で亡くなった人間の遺体を回収する任務を遂行している。結晶病に耐性があるほか、優れた運動能力と怪力、不死身の肉体を持ち、人類滅亡の原因である異形の怪物・断罪者にも打ち勝つ。生まれてからずっと一緒に育ったクーという小さな動物と行動を共にする。
クー
丑三小夜と一緒に育った、両耳が長い小さな動物。常に小夜と行動を共にしている。尻尾はプラグのようになっており、電子錠のロックを解除することができる。
イサミ
結晶病に感染した母親から生まれた少年。結晶病に耐性を持つ。爬虫類のような右目と、その横に生えた短い角が特徴。カノコという妹がいる。警戒心が強く、廃墟で出会った丑三小夜にいきなり襲いかかるが制圧される。なお、小夜の正体と任務を知ったあとは和解して行動を共にする。5年前、イサミらと同じ境遇の宇佐という人物が、各地のシェルターに向けた放送を聞き、宇佐が向かったという地区を目指している。
カノコ
結晶病に感染した母親から生まれた少女。結晶病に耐性を持つ。褐色の肌と、頭と両目の下にある短い角が特徴。イサミの妹で、攻撃的な兄とは異なり理性的な面を持つ。5年前、イサミらと同じ境遇の宇佐という人物が、各地のシェルターに向けた放送を聞き、宇佐が向かったという地区を目指している。
書誌情報
ウスズミの果て 3巻 KADOKAWA〈ハルタコミックス〉
第1巻
(2023-04-14発行、 978-4047374553)
第2巻
(2023-09-15発行、 978-4047374614)
第3巻
(2024-07-12発行、 978-4047379534)