美しく変身した根暗女子
沼田八重子はもともとぽっちゃり体型で見た目に気を遣うこともなく、根暗でひねくれた性格の女子大生。キラキラした大学生活を送る周囲に心の中で悪態をつきながら、友達や彼氏がいなくても自分は幸せに生きていると強がっていた。そんな八重子に対する同級生たちの態度は厳しいものだったが、孤独をこじらせた八重子に響くことはなく、彼女を変えたのはほかでもない育児だった。赤ん坊のヤエちゃんを迎えるために部屋を片付けて清潔を保ち、規則正しくもハードな日々に体重は5キロ減。瘦せたおかげでまぶたはくっきり二重になり、八重子は美しく変身を遂げる。しかし、恋愛に疎い八重子は周囲からの視線はおろか、翔からの告白すらも自分に向けられた恋愛感情だとはまったく気づかない鈍感さが染みついていた。八重子自身も翔への思いを募らせていくが、互いにすれ違い、こじらせていく二人のもどかしい恋愛模様が見どころとなっている。
直面する育児の問題
生後6か月の赤ん坊に、冷たい牛乳をパックのまま飲ませようとするほど育児に関して無知だった沼田八重子は、育児に関する知識が豊富な桐島翔の助けを借りながら、子育てに奮闘する。しかし八重子は自分自身のためとはいえ、自由もなく眠れない毎日に疲れ果てていた。時には責任の重さに押しつぶされそうになり、つい暴言を吐いてしまったりするが、そんな八重子のがんばりを認め、優しく受け入れてくれる翔の存在は、八重子にとってかけがえのないものとなっていた。大学生活やアルバイトも子連れで奮闘する八重子の、見せかけだけではない壮絶な育児の現実が描かれる。
曖昧な二人の関係が変化する
赤ん坊「ヤエちゃん」を育てることになった沼田八重子だが、あまりに育児に無知すぎるため、同じ大学に通う桐島翔は見かねて手を貸している。ヤエちゃんが八重子自身であるという告白も疑うことなく真っすぐに受け止める翔は、八重子との信頼関係を築いていく。さらに、年の離れた弟の育児にかかわってきた経験と知識を生かし、八重子を応援する翔の姿は頼もしい。一方で、日々綺麗になっていく八重子と育児を通じて距離を縮めていくも、彼女の美しさに気づいて寄ってくる周囲への嫉妬心から、頻繁に「ヤキモチブリザード」を巻き起こすさまは面白くてかわいらしく、そんな翔の二面性も楽しめる。
登場人物・キャラクター
沼田 八重子 (ぬまた やえこ)
とある大学に通う女子。根暗でひねくれた性格をしている。ぽっちゃり体型ながら特に外見に気を遣う様子はない。大学生活を謳歌している周囲を見下し、心の中で悪態をつくタイプのいわゆるコミュ障。同級生から名前を覚えてもらえず、「池田」と呼ばれることも少なくない。ある日、交通事故に遭った沼田八重子は、死にかけて初めて素直になり、本当は自分もキラキラした大学生活を送って恋をしたかったと、これまでの自分の人生を後悔する。すると神が現れ、自らを赤ん坊から育て直すことで自分の人生を変えてみせよと試練を与えられる。突然、生後6か月の赤ん坊「ヤエちゃん」を育てることになるが、育児に関して何の知識も経験もなく、危険なミスを犯しかねない八重子に救いの手を差し伸べたのが、年の離れた弟を持つ同じ大学の桐島翔だった。八重子は休む間もない厳しい育児の現実を突きつけられ、自信を失いかけるものの、翔の優しさに助けられながら信頼関係を築き、育児を通じて自分自身のあり方とも向き合っていく。八重子自身に自覚はないが、人の名前を覚えることが得意で、すぐに顔と名前を一致させることができる。漫画家として活動中で、アシスタントのアルバイトもしている。
桐島 翔 (きりしま かける)
沼田八重子と同じ大学に通う男子。容姿端麗、頭脳明晰で女性からの人気は高いが、男女問わずクールを超えて極寒対応を貫いている。周囲の空気を凍らせることから、「ブリザード桐島」と呼ばれている。年の離れた幼い弟がいるため、赤ちゃんや育児についての知識は豊富。サークルの飲み会に参加した帰り、沼田八重子が生後6か月の赤ちゃんに牛乳を飲ませようとしている場面に遭遇。あまりにも無知な八重子にあきれ、見るに見かねて育児のサポートを始めることになった。育児の厳しい現実を知っているため、八重子に対してはできたことを認めてあげ、言葉にして褒めることに徹し、自らも積極的に育児に参加している。八重子の負担を和らげようと奔走し、信頼関係を築いていく。共に育児にかかわるうちに八重子に対して思いを募らせるが、鈍感すぎる八重子の言動に逆に振り回されることになる。日々綺麗になるにつれて交友関係が広がっていく八重子に対し、「ヤキモチブリザード」が頻繁に炸裂するようになる。わたなべ志穂の『童貞教師のふまじめな日常』に登場する桐島慶一郎の甥にあたる。
書誌情報
キスより先に、始めます 全6巻 小学館〈フラワーコミックス〉
第1巻
(2018-01-10発行、 978-4091398703)
第2巻
(2018-09-26発行、 978-4098701582)
第3巻
(2019-05-24発行、 978-4098704880)
第4巻
(2020-02-26発行、 978-4098707942)
第5巻
(2020-11-10発行、 978-4098712014)
第6巻
(2021-06-25発行、 978-4098713219)